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46 ラストに向けて


 年が明け、いよいよゴールが目前に迫ってきましたよ。

 怪しい動きをしていた王妃殿下とバロー嬢は、無事に引き離し成功。これは陛下が王妃殿下に後宮もどきでの無期限謹慎か王妃の予算の没収か選べと迫られ、謹慎を選んだ結果。さすがに自分の予算がなくなるのは嫌だったようで、あっさり謹慎を選んだようだ。まあ、無期限とはいっても、せいぜい数か月程度だろうから少し我慢すればいいだけだと考えているらしい。そんなわけないのにな。

 一応、王妃が輿入れの時についてきた侍女は、多少は行動を制限されているものの動けるので、そいつを介してバロー嬢とは連絡を取っている。

 うん、もちろん全部筒抜けだよ。向こうはそうは思っていないみたいだけど。

「本当に、慎重なんだか大胆なんだか、よくわからんですねぇ」

 バロー嬢の動向を逐一報告してくれているザックが、呆れ気味に呟いた。

 事あるごとに排除を推奨してきたザックだけど、最近はそれも口にしなくなってきた。卒業目前ってこともあるんだけど、年末にちょっと話をしたんだよね。

 これまで言ってなかったことを含めて、じっくり話をしたのが多少なりとも効いたのかもしれん。いきなり前世の話なんかした俺に、いつものごとく突っ込んでくるかと思ったんだけど、ザックは意外にもすんなりと信用してくれたのは意外だった。【旦那なら有り得ます】の一言で納得されたのは腑に落ちんが。

「何も考えてないだけだと思うぞ」

「まあ、王妃サマはそうでしょうけど。お嬢さんは多少は考えてんじゃないですかね。ない頭振り絞って」

「……何気に酷いな、お前」

「事実っしょ」


 いやまあ、俺もそう思ってるけどな。


 王妃殿下は昔から目先のことしか考えられない人だから、先を読んで行動するってのは無理。それをすることによって、その後何がどうなるとか、そういったことを考えられない人なんだよ。なんで、その場で気軽に返事をして後になってそうじゃないって切れてることはよくあった。こんなだから、陛下は出来るだけ王妃殿下に関しては表に出さないようにしてきたんだよ。うっかり妙な約束事でもされたらたまったもんじゃないからね

 対してバロー嬢は、一応考えて行動はしている。ただ、その全てがゲームの知識と流れを基本にしているので、予定外の事があってもあとで修正できるとか、ヒロイン補正で何とでもなるとか、そんな感じに考えているだけで。

「まあ、あのお嬢さんの魅了魔法に関しては対策済みですし。グラフィアスでの分析結果を見ても、残りの期間ではどうにもならんでしょ」

「薄く長く、だもんな」

「ですね」

 学園で影響を受けていた生徒も、大半は解呪済み。瞬間的な威力は低い代わりに、定期的に接触すれば効果が蓄積されていくという厄介な仕様らしいことが判明した時点で、ウチの子たちには近づくなと言っておいた。シルヴァンは言わずもがな、レティにもどんな影響を及ぼすかわからないからね。

「王妃殿下は向こうに任せていけば問題ないだろうが、バロー嬢はなぁ」


 一応、監視はしているけれど。


「現時点で、ほぼ自滅してますけどね」

「うん。でも、諦めてないだろう」

「諦めてないどころか、まだどうにか出来ると思ってるみたいですよ。例の魔道具がすでに無効化されてるの、気づいてないでしょうし」

「だとしても、だ。どこから来るんだろうな、あの自信」

「さあ」

 魔道具が使えると思ってるから余裕なんじゃないかと、ザックが付け足す。

 バロー嬢が王妃殿下の元へ通って手に入れた魔道具。

 あれ、以前にレンブラントが言ってた、本来は悪役令嬢だったはずのレティが使おうとしていた魔道具で間違いなかったよ。性能を聞いたら洒落にならんかったので、こればっかりはエルに正式に依頼してこっそりと無効化してもらった。いや、だってさ。所持者の魔力を増幅し威力を増すとか普通にヤバいだろ。しかも闇属性と相性抜群らしいし。

 エルの話によれば、使い方次第なところはあるけれど、短期間で対象を魅了状態にするのは可能とのことだった。マジでとんでもねーな。

「つーか、旦那。言うの忘れてたんですけど」

「? なんだ?」

「例のお嬢さんの監視してるの、俺じゃなくて奥様ですから」

「は?」


 ちょっと待て。

 お前今、なんつった?


「だ・か・ら。ここ最近は俺、奥様から情報貰ってただけです」

「はあああっ!?」


 何それ聞いてない!?

 え、ちょっと待って、俺本当に知らないんだけど!?


「なんか、エルさんと交渉して魔道具をいくつか借りてたらしいですよ。俺も聞いた時はびっくりしましたけど」

「わかった時点で教えろよ!」

「内緒って言われたんで」


 ああ、奥さんに内緒って言われたのね。じゃあ、仕方ない……ってなるかぁ!!

 ああもう、なんで教えてくれないの奥さん!


「旦那、旦那。落ち着いてください」


 めんどくさそうに言うんじゃねーよお前は!


 ああもう、どうして奥さんは定期的に大胆になるのかな、ものすごく助かるんだけど俺の心臓が持たないよ! また無理して体調悪くなったらどうするの、本当にやめてお願いだから!

「あ~……奥様の体調でしたら、万全の態勢で管理してますんでご心配なく。少なくとも旦那が発狂するような事態にはなりません」

「……本当だろうな」

「当たり前でしょ。奥様いなかったら旦那が使い物にならなくなるのわかってんだし」

「その通りだけど、言い方!」

「旦那相手に取り繕ってどうすんですか」


 呆れ半分に言われたけどオカシイだろ、俺はお前の主だぞ!


「旦那が主なのは事実ですね。残念ながら」

「残念ってなんだ」


 失礼な奴だな。


「今更っしょ」

「何も言ってねーだろ」

「それこそ、今更です」

「わかってても腹立つな!」


 俺の扱い雑すぎるだろお前!


 良いんだけどさ、別に。堅苦しい扱いされるのは無理なんで、この方が安心はするんだよ。少しは遠慮しろと思う事もあるけど……外面は完璧だから、義兄を筆頭に他家からの勧誘もすごいんだよ、コイツ。でも、見た目が優しそうでも中身は違うからね? 多方面で超がつくほど優秀な従者様には違いないけど。

「俺は他に行くつもりはありませんけど?」

「何も言ってないし、俺も手放すつもりはない。今後もこき使うから安心しろ」

「そのセリフでどうやって安心しろと」

 半眼で突っ込まれた。


 え、ダメだった? だって、ザック相手に取り繕っても仕方ないし、いいじゃん本音で言っても。


 そんなことを思ってたら、深々と溜息つきやがった。

 お前、本当に失礼だな。

「話がそれましたけど、奥様の件はどうするんで?」

「あ、そうだった」

 話、脱線しすぎてたわ。

 取り合えず、奥さんにはありがとうって言うけどちょっとお説教も必須かな。手伝ってくれるのはありがたいんだけどさ、内緒にするのはやめて本当にやめて。万が一にも何かあったら本当に発狂するからね、俺。

「あとで話をしに行ってくる。バロー嬢の件は…………いや、今更だな。このまま継続してもらうか。ザックの方でもフォロー頼む」

「了解でっす。まあ、奥様にはカミさんついてるんで大丈夫ですよ」

「ああ、ソニアがついてるのか」

 それなら、安心。

 ソニアってのはザックの奥さんで、元は冒険者として活動していた剣士だ。コイツ、たまーにふらっといなくなる事があって、そんなときは大抵、ちょこっと変装して冒険者活動している。聞いたところによるとAランクらしい。何でそんなことをしているのかというと、どうやらウチに引き入れる人間を探してのことだった様だ。コイツの部下も、元はそうやってザックが自分で見つけてきた人材だしな。

 で、そのザックが十年位前か? いきなり連れてきたのがソニア。

 奥様の護衛にどうですかと言われて、試しにちょっと手合わせしてみれば、これが中々の腕前で。ただね、即答はしなかった。その理由は、給与だ。

 冒険者もAランクになるとかなりの稼ぎになるからさ、ただの護衛としての給与なんて比べ物にならないのね、はっきり言って。それを辞めてまでウチに来てくれるのかって聞いたら、そろそろ引退するつもりだったので丁度良かったと言われたんだよ。どうやら訳ありのようだが、俺としては本人が納得しているなら何も言う事はない。

 で、だな。ここからが面白かったんだが、どうやらソニアがウチに来るって決めた最大の理由は、ザックだったんだよ。そこからソニアの猛攻でザックが陥落するまで、たいして時間はかからなかったのはマジで面白かった。あいつ、かたくなに自分は結婚しないって言ってたからさ、ちょっと気になってたんだよね。

 話がそれた。

 とにかく、ソニアなら腕は確かだし奥さんとも仲が良いので、安心。

「カミさんには奥様から離れるなと言ってあります。あのお嬢さんの件もある程度は話してあるんで、多少は何があろうと対処できますよ」

「うん、そこは信頼してる」

 というかまあ、この手の事はザックに任せておけば問題ない。

 後の細々したことはザックに任せて、俺は奥さんの部屋へと向かった。



 うん、俺の顔見て察したんだろうね。苦笑交じりにごめんなさいしてきたよ。

 いやいや奥さん、俺が怒るのわかってるなら黙ってやらないでお願いだから。事前に相談してくれたら、ダメだなんて言わないからさ。

「心配性です、旦那さま。私の体調は問題ありませんのよ? 聖女様もそうおっしゃっていらしたではありませんか」

「うん、それはそうなんだけどね」

 単純に、俺が心配なだけ。俺の我儘だって、わかってるよ。本来は活発な君が、家で大人しくしてくれているのも俺を安心させるためだってわかってる。窮屈な思いをさせているんだろうなって、わかってはいるんだ。

 でもね、本当にこればっかりはダメなんだ。一度、失いかけているし、あの時の恐怖と絶望はいまだに忘れられない。

「もう、仕方のない人」

 くすくす笑いながら、エレーヌがぎゅってしてくれた。


 ああもう、これだけで癒される……


 お返しに、ちょっと強めにぎゅってしたら背中をポンポン叩かれた。あ、ごめんなさい、ちょっと強かったかな。

「旦那さま」

「なにかな?」

「あのご令嬢の監視、このまま私にお任せくださいな」

「それは、うん。それのお願いもしようと思って来たんだ」

「あら」

 ちょっと、意外そうな顔してる。

 まあ、そうだよね。これまでの俺の言動からしたら、やめてって言うと思うだろうし。

「君に負担がかからないのであれば、手伝ってほしいことはたくさんあるんだ。君が優秀なことは私が一番よく理解しているからね」

「まあ。旦那さまにそう言っていただけるなんて、嬉しいですわ」

 そう言って、にっこり。


 あああ、可愛い!!


 本当に、これ以上俺を骨抜きにしてどうするの奥さんっ。可愛い上に頼もしくて優秀だなんて反則だろう。

 その後も少しすり合わせという名のイチャイチャで英気を養い、執務室へ戻ると。

 ザックが待ち構えてやがった。

 なんだよまだ仕事残ってたのかよと警戒していると、すっと何かを差し出された。それは、ある事に対する調査結果。

 受け取り、内容を確認する。

「……ああ、なるほど。やっぱりね」

「予想通りでしたね。でもまあ、今更あのお嬢さんに出来る事なんてないでしょうが」

「そうだな」

 何を調べてもらったのかというと、それはバロー嬢について。

 クッキーに魅了魔法がかかってた時点でわかってはいたんだが、エルに頼んで一応本人にバレないようにこっそりと確認してもらったわけですよ。付与魔法の適性があるのかどうかを。


 答えは当然、有り。


 基本的に、無機物に魔法を定着させるのは付与魔法の領分。食い物だろうとそれは変わらないだろうと思って調べてもらったんだけど、やっぱりだったわ。

「そもそも、口にするものに付与魔法を使うって発想がなかったが……」

「いやぁ、無理っしょ。魔石とかそれに代わるもんがなきゃ付与できないもんなんでしょ?」

「普通はな」

 ザックの言う通りで、普通は核となる魔石やそれに代わるものがなければ付与はできない。だからこそ、食べ物に付与魔法を使うって発想にはならなかったんだが、バロー嬢の作るクッキーに関しては粉末化した魔石を混入させていたのは確定してる。

 ただまあ、普通は魔石を砕いたら使い物にならないんだが、そこは例の魔族の血を引くヤツがちゃんと使えるように魔石を粉末化してたからな。今はそれも手に入らなくなったんで、バロー嬢も魅了込みのクッキーは作れなくなってるけど。

 そうそう、年末にさくっとアストラガルまで行って色々と聞いてきたんだけど、こちらが警戒していたような類の情報はなく、どうやら心配いらないらしいってことが分かったんで、ひと安心だった。こちらとしてはもうほしい情報はなかったんで、あとはお好きにどうぞを言っておいた。どうやら俺からの質問に答えられなかった場合に備えて、例の魔道具職人の処遇を保留にしておいてくれたらしい。今頃は適切な判断が下されている事だろう。

「でもあれ、ミサキさんみたいに魔石を砕いて染料にするのと一緒って事っしょ」

「原理は同じだろうさ。両方ともに魔石としての機能は損なわれていないんだから」

 何をどうやったら付与できる状態を保てたまま粉にできるのかさっぱりわからないが、多分そこまで特殊なことではないんだろうなと思う。少なくともミサキは簡単に作ってるらしいし、ミサキに指導を受けた職人、まだ数人だが作れるようになっていると聞いている。やりようによっては莫大な利益を得ることができる技術なんだけど、ミサキにそんな気はなく、自分で信頼できると判断した職人には無料で教えてるんだよな。ああいうところ、ホントに無欲というか……まあ、本業で十分に稼いでいるからあんま拘らないのかもしれない。

 何はともあれ、ミサキが生み出した新しい技術として、広まりつつあるのは事実だ。グラフィアスでもエル経由で伝わってからすでに浸透しつつあるらしいので、これから更に広がっていくんじゃないかな。


 それは、ともかく。


「取り合えず、バロー嬢が付与魔法の適正ありなのはこれで確定だ。クッキーの件もわかっていてやってたんだろうし、王妃殿下の元でコソコソやっていたというのもこれ関係と思って間違いないだろう」

「あの人、魔道具仕掛けた使用人含んだ、身の回りにいた人間の大半が入れ替えになってから、かなり焦ってるみたいですからね」

「? 焦る必要、あるのか?」

「隷属の件はバレてないと思ってるし、ぶっ飛んだお嬢さんの件もバレてないと思ってます」

「マジか」

 え、いくら何でもそれはないんじゃないの? あれだけ派手にやってて、あれだけ目立つ行動取ってて、なんでバレてないと思えるの? そっちがわからないんだけど。

「狂人の思考回路を理解しようったって無理っしょ」

「うん、まだ何も言ってない。そして、いくら俺とお前しかいないからと言って狂人呼ばわりはやめなさい」

 あえて誰がとは言わない。言わなくてもわかってるし。

「いいじゃないですか。どうせ近いうちに処分されるっしょ」

「だから、口に出すんじゃない」


 思ってても言うな、頼むから。


 でもまあ、今の流れからすると陛下は完全に切る方向で考えているように思える。それに何と言っても、王太子殿下が許さないだろう。ただでさえマリウス殿下の件で怒り心頭だったのに使用人に対する隷属の魔道具の件が加わったもんだから、完全に見限ったらしいよ。

 なんか、陛下とも色々と話をされていて、王太子殿下主導で進めるとか言ってた。シルヴァンが。詳細は知らんよ、俺は友人を紹介はしたけど、関わってないし。ただ、王位が次代に継承されたときに王太后という称号は存在しないと断言していたとは聞いているから、長くてもあと数年じゃないかね。

「で、旦那。どうします?」

「ん~……」

 ザックに問われて、考える。

 正直に言えば、すでに処分を下せるだけの証拠は集まってる。ただ、ゲーム上ではあと二か月ちょっとで終了だ。そこまで待つつもりでいる。恐らく人伝にも王妃殿下との接触は出来なくなるだろうバロー嬢は、すでに打つ手なしだろうし。

「卒業まで様子見るつもりですか?」

「それが、一番平穏な気はする」

 すでに近衛騎士団の登用試験はパスしている愛娘、残りの期間は決められた登校日に行けばいいだけなので、バロー嬢と学園で顔を合わせる機会は激減する。つーかまあ、向こうは希望していたらしい王宮関係の職は全滅、それでも諦められずに悪足搔きしてはいるようだから、レティにかまう暇はないんじゃないかな。

 あいつは多分、王妃殿下経由で何とかなると考えているんだろうけど、あの人に王宮内の人事を決める決定権はないから。それこそ、自分の身の回りに置く側近ですらね。

「まあ、あのお嬢さんができる事なんて、もうないとは思いますけど。万全を期すなら、さっさと始末したほうが」

「ザック」

「これ以上、旦那があのお嬢さん関係で頭を悩ませる必要はないでしょ。つーかあれだけ正面切って喧嘩売ってきてんですよ、そろそろ反撃してもいいのでは」

 いつになくザックの口調が強い。

 多分というか、間違いなく怒ってる。普段と態度が変わんないからわかりにくいけど、確実に怒ってる。

 ザックはねぇ、良くも悪くも全てにおいて俺が最優先なんだよ。昔からそうなんだけど、本当にそこだけは絶対にブレない。普段、適当に俺をあしらってることも多いけどな、あれは俺が友人関係は継続でとお願いしているからってのもある。表向きには主従ではあるけれど、俺にとっては大切な幼馴染で親友だし、ザックもそう思ってくれているんだと思う。

 だからこそ、ザックは俺にとって有害だと判断した相手には容赦ない。恐らく、俺の知らない所でもそれなりに対処してきてると思うんだ。気づいたら見なくなっていた顔とか、一人や二人じゃないしな。

「落ち着け。できればバロー男爵家ごと潰したいんだよ。でも、それをやるなら仕掛けるのは今じゃない」

 俺がそう答えると、ザックの眉が動いた。どういうことかを聞きたいんだろう。

「リオネル殿下が王妃殿下関係でエルに協力を仰いだ」

 取り合えず、極秘な情報をザックに伝える。

 おお、珍しくザックが目を丸くしてるよ。これ、まだ本当に極秘中の極秘事項だからね。

「それって」

「バロー男爵は、娘経由で王妃殿下との接点を作ってる。無能なくせに権力欲だけは強い男だ、娘が王妃殿下に気に入られたとあればそれを利用しようとするのは当然だろう」

「まあ……そうですね」

「それに。陛下は例の件が発覚して以降、王妃殿下宛に届けられる荷に関しては検閲していないそうだ」

 例の件ってのは、隷属の魔道具の使用が発覚したあの件。

 ザックが怪訝そうな顔しているけど……いや、陛下の意図はわかってんな、これ。

「わざとヤバイモノでも持たせる気ですか? それも理由にすると」

「だと思うぞ。逃げ道を徹底的に潰しておきたいんだろうさ。そして、バロー男爵は娘経由で王妃殿下より指令を受け取っているらしい」

「……どうせなら仕込みますか」

「そこまでしなくても、勝手に自滅すると思うぞ」

 なんせ、王妃殿下がバロー男爵に探して来いと命じたのは隷属の魔道具が作れる職人。それと、グラフィアスに伝手のある商人。

 もうね、これだけでもあのクソ女が何を考えているのかわかるってもんだ。本当に懲りねーよな。

「あと、バロー嬢だが、こっちも卒業後の進路はほぼ確定済みだ」

「は?」

「卒業式までは様子を見ると判断した理由は、それだ」

「……つまり、そこまでに改善の兆しがあれば、旦那の用意した就職先は撤回されると」

「ああ。一応、娘と同じ年だからさ。最後の情けだ」

「無駄になると思いますけど」

「うん、俺もそう思う」

 あっさり認めたら、でっかく溜め息つかれた。失礼だな、おい。

 いや、ここ数年は特に、色々と面倒ごとばっかり押し付けてたから、ザックには申し訳なかったなと思ってるよ。詳しい説明なんてしてないのに、心得顔で動いてくれて。

 だが、それもあと少しだ。もうちょっとだけ我慢してほしい。

「了解です」

 取り敢えずは納得してくれたらしい。良かった。


 さて、残りもあとわずか。

 このまま何事もなく、順調に終わってくれることを願うよ。



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