「貴様に生きている価値はない」って……それはさすがに酷いですよ!? ……けれどまぁべつにいいですよ、これを機に聖女は辞めます。
「ラフィーナ、貴様に生きている価値はない」
婚約者でこの国の王子でもある彼ビオス・アンドレア・フィッテリエリス・ド・マロンママ・テンテクがある日突然そんなことを言ってきて。
「よって、婚約は破棄とする」
さらにはそんなことまで宣言されてしまった。
あまりにも唐突な。
まさかの展開である。
私と彼の縁は、私が国を護る力を持った聖女であったというところから始まったものだ。
しかし私の力は地味である。
それにこの力は魔法ではないので特別何かが見えるわけでもない。
そのためビオスは常々私の力を馬鹿にしていた。
彼はよく友人などに「あんなやつ語りだけの聖女だ」とか「聖女様と言っても所詮ただの女だな」とか言っていたようだ。
でも、それでも、私はこの国に尽くすつもりでいた。
だってそれが聖女の生きるべき道だから。
――けれどもこうして残念な結末を迎えることとなってしまって。
「ラフィーナ、速やかに城から出ていけ」
「え……」
「貴様はもう必要ない」
「で、ですが、婚約破棄ということでしたら、ビオス様のお父上などにも相談すべきなのでは……」
一応言ってみるけれど。
「そんなもの、要らん!!」
彼はそんな風に叫ぶだけ。
我を通そうとするだけ。
こうして私は突然彼に捨てられたのだった。
◆
私は城から追い出されてしまったけれど、その後実家へ戻り穏やかな生活を手に入れた。
少々田舎のような地域だが、毎日はとても楽しい。
のんびりしている父、色々器用にこなす母、そして昔から可愛がってくれてきた地域の人たち――そういった人々と過ごせる時間の愛おしさを、今は以前よりも強く感じている。
一度離れたからこそ感じられる地元愛。
そういう意味ではビオスのもとで過ごした日々も無駄ではなかったのかもしれない。
ふわりと風が吹くこと、柔らかな草木の匂いが漂うこと、そして心地よい空気に満たされた空間で誰かと共に笑い合えること――そういった細やかなことから幸福感を感じられるのは色々経験してきたからこそだ。
◆
私が城を離れた後、王都には災難がやたらと降りかかるようになっていった。
ある時は自然災害が起き。
ある時は殺人事件が多発し。
そんな風な様々な災難に見舞われて、王都は徐々に物騒な地区へと変わっていった。
そしてビオスはある夏の日に暗殺された。
度重なる増税に苦しんでいた一般市民がビオスを殺した人であった。
もはや王都は壊れてしまった。
かつての美しく平和なそこはもう存在しないのだ。
今や王都はなんてことのない一般人が人殺しをするような場所になってしまったのである。
――そんな感じで。
王子ビオスの最期は呆気ないものであったようだ。
でも自業自得。
なので可哀想だとは思わない。
生きている価値はない、なんてことを他者に平然と言える人間だ。彼は。
だからたとえどんな目に遭ったとしてもどうでもいい。
◆
あれから数年、王都は壊滅した。
そして王家も滅んだ。
それからというもの、増税も落ち着き、世は徐々に良い方向へと進んでいっていくようになっていった。
民には平穏が訪れた。
「これが言ってらっしゃったお花ですか?」
「そうなんですよ~」
「やはり、とても美しいですね。摘み取って貴女の頭に飾りとしてつけてみたいですよ」
「摘み取っては駄目です」
「あ……ま、まぁ、そうですよねー……あ、あはは……」
そして私のもとへも良き人が現れた。
彼は気さくな男性だ。
いつも笑顔を絶やさない人である。
いつだって軽やかに、ステップを踏むかのように喋ってくれる、そんな彼のことを私は大切に想っている。
「あなたはどういうお花が好きですか」
「どういう、とは……?」
「種類とか色とか。何かあります? お好みとか」
「ああそういうことでしたか!」
彼は向日葵のような人だ。
晴れやかな表情もそうだけれど。
明るいイエローの瞳もその雰囲気をより一層強めている。
「ええと……ぱあっとなる感じのものが好きですかね!」
「漠然としていますね」
「駄目です!?」
「いえ、大丈夫です。あくまで参考としてお聞きしただけですので」
「あ、ああ……なるほど、そうだったんですね……」
私は彼のことを大事に想っている。
だからこそ彼とはこれからも一緒に歩んでいきたい。
◆終わり◆




