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41 レティによる魔法教室


 レティが前に言っていた友人たちに治療魔法の指導をすると言っていた件、本日開催されております。

 教える生徒は、前もって聞いていた二人だけ。ただし、魔法科の教師が数人、乱入してきやがった。見てるだけ、絶対に口は出さないと言うので許可したが……まあ、こうなるのは予想はしてたけどもうちょっと考えろよお前ら。言っても無駄だろうから言わないけどさ。

「ああっ、また失敗した! もう、なんでこんなに難しいのぉ」

 一人が早くも音を上げております。

「慌てないで、ゆっくり。もう一度、やって見せるね」

 そう言いながら、一人の手を取って治療魔法を発動させてる。

 いやぁ、我が娘ながらすごいね。なんかもう、自然に治療魔法使ってるもん。こうしてレティの成長ぶりを目の前で見れるのも、なかなか良いです。

「レティちゃん、術式のここ、これを発動させようとすると、どうしてもブレるの。安定させるいい方法はないかな?」

「どこ? ……ああ、そこね。だったら、コレの前にここをこうしてみて」

「え? こんなの組み込んで大丈夫?」

「うん」

「えーと……こう? ……あ、本当だ! スっと発動出来た!」

「ちょっと手間だけど、慣れるまではこれを組み込んでみて。魔力操作がもう少し上がれば、これもいらなくなると思うわ」

「こんな方法もあるのね、ありがとう!」

 うん、一人はうまくいったみたいだね。レティに教えてもらった通りの手順で、難なく成功している。

 さあレティ、隣で眉間に皺を寄せてる子はどういったアドバイスをするのかな?

「どう?」

「うん、ここがね。頭ではわかっているんだけれど、どうしてもうまくいかなくて」

「やってみてくれる?」

「うん……」

 もう一人が慎重に魔法を発動させている。

 淡い光は一定の時間を経過すると、ぱっと消えてしまった。何がどうしてそうなるのかはわからんが、術式がうまく繋がらないんだろうね。本人は原因がわかっていてもうまく対処できなくて悩んでいるってことかな。

「えーと……あ、そうだ。あのね、ここ。この部分あるでしょ」

「うん」

「ここをね、こうするの」

「え、そこを入れ替えちゃうの?」

「これね、私も教えて頂いて知ったのだけれど、どっちが先でも問題ないんですって」

「え、そうなの!?」

「私もね、順番を変えたりしたらダメだって思っていたから、教えて頂いた時は驚いたわ。でも、この方がここの流れを理解しやすいと思う」

「やってみる」

 再び、慎重に魔法を発動させる。

 今度は途中で消えることなく、最後はふわっと優しい光を放って消えた。うん、なかなか優秀な指導っぷりですな、ウチの子。

「出来た! 出来たよ、ありがとうレティ!」

 三人できゃいきゃい言いながら大喜びしている様は、なんとも微笑ましい。それまで出来なかったことが適切なアドバイスを得たことで出来るようになったのも嬉しいだろうし、自分が教えたことで出来るようになった瞬間も嬉しいだろう。

 楽しそうに議論しながらいろいろと試している娘たちを見ていると、部屋を貸す決断をしてよかったなって思える。レティもイキイキしているしね。……部屋の端で目を爛々とさせながら見学している教師陣がいなかったら、もっと良かったんだけどな!


 しかしまあ、わかっちゃいたけど、ウチの子ってやっぱり優秀だよね。

 普段はね、一緒にいることの多いシルヴァンが優秀すぎるもんだから目立たないってのもあるんだけど、レティもなかなかにハイスペックなのですよ。これもシルヴァンにふさわしい淑女になるんだ! と言って幼少期から頑張ってきた成果です。ウチの子たちは本当にそろって頑張り屋さん!

 そんな感じで親バカ全開させつつ見守っていると、隣で同じように見ていたシルヴァンがこっちを見た。


 うん? どうした、息子よ。眉間に皺が寄ってるぞ。


「少々、騒がしい気がするのですが」

 小声で、ぼそっと。

 ああ、気づいちゃったか。うん、間違いなく例のおバカさんが騒いでいるんだと思うよ。ただ、本日はここ職員棟はある意味厳戒態勢中。

 実はね、レティの指導で将来有望な治療師の卵が誕生するかもって期待を膨らませた団長からの提案で、非番の後輩どもが数名、警備を買って出てくれてます。こいつらには俺が後で個別指導することになってて、それを餌に募集かけたらあっという間に集まったらしい。……いやちょっと待って、なにそれ俺は何も聞いてないよ?

 後輩どもが来た時に笑顔で俺にそれを告げてきたことで発覚した事実。


 団長!! なにしてくれんだあんたは、せめて俺の承諾とってからにしろ!!!


 本当に、相変わらずな団長には頭痛を覚えるが、こうして警備を手配してくれたことは正直に言ってかなり有り難い。それに、後輩どももその条件で来ちまってるんだから仕方ないっちゃ仕方ない。こうして手を借りている以上、今更反故にはできんしな。……絶対に、団長が独断で決めたって事をわかってて来てるんだよ、あいつらは。お望み通り後でたっぷりしごいてやろうじゃないか、覚悟しとけよ。

「先輩方がいらしてくれたのでこの部屋へ来ることは出来ないでしょうけれど、やはり来ましたね」

「まあ、予想通りではあるけどなぁ」

 呆れた様子のシルヴァンに、俺も頷く。

 ザックからの事前情報通り、自分も友人たちに指導するからこの部屋を使わせろと教師に掛け合ったらしいよ。詳しいことは聞いてないけど、一応教師は教室や自習用のスペースでやれって言ってくれたんだって。納得しなくて、その後もかなりごねたと聞いているが。

「そもそも、広範囲の攻撃魔法を得意としているらしいのに、屋内の決して広くもない部屋で何を教えるつもりなのでしょうか」

「うん、そこは疑問だねぇ」

 シルヴァンの疑問は最もです。治療とか人にかける系の魔法って全体的に精密な魔力制御が必要になるんだけど、それは苦手らしいんだわバロー嬢って。今、レティに指導を受けている二人も、この学園の中では魔力制御能力はかなり優秀だと聞いている。ただまあ、その点に関しては、レティはちょっと次元が違うんだよ、マジで。何と言ってもミサキを唸らせたくらいだからさ。

「そもそも、レティがこの部屋の使用許可を私に求めた理由を理解できない事が、理解できん」

 この辺りは教師からも説明してるはずなんだけどね。まあ、レティがって時点で何をどう説明されたところで納得はできないんだろうけど。

「すべてを自分の都合のいいように解釈するのが常なようです。我々とは別次元の生物ではないかと」

 なかなかに辛辣です、息子君。

 ディオンに続いてシルヴァンまでも、バロー嬢を謎の生き物認定しちゃったっぽいんだけど、どうしよう。いや、気持ちはわかるよ。わかるんだけどさ。

「ディオンからも聞いていますが、レティを目の敵にしているのは相変わらずなようですね。今回の件にしても教師陣に差別だなんだと抗議していたそうですよ。治療魔法が使えるくらいで特別扱いするなと訴えていたらしく、ずいぶんと長い時間わめいていたそうです」


 ああ、声色に棘がありまくりだよかなりイラついてるなこれ。


 可愛い可愛い溺愛する奥様に悪意を向けられまくって、腹立たしいのはわかる。俺もエレーヌに同じことやられたら間違いなくブチ切れるだろうし。

 ただねぇ……バロー嬢の治療魔法に関する認識って、どうなってんだろうね? ただでさえ稀少なのに、その使い手を軽視する発言はちょっとどうなのよ。特別扱いするなって、権力とかに無縁な平民出身の使い手なんて、国が率先して手厚く保護するくらいなんだよ。ましてレティみたいに上級の治療魔法まで使えるようになる存在なんて本当に稀なんだから、特別扱いはある意味当たり前だと思うんだけど。

 相変わらず、常識の欠片もねーんだなぁとしみじみ思っていると。

「私のことがあるにしても、ずいぶんとレティに対しては攻撃的ですよね。前からひどくはありましたが、この所それがエスカレートしているように思えます」

 と、シルヴァン。

 まあ、そうだね。でもね、そこに明確な理由なんてないと思うよ。

「気に入らないだけだと思うぞ。バロー嬢の中ではレティは見下すべき相手みたいだからねぇ」

 あくまでゲームにこだわっているらしいバロー嬢には、今の状況は許しがたいんだろう。ヒロインであるはずの自分が、悪役令嬢であるはずのレティに勝てるモノがほとんどないってのは。

 確かゲームであればこの時期のレティは婚約者との仲はすでに険悪、上手に隠していた本性も少しづつ綻びが出ていて、周囲からは距離を置かれ始めている頃だ。対してヒロインは攻略が順調に進んでいれば、色々と進展がある時期。確か最難関のシルヴァンルートでも、うまくいってれば今くらいの時期にルートが確定するとか言ってた気がする。


 ああ、だから今まで以上に必死なのか。


 そう考えるとここ最近のバロー嬢の行動に、納得できなくはない。

 しかし、ルート確定のこの時期に今の状況では、もう巻き返すことなど不可能だと思うんだが。それでも諦めていないのはなぜなんだろうか? まだ何か手が残ってるってことか?

 俺は自分でプレイしてたわけじゃないから、その辺りは全くわからん。用心するに越したことはないんだけど、基本的には今まで通りに対処するだけだけだな。

「それは、自分が物語のヒロインだと考えている影響でしょうか」

「それもあるだろうが、元々の性格もあるんじゃないかな。あくまで自分が全ての中心にいて、その周りで様々な事が起こり、それは自分にとって都合よく進まなければいけない事だと考えている節がある。……許しがたいんだと思うぞ、今の自分が置かれている状況は」

 憎まれるべき悪役令嬢は夫に愛され友人たちにも恵まれ、貴重な治療師としての能力も開花させて、いまや注目の的だ。バロー嬢からしたら、その状況にいるのは自分だったはずなのに、なぜ悪役令嬢がって感じなんだろうさ。

 つーか、普段の言動見てたら、どう考えても悪役令嬢はバロー嬢だよなぁと思っていると。

「アレがレティを見下せる要素など皆無ですが。学業も魔法もレティの足元にも及ばない分際で」


 ぼそっと呟いたシルヴァンの声が低い事!


 お怒りはごもっともです。レティの頑張りを見てきている身としては、あんな馬鹿に侮られるのは許しがたい。

 学業の方は、ねぇ……バロー嬢も一年の時はそこそこ成績良かったらしいのよ。だけど、二年目に入った辺りから徐々に下がり始めて、今は中の中辺りをキープしている状態らしい。まあ、悪い成績ではないけれど、学年で三十位以内をキープしているうちの娘とは比べるまでもない。

 魔法の方も、入学当初は期待されていたんだよ? でも、いつまでたっても制御の方が上達しなくて、こちらも成績は下降気味だと聞いている。レティは言わずもがな。

 この状態で、どうしてウチの娘を見下せると思ってんのかが本当に理解に苦しむ。現実を見ろ、頼むから。

「お父さま」

 シルヴァンとそんなことを小声でぼそぼそ話していたら。娘がこっちを見ている。

「なんだい?」

「あのね、あと何回かこうしてお部屋をお借り出来ないかしら。今日だけでもだいぶ進んだのだけれど、二人とも、もう少し色々と出来そうなの。それを見てからミサキお姉さまに相談してみようかと思って」


 おや、意外に才能あるってことかな。


「構わないよ。日程はそちらのお嬢さん二人と相談して決めなさい。仮に私の都合が合わなくても、シルヴァンが立ち会えば問題はないからね」

「ありがとう、お父さま! シルヴァン、お願いね」

「私は予定を合わせられるから、いつでも大丈夫だ」

「うん、ありがとう」

 嬉しそうな笑顔が可愛いです、我が娘。シルヴァンも蕩けるような笑顔をレティに向けているので、モロに見てしまったんだろう二人が赤面しているよ。


 うんうん、シルヴァンの笑顔なんて激レアだからね。見惚れるのは仕方ないけど惚れちゃダメだよ、その子はレティのだからね。


 普段は無表情と言われることが多いシルヴァンだけど、レティが傍にいる時はかなり印象が変わるからねぇ……レティ以外に愛想を振りまくことはないんだが、こんな感じで笑顔をうっかり見ちゃったお嬢さんに惚れられるなんてことは割とよくある事なので、お父さんはちょっと心配だよ。

「あ、あのっ」

 そんなことを考えていたら、一人が声をかけてきたよ。

「なにかな?」

「あ、あの、グランジェ伯爵様、今日はありがとうございました! 私、治療魔法の勉強をしたくて学園に入ったんですが、思ったように勉強できなくて……もう治療師になるのは無理かもって思ってた時に、レティちゃんが声をかけてくれたんです。こうして学ぶ機会を与えてくださって、本当に感謝してます!」

「ああ、気にしないでいい。今回の件は娘が言い出した事、私は同席しているだけだからね」

 揃って頭を下げられて、ちょっと焦った。

 君たちが治療師として認められるだけの知識と技術を身に着ければ、今後レティにかかってくるだろう負担を減らせるって下心あっての事だから、礼を言われるのはちょっと心苦しい。


 でもまあ、恩を感じてくれるならレティの負担が減るようにガンバってくれ、期待してるから!


 その後もしばらく、楽しそうにわいわいしながら色々と試していましたよ、二人とも。レティが教えるのが上手ってのもあるんだろうけど、治療系の魔法、いくつか習得してた。うん、この二人ならってレティの考えは正しかったようです。

 その後、誰かさんが騒いでいた件でちらっと報告に来ていた後輩に二人が将来有望だと言っておいた。これで間違いなく団長に伝わるだろうし、そうなれば国が動くことになるだろう。妙な横やり入れられる前に国で保護して、クルキスで資格取った方が安全だからね。


 あ、後輩どもですが。

 終了後に全員ウチに連れて行って、希望通り動けなくなるまでみっちりしごいてやりましたとも。……ちょーっとやりすぎた感はあるけどまあ、希望したのはあいつらだし。おかげで泊める事にはなったが、翌日には実にいい笑顔でまたお願いしますとか抜かしやがった。


 本当に、俺の後輩どもはドM集団なんじゃないだろうか。大丈夫かな、コイツラ。



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