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47 ゲームの強制力は、存在しないわけではなかった


 相変わらず、厳戒態勢な我が家。

 王妃殿下は相変わらずの謹慎中で、まあ心配ないだろう。一応、監視はしているし団長経由で情報も得ているのでそこまで警戒はしていない。


 問題は、バロー嬢だ。


 実は、こっちも不気味なほどに何もない。今までが今までだっただけに、このところの沈黙が気味が悪くて仕方ないんだが、どうやらこれも例の魔道具を手に入れたから、という事らしい。ザックがエル経由で、あちらの悪役令嬢(予定)から色々と聞き出してくれた。ほら、ザックは俺たちみたいに前提条件がないから、疑問に思ったことを事細かに確認してくれたんだよ。で、色々と抜けていたこともわかった感じ。

「じゃあ、なにか? その魔道具が全てをひっくり返す可能性があると」

「らしいです。まあ、発動条件がかなりアレなんで、成功するかは運次第なんじゃないですかね」

「運次第とか逆に怖すぎるだろ」

 ここまで必死に色々やってきたのに、今更ひっくり返されてたまるかよ。

「まあ、そうなんですけど。確認した限りでは、まず無理ですよ」

「可能性がある以上、油断はできないだろ。でも、まず無理って、なんでだ?」

「あちらのご令嬢曰く、救済アイテムなんだそうです」

「は?」


 救済アイテム?


 なんだそれはという疑問は、ザックが説明してくれた。

 要は、攻略難易度が高すぎるために、何度挑戦しても攻略できないといった苦情が多数あったがために、最後の卒業パーティーで一気に親密度が増すアイテムを追加したんだそうだ。対象はシルヴァンだけじゃないらしいんだが、実質シルヴァン攻略の為に追加されたアイテムなんだと。

 ただこれ、本当に最後の最後に強制的にくっつけるだけで、攻略過程は当然のことながら見れないってんで賛否両論だったらしい。これを使って何とか攻略できたユーザーからは、もう少し手前で使えるようにしてくれといった要望が凄かったようだが、正規ルートで攻略したユーザーからは、攻略できてないんだから途中が見れないのは当然、贅沢言うなという声が上がっていたらしい。


 まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。


「で、発動条件って何」

 肝心なそこを教えてくれ。場合によっては、卒業パーティーの欠席も検討しなくては。

「発動させるための条件は三つ。そのうちどれか一つでも当てはまれば、魔道具が発動する可能性があるそうです」

「面倒な仕様になってんな」


 救済アイテムで攻略させることを目的としているからって、ちょっとその条件は緩すぎないか?


「ですねぇ。ます、一つ目。攻略対象の中で好感度が一番高くなっている事」

「……無理じゃないか?」

「いまや他も似たり寄ったりですからねぇ。好感度ってよりは、一番嫌われていないのは誰かって話になりそうですけど」

 うん、俺もそう思う。

 バロー嬢、本当にやらかし具合が酷すぎて、いまや全攻略対象から避けられまくってるからな。あ、例外的にマリウス殿下がいるか。

 好感度って点なら、恐らく現時点で一番可能性が高いのはマリウス殿下だろう。……嫌悪してないって意味だね、今回の場合は。まあ、殿下の帰国は卒業パーティーが終わった後だから、今回は心配いらない。そもそも、殿下はあちらでいい人を見つけたらかねぇ。もしかしたら、殿下の帰国に合わせてお相手の女性も一緒に来るんじゃなかろうか。

「次。卒業パーティーでお互いにパートナーがいない事」

「無理だろ」

「無理ですね」

 食い気味に突っ込んでしまったけど、ザックも同意見だったようだ。そらそうだよな。

「最後」

「まだあるのかよ」

「あるんですよ、三つって言ったでしょうが。俺的にはこれが一番厄介だと思ってるんですが、一定数の支援者がいる事」

「支援者?」

「です。要は、若とあのお嬢さんの仲を応援しますよって連中ですね」

「いるか? そんな連中」

「今の所はいないでしょうね」


 含みのある言い方をしやがるな。


 バロー嬢対策として、あいつの魅了魔法にかかっていた生徒は全員が解呪済み。若干、取り巻きは残っているものの、脅威になるような人数ではない。ザックのさっきの言い方からしても、そいつらが支援者となったところで魔道具が発動することはないんだろう。

 だとすれば、ザックが懸念する何かが、あるという事。

「……何を警戒している?」

「さすが旦那。これを見てください」

 そう言ってザックが机に置いたのは。

 行動記録だろうか? ある特定の場所に、誰かさんが足繁く通っていることを記録した一覧だ。時間と、滞在時間が細かく記録されている。

 嫌な予感しかしない。

「これ、卒業パーティーが行われる学園の講堂であのお嬢さんが訪れている日時です」

「毎日じゃないか」

「ええ、毎日です」


 何か意味があるのか?


 何もなしに、この行動はないだろう。ただ、今の俺には思いつくものはない。ないが、よろしくない方向で何かをしようとしているのは間違いないだろう。

「バロー嬢の目的は?」

 探ってるだろうザックに尋ねる。

「予測の域を出ませんよ」

「かまわない」

「エルさんが言ってたじゃないですが。あのお嬢さんの魅了魔法、瞬間的な威力は低いですけど蓄積型だって」

「言ってたな」


 それが、どう関係するんだ?


「学園の講堂にあのお嬢さん、何か仕掛けています」

「仕掛ける?」

「これを見てください」

 そう言ってザックが、講堂の見取り図を広げた。図には、すでに印が六ケ所着いている。

 六という数字に、もう嫌な予感しかしない。

「こことここ、ここ。それと、この三か所。良い感じの模様になりますよね」

「六芒星とか、何かありますって言ってるようなもんだろ」


 マジで何してんだかな、あいつ。


 この世界での五芒星とか六芒星ってのは、術式組む時の基礎みたいなもんだ。魔道具関係だと両方使うんで、俺はそれなりに理解がある。

「学園に聞いた感じじゃ、色々やらかしたお詫びに卒業パーティーの会場を当日までに綺麗に磨いて、みんなに楽しいひと時を過ごしてもらいたいって事で講堂へ入る許可をもらってるそうです」

「なんでそんなとこだけ頭まわるんだろうな?」

「自分の欲望に忠実だからっしょ」

 身も蓋もないことを言うな、ザック。

 でもまあ、そういう事なんだろう。自分にとってメリットがあるから動くのであって、なけりゃあのバロー嬢が奉仕活動なんざするわけがない。そして、学園側はそんな生徒からの善意(?)の申し出を断るわけがない。一部の教師は、あの問題児が反省してくれたとか思ってそうな気がする。

「で、仕掛けられているのは、間違いなく闇属性の魔石ですね」

「そこに、時間をかけて魅了魔法を蓄積させていると?」

「じゃないですかねぇ。まあ、若には効かないでしょうけど、一定数の支援者は得られるんじゃないですか」

 ザックの指摘に、その可能性に思い至ってゾッとした。


 魔道具の発動条件、三つ目。


 それを満たす可能性が生まれるという事は、魔道具が正しく起動する可能性があるという事。

 ここまで、ゲームの強制力のようなものは感じなかった。だがそれは、こちらが事前に手を打っていたからこそ防げていた、という可能性もある。


 救済アイテムは、強制的に対象の好感度を上げる。


 現実には好感度なんて数値は存在しないのだから、実際の効果は恐らく精神的な支配。

 これが正しく発動した場合に、シルヴァンがどうなるかは想像がつかない。レティを切り捨てるようなことはないと思いたいが、それでも強制的にそういった状況へと誘導される可能性は捨てきれないわけだ。

「俺が見た感じでは、素人が下手に手を出すのは危険だと思います。すでに魔法陣は完成されていますし、暴走させた場合のリスクが予測できませんね」

「……それなりの魔力が蓄積されているって事か」

「はい。あのお嬢さん、魅了魔法に関しては瞬発的な威力がないってだけで、魔力そのものはかなり多いですよ。それを毎日、かなりの量を注いでいるとしたら」

「万が一にも、暴走させた場合のリスクがでかすぎる」

「俺もそう思います」


 まさか、ここにきてこんな事態になろうとは。


 警戒が足りなかったのか? もう大丈夫だろうと気を抜いたのがまずかったのか?

 後悔したところで、今更だ。それはわかっている。

 出来ることは、やって来たつもりだった。国外にも伝手を作って万が一の場合にも備えていたのは、ただ家族を失いたくなかったから。

 それだけの為にここまでやって来たというのに、今になってすべて覆されるというのか。


「旦那、落ち着いてください。ここで冷静さを失ってどうするんです、ここまでやって来たことを無駄にするつもりですか」

 冷静なザックの声に、現実に引き戻された。

「……すまん、動揺した」

「気持ちはわかります。だけど俺、さっき言いましたよね。無理だって」

「言ってたな」

 コイツの事だ、何もなしにそんなことを口にするはずもない。

 となれば、そう判断する何かがあるという事だ。

「ここまでの事態を目の前に、俺が何もしてないと思うんですか?」

 そう言って、うっそりと笑うザックに、背筋が冷たくなる。


 コイツがこの顔をしているときは、ダメだ。これ、めっちゃ怒ってる!


 やばいな、久々にザックがマジ切れしてんぞ。

 比較的、冷静というかあまり感情の起伏を見せない奴だから、怒りを見せる事も滅多にない。ないんだが、見せる時は基本的にガチギレしているときなので、俺にはどうすることもできないというか。

 いや、だって、実力行使に出られたら、俺でも止められないからね? いつもは俺を立ててくれるけど、こうなるとそれも無理。条件次第じゃ俺より強いんだぞコイツ。止められるわけねーだろ。

「ほどほどにな」

 そうとしか言えなかった。ヘタレって言うな。

「その点は安心してお任せください。ともかく、旦那たちは予定通りに卒業パーティーに出席してくださいね」

「お前がそこまで言い切る以上は、心配はしない。こっちは予定通りに動くとするよ」

「そうしてください。面倒な裏工作は俺に任せて、旦那はでんっと構えてりゃいいんです」

 いつもの調子でそう言ってくるザックを、今日ほど頼もしく感じたことはないかもしれない。

 俺が信頼する幼馴染兼従者様は、今も昔も変わらずに俺を支えてくれる。コイツの存在に、どれほど救われてきたことか。


 感謝しているよ。本当に。



 **********



 二月に入り、学園へ行く機会が激減している愛娘。まあ、卒業式に向けてクラスメイト達とは色々とあるようで、今日は誰の家へ、明日は誰の家へと忙しそうにしてますよ。レティのクラスは男女共にとっても仲が良いようでして、本日もクラスメイトの商家のお嬢さん宅へと遊びに行ってるんだけど、男女合わせて十人以上集まるらしいです。

 あ、レティのクラスはですね、一人の脱落者もなく無事に卒業式を迎える事が出来そうです。もうみんなレティのと同じで卒業資格は取得済み、後は決められた日に登校すればいいだけな状態ですよ。

 レティとバロー嬢を引き離すのに何かと協力してくれた、レティの大切なクラスメイト達だ。俺からも感謝の意を込めて、エルに送ってもらったグラフィアスの銘菓を本日の護衛役であるクリスに持たせてみた。みんなで食べてね!

「お菓子よりクリスに喜びそうですけどね、お嬢のクラスメイト」

 俺の目の前に書類を積み上げつつ、ザックが呆れたように言う。


 うん、そこは俺も否定できない。


 だってさ、クリスがちょくちょくレティの護衛をするようになってから、レティと仲良くしたいと言い始めたお嬢さんが増えたらしいんだよ。別に下心あってもレティと仲良くしたいってのが本心なら仲良くすればいいんじゃないかって俺は思ってたんだけど、当のレティが拒否したらしい。

 元々、レティのクラスは平民の子も多くて身分差関係なく和気あいあいしている感じだから、選民意識の強い系の生徒からはあまりよく思われていなかったんだよね。そんな連中がクリスに興味を持ったってことで、レティの警戒心がMAX状態になったらしい。

 レティ曰く、あいつら外見と身分しか見ないって事らしいんだけどさ、要は何かちょっとでも気に入らないことがあれば、孤児院出身という事を攻撃材料にするだろうって思ったんだって。まあ、そこは学園で相手の連中を見ているレティが判断したんだから、他にもなんかあるんだろうなと思ったんで口は挟まなかったよ。

 あ、レティのクラスメイト達はですね、アイドル扱いというか目と心の保養と言ってるらしく、レティもそれを見て笑ってる感じです。当のクリスはちょっと恥ずかしいみたいだけどな。


 つーかさ、ザックよ。なんか、今日は仕事の量が多くない?


「多くないです。来月の為に前倒しできるところは今のうちにやってもらいます」

「まだ何も言ってないから」

「言ってなくてもわかります」

 そう言いつつも、選別してた書類をどんどん積み上げていきやがる。

 いくらなんでも多すぎないか? もうちょっと加減しろよ、お前。

「今のうちに少し多めな量をこなすのと、お嬢の卒業式間近に数日徹夜覚悟で進めるのと、どっちがいいです?」

「今やります」

 そんなこと言われたら、今やるしかないじゃないか。

 若干の不満は抱きつつも、渡される書類に目を通して問題ない物はサインしてザックに返し、ちょっとあれって思ったやつはいったん弾いておく。

 そんな感じでサクサク確認作業を進める事一時間、意外に早く終わった。もっとかかるかと思ってたんだけどな。

「旦那、処理能力は高いんですから、文句言わずにさっさとやればいいんですよ」

 ザックはザックで、俺の許可が下りた書類と再検討もしくは再調査を指示された書類を分けて、それぞれの担当者へ送るべく手配をしていた。


 やらなきゃいけない事はやるけどさ、いきなりなんの前触れもなく予定外の仕事増やされたら、文句の一つも言いたくなるだろが。


 そんなことを思いつつも見てると、ザックは早々に終わらせたらしい。あらかじめ呼んであった部下にざっと説明して下がらせている。

 本当にコイツ、なんでも卒なくこなすんだよな。万能型の典型だと思う。

「で、旦那」

「ん?」

「ひと段落着きましたので、例のお嬢さんの件で」

「なんかあったのか?」

「あったというか、まあ、あのお嬢さんがというよりは、バロー男爵がやらかす感じですかね」

「王妃殿下相手にやらかす分には構わないんだが」

 むしろ、どんどんやってくれと思う。それだけ潰せる理由ができるわけだし。

「ですね。つーかですね、あの御仁、商人に変装して王妃の侍女に接触、面会の約束を取り付けたそうです」

「ぶっ飛んでんのは義娘だけじゃないのか」

 商人に変装してって……バロー男爵もかなり性格に難有なのはわかってたけど、そこまでやるか。まあ、表向きには国内トップクラスの権力に取り入れるかもしれないとなれば、なんとしてでもって考えるのはわからなくもないけど。

 王妃にそんな権力はないっての、有名なんだけどなぁ。唯一、自由にやらせてもらってた自分の世話人の人選だって、ちょっと前に陛下に取り上げられたし。

「みたいですね。血は繋がってないはずですけど、そっくりです」

 ザックも頷きながらそっくりだと言い切ったわ。

 最初っから印象最悪な男爵ではあったけど……本当に、よくもまあアレからハロルドみたいな堅物が生まれたなと改めて思うよ。早々に引き離しておいて、本当に良かったわ。

「当然ですが、王宮側は気づいています。ですが、敢えて泳がせるようです」

「王妃殿下が自国から連れてきた侍女が橋渡しをした感じか?」

「そうです。どうもあの侍女ともうひとり、輿入れ時に連れてきた侍女だけはアレを主と定めているようなので、忠実に動いてますよ」

「魔道具関係なく?」

「ないですね」

 ザックがきっぱり言い切るのだから、その線はないのだろう。

 俺からしたら、よくアレに忠誠誓えるなと思うよ。尊敬できる面は皆無、性格的にも常に自分最優先で周りの迷惑を顧みることもなく、気に入らないことがあれば当たり散らす。これでまだ政務がこなせるならわからなくもないが、本当に信じられないくらい出来ない。あまりにも出来ないんで、陛下も早々に諦めて関わらせなくなったんだし。


 …………


 うん、いらないよな。

「今更ですね」

「そうなんだけど、まだ何も言ってないだろ」

「命令してくれれば、いつでも始末してきますよ?」

「だから、滅多なことを言うんじゃない」

 コイツ、冗談でも何でもなく本気で言ってるから困る。で、俺が少しでも肯定するようなことを言えば、間違いなく実行するから。

 それが出来るだけの実力があるから困るんだよ。滅多なこと言えん。

「その件は王太子殿下に一任されている。殿下は切る気満々だからな、それを見届けてからでも遅くないだろう」

「あ~……弟殿下の件ではブチ切れていたらしいですからねぇ」

「エル紹介してくれって言われたときな。かなり怒ってたぞ」

 怒ってたのは確かなんだけど、それ以上に決意を固めたって感じがね。

 まあ、肉親だろうと許されないことをしでかした以上は厳正に対処するって姿勢を見せてもらったので、俺としては全面的に支援するつもり。エルにもそう話してあるし。

 色々と思うところはあるが、あちらは王太子殿下に任せておけば問題ないだろう。詳細は聞いてないけど、エルからはちょくちょくと準備を進めているらしいとは聞いている。一応、エルは最後の最後で手を貸すことになってるらしいんだが、何をするのかは知らん。絶対に怖い事にしかならないだろうから、教えてくれなくていいよ。関わりたくない。

「そうなると、こっちはあのお嬢さん対策だけですか」

「基本はそうなるな」

 バロー嬢以外にも害虫っぽいのは湧いてるから、その辺りの監視と対処も必要になるだろうが。

「ああ、妙な動きを見せている連中は一通り監視してます。今のところはこれと言って動きはないようですね」

「動くとすれば、卒業式間近か」

「でしょうね。お嬢も学園へ行く機会が増えそうですし」

「護衛の人選は任せる」

「了解でっす。何があろうとお嬢には指一本触れさせませんよ」


 うん、そこは心配してない。


 有言実行だからね、コイツ。口に出した以上は、必ずその通りにする。状況次第では俺より強いのもわかってるし、恐らく自分でも動くつもりなんだろうな。

 ザックが直接動いてくれるんなら、俺は安心して、でんっと構えてられる。

「……ちゃんと仕事してくださいよ、旦那」

「なんだよいきなり」


 してるだろーが。

 なんで今この状況でそんなこと言われなきゃいけねーんだよ、オカシイだろ。


「俺がお嬢についてるときも、きちんとやって下さいっつってんですよ。見張りいないとサボるでしょ」

「失礼な」

 そう返しつつもも、『そんなことないぞ!』と、胸を張って言えないのは自覚してる。残念ながら。

 仕方ないじゃないか、デスクワーク大っ嫌いなんだよ! やらないと奥さんに怒られるし迷惑かけるのわかってるからやってるけど、出来ればやりたくないんだよ!

「嫌いだろうが何だろうが、旦那がやらなきゃいけない仕事でしょ」

「わかってるっつーの!」


 だから、口に出してない事を言い当てるな!


 本当にコイツ、心読めるんじゃねーの? 聞いても毎回否定されるけどさ。

「若は率先して手伝ってくれんですけどねぇ」


 ジト目で見るな。


「本来の俺は脳筋なんだぞ!」

 そうだよ、幼い時に何となくじいさまの知り合いの近衛騎士を見て、カッコいいだなんて口にしたばかりに、じいさまから色々叩き込まれたけど!  本当は頭使うの嫌いで外で暴れてるような子供だったんだぞ、俺はっ。

「知ってますよ。何年、一緒にいると思ってんです」

 三十年以上は経ってるね、そういえば。

 五歳の時に引き合わされて、そこから仲良くなって。

 グランジェ家に婿入りするときも、かなり無理言ってザックだけは連れてくる許可を貰って、付いて来てもらったんだもん。


 何はともかく、その辺りは頼りになる従者様にお任せするとして、だ。俺は俺で、色々と準備をしておかなければ。

 魔道具の件を聞くまでは、まだどこかで穏便に終わらせるべきかなんて考えていた俺。いまはそんな気持ちも綺麗さっぱり消え失せた。

 そんなもん使ってまで自分の思い通りに事が進まなきゃ気が済まないってんなら、こっちは何が何でも阻止してやるだけだ。お前ひとりの我儘に振り回されてたまるか。


 思い通りに事が運ぶと思うなよ。



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