助けてあげてきたのに婚約破棄なんてするのですね? 良い覚悟ですね。では私は最後に一度復讐して去ることとします。
「うわっ、っ、う、うわああああっ」
婚約者レデスィンとの出会いは、細やかなものだった。
その時の彼は、雨上がりの道端で、一匹のかえるに襲われていた。
否、襲われていたわけではない。
ただ、かえるに貼りつかれてしまって、それが嫌で騒いでいたのだ。
「大丈夫ですか? ほら、取れましたよ」
私はかえるなど平気だったので、彼の服に貼りついていたそれを指でつまんで剥した。
「あ……あ、あ……」
「ほら、ここです。かえるはもう離れました」
「あ、ありがとうございます……!!」
「災難でしたね」
「はい……」
「……かえる、お嫌いなんですか?」
「そうですよ! だいっきらい! かえるだけは無理なんです!」
その一件で私たちは知り合った。
そしてそれから時折会って話すようになっていって。
それで婚約したのだ。
「かえるから生涯護りますね!」
「嬉しいです……! ありがたい、ありがたい……!」
◆
「お前との婚約なんぞ、もう破棄とする」
レデスィンは変わってしまった。
仕事場の女性の後輩プーリアが現れてから。
……もっとも、先に手を出したのはプーリアではなくレデスィンなのだが。
私とて、そのくらいのことは知っている。
「何て顔してるんだ、情けない」
優しくて面白かった彼はもういない。
「驚きますよ。いきなりそんなことを言われたら。誰だって驚くものでしょう」
「そうか? お前だって知っているだろ、俺は今プーリアだけを愛してるって」
かつての彼は消えてしまった。
「後輩の方……ですよね」
「そうそう。俺は今、もう、彼女しか見えない。だから婚約なんか破棄することにしたんだ」
そうか、婚約破棄か。
もう彼は決めているのだろう。
そしてきっと私が何を言っても意味なんてないのだろう。
ならば最終プランで。
「分かりました。でも……少し、残念です」
私は隠し持っていた袋を取り出し、その口を彼に向けて開ける。
するとそこから大量のかえるが飛び出してきた。
「ぎゃ……っ、んあッ!?」
レデスィンが大嫌いなかえる。
それを彼に与えよう。
それも、わざとらしいくらい、大量に!
そのくらいしなくては駄目だ――だって嫌がらせなのだから。
「うわああああああ!!」
パニックに陥るレデスィン。
「か、か、かえるぅぅぅぅぅ!? 嫌だ、ぁ、嫌だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
かえるたちに一斉に襲いかかられ、レデスィンはもはや冷静さなど欠片ほども持っていない。
「ぎゃああああ!! ぼぅふええええええッ!? ぴぎゃあああああ! ぴぎゅおあああああああ!! 嫌だあああああッ!? ひぃっ、ひっついて――ああああああああ!!」
レデスィンは窓の方へと走り、急いで窓を開けると、そのまま飛び降りた。
垂直落下したレデスィンの身体。
その生が保たれるわけもなく。
地面に叩きつけられ彼は一瞬にして生を終えた。
「ふう。……さ、帰ろ」
これで婚約破棄してきたことへの復讐は終わった。
彼も滅んだし。
もうこれ以上は望まない。
◆終わり◆




