『平穏の乙女』の生まれ変わりだった私には婚約者がいましたが、ある時何の前触れもなく飽きたからと婚約破棄されてしまいました。
この国で多くの人々からあがめられている『平穏の乙女』の生まれ変わりである私――レイフィット・リベリアには、同じ年生まれの幼馴染みがいる。
そして、その彼ビボラこそが、我が婚約者なのである。
これまでと何も違わないビボラとの道が続いてゆくのだと思っていたのだが、ある冬の日……。
「リベリア、婚約は破棄することにしたから」
そんなことを何の前触れもなく告げられてしまった。
「え。何を言っているの……?」
すぐには理解が追いつかない。
冗談か本心かすら即座には察することができず。
ただ固まってしまうばかり。
「だから、婚約破棄、って」
ビボラはさらりともう一度同じことを言った。
どうやら彼には罪悪感なんてものは少しもないようだ。
「ほ、本気……? なの……?」
らしくなく、声が震えてしまう。
「もちろん本気だよ」
「でもどうして。信じられないわ。私、何かやらかしたかしら」
「飽きたから、それだけだよ」
「そ、それだけっ……!?」
「うん」
「そ、そうだったの……それは、その、驚いたわ」
「じゃ、そういうことなんで。ばいばい、リベリア」
こうして私はビボラに捨てられた――まさかの婚約破棄だった。
◆
婚約破棄によって『平穏の乙女』たる私を捨てたビボラは、その後、好きになった女性に告白するも玉砕したようだった。
それで心折れて、彼は自ら死を選んだそうだ。
親が持病の治療のために少しずつ飲んでいたものをこっそり大量に持ち出し、その薬物を摂取。
ビボラが選んだのはそういう死に方だったようだ。
だが不幸はそこでは終わらず。
さらに残された兄弟や親にも降りかかったようで。
その後ビボラの両親は病に倒れ、兄は夫婦での旅行中に事故に巻き込まれて死亡、弟たちも婚約破棄されたり愛犬を失ったりして心が傷だらけになったそうだ。
罪があるのはビボラだけだから、正直なところ、他の人たちに非はないと思う。
ただ、それでも、『平穏の乙女』を捨てた者やその周辺の者たちはそういうことになるのだと――私も改めて学んだ。
ちなみに私はというと、今はボランティア活動をしつつ恋人とも時折会って楽しく過ごしている。
毎日は楽しいことばかりではない。
時には辛いこともある。
でもそれ以上の嬉しいことがある、だからこそ前を向いて歩んでゆけるのだ。
子どもに、人々に、もっと笑っていてほしい。
そう思うからこそ、世のため人のために、これからもできる限り動いて生きてゆきたいのだ。
私はこれからも己が望む道を真っ直ぐに歩んでゆく。
一人の人間として。
そして『平穏の乙女』の力を継ぐ者として。
……ちなみに、今私の自宅には、猫二十匹が住んでいる。
いろんな色、いろんな模様、その姿はすべて猫でも少しずつ違っていて――彼ら彼女らはいつだって私にそっと寄り添ってくれているのだ。
◆終わり◆




