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002 いざ、異世界へ

 若山さんの目はキラキラと輝いている。どうして会社に希望を持っているのでしょう。ポジティブ過ぎますね。

 えっと……上司用マニュアルは一応インストールされていましたね。聞くべきことは……


「にゅ、入社前研修は受けていますか?」

「はい! 攻略課の業務等、すべて習いました!」

「そうですか。改めて聞きますが異世界攻略に出ると長い期間家には帰れませんよ。よろしいのですか?」

「もちろんです。覚悟の上で入社しましたから!」


 なんというキラキラ……若さとはすごいですね。たったの1歳差ですが。

 私は若山さんを連れて開発課へと向かった。ここはオイルの匂いがしてあまり得意ではありません。

 開発課のドアを開けるとすぐに反応する女性がいた。1週間前に私に抱きついて素材を持っていった平賀さんだ。


「おー佐藤。お前から来るなんて珍しいな」

「平賀さん、新人用のデイジーギアはもう完成していますか?」


 デイジーギアとは私たちが異世界で使う武器などのこと。

 異世界では当然のように魔法や剣といった、日本では考えられないものが襲いかかってくる。それに対抗するために開発されたのが新時代武器、デイジーギアです。


「おうできてるぞー。名前は?」

「わ、若山聖奈です!」

「若山若山……おう、これだ」

「ありがとうございます!」


 緊張した様子の若山さんに平賀さんは雑にデイジーギアを投げつけた。

 デイジーギアはその名の通りデイジーの花の形をしている。女性の手のひらサイズくらいなので持ちにくいということはない。


「デイジーギアを使ったことは?」

「使ったことはありません。初めてなので緊張します……」


 言葉通り、緊張がすごく顔に出ている。わかりやすくて可愛らしい方ですね。


「異世界に行くにしても使ってみてからの方がいいでしょう。自分の能力を知らずに異世界に飛び込んでは危険ですから」

「そうだな。アタシもそう思う」

「平賀さんは開発に戻られては?」

「なんかアタシに冷たくない? ほれ、佐藤のもあるぞ」

「えっ?」

「この前の素材で強化したんだ。まぁ佐藤なら現地で試しても大丈夫だと思うけどな」

「それは助かります。ありがとうございます」

「おうよ、んじゃ新人ちゃんここでデイジーギアを使わないでくれよ? 精密機械で溢れているからな」

「も、もちろんそんなことしませんよ! ははは……」


 もしかしてここで試運転するつもりだったのでしょうか。なんだか危なっかしい子ですね。

 若山さんを連れて今度は社内運動場へ移動した。ここなら試運転しても問題ないでしょう。


「ではデイジーギアの使い方を説明します。といっても単純明快、このデイジーの花の真ん中のボタンを押すだけです」


 私が試しに押してみるとデイジーの花は質量保存の法則を無視して宇宙色の大剣へと形を変えた。


「すごい……綺麗……」

「次は若山さんの番です。くれぐれも暴発しないように」

「は、はい! えいっ!」


 込める必要のない気合いが込められ、デイジーギアが作動した。

 デイジーの花はその質量を高めていき、やがてハンドガンへと形を変えた。


「……なんかちんちくりん!?」


 私の大剣に比べたら確かに小さいですが、そこまで悲観しますか。感情豊かな方ですね。


「遠距離にも対応できそうないい武器じゃないですか。試しにそのハンドガンをあのマネキンに当ててみてください」


 運動場の端にはぽつんとマネキンが立っている。そこに当てると上の電光掲示板に威力が数値化されたものが出る仕組みになっているのです。


「え、えいっ!」


 ハンドガンから黄色いエネルギー弾のようなものが発射され、マネキンに……当たることなく奥の木を抉ってしまった。


「はわわわわわわわ」

「な、泣かないでください! 若山さんのミスは上司である私の責任です!」


 まさか外すとは。でもその可能性を考慮していなかった私の責任ですね。

 今度は若山さんをマネキンの目の前に立たせ、絶対に外すことはない距離まで詰めた。


「えいっ!」


 再び放たれた弾丸はマネキンを掠めた。この距離でも真ん中に当たりませんか! ……武器と本人の能力が合っていないのかもしれませんね。


「数値は758ですか」

「どうなんですか? もしかして期待の新人ですか?」

「ご、ごめんなさい。他の方の数値はわからないです」

「そうですか……」

「参考までに私の新人時代の数値は40800だったことは教えておきます」

「佐藤さんの端数未満!?」


 はう〜、と謎の声を出しながら悲しむ若山さんに声をかける間もなく、私のスマートフォンに電話がかかってきた。相手は……田辺課長ですか。


「お疲れ様です。佐藤です」

『業務中すまないね佐藤くん。次の異世界が発見されたからさ、君に行ってもらおうかと思って』

「他の方は……」

『みんな出払っているか新人教育中なんだよ』

「……わかりました。行きます」


 通常、一度異世界へ行ったら1ヶ月は異世界に行かずにこちらで訓練と事務を行う。でもこのようにイレギュラーで飛び込んでくるケースもあるのだ。


「ごめんなさい若山さん、至急戻りますよ」

「え? は、はい!」


 若山さんと小走りで攻略課の本棟へと足を運ばせた。

 田辺課長はドアの前で私を待っていたようでこちらの接近にすぐ気がついてくださった。


「申し訳ないね。思えばいつも佐藤くんに頼ってばかりだ」

「いえ。仕事ですので」

「見つかった異世界の名はイプシス。危険度は不明で、文明レベルも謎のままだ」

「すごい……大きな機械ですね」

「異世界発見装置。通称AWDD。これで異世界を発見できるようになったんだ。そして……」

「あの奥に見えるさらに大きな機械が転送用装置です」

「お、大きい……」


 若山さんは目を見開いて装置を見上げた。その気持ちはなんとなくわかる気がします。


「さて、佐藤くんには重ねて申し訳ないが……今回の異世界は若山くんと同行してもらいたい」

「はい…………はい?」


 意味がわからなさ過ぎて聞き返してしまった。


「言いたいことはわかる。若山くんはまだろくに訓練も積んでいない新人だ。危険なのも理解している。ただね……」


 田辺課長はこっそりと私に耳打ちしてきた。それこそ隣にいる若山さんにすら聞こえないくらいの声量で。


「どういうわけか、上からそう指示があったんだ。佐藤くんは新人1人を連れて異世界に行くこと、とね」

「上から……ですか」


 よくわからないですが、やることに変わりはありません。決定したことに文句を言っても覆ることがないのも分かっています。


「若山さんはいいんですか? これから最悪数ヶ月は帰ってこれませんよ?」

「構いません! 異世界に行くために私は入社したんですから!」

「そうですか。では課長、転送の準備を」

「えぇ。2人ともお気をつけて」

「この中に入ればいいんですか?」

「はい。決して途中で抜けたりしないように。その事故で大怪我をした方を知っています」

「ひぇ……」


 私が注意事項を伝えると若山さんはキョロキョロと見渡すことをやめ、お利口にじっとしてくれた。


「では転送します。佐藤くん、あとは頼んだよ」

「はい。お任せください」

「行ってきます!」

「若山さん」

「は、はい」

「……あなたは死なせません。絶対に生きて帰ってきましょうね」

「え? ……はい! もちろんです!」


 眩く輝き、私たちの視界から機械仕掛けの部屋が消え去った。

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