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38 イベント(?)ひとつ、潰します

誤字報告ありがとうございます!


 最終学年、一学期目がそろそろ終わる。

 残り一年を切っている割には、比較的、平穏に過ぎたかな。

 ……いや、細かい事は色々とあったよ? ただまあ、今までほどじゃなかったしヒロインも他の攻略対象者との仲を深める方を重視していたようでシルヴァンにもそれほど絡まなかった。つーか、シルヴァンに関しては絡めなかったと言う方が正解か。なんと言っても魔法科の生徒は特に、俺とシルヴァンが共同で使っている部屋というか職員棟の二階は立ち入り禁止。騎士科は許可制となっていたので、どうする事も出来なかったんだと思う。唯一、制限がないというか緩いのが普通科だけど、その時点で在学していた攻略対象の中で普通科に通ってたのってディオンだけだったんだよな。でもまあ、ディオンは相変わらずのヒロイン怖いな状態だったし、そのディオンを攻略できていなかったんだからどうすることも出来なかっただろうよ。


 そうなると、攻略対象者以外の手駒を使うしかないんだが。


 あのヒロインが手中にしている取り巻き共、騎士科と魔法科にしかいないんだ。普通科でそう言った連中が出なかったのは、シルヴァンに無理矢理絡もうとして醜態見せつけまくってたから、みんなドン引きだったと言うのが大きい。


 あれ見て仲良くなりたいって思う猛者もそういないだろうしなぁ……


 確かに見た目は美少女だ。それは認める。だが、性格は決してよろしくない。

 唯一利用できそうなディオンも、ヒロインは頑張って親密度をあげようとしてたらしいんだ。しかし当のディオンが気持ち悪いと言って会わないように気を付けていたので、どうにもできなかったみたいだけど。

「その結果、今になって科の移動希望ねぇ……」

 相変わらずの常識しらずだが、もはやなんとも思わなくなってきた。慣れってコワイ。

 三年目も始まってすでに三か月が過ぎているこの時期、いまは夏季休暇に向けて色々と追い込みの真っ最中。特に三年生は希望する職場を絞り込む大事な時期だ。にもかかわらず、こんなことを言い出したってことは。

「焦ってんだろうなぁ」

 もう、それしか理由はないと思う。

 恐らく、ではあるけれど。

 二年の時は、それなりに進められていたんだと思う。ゲームの設定上では、シルヴァンは会えたらラッキーって感じの神出鬼没で、基本的にはシルヴァン側からの接触を待つ感じだった。その出没の頻度を握るのが、一年の時の他の攻略対象者との親密度。

 攻略対象者全員と一定以上の親密度があり、その親密度も各ルートが始まる程には上がっていないとと言うのが最低条件。この調整が難しいのだと、妹が度々切れてたのを思い出す。そして、決して多くない遭遇できちんと親密度を上げる選択をしていかないと三年に上がった時にルートに入るためのイベントが発生しない。

 確か、こんな条件だったはず。だからこそ、二年の間は、会えなくてもそんなに深刻にはならなかったんじゃないかな。

「それが今になって焦ってるという事は……イベントがそのものが発生しなかったか? いや、さすがにそれだともう諦めるだろうし……諦めないか。ゲーム完全無視で猛アタックしてきそうな気がする。となると、まだ希望はあって、それを発生させるための何かが起きてないってことか?」

 この辺りは俺にもわからん。だって妹、シルヴァン攻略出来てなかったから。

 これまでの言動からバロー嬢はかなりやり込んでたんじゃないかと思うんだよな。基本的には忠実にゲームに沿って行動していたようだし。一年の時にシルヴァンに付きまとっていたのは、少しでもスタート早くしておけば二年で遭遇回数が少なくてもルートが開けるかもって考えた結果なんじゃないかと、今更ながらそんな気がする。


 うん。バロー嬢がどれだけ努力しようと結果は見えてたけどな。


 シルヴァンは変わらずレティが大事。レティ以外は眼中にない。

 他の攻略対象者も、婚約者持ちはバロー嬢を相手にしていない感じだ。表面的には友好的に接してはいるんだが、一定の距離より先は踏み込ませないようにしているのが見て取れる。露骨に拒絶しまくってるのなんてウチの息子くらいだ。ディオンでさえ、遭遇した時に向こうが可笑しな事さえしなければ普通に接しているのにね。

「しっかし……あそこまで露骨に態度に出されてんのに理解できないって、なんなんだろうなぁ」

 本当に、いい加減に理解しろと言いたい。バロー嬢がどんなに望もうとも、シルヴァンは絶対に無理だ。これだけは断言できる。

 いまシルヴァンは来年のレティの卒業直後に執り行う結婚のお披露目パーティーを計画していて、その準備に余念がない。衣装などもレティと相談しつつ楽しそうに進めているし、部屋も二階の一角を夫婦用に改装予定で家具などもレティの意見を聞きつつ揃える準備をしている。もうね、見事なまでにすべてがレティ中心なんだよ。あの状態で今更ほかの女に目が向くわけがない。それは傍目に見ても明らか。

「本気で気づいてないのか、それとも信じたくないだけなのか……自分がヒロインだって意識が強いなら、信じたくないって方かね」

 ゲームではヒロインが選ぶ側だ。もちろん、思い通りに攻略出来ないこともあるだろうけど、それでもやり直しがきく。攻略できるまで何度でもやればいいだけだ、ゲームだから。

 そんなゲームとしての前提は、ここでは通用しないというのは気付いているはずなんだが、敢えて理解しようとしていない可能性は高い。選ぶ側であるはずの自分が選ばれないと言う事実を、認められないんじゃないだろうか。


 ここはゲームじゃない。やり直しなんて出来ない、現実世界だ。


 それを理解していないはずはないんだ。いくらゲームに酷似した世界だろうと、ここは生きた人間がそれそれの意思を持って生活している。ゲームのように様々な事がヒロインに都合よく進むわけじゃない。

「一種の現実逃避……なのかな」

 ここ最近のバロー嬢の言動を見ていると、そんな気がしないでもなかった。

 だとしたら、多少は可哀そうな気はしないでもない。信じていたものがそうではなかったのだとしたら、受けるショックは決して小さくはないだろう。だからと言ってあのお嬢さんの言動を容認する気などさらっさらないが。

「まあ、異動希望は許可しなかったとあるし……そもそも魔法科でそこそこ優秀な成績をキープしている以上、移籍は無理だなぁ」

 これが、魔法の授業に付いていけなくて別の科に、という事であれは認められることはあるんだ。魔法に関しては才能がものを言う部分が大きいので、その辺りの適性がないと判断されれば認められることはある。……卒業まで残り一年切ってるこの時期にってのは有り得ないがね。

「ああ、もうこんな時間か」

 本日は学園へ行く日です。

 さくっと支度を済ませると、家を出た。



 **********



 俺が学園で教師陣に色々と教えるようになったことで、魔法科ばかりか騎士科も入学希望者がかなり増えたらしい。たまに後輩たちに拉致られて相手をしていたのが影響したようなんだが……俺、あいつら叩きのめしているだけなんだけどな?

 まあ、そんなわけで俺が行くと騎士科の生徒たちも群がってくるわけです。なんかね、近衛で新人を指導してた頃を思い出すんだわ、これが。基本的に真面目に騎士を目指してる子が多いんで、こちらとしても聞かれたことは答えている。こうもやる気を見せられられると、応援したくなるしね。

 あ、実技はしないよ。俺とここの生徒たちじゃ実力差がありすぎて、鍛錬にならんし。


 それにしても、だ。


「なぜ騎士科まで関わることになったんだろうか……」

 資料を整理しつつぼそっと呟いたら、シルヴァンには聞こえていたらしい。

「現役の近衛騎士が父上からの指導を受けたいがために講師役の争奪戦を繰り広げているなどと広まれば、今の状況は必然ではありませんか」

「それがオカシイだろう。そもそも私は魔法科の講師たちへの講義の為に呼ばれたはずなんだが」

 前提条件からしておかしいからね? 俺、騎士科の事なんて引き受けた覚え無いよ? つーか、争奪戦を繰り広げてるって何。毎回違う奴が混ざってるのって、そういう事だったの? 初耳なんだけど。

「仕方ありません。騎士を目指す者であれば、ルシアン・グランジェの名を聞けば教えを乞いたくなるのは自然な事です」

 しれーっと言ってくれるね、シルヴァン。

 出来る息子からの過大評価が少々恥かしい。

「私も騎士科の生徒にはよく絡まれるんですよ。父上から指導を受けている事を人伝に耳にしたようです。羨ましいと言われました」

 そう言って笑う息子君に、どう反応したらいいものやら。

 そもそも、俺がシルヴァンを鍛えるようになったのは、シルヴァンが自分から教えてくれって言って来たからだ。

 だって、ねぇ? 引き取ったばかりの可愛い息子がっ。僕もレティを守れるように強くなりたいって! 真剣な顔で一生懸命にお願いされたら断れないじゃん! めっちゃ可愛かったんだよ、本当に!

 それが今やまあ、超絶イケメンに成長して……ハイスペックすぎて逆に心配になることもあるけど、レティが側にいれば問題ないからな、コイツは。ある意味、シルヴァンにとっては最強の精神安定剤でもあります、ウチの愛娘。

「まあ、その話はいい。それよりシルヴァン、今日の予定は?」

「はい。本日は騎士科の三年の生徒が来週行う野外訓練の準備です」

「野外訓練か……」

 基本的に騎士は対人戦のエキスパートとしての訓練が中心ではある。だけど、実戦経験を積むために魔物討伐にも参加することは多い。当然、騎士科の生徒たちにも経験を積ませるために、年に数回程度ではあるが魔物討伐の郊外授業が組み込まれている。

「場所は?」

「メアの森です」

「メアの森?」

 意外な場所に、思わず怪訝そうな顔をしてしまった。

 メアの森と言うのは、ここ王都の西方に広がる大森林地帯の一角だ。王都から割と近い場所にはあるが、大河に隔てられているので森の魔物が王都へ来ることはまずない。稀に小型の魔物が橋の警備の目をかいくぐって近づいてくる事はあるが、王都に辿り着く前に居合わせた冒険者に狩られる程度だ。

 一応、冒険者たちが素材狩りや討伐依頼などで頻繁に出入りしているから、森の外縁はそれほど危険はない場所でもある。ある意味、冒険者任せな森ともいえるな。

 ただ、それよりも俺が引っ掛かっているのは、何かイベント的な事が起こるような気がしたからだ。本当になんとなくしか思い出せないのだが、この時期に討伐系のイベントがあった気がする。

「参加は騎士科だけか?」

「その予定のはずです」

 言われて、考える。

 これまでの傾向からすると、騎士科の野外訓練に宮廷魔導師志願の魔法科の生徒が付いていくことはよくある。

 確認しておいた方がいいだろう。

「シルヴァンは来週、同行するのか?」

「その予定です。数名、補講を兼ねていますので」

 補講……三年のこの時期に成績足りなかった奴いるのか。

 しかしまあ、これ確定な気がする。

「そうか。であれば、私も同行する」

「え?」

 そんなに、きょとんとするなよ。

「責任者はティクシエ講師か?」

「そうです」

 おお、ラッキー。俺の信者っぽいヤツだ。いつもなら嬉しくもなんともないんだが、今回ばかりは有難い。遠慮なく利用させてもらおう。

 取り敢えずシルヴァンには何となく匂わせる程度に説明して、俺はさっさと話を付けるべく騎士科の職員室へと急いだ。


 俺が参加するって話はすんなり通ったよ。むしろ大歓迎された。

 で、参加予定者を詳しく聞いてみると、やはり魔法科からも三人ほど参加予定らしい。一応、参考までにと参加者のリストを見せてもらったが、いましたよ。ヒロイン。

 さて、ここからどうやって回避するか。そう考えつつ生徒の情報を読み込んでいて、見つけた。

「質問をしても?」

 俺がそう切り出すと、講師は思いっきり頷いた。

「この魔法科の生徒ですが、この二人はわかります。ですが、この生徒の参加理由は?」

「は? いえ、実力的には問題ないかと考えまして」

「魔力量という事であれば、問題はありません。しかし魔力操作や精度の成績を見る限りではまだ実践は無理です」

 きっぱりと言い切ると、講師陣は顔を見合わせた。

 まあ、皆さんコイツが俺と何度かトラブルを起こしていることをご存じだからね。何かあるのかと勘繰ってるんだろうけど、別に今回の指摘に関してはそうじゃない。

「しかし、彼女は優秀です。経験を積ませればきっと」

「経験を積ませる、それはわかります。しかし、今回は場所的に難しいでしょう」

「と言いますと?」

「森、ですよ? 周囲は障害物だらけな上に、場合によっては乱戦・混戦となる可能性がある場所です。成績表を見る限り、この生徒は広範囲の魔法を得意としているようです。加えて精度は他の二人と比較して明らかに劣る。精密な魔法を放てない以上、密集したこの場所でこの生徒は何も出来ません。下手をすれば戦闘中の騎士科の生徒を巻き込みます。支援系の魔法も苦手なようですし、今回は見送ったほうがいいでしょう」

 淡々と告げれば、講師陣は納得しつつある。

 と言うかね、こんなん指摘されなくても気付けよ。乱戦してるとこに広範囲魔法ぶち込まれたらどーすんだ。死人出るぞ。

「この生徒に関して言えば、まずは草原など広い場所での討伐を見学させつつ魔力操作の訓練を積ませ、それから森などでの討伐を経験させた方が本人の為では?」

 他意はなく本人の為になりませんよ的な事を前面に押し出せば、今度こそ納得したらしい。

 ただまあ、これだけだとコイツを外したいが為って思われかねないので、別の提案も。

「先程も言いましたが、立地的に混戦となる可能性があります。ですので、今回は支援系の魔法に定評のある生徒も参加させ、騎士と連携を取ることでその才をいかんなく発揮できるのだと教えるいい機会になるかと」

「おお、それは! なるほど、いい手ですな!」

 一人が興奮気味に賛同してきた。

 支援系の魔法を得意とする魔導師は、どうしても下に見られやすい。俺たち騎士からしたらものすごく有難い存在なんだけれど、いかんせん地味なので見た目でしか判断できない連中からは役立たずのレッテルを張られることも多いんだよ。

 俺としては、近衛の時の経験もあるが、支援系の魔法を使える魔導師は増えてくれた方がありがたい。だからこそ、こういった機会に騎士の卵共にもその有難みをわからせておけば、支援系の魔法を得意とする生徒たちも自信をつけられるんじゃないかなって思うんだよね。

「騎士科との合同訓練では、支援系の魔法を得意とする生徒、興味を持つ生徒を積極的に組み込んでいけば、各騎士団の後方支援部隊からも声がかかるようになるかもしれません。生徒の卒業後の選択肢を増やせるかもしれませんよ」

「なるほど。いや、可能性が広がるという点だけでも、十分に考慮する必要がありますな。ありがとうございます、グランジェ伯爵。今後の参考にさせていただきます」

「いえ、差し出がましい真似を。私も元は騎士ですからね、支援系の魔法の有難みは身に染みていますので」

「おお、今度、お時間がある時にでも、その辺りのお話を聞かせていただきたいですな」

 こんな感じで、すんなりとバロー嬢を外すことに成功。

 幸いにも、生徒への通知はまだこれからという段階だったことも幸いだった。


 後日、俺とシルヴァンもこの実習に同行したが、支援系の魔法を得意とする生徒からも、その支援魔法を体感した騎士科の生徒からも、感謝されたよ。

 うまくいってよかった。



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