39 レティの実力が知れ渡る
夏休み目前のこの日。
学園からの連絡で、俺は慌ててレティを迎えに来てます。
何事かと思って駆け付けたら、レティは教師や生徒から感謝されまくってテレテレしてた。レティ、今日は大活躍だったそうです。
なんでも騎士科で、夏休み前の最後の実践訓練中に魔道具の一つが暴発、ケガ人の山となったそうだ。中には傷が深く、治っても騎士となるのは絶望的な状態の生徒もいたらしく、聞きつけたレティはその場で後遺症が心配されるようなケガを負っている生徒から治していったらしい。
最終的には重傷者はレティがすべて治し、軽傷だった生徒は学園の常駐している医師や、魔法科に所属している治療魔法を使える生徒が数人いたので、協力して治療にあたったとのこと。
おかげで騎士としての未来を絶たれることもなくなったと感謝され、教師陣からもレティをはじめとする魔法科の生徒たちに感謝を伝えられ、救えたことをみんなで喜んでいたそうだ。
「でね、ジゼルとヨシュアがすごいねって言ってくれたの! ここまで出来るようになるには、並大抵の努力じゃなかったでしょって言ってくれて」
今は自宅へ向かう馬車の中。さっきから嬉しそうに愛娘が報告してくれていますよ。
ジゼルとヨシュアというのは、二人とも騎士科の生徒。双子らしいんだが、共に暴発した魔道具の一番近くにいたらしく、かなりの重傷だったそうだ。出血もかなり酷くて、このままだと危ないと現場は焦っていたそうなんだが、駆け付けたレティが痕跡も残さずに綺麗に治してしまったとのこと。
驚かれたが、それ以上に感謝してくれたとさっきから嬉しそうだ。いろいろと話をしているうちに仲良くなったんだってさ。
「あとね、アンとベルリナとね、今度治療魔法の練習をしようねって約束したの! 今日ね、一緒にガンバったのよ。二人とも初級しか使えないって言ってたけど、練習すれば中級までは使えるようになりそうなの!」
うんうん、嬉しかったんだね。
わかったから少し落ち着きなさいね、いい子だから。
多分ね、初めてそんな修羅場的な場面に遭遇したから、自分が学んできたことがみんなの助けとなれたから、今はまだ興奮しているから大丈夫なんだと思うんだ。これ、興奮から冷めてさっきの惨状を思い出した時が怖い。場合によってはトラウマになりかねない。
取り合えず、シルヴァンには連絡したのですぐに帰ってくるだろう。まあ、レティもグランジェの直系だ、大丈夫だろうとは思うけれど。
「そうなんだね。見込みがありそうならミサキに確認してもらうのもいいかもしれないね。そのあたりの見極めはできそうかな?」
「はい、出来ます」
おおっ、きっぱり言い切ったぞ!
レティもすでに治療師としての認定を受けて二年くらい経ってるからね。見込みのありそうな卵を見つけ出すのも、治療師たちにとっては大切なお仕事の一環だ。場合によっては神聖国の保護対象になるだろうし。
「今まで魔法科の人たちとは接触を避けていたけれど、仲良くなれたのは嬉しい。やっぱりね、専門に学んでいる人たちの意見ってね、私とは視点が違うから気づかされることも多かったの」
まあ、レティと魔法科の学生じゃ基礎が違うだろうしねぇ。
治療系がメインとはいえ、レティがミサキから学んでいる内容って、この学園の魔法科を卒業した後に学ぶような専門知識。レティは基礎となる部分をすっ飛ばして、いきなりハイレベルな内容を叩き込まれたようなもんだから、一般的な基礎知識が不足していたりすることがある。この辺りはミサキの匙加減だから何とも言えないが、基本すっ飛ばしていいのかなーと俺はちょっと心配。大丈夫なのかもしれないけどさ、やっぱり基礎知識って大事じゃん。
そんな状態だから、魔法科の生徒と話をするのは面白かったのかもしれないけど。
「ね、お父さま」
「うん?」
「私ね、お姉さまたちから色々と教えていただいているでしょう? あれって、とっても特殊なことを教わっていたのね」
え、今? 今気づいたの?
ちょっとちょっとレティ、あれだけ専門知識を詰め込まれてるのに、今まで疑問に思わなかったの? 今更だけどこの子大丈夫かなズレてない?
「今までは覚えるだけも一杯一杯だったから、それがどの程度のことなのかまでは考えてもいなかったけれど。私、とても恵まれた環境で教えてもらっていたのね」
まあ、恵まれた環境といえば、確かにそうだろうさ。
片や聖女の妹で一番弟子ともいえるミサキ、片や魔法大国グラフィアスでも最強の魔導師と謳われているエルヴィラ。
普通に考えれば、この二人に師事する事などあり得ないだろう。二人とも立場も環境も特殊だ、余計なトラブルを防ぐ意味でも、必要以上に部外者との接触はしない。レティが師事できたのは、ただ単に俺の存在があったからに過ぎない。
「私の周りって、本当にすごい人たちがいるんだなって、今回の件で改めて思ったの。それを当たり前と思っていた自分がちょっと恥ずかしくて……こんなに恵まれた環境にあって、学べる環境もあるのだから、それを無駄にするようなことをしていてはダメなのよね」
「……確かに恵まれた環境だったかもしれない。でもね、レティが今まで真剣に学んできたことは、みんなわかっているよ。学ぶ気のない者に教えるような連中でもないからね」
なでなでしながらそう言ったら、なぜかふくれっ面。え、なんで?
「私からお願いして教えていただいているのだもの。真剣に学ぶなんて、当たり前だわ」
それはそうなんだけど……なんだ? 恵まれた環境を当たり前と思っていた自分が許せないのかね。
「うん、そうだね。すべての人が恵まれた環境で学べるわけではないし、差があるのは仕方のないことだ。レティは恵まれた環境で、与えられた機会を有効に活用している。その姿勢を忘れなければいいんじゃないかな」
「……前にね、ずるいって言われた事があるの」
ああ、なるほどね。
納得した。
確かに、そういった機会に恵まれない連中から見れば、レティの環境はうらやましいを通り越しているだろう。でも、だからと言ってそれをレティにぶつけたところでどうなるわけでもない。身分や暮らしに差があるように、学ぶ環境も差があるのは仕方のないことだ。
「ずるいと言われて、レティはどう思った?」
「その時は、なにがずるいのかわからなくて……自分がどれ程に恵まれた環境にいるのか、考えたこともなかったわ。今日ね、二人と話をしていて、初めて自覚したの。確かに、ずるいって言われても仕方のない環境なのかなって」
「それで?」
「環境は、私にはどうすることもできないもの。ずるいって言われても、私は学ぶことを止めたくはないの。だから、そんなの跳ね返せるくらい、誰にも文句なんか言われないくらい頑張るわ」
はっきりきっぱり、レティが言い切った。
うんうん、頑張り屋さんだね、本当に。頑張るのはいいけど、頑張りすぎないかちょっと心配だよ、お父さんは。
レティは現状でも、かなり頑張ってる。俺から見てもあの二人の指導は決して楽なものではないし、それに食らいついて貪欲なまでに学ぼうとする姿勢は、誰にでもできることではないだろう。根性あるねぇ、ウチの子は。
「しっかりと目標をもっているならいい。でも、何事も適度に、だよ。苦しくなりすぎないように気をつけなさい」
「大丈夫よ。厳しい言葉を受けることもあるけれど、それだって私の為に言ってくれているんだもの。私からお願いして教えていただいているのだから、お姉さまたちの行為を無駄にするようなことはしないわ」
ああ、本当に日々成長しているんだね、この子は。
可愛い可愛い愛娘。
何時までも自分の庇護下に置いておきたい気もするけれど、それでは娘の成長を妨げることになる。だんだんと手が離れていくのは寂しいが、それを見守るのも親の役目なんだろうな。
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さてさて、最後の最後にドタバタがあったものの、レティにとって学生生活最後の夏季休暇となりましたよ!
今年は二週間ほどシルヴァンと一緒にクルキスへ行くことになっているので、ただいまその準備に余念がありません。そして、今回も聖女様の所に滞在させていただけることになっているので、俺からもお土産たくさん持たせるつもり。こういう時、異空間バックって本当に便利だよね。
今回の日程は、明日の午前中にウチの転移門でミサキの店まで行き、そこからはミサキの飛竜で移動予定。到着後、数日置いてから目的を果たすことになってる。
「しっかし……クルキスまで数時間で行けるんだもんなぁ」
ちょっと前まで、ミサキの店まで往復五日かけて行ってたのが嘘みたいだよ。
通常ルートだと、クルキスまでは最短でも一週間はかかる距離。海超えなきゃいけないからね、天候や海流次第でもっとかかる事だって珍しくない。それをわずか数時間で行けるので、レティは向うでも時間が許す限り学んでくる気満々です。勉強熱心なのはいいんだけど、少しは遊んできなさいね。シルヴァン頼んだよ、適度に気分転換させてね!
そうそう、今回レティがクルキスへ行く目的はですね、春に上級治療師としての試験に受かったんで、その認定式に出る為です。これが終われば、正式に上級治療師として認定されるので、我が国出身者では初。周囲の期待は大きいのですよ。
まあ、俺としては羽を伸ばす意味でもゆっくりしておいでと言っておいた。認定式関係なんて三日もあれば終わるし、後の時間はシルヴァンとゆっくりしておいで!
「お父さま、いま大丈夫ですか?」
ノックに応えると扉が開いて、隙間からちょこっと顔を見せる愛娘。準備で忙しいはずなのに、どうしたのかな?
「大丈夫だよ。何かあったのかい?」
尋ねると、娘は部屋に入って来て俺の正面に立つ。
「あのね、お父さまにお願いがあるのだけれど」
「お願い?」
何だろうかと思いつつ聞き返すと。
「今回、試験に受かったら、近衛騎士団の後方支援部隊の入団試験を受けたいの。ほら、支援部隊の試験って、秋から募集が始まるでしょう? でもね、何をどう勉強すればいいのかわからなくて。お父さまに教えてもらえないかなって」
ちょっと、もじもじしながらお願いしてくる娘が無茶苦茶可愛いんですけど!!
そんなことくらい、いくらでも協力するよ!
「お忙しいのはわかってるけど、お父さまならご存じかなって思ったの」
「まあ、騎士科に通っていないと、その辺りは知る機会もないだろうからね」
騎士科なら、その辺りって基礎知識の一環として習うことになるんだけど、普通科に通ってたらその機会はない。そもそも、騎士団入りを狙っていたら、最初から騎士科に行くのが当たり前だからさ。つーか、支援部隊だと魔法科でも習うか。
「わかった。では、クルキスから戻ってきたら詳しい話をしようか」
「ありがとう、お父さま!」
満面の笑みを浮かべてお礼言ってくれたよ!
任せなさい、レティがクルキスへ行っている間に近衛に突撃して事細かに確認して来るからね!
いや、ほら。近衛騎士の登用試験なんて、基本的には後方部隊だろうとそう変わらないんだけど、まるっきり同じではないからさ。俺でもわからないことはあるんで、確認はしておかないとね。じゃないと、レティの事だから直接聞きに行きかねない。ダメだよレティ、まだ王宮には近づいちゃダメだからね。怖いおばさんいるから絶対にダメだよ。
そんな事を思いつつも、まだ準備が残っているというレティを見送り仕事を再開。
一応、ちゃんとお仕事はしてますよ? 領地関係の収支報告とか、義両親から頻繁に届くし。やる事結構あるんだよ、これでも。ちなみにグランジェ家の領地、海に面しているから海産物の宝庫です。年間通して比較的温暖な土地柄だから、果物の栽培なんかも盛んだし、領地面積の割には収入が多かったりする。こういった事もあるから、余計にウチと縁を繋ぎたい連中が多いんだけどね。
確認作業をさくさく進め、取り敢えずは本日のノルマ分は終了。
……終了したのに、ザックが追加で仕事もってきやがった。お前、こんなの別に今日じゃなくてもいいだろうが!
「今日中です」
はっきりきっぱり言いやがったよ。
ぶちぶち言いつつも、大した量はなかったんでほどなく終了。
「さっさとやれば終わるんだから、一々文句言わんでください」
「終わったと思ったところに追加で持ってこられたんだぞ」
「後で持ってくるよりマシでしょう」
そう言いつつ、さくっと書類を纏めて片付ける。一緒に来ていた執事見習いに渡すと、心得顔で一礼し、退出した。
「で、本題は?」
ザックを促すと、懐から何やら取り出し、テーブルに広げ始めた。
見た感じ、どこぞの見取り図のようだが……あれ。もしかして、これ。
「学園の見取り図?」
「そうです」
なんでこんなものが?
見た所、魔法科を中心に書いてある見取り図な気がする。
「例のぶっ飛んだお嬢さんが持っていたモノですよ。ちょっと失敬してきました」
「おおいっ!?」
お前なに堂々と盗んできました発言かましてんの!?
「別に捕まるような事はしてませんって。落したのを、そのまま拝借してきただけです」
「それはそれで問題だろうが」
落とし主わかってんのに、そのまま持ってくるってなんだよ。まあ、相手がバロー嬢じゃなかったら、コイツの事だから返しただろうが。
「それは後で。これ、丸がついてるの、お嬢の教室です」
指さしつつザックが言う。
もう、これだけでも十分に不穏だよな。
「旦那が使ってる部屋がここ。で、所々に数字が入ってるでしょ」
「ああ」
教室だったり空き部屋だったり、実習室だったり屋上だったり。
なんとなくわかる。これ、たぶんイベントが起こる場所と学年だ。こうしてみると、数字で三と書き込んでいる場所、何か所かあるのがわかるな。しかも、場所に統一性の欠片もない!
「……数字の横に○×がついてるな」
これは多分、狙っていたイベントが起きたかどうかって事なんだろうな。
「ですね。一は全体の三分の二程度ですが、二は半数以下。三は大半がまだついてない所を見ると、これからって事ですかね」
「数字は学年だろうね」
「じゃないですかね。○×が何を意味するのかは分かりませんが」
「ん~……」
見取り図を見ながら考える。〇×はイベントが起きたか起きなかったか、じゃないかな。
こうしてみるとバロー嬢が相当にゲームをやり込んでいたのが容易に想像できる。ここまで事細かに覚えているなんて、もしかしなくても全ルート攻略してんだろうな。
まあ、取り敢えずはイベント回避の方向で考えなくては。幸いにもこれで場所は分かったわけで、○×のついていない箇所は徹底的に避けるようにすればいい。レティとシルヴァンには共有しておかないとだな。
「ザック、これ写し作って」
「これが写しです」
おお、マジか。
「原本は?」
「気づかれないように、あのお嬢さんの持ち物に挟んでおきました」
さすがだ。
ちゃんと対策はしてたらしい。俺への態度とか色々と問題な所はあるが、出来る従者様であることには変わりないからな。コイツ。
「取り敢えず、この数字が書き込まれている場所へ近づかないように言っておいた方が良さそうだ」
「ですねぇ。幸いにも魔法科の学舎に偏ってるんで、お嬢が行く事なんざないとは思いたいですが」
「あるとしても、魔法の実技で行くくらいだろ。単独で行くことはないし」
「いまは、でしょ。お嬢がクルキスでの試験パスしたら、そうも言ってられないんじゃ?」
「あっ」
呆れ顔でザックに突っ込まれたよ。いかん、その可能性を忘れてたわ。
レティが無事に試験をパスすれば、間違いなく国内トップクラスの治療師の誕生だ。学園側が放置するわけがない。
「あ~……ダメだ、嫌な予感しかしない。学園長に釘さしとくか」
多分、レティが生徒だって事を忘れて全力で教えを乞うてきそうな気がする。魔法科の教師ども。
「是非ともそうしてください。少なくとも在学中の生徒に教える側になれとか無茶苦茶なこと言わないように。じゃないと、若の二の舞になりますよ」
「それだけは何が何でも阻止する」
在学中、あまりにも多方面で優秀過ぎて、二年という期限つきながら学園に臨時講師として残ることになったシルヴァン。まあ、俺としては、進路を迷っていたあの子に少し考える時間を作ってあげたくて、気になるならやってみればって言ったんだけどね。最終的に引き受けると判断したのはあの子だけど、学園側からの勧誘が凄かったのは事実だ。本当は、そのままなし崩し的に教師として収まってくれないかと考えていたんだろうが、シルヴァンはさっさと目標を見つけてそっちに舵を切ったからね。
シルヴァンは自分でバシッと断れるから俺も自由にさせていたけど、レティは困ってるんですお願いします的な頼まれ方をされたら迷う可能性もあるので、最初っから可能性は潰しておかないとだ。目標決まってるから大丈夫だと思うけどさ。
「まあ、お嬢も結構頑固ですからね。大丈夫だとは思いますけど」
「頑固って」
否定できないけど。
「頑固でしょうよ。こうと決めたら頑として譲らないところなんて奥様そっくりじゃないですか」
ああ……いや、うん。否定はできないよ、それを言われると。レティは奥さんそっくりだし。
奥さんもねぇ、見た目のふわふわ系からは想像もつかないくらいの頑固者です。まあ、そんなところも可愛いんだけどさ。普段は俺を立ててくれる良妻賢母だけど、譲らない時は本当に無理。俺も怖くて逆らえない。
でもまあ、いまはそんな事はいいんだよ。
「バロー嬢も何を言い出すかわからんな」
ゲームなら聖属性の適性を持つのはヒロインだ。実際には逆だけどさ、そこを付いて言いがかりつけてきそうじゃん。言われたところでレティはきょとんとするだけだろうけど。あの子、自分には理解不能な相手だと判断すると、意思疎通を諦めるから。ある意味正しい接し方なのかもしれないけど、見てる方はちょっとハラハラする。だってレティ、受け答えを一切しなくなるんだもん! あ、別に無視しようとかじゃないんだよ。ただ、どう答えても見当違いの解釈しかされないんだろうなってわかるみたいで、言われるがままになっているというか。
「あのぶっ飛んだお嬢さんのことですからね。ところで、旦那」
「ん?」
「これ。この場所」
ザックが地図を指でトントン叩く。
そこは、三の数字が書き込まれていて、その横には〇、そして成果×と付け足されていた。……ん? この場所って。
「この前、お嬢が大活躍することになった件。ここでしたよね」
「……マジか」
あれ、イベントだったのか!
うわ、あんなえげつないイベントあったの? 下手すりゃ死人出ていてもおかしくなかったほどの大惨事だったのに!
つーか、バロー嬢何考えてんだよ、わかってたんなら阻止しろよ!
あああ、ダメだイライラしてきた。マジで自分のことしか考えてねーんだな、あいつ。わかってたけど。
「恐らく、ですが。あのお嬢さん、何が起こるかわかってたんじゃないですかね」
「これを見た限りでは、その可能性は高いだろうね」
「という事は、三と書き込まれていて〇も×もない所は、これから何か起こるってことになります」
「だろうね」
「……許可をもらえれば、探り入れてきますよ」
ザックからの申し出に、ちょっと考える。
現状、どんなイベントがどんなタイミングで起こるのか俺にはわからない。いま探ったところですべて無駄に終わる可能性も高い。
だが、前回のような何か原因があって惨事が起こる可能性があるのだとすれば、事前に手を打つことで防ぐことも可能になるだろう。
「取り敢えず、数字以外に何も書き込まれていない箇所は一通り確認しておいてくれ。何かわかればすぐに報告を」
「了解です。手配してきます」
さっさと出ていくザックを見送りつつ考える。
イベントの大半は、攻略対象もしくはキーとなる人物との会話とか、その程度の事だろうと思う。だが。
「……事前に手を打てるものは打っておくべきだな」
小さな芽だと思っていたものが、後々問題になる事だってある。
潰せるものは潰しておくべくだろう。
無事にゲーム終了を迎える為にも。




