うっかり蹴った小石が湖に入ってしまったので心の中で謝ったところ、女神が出てきて驚くほど幸せな未来を贈ってくれました。
今日、婚約の破棄を告げられた。
何もやらかしていないのに。
問題行動があったわけでもないのに。
なのに、何の前触れもなく終わりを告げられてしまった。
ウィルソンはどうかしていると思う。急に呼び出して「君にはもう飽きたので婚約は破棄することとした、もう決めたから、絶対」なんて言ってくるなんて。そんなさらりとした感じでこちらの意見も聞かず一方的に関係の解消を告げてくるなんて。
しかも、飽きた、って……。
何それ!!
さすがに勝手過ぎだろう、その理由は!?
もやもやが残った。
せめてもう少し早く相談してほしかった、そんな風に思って。
そんな帰り道、普通に歩いていたら、たまたま地面に落ちていた一つのやや大きめな小石を蹴り飛ばしてしまった。
するとそれは勢いよく前方へ転がってゆき、やがて、ぱちゃとだけ控えめな音を立てて湖の中に落ちた。
そこそこ深さのある湖だから小石など誰も気づかないだろう。
けれども少しごみを捨てたような罪悪感があって。
誰に、なんてないけれど、湖の近くへたどり着いた瞬間に心の内だけで「ごめんなさい、石を落としてしまって」と呟いた。
すると、突然、湖の中から光が放たれて――。
『謝罪する素晴らしい綺麗な心の持ち主、感激しました』
一人の女性が現れた。
虹色の輝くマーメイドラインのドレスをまとった不思議な人だ。
髪は白色で長い。
双眸もドレスと同様レインボーの輝き。
「えっ……」
一瞬何が何だか分からなかった。
『素晴らしいお嬢さん。貴女にはこれから良いことがたくさん起こるでしょう。それはわたしの力によるものです、けれど、申し訳なく思う必要はありません。なぜならわたしからのそれは感謝の気持ちだからです』
「え、あの、ちょ……」
『ではこれで。わたしは失礼しますね』
何か幻でもみたのだろう……。
そう思って自分を納得させた。
しかしそれから人生は大きく変わった。
まず、うちの庭から体調の金塊が発掘されて大金持ちに。
さらに父の事業が爆発的に成功を収めてさらにお金が増えた。
専業主婦の母はたまたま拾った宝くじで一等当選、凄まじい額を得た。
しまいに私は複数の王子から見初められてしまい、引っ張り合いをされるような立場となってしまった。今では毎日のように何人もの王子に通いアプローチされている。贈り物を貰ったり、褒めてもらったり、色々。
ちなみにウィルソンは、あの後複数の女性に声をかけてみるもまったくもって相手にされず心が折れてしまったそう――今ではすっかり自信をなくして、家から出ることさえ簡単なことではないというような心の状態となってしまっているらしい。
また、ウィルソンの母親はある晩急に倒れて死亡し、それを追うように父親も自死――と、彼の周りでは様々な不幸が続けざまに起きたそうだ。
◆終わり◆