「あんたみたいなやつ、もう俺には要らねえんだわ」と私との婚約を破棄した彼でしたが、惚れた女性からはまったく相手にされなかったようです。
「あんたみたいなやつ、もう俺には要らねえんだわ」
ある日の夕暮れ時、婚約者の青年オッドフリックがそんなことを言ってきた。
その時彼は少々酒を飲んでいたので、最初は、酔っ払ってそんなことを言い出したのかと思った――けれども彼は酒に強いタイプなので少量のアルコールに呑まれるとも思えなくて。また、顔つきも、酔っ払いのそれではなかった。正気を保っている、そんな顔をしていた。
つまり、酔っ払ってしまっての発言ではないということ。
「要らないって……どういうことです?」
「婚約破棄するってことよ」
「……婚約破棄ですか? 本気で仰っているのですか」
「ああ、俺はもっと上を狙いたい。妥協してあんたみたいなのを妻にして一生を終えるのは嫌だ」
オッドフリックは失礼な言葉を躊躇いなく並べてくる。
「俺に相応しいのは、もっと美人で忠誠心があっていつも輝こうと努力していて養ってくれてそれでいて俺を立ててくれる人――あんただってそう思うだろ?」
えええ……理解できない……。
美人で忠誠心があって俺を立ててくれる、を求めているわりに、養ってくれて、とは。
それは一体どうなっているのだろう?
養う代わりに尽くしてほしいとか立ててほしいとかならまだ分かるけれど。
「何黙ってんだよ」
「あ、いえ……少し、理解できなかったもので」
「そんなこと言ってなぁ! 時間稼ごうとしても無駄だぞ。こっちはあんたの思考くらい容易く読めてんだよ」
そうだろうか。
読まれている感じはないが。
「ま、何にせよ、そういうことだ。俺はあんたとの縁はここで切る」
「身勝手な理由で、ですか」
「黙れ! うるさいやつ、今みたいなこと二度と言うなよ」
「ええ……」
「次そんなことを言ったらなぁ、殺しに行くからな!」
「……そういう脅しは良くないと思います」
「と、とにかく! 今日はもう話はおしまいだ!」
こうしてオッドフリックとの婚約は破棄となった。
◆
その後聞いた話によれば、オッドフリックは私との婚約を破棄した直後に気に入った女性を見つけアプローチを開始したそうだ。しかし女性はいつまでもなびいてくれなかったそうで、しまいには「これ以上つきまとうのなら、何らかの手段で対処します」と言われてしまったらしい。
そう、その時には既にオッドフリックは付きまとう不審者と化していたのである。
そんな彼は、厳しい言葉をかけられてもなお女性に引っ付き回ることをやめず、その結果地域の警備隊から警告を受けることとなる。今後近づかないように、と言われてしまったのだ。
それによって激昂したオッドフリック。
彼は女性のもとへ走ってゆき物凄い勢いで「どうして避けるんだ」とか「俺はこんなに優しくしてやってるのに、あんたはどうしてそんな心ないんだ」とか言葉を投げたそう。
その際途中から口論のようになってしまったようで。
彼はついに刃物を取り出して女性に襲いかかった――しかし刃物の扱いに慣れていなかったため逃げられてしまったそうだ。
その後オッドフリックは女性を刃物で襲ったとして拘束され牢屋送りになってしまったとのことである。
何もその女性一人に執着することなんてなかったのに。
一人が駄目でも次へ行けば良かったのに。
恐ろしいまでの執着、それが、結果的にオッドフリックの人生を終わらせることとなってしまったのだった。
ちなみに私はというと、今は実家の近所の花屋に勤めている。
だがもうじき結婚する予定だ。
というのも、既に相手はいるのである。
婚約破棄されたと知ってすぐに声をかけてきてくれたのは、父の知り合いで会社を営んでいる人の息子さんだ。
私はもうすぐ彼と結ばれることとなるだろう。
今、私には、明るい未来がある。
◆終わり◆