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48 本番直前


 ついに来ましたよ、卒業式当日!

 長かった……本当に、長かったっ!

 この日の為に準備に準備を重ね、対策を練ってきたことが報われるか否かの結果が、ついに出るわけです。朝から胃が痛いよ俺は!


 いや、周りとの連携バッチリだし、何があっても対処できる自信はあるけどね?


 ほら、会場に仕掛けられている魔法陣の件があるからさ、当然のことながら王宮にも報告してあるわけですよ。事が済むまでは手を出すなとはお願いしてあるけど。

 万が一にも発動されても、対処できるだけの態勢も整えてある。というか、整えた。エルが。

 俺も俺なりに調べてみたんだけど、どうにも出来なかったんで相談したわけですよ。まあ、なんでもっと早く言わなかったんだと散々文句言われましたが、術式を解析して対処方法を考えてくれたわけです。エル曰く、ここまで魔力を蓄積させる前なら比較的楽に解除できたのにって言ってた。言い換えれば、今の状態で無理に解除するのは危険だそうだ。つーかまあ、ザックが気づいた時点ですでに解除は難しい状態だったらしいんだよな、後から聞いたら。

 とにかくまあ、諸々の準備は整っているわけです。出来れば何事も起こらずに終わってほしいもんだが、あんなもん仕掛けてる時点でその可能性は低いだろう。


 あ、レティはですね、卒業式が楽しみな反面、やっぱり寂しい気持ちも強いようで、朝はちょっとしんみりしてました。


 三年間、切磋琢磨してきた仲間達だもんね。わかるよ。

 それでもまあ、元気に支度して行きましたよ。制服に着替えるのも、今日で最後なのねって寂しそうにしてたけど。

 さて。俺もそろそろ準備しますかね。



 **********



  午前中に執り行われた卒業式は、滞りなく終了。

 三年間一緒だったクラスメイト達との別れを惜しみつつも、卒業記念パーティーの準備の為、生徒たちはいったん解散。レティも一度戻って支度を済ませ、シルヴァンと共に戻ってくる予定です。

 俺? 俺はこのまま待機。卒業式はともかく、その後のパーティーは本来は部外者扱いの俺が出るのは筋違いなんだが、グラフィアス関係で色々と手を貸したこともあり、職員枠での出席可となったんだ。それ以外にも、たまーに騎士科の実践訓練に付き合わされたりもしていたしね。どうやって潜り込もうかと考えていたから助かった。

 で、ここに来てですね。団長経由でバロー嬢に掛けられてる数々の疑惑と容疑に関して、学園の職員はじめ卒業パーティーに出席する関係者一同へ説明がありました。

 みなさんかなり驚いてはいたけれど、バロー嬢が絡んでいるという事に関しては疑問に思う事はなかったみたい。……ある意味、すごい信用度だな。あいつ、学園でどんだけやらかしてたの? 職員一同が納得するって何。


 まあ、この辺りは本来なら俺が説明するべきことなんだろうけどね。


 ただ、ねぇ……色々と明らかにされていった結果、マリウス殿下の件も絡んできちゃったもんで、近衛が出ざるをえなくなったというか。クッキーの件は、王族への悪意ある攻撃に該当しちゃうからねぇ。

 ほら、例の隷属の魔道具を作ってた職人、あいつがバロー嬢に闇の魔石の粉を売ってたからさ。直接的には関係ないとはいえ、繋がっちゃってるのは事実なんですよ。

 あの魔石の粉、実はまだ試作段階のもので、バロー嬢に渡して実験してたらしいんだ。で、バロー嬢も粉が何からできているのかは知らなかったんだろうけど、タダ同然の値段で売ってもらう代わりに、食べさせた連中にどんな変化が現れるかを観察して報告してたらしい。実用化できれば、毎日の食事にそれとなく仕込んで意のままに操るなんてことも可能になるかもしれないし。


 実はこれ、昨年末アストラガルに招待を受けた例のアレで、あちらの宰相閣下から貰った情報。


 この件が発覚したんで、容疑者本人は渡せなくても最低限の情報共有はしておかないとと言う事になって、情報提供してくれたんだそうだ。ついでに言えば、この事実が判明した時点でバロー嬢はすでにあちらでは共犯者と認定されている。


「まあ、教えてくれたのは有難かったんだけどねぇ」

 如何せん内容が内容だけに、義兄に報告しないわけにもいかなくて。

 アストラガルから戻ってすぐに義兄に連絡入れて、陛下に謁見を願い出て重鎮巻き込んでの報告会。おかげで年末はめっちゃ忙しかった……!

 当然のことながら、義兄含めた国の重鎮たちは大わらわですよ。

 例のクッキーの件は、当然の事ながら俺から団長経由で国に報告を上げていたわけです。グラフィアスの協力の下に学園で行った臨床の結果も含めて。

 そんでもって、バロー嬢がお菓子を渡したというか押し付けた相手の中には王子二人もいたわけですが、これがまた事態を重くしたわけで。

 結果、対象は不特定多数ではあったものの、王族も狙っていたと判断されて反逆罪に該当する可能性アリなんて意見も出てしまったもんだから、この時点でバロー嬢には国からの監視がつくことが決定。ただ、クッキー以外には特にアヤシイ動きもなかったんで、監視は続けるって感じだったんだけど、この卒業間近になってのコレ。

 これはもう野放しに出来ないだろうという事になり、陛下直属の近衛騎士団長が陣頭指揮を執るという事になったわけです。

「とはいえ……今年は王族がいるわけじゃないからねぇ。一応、様子見か」

 そう。これだけ色々とやらかしてはいるんだけど、一応はまだ様子を見ようという事になってる。

 まあ、これには色々と理由あっての事なので、一応は俺も納得している。出来ればこの日を迎える前に排除したかったのが本音だけど。


 そんなわけで、卒業式パーティー直前に説明会なんてものが執り行われたわけです。

 俺は別口で色々と確認しなきゃらない事とか準備があったんで、その辺りの説明は団長にぶん投げて引っ込んだ。……面倒だから団長に説明ぶん投げたとかではないよ、そこは本当に違うからね。

「はいはい、妙な言い訳はその辺りにして、旦那もさっさと着替えてください」

 俺が使っている控室で、なぜかザックに着替えるよう強要されている。なんで? 別に今日は服を汚すような事はしてないよ?

「教師枠だろうが、お嬢の卒業パーティーに出るんです。身だしなみはきちんとしてくださいと奥様から言付かってます」

 ああ、奥さんの差し金か。

 それじゃ仕方ない。

「本当に、奥様の言う事だけは素直に聞きますよね」

 着替えを受け取ったら、なぜかジト目を向けられた。なんでだよ。

 取り敢えずさっさと着替えを済ませて、後は入念な打ち合わせを。……上着は後でいいか。取り敢えず椅子にでも掛けておくかと考えてたら、ザックがハンガーにかけてくれた。うん、こういうところは従者らしいんだよな。

 さて。打ち合わせとは言っても、それぞれの配置を確認するくらいしか現状は出来ることが無いんだよね。はっきり言って向こうがどんな感じに仕掛けてくるかは予測不能。ぶっ飛んだことをやらかす可能性はあるが、こちらも万全の態勢を組んでいるので、後れを取ることはないだろうと思う。


 前世云々は別にして、大体の事情は団長に打ち明けたので協力してくれているし、ザックには好きに動いていいと言ってある。

 エルは別口で色々とやってくれていて、ミサキも万が一に備えて会場周辺で待機してくれている。


 過剰戦力と言われそうだが、こちらは万が一も無いようにしているだけだ。向こうがあくまでゲームの流れに拘っているのを逆に利用して、打てる手は打ってきた。

 バロー嬢にとっての最大の協力者は、隔離済み。会場に来ることはないので、この時点ですでに出来ることはそう多くはないはず。

 しかし、ヤツには魅了魔法という厄介なものがあるし、事前に仕掛けていた魔法陣もある。決して強力なモノではないようだが、だからと言って油断はできない。特に例の魔道具は未知数だ、発動させたらどうなるのかが全く不明である以上、一瞬たりとも気が抜けない。

「大丈夫ですよ、旦那。あんな小娘に何ができるんですか」

 こちらを不安を察したんだろうザックが、何時もの口調で言ってくる。

「普通に考えれば、出来ることはすでにない。だが、普通じゃないからな」

「それこそ杞憂でしょ。こっちも旦那筆頭に普通じゃないのが揃ってんです、何を仕掛けて来ようと返り討ちですよ」


 さらっと失礼な事を言いやがったザックを軽く睨むも、しれっと流しやがった!

 確かに俺も普通とは言い難いのかもしれないけど、それだってエルやミサキ程にはおかしくはないだろが!


「同類です」


 はっきりきっぱり言い切りやがったよ、コノヤロウ! しかも俺、何も言ってないよね!?


「はいはい、文句は後にしてください。そろそろ卒業生たちが集まり始める時間です、さっさと会場入りしておかないと面倒ですよ」

「後でなら聞くのか?」

「聞くわけないじゃないですか」

 何言ってんだって顔で返されたけど、後でって言ったのお前だろなんでそんな顔すんだよオカシイだろ!

 無言で上着を渡され、ぶちぶち文句言いながら袖を通す。


 さて。早々に会場入りして、そこかしこにさり気なく控えている後輩どもの位置を確認しておく。まあ、もう出来ることはないと思うが、万が一に備えて城内警備も万全。

 会場入り口では、関係者含めた参加者全員に花を配って胸元に着けるように指示している。あの花が参加証の代わりだそうだ。当然、俺も着けてますよ。

 ただまあ、この後は俺は大人しく壁際で待機。

 今日は俺も完全なるフォロー要員、実際に何か起こった時に対応するのはレティとシルヴァンだ。二人にはあらかじめ想定される事態は一通り説明しているし、対処方も伝えてある。バロー嬢がここがゲームの中の世界だと思い込んでいる以上、ゲームの登場人物から引導を渡してやるのが一番効き目があるんじゃないかと俺は思ったので、この形だ。

 まあ、ここまで来たら俺に出来ることはない。後は見守るだけだ。


 さあ、ヒロインよ。

 最後の仕上げと行こうじゃないか。



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