ノリノリで婚約破棄されました。正直腹が立ちます。ただ、その後良い縁を得られたので、ラッキーでした。
「ぉっ、婚約ぅっ、婚約ぅ~、っほ! っ、破棄するぅっ、破棄するぅ~っはい、婚約っ破棄するっ婚約破棄するヨォ! 破棄する破棄するヨォ! っ、はいほい! ぉっ、婚約ぅっ、婚約ぅ~、っほ! っ、破棄するぅっ、破棄するぅ~っはい、婚約っ破棄するっ婚約破棄するヨォ!」
角刈りの婚約者エッジベッドがリズミカルに婚約破棄を告げてきた。
両肩を重力に乗るように上下動させリズムを全身で感じながら――あまりシリアスな感じではない言い方で婚約破棄を告げてきている。
何なんだこれは……。
「本気なのですか?」
「オゥ! オゥ! いつでも、っ、ぉ、俺はさ、っ、ふぅ、本気! 本気! イケてる本気ぃ! どんな時だって本気だヨォ! 本気っ、ほんき本気ッ!! 男は本気だヨォ!!」
「そうですか」
「去ってぇ! 去って、去ってくれぇ! ……っ、イイカイ? っ、去ってぇ!」
エッジベッドの行動は正直よく分からない。
ただ、彼は、喋る時は大抵こんな感じだ。
だからこういう話し方も今に始まった話ではない――そういう意味では喋り方自体に驚きはない。
「はいはい、っ、はい! へい! はい! 関係終わりにしよオゥ!」
手のひらを下向けた両手を胸の前で前後させるエッジベッド。
「関け、いなんてもう、おしまい、ヨォ! はいほい、っ、はっは!」
長い……。
「ぱっとしない女とはもう無理、だから終わりにするよいいよナ? ぱっとしないやつぱっとしないのとくっついとけって世の常ヨォ! 似た者同士がもってこい、似た者同士じゃなきゃ駄目みたイェ~」
終わらない……。
「ぉっ、婚約ぅっ、婚約ぅ~、っほ! っ、破棄するぅっ、破棄するぅ~っはい、婚約っ破棄するっ婚約破棄するヨォ! っ、ほ、っ、ほ、っほおほほほい! 破棄する破棄するヨォ! っ、はいほいはい、うぉッ!! ぉっ、婚約ぅっ、婚約ぅ~、っほ! っ、破棄するぅっ、破棄するぅ~っはい、婚約っ破棄するっ婚約破棄するヨォ!」
◆
あの長くて面倒臭すぎる婚約破棄から三年と四ヶ月。
私たちは真逆の人生を歩むこととなった。
あれから関わりはなくなったけれど、情報はちょこちょこ入ってくるのだ。
まず私。
私は、エッジベッドとの関係を修復することはできなかったけれど、旧王族で現在の権力ある家の子息に気に入られその人と結ばれた。
彼は今は王族には含まれていない、が、血的にはほぼ王族のようなものだ。そして富も。かつて王族だった時代に貯めた富が彼と彼の実家にはあった。
おかげで、現在、私はのびのびと生活できている。
日々の雑用は係の者に任せていればいい。
一方エッジベッドはというと、あれから何度も婚約しては破棄となるということを繰り返していたようだ。
しかし、ある時、彼は婚約相手の女性からボロクソ言われたうえ婚約破棄されてしまったそう。
で、その一件以降、エッジベッドは家から出られなくなってしまったそうだ。
何でも、人の目が怖いのだそう。
人の視線を少し感じるだけでも、悪く思われているのでは、と酷く不安になってしまうような状態らしい。
それ自体は可哀想なことと思う。
人の目が怖い、なんて。
そんなのは生きていくうえでかなり色々不便だろう。
ただ、同情するかと言われれば、私はしない。
他人の感情など考えてこなかった彼だ、一度弱ってみればいい。
そうすれば痛みというものを学ぶだろう。
そしていつか、己がこれまでどういうことをしてきたのか、気づくかもしれない――そうなってくれれば良いのだが。
◆終わり◆