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エピローグ

誤字報告ありがとうございます!


 季節は巡り、そろそろ秋になります。

 あの卒業パーティーから約一年半。早いもんだ。

 そうそう、あの卒業パーティーは後日、改めて仕切り直しになったので、ウチの子たちも楽しそうに出かけて行きました。まあ、あの場に居合わせた人の大半からは同情されたしねぇ、ウチの子たち。バロー嬢が最後まであの調子だったからさ。

 バロー嬢はあの後、精神的な病を疑われて、とある施設収容に隔離されてる。一通りの取り調べが終わった後から、現在に至るまで。取り調べ中も、相変わらずゲームだの攻略がどうだのと喚いていたらしくて、取り調べの担当が話が通じないと上に報告。医師や魔導師立ち合いの下に事情聴取してもその辺りは変わらずだったんで、責任能力があるか疑わしいという事になり、今は他国の某施設に預かってもらっているんだ。あのまま裁かれてたら処刑の可能性もあったから、本人にとっては良かったんじゃないのかね。

 そもそも医者に診せたって無駄だよね、アレは病気が原因の症状じゃねーもん。……ある意味、病気ではあるか。

「始末してもよかったんじゃ?」

 そう口にしたのは、ザック。

 呆れ顔で言われたけど、そこまでする必要はないかな。迷惑この上もなかったのは事実だが、結果的にはヒロインから受けた被害はたいしたものではなかったわけだし。まあ……シルヴァンはちょいちょい精神的なダメージを食らってはいたけどさ。

「別に、二度と俺たちの前に姿を見せないのであれば、それでいいさ」

「まあ、あの調子じゃ出られる日は来ないでしょうけど」

 うん、そうだね。バロー嬢がゲームから離れることが出来ない限り、そんな日は来ないだろうさ。そうじゃなくても珍しい魅了魔法の使い手、研究対象としても希少な存在を手にしたあの場所が解放することはないんじゃないかと思う。

「しっかし、旦那もえげつないことしますよねぇ。まさかアストラガルにあのお嬢さんを送り込むとは」

 若干、非難するような眼を向けられたけど。

 これは、俺がバロー嬢をあの施設に預けたことによって手出し出来なくなったのが不満だから。どうもコイツは折を見て始末する気満々だったらしい。やめなさいね、もう関わらなくていいから。

「グラフィアスとの共同研究所だぞ、これ以上の場所はないだろ」

「そうですけど。確実に実験動物扱いじゃないですか」

「人としては扱ってくれると思うぞ?」

「どうだか」

 その施設を俺と一緒に訪問した事のあるザックは、疑いの目を俺に向けてくる。

 言いたいことはわかるよ、ものっすごく研究熱心というかそっち系に突き抜けてる感じなのが揃ってたもんな、あの研究所。正直、ちょっと怖かった。

「まあ、エルさん経由の紹介なら命の保証はしてくれそうですが」

 うん、そこは大丈夫。

 なんかね、グラフィアスでもそうだったけど、バロー嬢の使う魅了魔法って、精神干渉系の魔法とか得意そうな魔族から見てもかなり特殊な部類だったらしくて、皆さん物凄く興味をそそられたようなのですよ。なんで、俺が連絡したら向こうから食い気味に共同研究所での治療(?)と監視を提案してくれたわけです。

 こっちも困ってたんだよ、アレの扱い。どうすっかなと団長や魔導師連中と検討しても答えが出なかったんでエルに連絡、そうしたらエル経由でグラフィアス上層部に伝わり、そこから更にアストラガルの共同研究所に伝わり、数日後には向こうの担当者が押しかけてくるという事態に発展。

 俺としては、これ幸いとさっさと押し付け……えーと、適切に監視できる体制を敷いている研究所で保護してもらった方がいいのではと進言。我が国じゃ対処しきれない事はわかってたんで、あっさり引き渡すことが決まったわけです。


 ものっ凄い喚いてたけどな、引き渡した時。


「しっかし、なんつーか……最後までぶっ飛んだお嬢さんでしたね」

 なんか嫌な事でも思い出したのか、僅かに顔を顰めながらもお茶を淹れて渡してくれた。一休みしろってか。……今日は仕事になってないもんな、俺。自覚はしてるよ? でも、急ぎの仕事はないんだから、今日だけは勘弁してほしい。

「ぶっ飛んではいたが、ある意味最後までブレなかったから、わかりやすくはあった」

「ああ、若に対する執着とお嬢に向ける悪意は変わらんかったですね」

 間近でザックも見てきただけに、実感がこもってる。本当に、シルヴァンへの執着はハンパなかったからなぁ。そこは今も変わってないんだろうけど。

「あのお嬢さんも、さっさと若を諦めて現実を見ていれば他の道もあったでしょうに。何があそこまで頑なにしていたんだか」

「さあな」

 そこは俺にもわからん。

 まあ、ゲームに酷似した世界に転生して、しかも自分がゲームではヒロインだったキャラと同じだと気づいて、はっちゃけた結果だろうなとは思う。バロー嬢の様子から、かなりゲームをやりこんでたんだろうなってのは想像ついたし、恐らく最難関と言われていたシルヴァンルートも自力でクリアしてたんだろうから、攻略できる自信もあったんじゃないかな。


 ……所でまだかな。そろそろお声が掛かっても、良さそうなもんだけど。


 今こうしてザックと執務室で仕事もせずに話し込んでいるのには、理由があってだな。

 それが解決しない事には仕事が手につかんのですよ!

「……旦那。冷静に俺と話しているつもりなんでしょうけど、さっきからそわそわしっぱなしですよ」

「え、マジ?」

「全然、隠せてないですから」

 呆れ顔で言われたけど、仕方ないじゃん。

 だって、この後。

「ああ、来ましたね」

 ザックの声とほぼ同時にノックする音が響いて、俺はすぐさま立ち上がった。



 **********



 レティの部屋に来ております。

 待ちに待った、この瞬間。

 なんと本日、我が家に新しい家族がやってきたのですよ!!


「ありがとう、レティ。頑張ってくれて」

 疲労困憊な様子のレティに、シルヴァンが声を掛けてる。もう、その顔が。デロデロだよ、いつになく。

 俺? 俺も人の事言えない顔してる自覚はある。

「名前、付けてね」

 レティがにっこりしながらシルヴァンに。自分の隣で寝てる小さな手に触れて、嬉しそうに笑ってて。


 そう。初孫ですよ! ギリ三十台でおじいちゃんになったよ俺!

 

 いやぁ、昨年末にレティの妊娠がわかって、もう屋敷中、大騒ぎだったよ。俺もだけど。

「でも、この子はパットの甥になるのよね? 半年も違わないのに」

 うん、男の子だったんだ。色合いはシルヴァン似だと思う。

「そうねぇ。血縁上はそうなるわねぇ」

 のんびりと奥さんが答えている。

 奥さんの腕には、生後四か月の赤子がいますが何か。


 …………。


 ええ、レティの弟ですよ正真正銘俺の第二子ですよ、まさかの孫と同じ歳だよ! 俺もびっくりしたわ!

 いやね、レティとシルヴァンのお披露目式も滞りなく行われてほっとしていたところに、元凶たちの完全排除が完了したって連絡貰って気が抜けたと言うかなんというか。

 自分でも気づかないうちにかなり気を張ってたらしいんだよ、俺。で、ちょーっと体調崩してたのは自覚してたんだけど、大したことないだろうと油断してたら仕事中にぶっ倒れてまして。診てくれた医者には、疲れが取れてないのを自覚しているなら休めと叱られました。ついでに奥さんにも泣きながら怒られた。本当にごめんなさい。

 でな、シルヴァンが家にいると色々と気になって仕方ないだろうからって色々と手配してくれて、エレーヌと静養がてらゆっくりして来いとアルマクに飛ばされたのが昨年の初夏。

 まあ、子供たちに感謝しつつ奥さんと二人でいちゃいちゃしつつ、のんびり過ごさせてもらったわけですよ。記憶取り戻してから、ここまでのんびり過ごしたことなかったんじゃないかな。送り出してくれた子供たちにマジ感謝だったわ。

 そんで、秋口くらいになって、今度はエレーヌが体調を崩しまして。

 俺、大慌て。

 周囲が止めるのも聞かずに慌てふためいてミサキ経由で聖女様引っ張ってきたら、言われたのがつわり。


 エレーヌ、妊娠してました。


 奥さんもね、もしかしたらとは思ってたみたいなんだ。でも確証はないし、医者からは次は難しいって言われてたし、加えてさすがにこの年だからちょっと体調が整わないだけだろうって考えてたんだって。

 いやもう、そこから屋敷中が大騒ぎだよね。

 すぐに義両親も領地からすっ飛んできて、あれこれ話し合って色々と取り決めたよ。生まれてくる子が男の子であっても、シルヴァンがグランジェ家を継ぐことに変更はなし、それは俺も義両親も変わらない。ただ、親戚連中はうるさく言ってくるのもいるだろうから、先に牽制しておく必要がある。

 で、どうしようかと話し合ってたら、やっぱり聞きつけた義兄が解決策を持って来た。


 無事に生まれてきたら、性別問わずにカンタール侯爵家の後継者としての指名を王宮から受けることになった。


 なんで今更シルヴァンの生家が出て来るんだと思ったら、嫡男は廃嫡済みで跡取りがいまだに見つからず、借金問題も先が見えなくて養子に入れるような親戚もなく、このままだと取り潰しが確実なんだと。で、あちらはシルヴァンを取り戻したいが当の本人は断固拒否だし俺もあの子を虐待してたバカどもの家に戻す気はない。なので、義兄が一時的に王家で爵位を預かることを提案、家の立て直しは国から適任者を見繕って派遣、代わりに王家が推薦する者を後継者とするように言ったら二つ返事だったってよ。


 で、だな。


『男だろうと女だろうと、お前の第二子がカンタール侯爵家の後継となる』

 決定事項として、こう言われたわけだけれども。

 いやいや、ちょっと待てよなんで勝手に決めんだよおかしいだろ!

 そう抗議したら、陛下としてはさっさとシルヴァンに家督を譲って俺にカンタール家を継げと言いたかったらしい。と言うか、そうさせたいらしい。


 いや、確かに俺も、ギリギリ後継者指名を受けれる範囲内の血縁者ではあるけどね? だからって当事者に何の相談もなく決定事項として伝えて来るって何なの。


 俺がいくら吠えたところで、すでに手続きは完了してるとか言われたらどうにもできないじゃん。つーか、俺承諾してないしそれっぽい書類にサインした覚えもないんだけど、なんで手続き完了してんの? 義兄よ、いくら宰相だからって横暴すぎるだろうが。

 そう言ったんだけど、最終的には陛下も出てきちゃったんでそのまま丸め込まれた。というか、陛下から直接言われたら断われねーよ!


 諦めて承諾して、そこからまたしばらく忙しくて。


 でまあ、新年度が始まってしばらくしたころに、無事に生まれたわけですよ息子が。名前はパトリックです、義父上がつけてくれました。色合いは俺に似ているし、俺の母曰く俺の赤ん坊の頃そっくりとの事です。奥さんなんてそれを聞いて、自分の手で旦那さまを育てられるのねってはしゃいでたけど……いやいや違うからね? 俺じゃないからね? わかってて言ってるんだとは思うけど。


「ヴィクトルね。いい名前だわ。よろしくね、ヴィクトル」

 嬉しそうなレティの声。

 おっと、物思いに更けていたら初孫の名前が決定してた。


 ヴィクトルか。うん、良いね。

 領地から駆けつけてきた義両親も、ひ孫の誕生に目じりが下がりっぱなしだし、いつの間に来ていたのか義兄も顔が……つーか、なんでいるのこの人? マジでいつ来た?

 その後も親類や友人知人が押し掛け、なんとも賑やかな一日が過ぎていく。






 朝起きて、いきなり前世の記憶なんてものが蘇ってから、ずっとずっと突っ走って来たけど。

 今、こうして当たり前な日常が送れているのは、それがあったからだ。

 家族がいて、信頼できる仲間がいて、やりがいのある仕事があって。

 この充実した日々は、俺にとっては大切な宝物のひとつ。


「さあ、また明日から頑張るか」


 これからも、この日常が続くことを願うよ。







これで完結となります。

番外編等、そのうち追加するかもしれませんが、一応終了です。

長々とお付き合い頂きまして、ありがとうございました。

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