愛する人と結ばれ、共に幸福の中で生きてゆく――そんなものと思っていた頃もありました。……しかし、それは幻でしかなかったのです。
愛する人と結ばれ、共に幸福の中で生きてゆく。
そんな未来を望む者は少なくはないだろう。
そして私もそうだった。
ほんの少し前までは。
そんな風な未来を掴めると、そして、婚約者であるロルベンと共に幸せになれると――そう迷いなく思っていた。
だが。
「悪いが婚約は破棄とすることにした」
結婚式が見えてきた頃、ロルベンは急に私を自宅へ呼び出した。
そして告げてきたのだ。
関係を解消する、というようなことを。
「な、なぜですか!?」
「理由はただ一つ」
「は、はい……何でしょうか……?」
「お前よりも素晴らしい女性に出会ったからだ」
「え」
「俺とて、お前にこんなことは言いたくなかった。が! もっと素晴らしい、圧倒的に魅力ある女性に出会ってしまっては、もうこれ以上心を隠し続けることなどできない。そこで、はっきりさせることにしたんだ」
ロルベンはすらすらと言葉を流してゆく。
迷いとか、躊躇いとか、そういうものは一切ないようである。
彼と共に幸せになる。
そんな夢をみていた私は馬鹿だったのだろうか。
きっとそうだろう。
馬鹿だった、愚かだった――誰よりも、私が。
「そうですか……分かりました」
「分かってもらえて助かるよ」
「ただ!」
「何だろう?」
「身勝手な婚約破棄をしたのですから、償いのお金は支払っていただきます!」
すると彼はふっと鼻で笑う。
「いいさ、そのくらい払ってあげるさ」
こうして私たちの婚約は破棄となった。
慰謝料は少しだが支払ってもらえた。
それで完全に納得できたかというとそうでもないけれど。
でも何もないよりかはましだった。
「ロルベンさん、婚約破棄したんですって~」
「酷いわねぇ」
「結婚式の前だったみたいなのに~」
「それは最低ね」
ロルベンが一方的に婚約を破棄した、という情報は、あっという間に周辺地域に広がったようだった。
「ロルベンってやつ、酷すぎない?」
「それな!」
「ほーんとそうよねー」
彼の悪口を言う人はあっという間に増えていった。
ロルベンは愛する人との道を選んだ。けれどもその代償として色々なものを失った。主に、周囲からの信頼や評価。婚約者を一方的に切り捨てたために、ロルベンは多くのものを失うこととなったのだ。
それでも彼は愛を選んでいるようで。
愛する人のために生きているようだった。
◆
――あれから三年。
私は今、二つ年上の男性と結婚し、夫婦となっている。
「今日で結婚二周年だね!」
「そうね」
「二周年おめでとう! そして、今日までありがとう!」
「こちらこそありがとう」
ロルベンはあの後愛する人と結婚したそうだが、いざ結婚してみると相手の女性が豹変したようで、尻に敷かれるようになってしまったそうだ。
その家において、ロルベンには人権などなく。
彼はただひたすらにこき使われる日々を生きなくてはならないようになってしまったようだ。
しかも、その時には既に社会からの評価は大幅に低下していたため、知人に助けを求めることはできず――高圧的な妻に従うしかないみたいだ。
彼女と結婚したことを後悔しながらも、ロルベンは日々、小さくなって生きているようだ。
……ま、だとしても、それもまた彼が選んだ道だ。
私がそうさせたのではない。
むしろ私は被害者。
今の場所を選んだのは他の誰でもない彼自身。
だから自業自得というやつだ。
「これからもずっと仲良しでいようね!」
「ええ!」
「あはは、嬉しいな~」
「私も貴方と出会えて良かったと思っています」
ロルベンは奴隷のような人生を歩むこととなり、私は愛おしい人と結ばれて穏やかな結婚生活を謳歌できることとなった。
婚約破棄後、どちらが幸せになれるかなんて――案外、後になってみるまで分からないものだ。
◆終わり◆




