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001 佐藤さん

新連載です! よろしくお願いします!

 ここは邪教に侵された異世界アウスグラード。1月前、私が攻略することになった世界だ。

 いつも通り邪魔なものはすべて倒して、攻略はもう佳境を迎えている。眼前の邪神さえ倒せば終わりだ。


「ぐっ……こんな小娘などに……」

「失礼ですがこう見えても23歳です」


 私は宇宙色の剣を構え、柄に付けられているボタンを押して武器を強化した。

 突風が吹き、私のショートの黒髪を揺らす。


「貴様など……!」

「失礼。もう終わっていますよ」


 突風が吹いた頃には勝負はついている。

 邪神の首は切られ、鮮血が吹き出した。どうやら切られたことすら気がつかなかったみたいですが。


「く……そ……」


 邪神が倒れたことを確認して、私は連絡用の特殊電波スマートフォンを手に取った。


「もしもし佐藤です。異世界アウスグラードの攻略が完了しました」

『佐藤くんお疲れ様。1ヶ月で攻略とはさすがウチのエースだね』

「恐縮です」

『じゃあ日本に転送するけどいいかな?』

「はい。よろしくお願いいたします」


 ピッという音を立ててスマホは通話機能を終了した。その次の瞬間に光の粒子に包まれて、日本へ帰ることを確認する。

 そんな私の元に小さな少女が駆け寄ってきた。この世界で出会った現地人だ。


「お姉さん、帰っちゃうの?」

「はい。次の異世界が待っていますので」

「……また、また遊びにきてね!」

「……はい。平和になったこの世界に遊びに来ましょう」


 その言葉を残し、私は日本へと転送された。

 眩しい光に目を瞑る。やがてその光が瞼の表面から消えたので目を開けると実験室のような景色が飛び込んできた。


「いやー、おかえり佐藤くん。さすがに早いね」

「ただいま帰りました、課長」


 この人は田辺(たなべ)課長。異世界攻略株式会社の攻略課のリーダーだ。

 齢は70を超えているはずですが衰えは見えない。定年が伸びに伸びたのはこういう方がいるからかもしれませんね。


「えっと佐藤くんが異世界に行っていたのがちょうど30日だから……ここから6日休みだね」

「はい。ありがたく頂戴します」

「さーとーうー!」

「うわっ!?」


 急に白い物体が私の胸に飛び込んできた。確認しなくても誰かわかる。


「……離れてください、平賀(ひらが)さん」

「悪い悪い。んで、ブツは手に入ったか?」


 この人は平賀さん。この会社の開発課の方だ。

 私がアウスグラードで使った武器もこの人が作っている。異世界から帰ってきたらすぐに新しい素材はなかったか聞かれるのはもうテッパンになってしまっている。


「こちらでよろしければ」


 ウェストポーチに入れた黒い石と邪神の血を平賀さんに渡した。こういう素材が私たち攻略課の使う武器をさらに強くしてくれるらしい。


「おおぉ、上質な素材じゃねぇか! 感謝するぜ佐藤!」


 黒くてボサボサの髪と眼鏡を揺らしてすぐに研究所へ帰ってしまった。ある意味ではすごくドライな人だ。


「何の話だったかな。すまないね、この歳になると記憶力が……」

「休日をいただくというお話でした」

「あぁそうだったね。30日異世界にいたら6日休める。会社規定だからね。となると次の出勤日は……おぉ、4月1日か」

「新年度ですね」

「その通り。今年も新卒の子が入ってくれるよ」

「そうですか。私も23なのでようやくちゃんとした後輩が入ってきますね」


 高卒でこの会社に入社した私は今まで何人も先輩の後輩という存在を抱えてしまった。しかしこれでよくやくそのねじれから解放される。


「まぁまずはじっくり休んで新年度を迎えておくれ。君はウチのエースなんだからね」

「……ありがとうございます。これからもご期待に添えるよう精進します」


 私は会社のパソコンに異世界でまとめた資料が入ったものを転送した。これで社内共有されるはずなので、私の仕事は終わりですね。

 私たち攻略課の仕事は主に2つ。1つは異世界の攻略において日本の脅威になり得るものを排除すること。もう1つは異世界の文化に触れ、レポートを作ること。前者は得意ですが、後者は苦手です。


「さて、帰りますか。1ヶ月ぶりの我が家へ……」


 6日間の休日を有意義に使うこともなく、私は出勤日を迎えた。

 出社すると見慣れない顔がそこにあった。察するに新人さんでしょう。どこか周りの様子を伺っているみたいですね。

 小さくて可愛い子……きっと流行にも敏感な方でしょう。明るい茶髪と長い髪がそれを物語っている気がします。


「おはようございます」

「おおおおはようございます!」

「……お名前を教えていただけますか?」

「え? あっ、失礼しました! 私、今日からここで働かせていただきます、若山聖奈(わかやませいな)です。よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします、若山さん。私は佐藤です」

「佐藤さん……よろしくお願いします!」


 頑張って微笑んで、私は自分の席についた。ふぅ、人付き合いはやはり苦手です。

 始業の時間になると課長が新人さんを紹介した。今年は攻略課に4人ですか。去年より多いですね。


「では教育係だけど……佐藤くん、君が若山くんの教育係をやってくれるかい?」

「…………え?」


 私が……教育係!?


「もう5年になるんだ。佐藤くんになら1人くらい任せても大丈夫だろう」

「わ、わかりました……」

「佐藤さん、よろしくお願いします!」

「は、はい」


 こうして私は若山さんの教育係に任命されてしまいました。

 ……困りましたね、どうすればいいのでしょう。

本日はもう1話更新します! ブックマーク登録をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公めっちゃ可愛い&理想&共感性みたいなキャラで好き! 後輩に緊張しちゃうところとか可愛い……! 頑張って最新話まで追いつきます!ビシッ(*`・ω・)ゞ
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