雨降りの日、告げられた婚約破棄。~そして二人の未来は真逆のものとなりました~
その日は雨が降っていた。
ばしゃばしゃと外から音が聞こえてくる。雨粒が地面を叩いているのだろう。降り注ぐ雨粒が地面にぶつかる音に水の匂いが混じる。雨の日特有の湿った空気を肺いっぱいに吸い込めば、胸の奥底でじんわりと生温いものが広がる。
そんな日のことだ、彼から衝撃的なことを告げられたのは。
「今日は用があって来たんだ」
婚約者の青年エヴィリュオストロフが突然やって来た。
「えっ。……敢えてこんな雨の日に、ですか?」
驚いた私はただ困惑することしかできない。
「ああそうだ」
「ええと……では、何か緊急の用事だったのでしょうか?」
「ああ大事なことだ」
「そうでしたか」
そんな状態のままで。
「お前との婚約、破棄とする!」
私はそう告げられてしまった。
エヴィリュオストロフは豚のそれに少々似ている鼻の穴を大きく膨らませながらにやにやと気持ちの悪い笑みを面に滲ませてくる。
「どういうこと……なんです……?」
「お前とはもうここまでにすることにしたんだ、もうおしまいだ」
「急過ぎませんか」
「ああ、急さ。確かにそうだよ。けど、これはもう絶対的な決定なんだ。お前が何を言おうとも俺の決定は絶対に変わらない――なんせこれは俺が既に決めたことだからな」
雨降りの日にわざわざ家へやって来たエヴィリュオストロフは、そこまで言うと、馬車に乗ってさっさと帰っていった。
遠ざかる彼の後ろ姿は雨に濡れていた。
婚約破棄を伝えるためだけにわざわざ訪問してくるなんて驚きだった。
なんせ彼はこれまであまり私のところへ来たことはなかったから。
彼はこれまで私のことなんてちっとも気にかけていなかった、にもかかわらず、婚約破棄を伝える時だけはこんなにも積極的に動くというのか――そう考えると若干切なさと悔しさを抱えてしまった。
「ちょっとエヴィリュオストロフくん来てたの?」
「あ、母さん」
母はまだ何も知らない。
だから明るいいつもと同じような顔をしている。
「顔色がちょっと変よ? 何かあった? ……大丈夫?」
「実はさ」
「ええ、何?」
「その……婚約破棄、告げられて」
すると母は「えええ!!」と大声を発した。
「ちょ、ちょっと、それは一体……どういうことなの!? 何かあったの? 喧嘩でもした!?」
「ううん」
「違うの……?」
「なんかね、急に来て、それで告げられた」
「えええー……」
「もうここまでにすることにしたんだ、って言ってた」
「何よそれ……さすがにちょっと引くわ……」
母は戸惑いと不快感が入り混じったような顔をしていた。
――雨音はまだ響いている。
◆
あれから一年、私の人生は大きな変化の時を迎えた。
エヴィリュオストロフと別れた直後に母の実家の庭から金塊が大量に発見され、それを掘り出して売ったことでとんでもない富が流れ込み、母の実家のみならず私たち一家までもが急激に豊かになった。
こんなことが起こるものなのか。
誰だってそう思うだろう。
話をしても信じてはもらえないと思う。
でもこの話は紛れもない事実なのだ、金塊は本当に見つかった。
ちょうどその頃話を聞きつけたエヴィリュオストロフが私のところへ戻ってきて「豊かになったのなら愛せるかもしれない、やり直そう」と言ってきたのだが、彼は結局、婚約破棄の件をいまだに根にもっていた母によって追い出された。
その帰り道エヴィリュオストロフは馬車ごと岩場に突っ込む事故を起こして即死した。
彼の人生は思わぬ形で終わりを迎えたのであった。
私はこれからもたくさんの幸せに巡り会えることだろう。
今はそう信じられる。
だからこそ彼のことなんてどうでもいいとしか思わないしそれよりも自分を待つ明るい未来を見つめていたいと感じる。
◆終わり◆




