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43 期間限定の護衛を依頼しました


 先週の王妃殿下の暴走以来、厳戒態勢な我が家。

 本音を言うと、学園を休ませたいんだけどねぇ……さすがにそうもいかない。三年のこの時期って、大事なんだよ。早けりゃ進路決定するからさ。

 というわけで、ちょっと伝手を頼ってみました。

「取り敢えず、貸し出されてきたんだけど」

 目の前にはグラフィアスの騎士服をまとったエルヴィラ。今日は珍しく仮面をつけている。最近は外してることも多いみたいなんだが、この仮面、コイツのトレードマークだったりするんだよな。数年前までは、自国ではコイツの素顔知る人間ってほとんどいなかったらしいよ、詳しいことは知らんけど。

 そして今回、自己申告があったように、エルは貸してもらった人員という事になる。大公妃殿下、その人から。

 いや、ザックに突っ込まれた後、色々と片付けてからエルに愚痴ったのよ。

 実はね、エルからレティの護衛に仕えそうな魔道具をいくつか借りてたんだけど、この前のアレでいくつか壊しちゃったんだよね。なんで、その謝罪のために連絡したんだけど、何したんだって聞かれたからさ。愚痴りながら一通りの事を説明してたのよ。そうしたら、どうも大公妃さまが側で聞いていたらしくて。


『それなら、エルを貸してあげるわ。わたくし、しばらく公務には出れないから護衛は足りてるのよ』


 って、仰って頂きました。

 いきなり会話に乱入してきたからビビったけどね、俺。つーか、エルも一緒に居るなら居るって最初に言えよ、思いっきり普段の口調で愚痴りまくってたじゃねーか!

 あ、ちなみに大公妃さま、おめでただそうです。まだ対外的には発表してないので内緒にしてねと可愛らしくお願いされました。なので、大公殿下から当面の外出禁止を言い渡されているんだって。お祝い用意しなくては。

「なんか、すまん」

「いや、良いけどね。忙しくないのは事実だし」

「だって、アレックスは」

「妃殿下が大喜びで構い倒してる」

「…………」


 そうだった。大公妃殿下、子供大好きだった。


 仕事なくなって時間に余裕出来たとなれば、そりゃ普段から可愛がってるらしいアレックスに時間割くよな。

 まあアレックスは、エルの代わりにレンブラントが妃殿下の側につくことになっているので、大丈夫との事だった。お父さん大好きな子だから喜んでるよーとエルは言ってたけど、なんか本当にすまん。

 とは言え、エルが側に付いてくれるのはマジ助かる。腕も然ることながら、身分的にも大抵の相手には勝てるし、同性だからどこにでも同行出来るしね。……侯爵夫人なんだよ、コイツ。見えないけど。ついでに言えば、陛下から王妃殿下が仕掛けてきたら遠慮なく返り討ちにしてOK、全て不問にするとお許しいただいているので、エルにも遠慮すんなとは言っておくつもり。言わなくても遠慮しないだろうな。するわけがない。

 今回のエルの派遣は、国として正式にグラフィアスへ依頼して受理された結果という事になっているので、下手な事しようものなら外交問題に発展するというおまけつき。一応、新作の魔道具の被験体としてレティが選ばれたため、その監視と経過観察の為って名目ついてるから、そこまで不自然ではないはず。……王妃殿下がそんなこと理解できるとは誰も思ってないだろうけどさ。陛下はそこで問題を起こすことを前提にあちらとも話をして、今回の措置となったんだって。


 どう見ても問題起こさせて処分する気満々です。


「まあ、本当に気にしないでいいよ。普通に通えるんだし」

「そりゃ、お前はどこに居ようとその気になれば通えるだろうけど」


 なんつっても転移魔法使えるしな。


「と言うかね。今回の件、たぶん去年潰した人身売買組織の残党が絡んでるんだわ」

「は?」


 なんだ? 物騒な単語が出て来たな?


「一網打尽にしたつもりだったんだけど、数人厄介なのが逃げてたらしくてねぇ。やっぱり生け捕りじゃなくて処分前提にしとくんだった」

「何物騒な事さらっと言ってんの?」


 処分って。いや、わかるけどっ。


 しかし、今コイツが言ったのってアレだよな。去年、イザークたち預かった時の。確か、かなり大規模な掃討作戦やるって言ってたっけか。なんでも亜人を専門として攫ってきては、奴隷に落して売りさばいてたって報告受けたような。……ん? 奴隷?


 なんか、とてつもなく嫌な予感。


「残念だけど、その嫌な予感は当たってると思うよ」

「俺、声に出してなかったよね? つーか、マリウス殿下に使われていた隷属の魔道具、関係あるのか」

「あるねぇ。逃げてるひとりが作った本人だもの」

「作った本人? え、作成者わかってるの?」

「うん。ミサキが解呪した時の術式を記録しておいてくれたからね。それを解析してたら痕跡残ってたからさ。追跡掛けてみたんだよ」


 とんでもないことをさらっと言ってるけど、コイツマジで何してんの? 解析はともかく、普通は追跡とかそんなこと出来ないからね?


 まあ、常識が通用しないコイツにそれを言っても無駄だとはわかっているので、そこは流す。……流すしかないんだよ、俺だって理解不能だわ!

「つまり、相手は魔族か?」

「そう……とも言えるかな。正確には薄くはなってるけど、魔族の血を引く人間。あの組織の幹部だった一人で、どこで隷属の魔道具の作り方なんて覚えたのかはわからないけど、ソイツが作った魔道具で攫ってきた子供や女性を奴隷化、逆らえない状況にして需要のある所に売っていたらしい。見た目は初老の男性、髪は白髪交じりの栗色、魔族の特徴ともいえる赤い瞳は持ってないから、見た目じゃ判断付かないだろうねぇ」

 この世界、赤い瞳は魔族の血を引く者の特徴と言われている。まあ、エルみたいな例外はあるが、基本的には瞳が赤い=魔族で間違いない。

「ちらっと調べた限りだと、そいつはおたくの王妃が懇意にしている商人の一人。結構前から取引あったみたいだし、他にも支配されてるのいるんじゃないかね」

「マジか」


 なに、そんな胡散臭い奴が後宮近くまで出入り出来てたって事? いくら何でもマズイだろ、それ。


 どうせ王妃殿下の独断だろうけど、限りなく後宮に近い王妃殿下の居住にそんなアヤシイ商人を引き込むなんて。マジであいつの危機管理意識はどうなってるんだよ、本当に一国の王女だったのか? ヤバすぎるだろう、色々と。まあ……息子にあんなもん使ってる時点でヤバいを通り越してるけど。

 若干の頭痛を感じてこめかみをぐりぐりしてたら、エルが苦笑した気配。

「まあ……本当に、どこまでも予想外の事を仕出かすんだね。悪い意味で」

「……否定はしない」

「しないんだ」

 否定できねーだろーが、ここまで来ると。逆に、よく今まで大きな問題が起きなかったなと感心するよ。

「ミサキに感知の魔道具作成を依頼したのは良い判断だと思うよ。取引していた期間や周囲の様子から判断して、相当数がすでに出回っていると考えて間違いない」

 エルが断言した。


 どうやら、こちらが考えている以上に深刻な状況になっている可能性が高い。


 先日まで王妃殿下の周りにいた従者や侍女たちは、すでに王妃の目の届かないところへ隔離済み。だが、問題はそれ以外に仕掛けられた人がいた場合、だ。

 ミサキに依頼した魔道具で判別できるようになればいいが、それだって完璧には無理だろう。


 ああもう、頭痛い……


「取り敢えず、私はレティにくっついてればいいんだよね?」

 と、エル。

 しまった、その打合せしてねーじゃん。まずはそこを終わらせないと。

「ああ。学園内に入る許可は得ている。授業中は近くに護衛用の待機室かあるから、そこで待っていてもらえれば問題ない。一応、クリスと一緒に動いてもらう事になるから、何かわからないことがあればクリスに聞いてくれ」

「了解。まあ、護衛業務は慣れているから任せておいて」

 うん、そこは心配してない。その仮面の事で色々と言ってくるだろうおバカさんの存在が気になるけどな。中にはあまりよろしくない護衛もどきもいるからさ。その辺りの対処もエルなら慣れているだろうから、心配はしてないけど、迷惑かけるかもしれないと思うとちょっと心苦しい。

 その後、帰宅したレティとシルヴァンに、俺とシルヴァンの仕事関係が落ち着くまでの約一か月、エルがレティの護衛に加わることを説明。レティ、なぜか大喜び。まあ、エルに護衛を頼んで正解だったと思う出来事が起こるのは、数日後だった。



 **********



 エルから報告を受けたのは、護衛に付いてもらって三日ほど経った時。

 領地から帰ってすぐに、エルから話があると言われて執務室で聞いたんだが、案の定というか王妃の手の者が帰宅しようとしていたレティの前に立ちはだかったらしい。

 陛下が周囲を一新しちゃったもんだから、金で冒険者雇ったらしいよ。どうやら詳しいことは聞かずにって条件つけてたようで、何としてでもレティを連れて来いとだけ言われてたようだ。こんなアヤシイ依頼に乗ってくるような冒険者だから、どんな連中かは知れてるよな。

「取り敢えず、適当に叩きのめしておいた」

 と、エル。一応、引くように警告をしてから捕縛したらしいんだけど、一瞬で沈めたもんだから周りで見ていた連中が驚いていたらしい。ああ一応、学園側はエルの正体知ってるけど、公表しないように言ってある。


 つーかエルよ。お前は何をそんなに呆れてんの?


「向こう、要件はなんだって?」

「お茶会の招待状を送ったのに返事すら寄こさないのはどういうつもりだって事らしいよ」

「……初耳なんだが」

「そりゃそうでしょ。案内出す手配したの、今朝だって言ってたし」

「それ、どう考えてもまだ届いてないよね?」

「直接届けに来ない限りは無理じゃない?」

「………………」


 頭痛い。

 バカか? バカなのか!? いや、バカなのは知ってたけどっ!!

 そりゃエルだって呆れるだろうよ、常識ないにも程があんだろ!!


 取り敢えず、こめかみグリグリしてみた。全然、治らないけど。

「本当にすごいよねぇ。妃殿下に絡むおバカさん達で見慣れてるつもりだったけど、遥かに上を行くわ、あれは」

「感心しないでくれるかな」

「他にどうしろと」

「…………」

 いや、うん。俺が悪かった。



 **********



 そんな頭の痛い話を聞かされた日の夜。

 ちょっとした集まりに家族で招待されて来ております。俺の仕事関係の付き合いなんだけど、断れない筋からの打診でね、仕方なく来たんだよ。……表向きには、ね。

「物凄い注目の的になってますね」

 息子君が、感心したような呆れたような声色で呟いてます。俺もそう思うよ、あそこだけ空気違って見えるもん。


 会場中の視線を集めているのは、我が娘とその護衛。


 まあ、奥さんも一緒にいて、知り合いに挨拶して回ってるんだけどね。レティが連れてる護衛が超豪華なんだよ、これが。

 レティを真ん中にして右後方にエル、左後方にミサキ。

 なぜかこの場では仮面を外しているエル、女性にしては長身だし護衛騎士の制服着てるから完全に性別不明状態でお嬢さん方の視線を独占してるし、ミサキはミサキで珍しく聖騎士の制服着てるから否応なしに目立ちまくってるし。

 あ、ミサキはですね、毎日は無理だけど来れるときは来るって感じで協力してもらえることになりました。感謝!!

 しかしまあ、あの二人に挟まれて注目の的になってんのに、まったく動じた様子のない愛娘の神経の太さにもある意味感心するわ。下手に動揺するよりは、その方がいいんだけどさ。


 変なところで肝が据わってるんだよね、ウチの子。


「姉上たちがついてくれるのは、安心ですね」

 こちらは、心底ほっとした様子のシルヴァン。

 我が息子君、来週から王太子殿下にくっついてアルフェラッツヘ行くことになってんだよ。往復の移動含めて二週間ほど不在となる予定なので、その間のレティの護衛が心配で仕方なかったらしいです。

 アルフェラッツってのは、隣の大陸にある国のひとつで、ミサキが拠点を置いている国でもあります。なんでまあ、俺も何回も行ったことがある。

 ああ、今回あちらへ行く理由ですがね、なんでも王が病に倒れたままで復帰の見込みがつかないんで、王太子が正式に王位に就くんだと。その即位の儀に招待されているんだよ、我が国も。で、陛下の名代としてリオネル殿下が行くことになってて、それにシルヴァンもくっついて行くわけです。

 まあ、アルフェラッツの今の王様って碌でもない方向で有名だったし、さっさと優秀と評判の息子に継がせるのは正解だと思う。……なんかね、そこにいる暴走娘がその件に絡んでるような気がしてならないんだけど、気づかないふりが正解な気もするんだ。下手に突っ込むと面倒ごとに巻き込まれそうだし。お口チャック。

「まあ、あいつらなら何があろうと大丈夫だろうからな。しかし、私とシルヴァンとでこうも予定が被るとはなぁ」

 そうなんだよ。これが暴走娘どもにヘルプ要請出した理由なんだよ!

 まあ、シルヴァンの予定は仕方ないんだよ。同行することは半年以上前から決まっていたし。問題は俺だよ!

「父上の予定は、色々と腑に落ちないのですが」

「うん、私も納得はしていないよ」

 言われるまでもなく、納得するわけがないんだよ。

 まあ、転移門関係の事だから、俺が出なきゃいけないのはわかるよ。ただ、そこに転移門関係以外の事もかなり詰め込まれているのは悪意しか感じない。

 わかるよー、俺がレティに張り付いていると口説けないもんな! 人妻とはいえまだ十八歳になったばかりだ、甘い言葉で誘惑できると思ってるおバカさんは多いし、多少強引な手を使ってでもと考えてる連中がいるのも知ってるよ。

 ただ、俺も仕事が絡んでいる以上は無碍に断るわけにもいかなかった。なので、渋々ながら承諾はしたんだけどさ。

「夜は屋敷に戻れるとはいえ、日中はほぼ不在になるからねぇ」

「それだって、父上が色々と意見してやっと夜の会は免除になっただけではありませんか」

「うん。そうなんだけどね」

 ぷんすかしているシルヴァンに、俺はそう返した。


 息子よ、怒ってくれるのは嬉しいんだが、その怒り方はちょっと幼い時の姿と被るぞ。可愛いけどさ。


 こいつもねぇ、立派な青年に育ってくれたけど、たまーにこんな感じで可愛い反応返してくれるんだよね。だから余計に可愛いんだけどさ。

「まあ、その辺りのことを加味しての護衛依頼だ。一応、余裕をもって三十日間の契約を結んでいる。日中はあの二人に任せることになるよ」


 俺が張り付いているより、遥かに強固な守りになってるしな!


 企んだ連中は、俺さえ離せれば何とかなると考えたんだろうが、残念だったな。王族の護衛騎士として色々と鍛えられているエルを出し抜くのは至難の業だろし、万が一にもエルをやり過ごせたとしてもミサキがいる。下手に手を出そうものなら、間違いなく終了のお知らせだ。

「グラフィアス大公妃殿下の護衛騎士の証である、あの制服の意味を理解していない者は多そうですが……我々が関知することではありませんね」

「そういう事だ。自己責任で好きにすればいいさ」

 むしろ、好きなだけ突っかかれと思う。エルの制服はこの国ではまだ認知度も低いが、ミサキの聖騎士の制服は知らなかったらマズイ。

 二人には手加減無用と言ってあるし、いい感じに料理してくれると思うんだ。当然のことながら、こっちが不利になるような痕跡を残す連中じゃないし、その辺りの心配は全くしていない。むしろ、俺がやるより遥かにキレイに片づけてくれるだろうさ。なんつってもエルがいる。

「ルシアン」

 その声とともに近づいてきたのは、ミサキ。

 エルはと見ると、レティから着かず離れずの位置で周囲を監視している様子。さりげなーく辺りを見回しているけど、あれかなり周囲を事細かに観察してんなーと見てるだけでもわかる。ただまあ、そこはやっぱり慣れてるよね、動きに無駄がないし微塵の違和感もない。

「どうだ?」

「問題ない。メインの護衛はエルがやるし、私はオマケと言うか事が起こった場合の対処要員だな」

 すでに役割分担ができているらしい。

 まあ、メインの護衛がエルなのはある意味当然だよな。あいつ、あれでも大公妃の護衛騎士隊の中では守りに特化してるって言われてるらしいから。実力知ってるから、守りに特化ってわけじゃないだろと突っ込みたくなるけど。ミサキは間違いなく、攻撃特化。

「つーか、エルがすでに何人か目をつけてる。今のところは動く気配はないっつってっけど、監視体制には入ってるらしいぞ」

「早速かよ」


 マジか、もう目を付けたのいるのか。


 いやいや、やっぱりエルに頼んだのは正解だったな。要注意な連中、思っていた以上にレティの周りに入り込んでる。

「それと、もう一つ」

「ん?」

「エレーヌに秋波を送ってるのが何人かいるけど、どうす」

「即、排除で」

 食い気味に返答したら、呆れた目を向けられた。


 なんだよ、俺の反応なんてわかってる事だろ、今更だろその目はヤメロ!


「……そっちはエルからザックに情報流しとくそうだ」


 おお、ありがたい!


 うん、ザックに情報渡しといてくれれば、あいつが良い感じに対処するだろう。

 ザックもなぁ、すっかりエルに感化されて個人的に指導受けてるらしいんだよな。いつからそんなことになってたのかは聞いても教えてくれないからわからんけど、あの様子だと転移門できた直後くらいからなんじゃないだろうかと思ってる。ザックがエルと顔合わせたの、我が家に転移門が設置された時だし。

「で、レティはあの通り基本はエルが張り付く。私は少し距離を置いて周囲を見るって感じになる」

「ああ、その辺りは任せる」

「それと、エレーヌが知り合いに聞かれて私らの事は説明してたから。ある程度の牽制は出来てると思うぞ」

「了解。それでも手を出してくる連中の始末は任せても?」

「問題ない」

 俺とミサキがそんなことを話している間にも、奥さんと愛娘は挨拶して回ってる。たまーにエルが笑顔でレティになんか言ってるけど、大丈夫かなアレ。周囲のお嬢さん方がすごい顔してんだけど、そいつ女だからね? レティ睨んでもどうにもならんよ?

「シルヴァン、そろそろレティの傍へ。周囲への認識は十分だろう」

 ちょっと、レティが余計なヘイトを稼いでるようなので、いったんエルから引き離そうか。

「わかりました」

 息子君、素直に聞き入れてレティの元へ。……本当は傍に行きたくてうずうずしてたの気づいてるからね。表には出さないようにしていたみたいけど、俺の目はごまかせないよ。


 シルヴァンが傍に行ったことで、娘の笑顔が! 輝かんばかりの笑顔を振りまいてますよちょっと!

 

 あれ見たら、レティを口説き落とせるとか考えててるおバカさんたちも諦めてくれるんじゃないかと思ったんだが、その程度で諦めるなら最初から狙わないよな。

 そんなことを考えている間にも、入れ替わるようにしてエルが来ましたよ。

「お疲れ。どうだ?」

「護衛は問題ないよ。感情を隠せないおバカさんが多いから、わかりやすいしねぇ」

 にっこりしながらそんなセリフを口にするエルは、周りで聞き耳たててる連中がいるのわかってて言ってる。……頼むから、何もされていないうちから喧嘩売るような真似はしないでくれないかな。エル的にはさっさと手を出させて排除したいんだろうけど、何もしてこないなら別に放置でいいから。

「まあ、手は抜かないから安心して。妃殿下からも、くれぐれもと言われているからさ」

 いやもう、そこは本当に感謝だよ。

 レティ、去年の夏にアルマク行ったときに大公妃殿下に気に入られててさ。今回の件も、俺がエルに愚痴ってたら傍で聞いていたらしい妃殿下が、それならエルを貸してあげるわよと軽ーくおっしゃってくださった結果、この状況。

 ありがたいんだけど、本当にいいのかな? 王族の護衛騎士を個人的に借り受けるとか、ちょっと色々問題な気がしないでもないんだけど。今更だけどさ!

 俺の、そんな内心の葛藤はエルもお見通しらしい。

 くすっと笑うと口を開いた。

「前に言った通り、報酬は大公邸のキッチン改造を手伝ってくれればいいよ」

「いや、それだけと言うのも」

「大丈夫だって。前に作ってくれたピザ窯とか、あの辺りの道具は妃殿下大喜びだったからね」

「いや……あんなもので喜んでいただけるのなら、まあ」

 ピザ窯って、俺が個人的にピザ食いたくなって適当に作ったやつだからなぁ……まさかアレを妃殿下が見つけて同じもの欲しがるなんて思わなかったよ。エル経由で依頼が来たときはマジで驚いた。

「それに、こちらとしても全くの無関係ではないからね。こちら含めて完全な終了を見届けるまでは協力体制は維持する。私の派遣はその一環だよ」

 だから気にしなくていいよとエルは言うが。

 いやぁ、明らかにこっちが受ける恩恵の方がでかすぎる気がするんだけど……まあ、向こうはまだこれからだし、何かあったら俺が手を貸せばいいか。俺で役に立てる事があるかはわからんけど。

「あ~、その手伝い、私も駆り出されんだよな?」

「当然でしょ」

「当然なのかよ」

 何とも言えない顔でミサキが突っ込んでるが、まあ、俺が駆り出される時点でミサキも巻き込まれるのは決定だ。

 その後も少し話をして、義理は果たせたという事で早々に会場を後にした。……面倒くさくなったんだよ、エルとミサキに興味津々な連中が多くて! 


 二人とも美人さんだし、エルなんか特に黙って立ってれば完全に性別不明になるから、興味もたれんのは仕方ないとは思うんだよ! そこへ来て片方は魔法大国グラフィアスの騎士、もう片方は聖騎士なんてことになれば、色々な意味でお近づきになりたいと考える連中が湧くのも想定内だ!

 だがな! だからといって全部が全部、俺に仲介依頼すんな! 知り合いでもないどころか碌に面識もない連中に友人紹介するわけねーだろ、常識で考えろよ!!


 そんなことを思いつつ悶々と過ごして、やっとの思いで帰宅しました。マジ疲れた……!

 あ、エルとミサキは帰宅済みです。ミサキはエルが送っていくと言って消えた。……便利だよね、転移魔法。仕組みとかしくじった場合のリスク聞いたら使いたいとは思わないけど。


 何はともあれ、帰宅してただいま一息ついているところです。

 疲れた、マジ疲れた。一応、執務室へは来たけど、今日はもう仕事しない!

「はいはい、お疲れのところ申し訳ないですが、これだけは終わらせてください。拒否権なしです」

 ぐでーっとしてたら容赦なくザックが仕事持ってきやがったよ……!

 お前、マジで鬼だな。

「仕事したくないのはわかりましたから、さっさと終わらせてください。愚痴ってたってなくなりませんよ」


 本当に、容赦ない。


 仕方なしに執務机に移動して、ザックが持ってきた書類に目を通す。

 別に今日じゃなくたっていいだろって内容がほとんどだったが、まあコイツのことだからなんか理由があるんだろう。そう思って、内容を確認してサインしていく。

「はい、ありがとうございます。で、ここからは報告になりますが」

「報告?」

 何かあったのかと眉を顰めたら。

「今日の件で、エルさんから連絡が入りました。大半はすでにマーク済みの連中だったんですが、新規で二人ほどいたので、そいつらはいま探らせてます」


 マジか、もう動いてくれてたのか!


 さすが俺の出来る従者様、相変わらずの優秀っぷりです。エルの影響、モロ受けなのが若干怖くはあるんだが。

「それと、別件で。例のお嬢さんが王妃様にご招待を受けて、例の後宮もどきに出入りしているらしいです」

「? 出入りしているのは前からだよね?」

 常識が通用しない者同士、とても馬が合うらしく二人が度々面会していることは、後輩どもから聞いて知ってる。怪しげな魔道具を手に入れたらしいこともな。

 その魔道具が、前にレンブラントが言っていた、ゲームの中でレティが手に入れるはずのアイテムなんじゃないかと俺は考えている。本来であれば、それを使おうとしたレティを阻止して、ヒロインが攻略対象者との好感度を上げるってイベントが発生するって流れだったはずなんだが。

「ここ一週間、毎日です。おかしいっしょ、さすがに」

「毎日?」


 それは、確かにおかしい。

 

「見張らせてはいるんですが、王妃の私室にこもってコソコソやってるんで、探り切れないんすよ。ただまあ、よろしくない方向で何かやらかしてるでしょうね」

「面倒な」


 本当に、いい加減に諦めて大人しくしてろよバロー嬢!

 なんかもう、卒業まで待たないで引導渡してもいいのかな、その方が手っ取り早いよね。


 少々危ないように思考が傾きつつあるが、排除するのはまだ早い。ここまでゲームの流れから逸脱している以上、ヒロインを途中退場させた所で影響はないと思うが、万が一がある。俺が判断を誤ったことで家族に影響が出たら、後悔してもしきれない。

 あと半年だ、それまでは様子を見るのが正解だろうと思う。

「どうします? ただでさえ面倒なのがそろって意気投合しているんです、さすがに妨害工作ぐらいはしてもいいんじゃないですかね」

「そうしたいのはやまやまだがな」

 下手に手をだして、それがどこにどう影響を及ぼしてくるかがわからん。

 これがバロー嬢だけだったら、まだやりやすかったと思うんだ。しかし、王妃殿下が絡んでくるとなると話は別。あの人の人格や能力がどうであれ、現状は国母であることに変わりはないのだ。迂闊な真似はできない。

「取り合えず、バロー嬢の監視強化と、手に入れた魔道具の詳細が知りたい」

「了解です」

 出ていくザックの背中を見送りつつ。

 まだまだ、油断はできないなぁと溜め息をついた。



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