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44 色々な事が繋がっていたらしい


 俺とシルヴァンの、予定被りまくりな一か月がやっと終了した。

 いやもう、シルヴァンはずらせるような予定じゃなかったし、せめて俺だけでも巻きで進めてなんとか時間をって思ってたんだけど、思うようにいかなくて……結局、エルたちに頼りきりだったよ。

 まあ、そのおかげでレティを狙ってた連中には【あいつらやべぇ】と認識されたようだ。……ねえ、何したのかな? 俺、それらしい報告は受けてないと思うんだけど。

 そう思ってザックを呼び出し、ただいま詳細を聞いていおります。やっぱりコイツは知ってやがった。知ってたんなら聞かれる前に報告しろよ、頼むから。

「お嬢に、と言うよりはエルさんとミサキさんに絡んだのが大半ですねぇ。この国じゃ女性騎士なんて珍しいし、ミサキさんはいつも通り冒険者装備でしたし」

「だからって、なんであいつらに絡むんだよ」


 知らないって怖いよね。自殺行為もいいところだわ。


「単純に、女のクセにって感じじゃないっすかね。瞬殺されて逆恨みしたバカが人数集めて襲撃掛けようとしたらしいっすけど、直前にエルさんに殴りこまれて壊滅しています」

「…………」


 なにしてんのかな、アイツ。


 いや、エルの事だから事前に情報つかんでたんだろうし、不安分子は即排除が鉄則な奴だから、動く前につぶしてしまえってのはわからなくはないんだけどさ。証拠残すような奴じゃないってのも、わかってるけどさ。

 そこまで事前にわかってたんなら、別に事を荒立てる必要、なかったんじゃないの?

「……それさ、事前に手を打てたんじゃないのか?」

「さあ。何度も相手すんのは面倒だから一度で終わらせたとは言ってましたけどねぇ」

「いや……ああ、うん。もう何でもいいや」


 何を言っても無駄だ。


 とにかく、一か月間レティの護衛をしてくれたことに感謝。その他の細かいことは、取り敢えずその辺に放置しておこう、気にしたら負けだ。

「……旦那。気にしたら負けだとか思ってそうですけど、そういう問題じゃないですからね?」

「わかってるよ!」


 言われなくてもわかってるよ、少しぐらい現実逃避したっていいだろ!?


 まあ、あいつらに頼んだ時点で、平穏無事に終わるわけがないんだ。わかってたよ、そんなことはっ。同時に、あいつら以上に信頼できるのもいないんだから、多少なんかやらかしたとしても色々と加味して相殺されるとは思うよ。

「今回は旦那と若の不在で、活気づいてたバカどもが多かったですからねぇ。事前調査の段階で相当数をマークしてたみたいですから、手を抜けるところは抜きたかったんじゃないですか?」

 それを言われると、何も言えない。

 いや、どっちにしろ感謝こそすれ文句言うつもりなんてなかったんだよ。こうやってザック相手に愚痴ることはあっても、あいつらには感謝しているからさ。つーか、やり方は任せるって俺が事前に言ってる以上、文句言える資格はないんだよ。俺自身が容認してんだから。

「表面上は無事に終わっているなら文句はない」

「そこは抜かりないですね。人目に付く場所での騒動は完全に正当防衛が成立してますし、それ以外の場所でのアレコレは向こうは何も言えんでしょ。下手に騒げば自分たちの首を絞めるだけですから」

 それはそうだ。

 エルが事前につぶした連中が何を目的としていたのかは知らないが、エルにマークされるようなことを企てていた時点で言い訳はできない。証拠も何もない状態で、エルがそんな行動をとるはずがないのだから。

「それと、これを」

 ザックがパサッと紙の束を置いた。

 なんだろうかと手に取ると、そこにはびっしりと名前が……覚えのある名も多いが、それ以外も多い。

「エルさんからです。お嬢狙いだけでもそれらしいっすよ」

「こんなにいんの!?」


 ちょっと待って、さすがにこの人数はびっくりだよ!


 ざっと見ただけでも首謀者と思わしき名前が十数人とその配下の人数、手を組んでると思わしき連中の関係図。名前の前に黒で丸印がついてるのが全体の八割くらいいるけど、これはなんだ? 

「ああ、黒丸は対処済みだそうです」

「対処済み」

 つまり、すでに再起不能になってるってことか。

 レティの護衛をしつつこれって、あいつやっぱりとんでもねーな。味方にしておけば頼もしい限りだけど、万が一にも敵になったら恐怖でしかないわ。

「他のも順次潰していく予定なんで、十日ほど時間をくれ、だそうです」

「え? あ、これ全部潰す予定なんだ」

「らしいですよ。暴言はかれたりもしてたらしいんで、内心はムカついてたんじゃないすかね。どうでもいいのはサクッと潰したんで、残りはそれなりに報復するとも言ってました」

「ああ……」


 エルがその気になってるんじゃ、仕方ないかもしれない。


 基本的に感情の起伏は見せないからね、エルは。ただ、見せないからと言って何とも思ってないかと言うと、そんなわけがない。特にエルは見せないだけで、実際にはかなり感情の起伏は激しい。自分が気に入らないって理由だけでも報復に出るような奴だからな。……ああ、もちろんそれなりの理由があって気に入らないってなるのであって、なんの理由もなしにってわけではないよ? さすがにそこまで無茶苦茶じゃない、そこは誤解なきよう。

「まあ、なんにせよエルに目をつけられた時点で終了だろ。依頼時に好きにしていいと言った手前、俺からは何もいう事はないよ」

「了解です、エルさんにはそう伝えておきます」

 ザックが当たり前のように言ってるけどさ、なんだろうね。なんか本当に今更ではあるんだけど、ザックはいつの間にか個人的にエルと連絡取るようになってたんだけど、それに関しては俺何も聞いてない気がするんだけど気のせいかな。いや、本当に今更なんだけどさ。

「別にそこは気にする必要ないっしょ」

「俺、何も言ってないよね?」

「俺が何でエルさんと連絡取れるようになってんのか気になったんでしょ? 今更過ぎますけど」

 うん、そうなんだけどさ。

「まあ、別いいですけど。グランジェ邸に転移門設置したっしょ。あれの作業中ですよ」

「あ、やっぱりあの時か」

「そうっすよ。転移魔法の件を奥様から聞いてたんで、待ち構えてました」


 そんなことしてたのかよ。


 若干、呆れた。しかしまあ、ザックならエルの持つ技術の数々は興味津々だったろうし……あ、待て。つーことは、コイツも転移門の件は事前に知ってたって事か?

「奥様から聞いてたんで知ってましたよ。基本的に、俺か俺の部下が立ち会ってたんで」

「なんで隠してたんだよ、言えよ」

「奥様から口止めされてました」


 奥さん、なんでそんな意地悪するの!!


 そうだ、当時も隠されててショック受けたんだった。あああ、また思い出してしまった……!

 事前に言うと俺が反対するからって、義兄がある程度できるまでは隠しとけと奥さんに言ったから内緒にしてたらしいんだけど、完成まで隠せとは言ってなかったらしい。でも、結局は最後まで内緒にされてた。奥さん、時々、妙に意地悪です。

「作る工程見せたら、旦那が部屋から出てこなくなるってわかってたからっしょ。口では反対しても、目の前で見せられたら旦那が大人しくしているわけないし」

「…………」


 それに関しては何も言えない。


 うん、そうだよね。それは言えてる。文句は言いつつも興味津々で、仕事しなくなってたと思うよ自分でも。

 奥さんは俺のそんな醜態をあらかじめ予想して回避してくれたってことだよね、放置してたら後になって頭抱える事態になってたの、間違いなく俺だろうし。

 ある意味、奥さんは俺より俺のことをよくわかってくれてます。ありがとう奥さん、大好きだ!!

「はいはい、奥様への気持ちはご本人に直接伝えてください」

「だから、心を読むのはヤメロ」


 声に出されると恥ずかしいんだよ、さすがに!!


「今更っしょ」

 軽ーく流された。

 くっそ、本当にどうしてくれようかコイツ。

「俺の事は後で好きなだけ企んでください。それよりもさっさと仕事しろ」

 書類の束を容赦なく俺の前の前に積み上げながら、ザックが言う。

 いや、ちょっと待って。なんかオカシクないかな、この量。ここしばらく忙しかったとはいえ、最低限の執務はこなしてたはずなんだけど? なんでこんなに溜まってんの?

「この一か月で旦那が新しく築いた人脈からの事業提携に関する提案とか、自分の商会にも魔道具卸してくれってお願いだとか、きちんと話をする時間はなかったから一度お時間をっていう面会希望とか、あとは大旦那様から領地へ直接押しかけてこようとしているバカがいるから情報くれって連絡ですかね」

「めんどくせーな!!」


 余計な仕事!!!


 あ、業務提携はアレだ、一人だけやってもいいかなって思える人物がいたから、あの人からの提案だったら目を通さないわけにはいかないか。エルとミサキにもチラッっと話はしてあって、取り敢えず提案を聞いてから考えるかってことになってるんだし。あと、義父への情報提供も大事だな。つーか、なんで領地へ行こうとしてるバカがいるんだ? 意味わからんのだが。

「えーと……ああ、これか。これは俺が確認する。義父からの連絡もあれだ、これは最優先で動かなくては。くっそー、やっぱり面倒なことにしかならねーじゃねーか。だから嫌だったんだ」

 ぶちぶち言いながらも、ざっと目を通して重要とそうでないモノとに分ける。

「ザック、これは至急で頼む」

 渡したのは、義父からのお願い。

「了解です。手配済みなんで、一通り洗い出したら大旦那様に報告しておきます」

「ああ、それで頼む。他は、適当に断っておいてくれ。今は相手をしている時間が惜しい」

「あ、時間くれの連中だけは、奥様が都度お断りの手紙を書いてくださっていましたので、対処済みですよ」


 おおっ、さすが奥さん!


 助かるわぁ、ホントに助かる。一人でやろうとするとそれなりに時間かかるし、そうすると他の事もあるのでまた仕事漬けになるし……またオーバーワークして奥さんに叱られるのだけは避けたい。

「他にも断りの連絡を入れる相手がいたら教えてくれ、だそうです」

「あ、マジで? じゃあ、もうちょっとお願いしようかな」

 ここは素直に甘えておこう。

 ザックとあーでもないこーでもないと話をして、奥さんにお任せするのを見繕って伝言をお願いした。いろいろな意味でうるさそうな奴には俺が直接断りの手紙を書くが、それ以外は奥さんにお任せ。

 奥さんも、普段からちょくちょく俺の仕事手伝ってくれてるから、この手の事は慣れています。本当に頼りになる奥さんだ。


 さて。


 あの後もサクサク処理して、ただいま一息ついております。エルからの報告書に目を通しながらだけど。

 諜報活動はお手の物なエルからの報告なので、それはもう詳細に記されているわけですよ。対象者の情報が。しかもこれに関しては、大半がすでに対処済み、もしくは近々対処する予定なので、俺は本当に報告書に目を通すだけという気楽さ。

「あ~……この辺り、義兄の対立派閥か。妙なところからもちょっかい掛けられてんなぁ」

 本当に、わかりやすく書いてくれてるから助かる。これまで全くマークしてなかった名前とかもあるからね。マジで助かるわ。

「あとは……コイツ、これ王妃殿下の故郷か。……たまたまか? それとも」

 ここ最近の、王妃殿下とバロー嬢の親密(?)っぷりを聞いているせいか、どうにも怪しく感じる。まあ、この報告書に名前が載っている以上、今回はエルが始末するだろうが。

「ないとは思うが……王妃殿下も実家が裏で手を引いていたりしたら、ちょっと厄介だな」


 あんなんでも、一応は同盟国の元王女だからねぇ。


 あちらの現国王である王妃殿下の弟は、姉を嫌っていたらしいので手を貸すようなことはしないとは思いたいが。……ちょっとね、色々あったんですよ昔。俺が暴れたらどうなるのかは向こうもよーく理解しているはずなので、仕掛けてくるようなことはないと思うけど……あれからずいぶん経ってるしなぁ。

 実は俺、あちらの国王とは面識があったりするんだな、これが。

 というのもですね、近衛時代に陛下(当時は王太子)にくっついてあちらの国へ行った時に、訓練に付き合うって名目で多対一の手合わせを申し込まれ、危うく集団リンチされそうになった事がありまして。

 あの頃、俺はすでに大陸最強だとなんだの言われ始めてた頃だったし、当時まだ王太子だった陛下がそんな俺を従えていたのが面白くなかったんだろうねぇ。

 最初は軽く手合わせを、みたいな話だったんだよ。それが向こうの王族直属の親衛隊が口を挟んできまして、ついでに色々と挑発もしてくれたもんだから、俺も軽ーくプチっとなって遠慮なく全員、完膚なきまでに叩きのめしてやりました。あの時はちょっとかなりムカついてたこともあって手加減しなかったから、ほぼ瞬殺だったしな。

 自慢の親衛隊が使い物にならなくなったのを目の前で見ていたあちらさん、揃いも揃って顔面蒼白になっていたのには笑いそうになった。喧嘩売ってきたのは向こうだったし、許可するから好きにやれと言ったのも向こう。自慢の親衛隊をズタボロにされても、文句言える立場じゃなかったんです。


 うん。俺も色々とやらかしてんな。改めて思い返してみると。


 だって、本当にムカついだんだよあの時は! 陛下も先輩たちも、やっちまいなって雰囲気だったから遠慮しなかっただけだなっ。

 まあ、それはともかく。

「警戒するに越したことはないとはいえ……王妃殿下は、陛下が完全に見限る方向で話を進めている。監視も厳しいし、滅多なことはできんだろ。こちらが注意すべきはバロー嬢だよな。やっぱり」

 いまだに、まったく諦める様子のないバロー嬢。最近は、想い合う恋人との仲を引き裂かれた悲劇のヒロインを演じているらしいが、想い合う恋人って誰?

「あそこまで妄想激しいと、もう何も言えんよなぁ。放置されている今の状況は、ある意味当然か」

 そうなんだよ、ディオンからある程度は聞いてるから学園での様子もわかってるんだけど、もはや完全に可愛そうな人扱いらしいよ。……本当に可愛そうと思われているわけではなく、思考回路が残念すぎる人って意味です。僅かに残っている取り巻き以外は、バロー嬢の虚言癖なんて当然のごとく認識してるしな。本人は、そんな風に思われてるだなんて考えてもいないようだけど。 

「取り巻きもかなり減ったし、学園内で出来る事なんざもうほとんどないはず」

 普通に考えれば、もう心配はないと思う。残りも半年切っている上に、肝心のシルヴァンはヒロインを視界にも入れたくないと口にするくらい嫌っている。どう考えても巻き返しは無理だろう。

 一方のレティは、絡んでこない限りはどうでもいいようだ。前にちらっと聞いた感じでは、会話が成立しないから相手はしたくないけど、自分の所へ来なければ思い出すこともないから気にならないんだそうです。普段は存在すら忘れてるらしいよ。……何気にレティが一番ひどい気がするの、気のせいかな。

「まあ、俺としてはウチの子たちに絡んでこなけりゃ放置でよかったんだがなぁ」

 本当にね、レティの入学式で【悪役令嬢】ってのが聞こえた時から警戒MAXだったけどさ。あのまま、別の誰かと普通に幸せになるんなら関わることはなかったと思うんだ。……ヒロインも本当にブレない。最初っからシルヴァン狙いだったの隠しもしてなかったし。

「気になるのは王妃殿下との接触だが……王妃殿下の駒として動く可能性も、有り得なくはないよな」

 レティを手中にしたいらしい王妃殿下と、シルヴァンを落としたいバロー嬢。

 利害関係は一致している。現状でも手を組んでいると思って間違いなし、個々から何か仕掛けてくる可能性は高い。

 王妃殿下の周囲がほとんど入れ替わった上に、例の商人は行方不明のまま。隷属の魔道具の入手手段はなくなっただろうが、ストックがないとも限らない。加えて微力ながらバロー嬢は魅了魔法が使える。


 …………


 なんか、嫌な予感するんだけど俺のキノセイかな。

 頭の足りないのが揃ったところで、何ができるわけでもないとは思うけど……


 そんな事を考えつつ、どうしたもんかと頭を抱えていると。

「旦那、いいですか」

「うん? ああ」

 声と共に入って来たのは、ザック。奥さんへの伝言役を終えて戻って来たらしい。別に今日はもうこれと言って仕事ないはずなんだけど、なんで戻ってきたのかな。

「ミサキさんから至急で、連絡来ました。魔道具とは別件です」

「マジか」

 ミサキから至急の連絡なんて、嫌な予感しかしないんだけど。

 ザックが差し出した手紙を机に広げ、一緒に見るよう促しつつ内容を確認。

 そこに書かれていたのは、依頼していた魔道具の完成の目途がついたことと、もうひとつ。例の王妃殿下に取り入っていた商人が捕まったとの事だった。昨年の壊滅作戦の時に逃げ出していた全員、捕まえたらしい。

 どうやら、新たに組織を立ち上げるべく準備を進めていたようで、そこを急襲して一網打尽にしたそうだ。で、本当は例の商人に関してはこちらへ引き渡そうかなんて話も出ていたんだが、そこがどうやら無理そうというのがミサキから連絡が来た理由だった。

 押収した資料から過去の取引とかの一覧を見つけ、それを宰相閣下が見聞していたところ激怒案件に繋がったらしい。


 ……うん。予想以上の大惨事になりそうな予感。


「これさ。めっちゃ怒ってるよね?」

「激おこですね」

「奴隷制度認めてるかの国に制裁いくの確定だよね?」

「するでしょうね。確実に」

 思わず、ザックと顔を見合わせる。

 手紙によれば、人身売買組織の黒幕は、向こうの大陸にある国のひとつ。元から閉鎖的な国ではあったのだが、周辺各国が次々と奴隷制度を廃止もしくはその方向で調整に入っているにも関わらず、頑なに奴隷制度の維持と必要性を訴えている。まあ、主だった産業も何もない国なんで、奴隷で外貨稼いでいたから仕方ないのかもしれないが……それだって買う国がなくなれば終わりなんだけどねぇ。

「終わったな、あの国」

「さっさと消滅すればいいんじゃないですか」

 俺の呟きに、ザックは呆れ顔で頷く。

 手紙の中に一枚、奴隷売買の契約書の写しっぽいんだが、詳細が書かれているそれが入ってたんだけどさ。宰相閣下が激怒した、その理由。

 数年前のものなようだけど、購入予約の奴隷ってのが……二歳男児、魔族とエルフのハーフ、希少ランクA、調教次第でSランク。


 もう、確定だろ。イザークじゃん、これ。


 誘拐されたことあるとは聞いてたけど、まさか他国が直接関与してたとは。そりゃ宰相閣下ブチギレるわ。つーか、調教ってなんだ調教って!

「旦那、旦那。イザーク坊ちゃんが可愛いのはわかりますけど、ダメです」

 なぜかザックが速攻で止めてきた。

「まだ何も言ってないよね?」

「今にも殺しに行きそうな気配です。ダメです、アレは向うの獲物。旦那は情報を貰うだけにしておきましょう」

「……それもそうだな」

 外交的に潰されるか物理的に消滅するのかはわからんが、アストラガルの上層部を激怒させた以上は無事に済むわけがない。あそこって、基本的に自国から出ることはしないから、こっちが手を出さなければ何もしないのに。

「まあ、これは例の商人の引き渡しは諦めるしかないか」

「ですね。ミサキさんがビビるくらいですから、交渉は不可能っしょ」

「だな。落ち着いた頃に、少し情報だけでも貰えないか頼んでみるか」

 重要な証人だけどまあ、仕方がない。

 とにかく、これで王妃殿下の伝手のひとつは完全に潰せただろう。

「あとは、ミサキの魔道具が出来れば……届いたら、早急にリオネル殿下にお渡しした方がよさそうだな」

「その方が無難でしょうね」


 供給は断たれたのだから、後は残っているだろう魔道具を探して回収しないとだな。


 まだまだ収まりそうにない状況に、頭を抱えるしかなかった。



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