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32 回避策

ラストまでの目途が付いたので、本日より一日一話のペースで投稿します。


 さてさて。

 早いものであれから一月。マリウス殿下の洗脳騒ぎを解決したのは良かったんだが、今はまだ王妃殿下にバレなくはないと言う俺たちと殿下たちの思惑が一致し、マリウス殿下はこれまで通りに適度にレティに絡もうとしている。してるが、俺とシルヴァンの鉄壁ガードにどうにもならないといった印象を周囲には植え付けているので、今の所は怪しまれている様子はない。この辺りは殿下はかなりうまい事やっていくれている。役者の素質があるんじゃなかろうか。

 まあ、あっちは殿下たちがいいようにやるだろうって事で、こちらはひとまずは静観することになってるよ。マリウス殿下の件ではミサキがいい感じにブチ切れたから、アイツも協力は惜しまないと言ってくれてるしな。ホント、自分の息子に隷属の呪縛とか正気かよと珍しいくらい怒ってたし。


 で、まあ、それ良いんだ。それは、ね。


 いま俺は、別の難題に直面していてどうしたもんかと頭を抱えている。

「えーと……つまり、本格的に魔道具の勉強がしたいと。そういう事でしょうか?」

 そう尋ねると、真剣な表情で頷いたのはマリウス殿下。

 内々にって事で義兄から呼び出された時は何事かと思ったけど……いや、今も思ってるけど。何がどうしてこうなった?

「勿論、母上の件がすべて片付いてからにはなるが、何れは兄の助けとなれるよう転移門の管理もできるようになりたい。この前、ミサキ殿が様子を見に来てくれた時に相談したら、可能性はあると言ってもらえたんだ」


 ミサキのお墨付きかよ。


 同時に悟る。これってもう逃げられない案件なんじゃねーの?

 だいたいなんで陛下まで同席してるんだよ! 義兄に呼ばれたはずなのにいつも通りに義兄の執務室に入ったら殿下と陛下に出迎えられた時の俺の心境考えろ! 心臓止まるかと思ったわ!

 なんかもう、さっきから顔が引きつりそうになってるんだが、そこは根性で我慢。

「ミサキが認めているのでしたら、資質的には問題ないかと。しかし転移門の管理となると、付与魔法が使える使えないに限らず魔道具作成の知識は必要となりますね」

「その辺りはミサキ殿にも説明して頂いたし、いまはまだ圧倒的に知識が足りないのも自覚している。正直に言えば、どう学べばいいのかもわからない」

 殿下の言葉に、そりゃそうだと頷く。

 俺みたいに多少なりとも付与魔法が使える状態になっていれば、自分で試しながら試行錯誤することもできるんだが、付与魔法が使えない状態だとその術式が本当に正しいのかは自分では確認のしようがない。付与魔法が使えない魔導師では転移門の管理が難しい理由がここにある。

 でも殿下の場合はミサキが大丈夫と判断している。


 という事は、だ。


「殿下。これを見ていただいでもよろしいでしょうか」

 そう言って、俺は開発中の魔道具の設計図とそれに組み込む予定の術式を書き記したものを見せた。

「これは……ああ、この術式でこの部分を動かすんだね。なるほど、魔石でこの部分を動かすことによって、これ全体が稼働するわけか。魔石が動力となるんだ。水車と似たような仕組みなのかな」

 感心したように頷いている殿下だが、その隣では陛下がわけわからんって顔している。うん、それが普通の反応だ。

 しかしだな、俺はというと。


 うっわ、見ただけで理解したよ!


 ちょっとマジで驚いた。心臓バクバクしてますよ。

 え、殿下ってまだ付与系の勉強してないんだよね? それなのに理解できた? やべぇ、これちょっとシャレにならないレベルの逸材見つけたかも。

「殿下。この術式、どういった効果があるのかわかるんですね?」

「うん? ああ、これは魔石を動力とするための術式だろう? この部分が魔石から魔力を引き出して動力に変換しているんだよね。へぇ、魔石をこんな風に使う方法もあるのか。付与魔法は面白い組み方をするんだね」

 ああ、わかってる。ちゃんと術式を読み解いている。

 ちらっと義兄を見る。察したのか、頷いたよ。もしかしたらミサキから何か聞いているのかもしれないな。

 よし。覚悟を決めるか。

「陛下。マリウス殿下ですが、将来的には転移門の管理も可能かと」

「本当か?」

「はい。少なくとも、この術式を読み解ける時点で第一線で活躍している魔道具職人と同レベルの存在と成り得るとお考え下さい。」

 俺の予想が正しければ、それ以上の存在になるだろうけどな! ミサキレベルまでは難しいかもしれんが、いいとこまではいけるんじゃないかね。

 そして、俺の言葉を信じられないって顔して陛下が殿下を見ているが、殿下はきょとんとしているよ。そらそうだよな、今までそんなことを言われた事なんてないんだろうから。

「まず、付与魔法の前提として。適性が無ければ付与魔法の術式は解読できません」

「……ああ、確かに。そう聞いている」

「これは私が独自に組み上げたものですが、この部分。これが付与魔法を発動させるにあたって必ず組み込まれる部分になります。普通は、これが組み込まれている時点でこれはただの模様にしか見えないんですよ。魔導師であったとしても」

 そうなんだよ。付与魔法って本当に特殊で、適性がないと術式そのものが理解できないんだ。なんでかは知らんけど。

「私が作り出す魔道具は、自分で言うのもおかしなことではありますが、かなりの異端です。魔道具を作り慣れている職人でも、説明なしには理解できないことがあるくらいなのですよ。にもかかわらず、これを正確に殿下は読み解いています。それだけ付与魔法の適性が高いという事の証明でもあります」

 俺が作ったものの解説をしつつそう説明したら、なんか親子で顔を見合わせてる。そうやってるとホント親子だな、よく似てるよ。

「そして、本格的に学ぶのであれば……お約束はできませんが、グラフィアスのエルヴィラに連絡をしてみます。私が知る限りでは付与魔法の精度と応用力はミサキ以上です」

「グラフィアス……!」

 おおっ、殿下の頬が紅潮してる! そうだよな、グラフィアスが魔道具技術の最先端行ってることは有名だし。


 その後、少し話を詰めてこの日はいったん終了。

 後日、俺がエルに頼み込んだ事もあり、グラフィアスでマリウス殿下を受け入れてもらえることになった。それを伝えた時の殿下、本当に嬉しそうだった。

 まあ、あそこまで喜んでもらえたのなら頑張ったかいがあったよ。



 **********



 急遽決まったマリウス殿下の留学、期間は一年と定められた。

 滞在先は大公邸、しかも大公殿下の直属である魔道具開発部門に特例として所属するそうだ。そこで魔道具作成の基礎を学びながら、転移門の管理者を目指すとのこと。王妃殿下が予想通りに大反対したらしいが、陛下が決定事項とだけ伝えて早々に話を切ったのでどうにもできなかったようだ。慌てて息子を呼び出そうとした時には、すでに事前準備のためにグラフィアスへ発った後だったことを知り、地団駄踏んでたそうだ。陛下が王妃殿下にこの話をしたのがマリウス殿下の卒業式後で、マリウス殿下はその卒業式が終わってそのまま城へ戻らずの出立だったからな! お見事です、陛下。


 まあ、一番の目的は王妃殿下からマリウス殿下を引き離すことだからね。ギリギリまで知らせずにいた陛下の判断は正しいと思う。


 それにしてもまあ、殿下が学ぶ予定の大体のスケジュールと内容を見せてもらってるんだけど、内容もさることながら講師役が豪華すぎる。なんかちょっとかなり羨ましいんだけど、何この好待遇。

「ずいぶんと内容が濃いですね」

 一年で詰め込まなきゃならないから、内容が濃くなるのはわかるんだよ。でもさ、いくら転移門の管理を学ぶのが目的とは言え、あちらの魔道具開発の責任者クラスを講師につけてくれるなんて、随分と気前がいいような気がするんだが。講師役にエルの名前まであるって、相当だよ?

「有難い事に、大公殿下からご提案頂いた内容だ。どうやらミサキ殿からもエルヴィラ殿を通して話をしてくれたようで、転移門だけにとどまらず幅広く指導して頂けるようだぞ」

 納得だ。

 元々、殿下なら転移門の管理が出来るようになると言い出したのは、聖女様に代わって様子を見に来ていたミサキだ。元からミサキの作り上げる魔道具に興味津々だった殿下は訪れる度に質問攻めにしていたらしい。ミサキも真剣に学ぶ姿勢を見せる相手を邪険にすることはないから、診察ついでに時間の許す限り相手をしてたらしいよ。ミサキらしい対応だわ、意外と面倒見いいからね、アイツ。

「殿下、喜んだでしょう」

 あの後すぐ、俺に相談してきたくらいだもんな。

「それはもう、即決するくらいには。陛下もお前から話を聞いていたこともあって、本人のやる気もある事だからと許可を出した。正直に言えば、向こうで学べるのは我が国にとっても有益だ」

「あちらは魔法、魔道具関係では最高峰と言われる国家ですからね。行くだけでも益となる事は多いでしょう」

「その分、我が国との差に愕然とする可能性もあるが、殿下なら地道に学んでくださるだろう」

 うん、そんな気がする。

 俺に相談を持ち掛けて来たあれ以来、殿下はちょくちょく俺に手紙を送ってくるようになった。中身は魔道具作成に関することで、わからない事や気になる事があると手紙で質問してくる。本当は直接聞きに来たいんだろうけど、今までの事があるので遠慮してたらしい。それでも学ぶことへの意欲は抑えられないようで、些細な事であっても知りたいらしく、かなり真剣に勉強をしているのは手紙からでも十分に伝わってきていた。いまのマリウス殿下なら、俺は全面的に応援しようって気になれるよ。


 そして、そんな殿下の邪魔をさせないためにも王妃殿下と引き離すのは必須。


 急遽の留学を陛下が認めたのも、この辺りの事を加味してだろう。隷属が解けてる事をまだ王妃殿下には悟られたくないし。

 そのまま気づかないでいて貰う為にも、殿下の安全のためにも今回の留学は最善だ。殿下も今まで王妃殿下の支配下で抑圧されていた分、興味あることを好きなだけ学んでくればいいと思う。

「付き添いの人選は?」

「殿下の従者が二人、護衛の騎士が三名ほど同行して現地入りしている。みな陛下の人選だ。あとは後発隊として従者を一人と護衛を二人送り込むことになっているんだが、護衛は志願者が殺到しているぞ」

「は?」


 なにそれ。


「しかも新人からベテラン勢まで希望者が幅広い上に、どこから聞きつけたんだが王立騎士団からも志願者が出ているので収拾がつかない」


 ちょっと待って、意味が分からない。


 普通、一年も戻れないってわかってるのについて行きたがる奴なんてそう居ないだろ。家庭を持ってる奴なら猶更だ、その間は家族に会えなくなるんだから。しかも王族の護衛として同行するんだから普通は近衛から選出されるはずなのに、なんで王立騎士団まで?

「あまりの希望者の多さに、両団長が頭を抱えていたよ。いつもの事だがお前の影響はすごいな」

 呆れたように義兄に言われたけど、俺は思い当たる節はないんだが?

「お前が定期的にあちらへ行くようになり、ますます強くなったと騎士たちの間では噂だ。興味を持つだろう、普通は」

「は? それが理由?」

 思わず素で聞き返してしまった。

「良くも悪くもお前を目標としている騎士は多い、お前が更なる飛躍を遂げるような環境に興味を持つのは当然だ」

「ええー……」


 そこかよ。そこなのかよ!?


 いや、まあ、ね? 俺も楽しんで通ってるのは事実だよ、あそこ本当に猛者揃いだし。シルヴァンもメキメキ腕を上げてるし、なんつーか環境もそうなんだけど、タイプ別に用意されている指導方法みたいなのが充実してて育てるのが上手いってのもあるんだと思う。シルヴァン見てると特にそう感じるよ。あと、誰にどういった指導法が一番なのかを調べるテストみたいなのもすごい。俺もシルヴァンを長年指導してきたけど、試しに調べてもらったら見落としてることあったもん。あれはイイ。すごくイイ。この国にもあんな感じなのあればいいのにってマジで思った。

 それはまあ、今はいいんだよ。なんだっけ、なんの話をしてたんだっけ?

「それでだな。お前には月に一度、王子と面会してきてもらいたい」

 ああそうだ、マリウス殿下の留学の話をしてたんだった。

 え、俺が面会? 確かに月一で行ってるけど。

「進捗状況と殿下の健康面の確認は必須、あとはその時々で話題は変わるだろう。従者からの報告書も忘れずに受け取ってくるように」

「え、決定? 拒否権無し?」

「あるわけないだろう」

 まあ、そうだよな。月一となると、俺かシルヴァンしか無理だ。シルヴァンは……まだちょっと、殿下に対して態度が堅くなるというか警戒しているというか。これは仕方ないとは思う。殿下に何が起こってたのかはもちろん知ってるけど、それでも長年色々とあったのも事実だ、アイツなりに気持ちに整理がつくまではまだしばらくは時間が必要だろう。……うん、俺がやるしかないじゃん。

「その代わりと言っては何だが、王子との面会時はお前も魔道具開発の部屋に入ってもいいそうだぞ」

「やりますやらせてくださいお願います!」

 即答したら呆れ顔された。だって、そんな餌ぶら下げられたら断れるわけないじゃん、魔道具作成の最先端が見れるんだぞ! エルとかミサキは論外、あいつらのスキルは特殊過ぎて参考にもならん俺には無理!

「嬉しそうだな」

「キノセイデスヨ」

 さりげなく否定したつもりが、なぜか片言になってしまった。なんでだ。義兄が半眼になってる。

 浮かれるのは仕方ないんだよ、前から興味あったんだから! ただ、あそこはグラフィアスの国家機密の一角だから気安く見たいだなんて言えなかっただけで! ……これだから魔道具オタクって言われんだよな。事実だけどさ。

「まあ、その辺りはエルヴィラ殿が整えてくれるそうだ。彼女の魔道具共同開発者という肩書はあちらでもかなり話題を集めているようだぞ」

「それなりの数を一緒に開発してるしな」

 一番の発明品はコピー機もどきかね。ここでは転写用魔道具として今では物凄い需要があるよ。ほら、書類の写しが簡単に作れるし、複製も簡単だから。その代わり、かなりしっかりと偽造防止対策をしないと悪用されかねないので、販売先はかなり厳選される。一応、転写するとそれを証明する印が付くようにはしてあるし手書きと比べると明らかに違うんだけどさ、何かあった時に完全にこっちが悪者にされる可能性はあるから予防線は張っておかないとね。まあ、どれだけ対策しても完全には防げるわけじゃないけどさ。販売側もその点を考慮して対策してますよって姿勢は見せておかないとなんだよ。面倒だけど。

「お前達が開発に関わった事務作業の補助魔道具は需要が高いモノばかりだ。製造と販売の全利権がグラフィアスにあるのは少々アレだが」

 そう言って義兄が眉間に皺を寄せる。

 言いたいことはわからないでもないんだが。

「あそこ以外じゃ作れないっつーの」

 専任の職人達と付与を行う魔導師、豊富な人員と質の良い素材の数々。量産化しても質を落とさずに製造できる国なんて、グラフィアス以外ないわ。


 元々、あの国はエルが作り出す魔道具を解析して量産化することに長けていて、その為に必要なモノは全て揃っている。マリウス殿下の講師役の一人として名前が挙がっている魔導師団長が最大の協力者らしく、俺やミサキと共同開発した魔道具もここで量産化までの監修をしてくれているらしい。

 この魔導師団長、一応エルの師匠的な存在らしく、魔道具開発の方でも大公殿下に次ぐ責任者的な存在との事だ。どうやら原案&試作品作成をエルが行い、それを魔導師団長を中心に数人のメンバーで解析と量産化への態勢を整えるというのが流れらしいんだよね。


 まあ、そんな感じで環境が整っているグラフィアスとその他では比べるまでもないわけですよ。現実を突きつけてやったが、それでも諦められないようだが。

「わかってはいても面白くない!」

「わがまま言うな。毎回、数台は優先的に渡してやってんだろが」

 試作機のテスト運用をやってもらったりと普段から協力してもらってので、義兄が興味ありそうな魔道具は量産体制が整った段階で毎回プレゼントしてるんだよ。買ったら相当な金額なんだから、少しは有難く思え。あれでかなりの時間削減になってるだろ。

「だって義弟が作ってるんだって自慢したいじゃないか」

「ふざけんな」

 なんだよその理由は! 意味わかんねーよ!

「身内にいま話題の魔道具職人がいるんだぞ! 自慢しないでどうする!」

「自慢すんな!!」

 マジで何考えてんだコイツは!

 あ、いや、これ平常運転か。身内認定したヤツにはこんな感じだったわ、この人。しばらく見てなかったから忘れてたわ。

 コイツの場合、他意はないんだよ本当に。ただ単に、ウチの家族凄いんだぞ的な自慢したいだけなんだよな。身内に芸能人いるんだぞ羨ましいだろ的なノリなんだと思う。ターゲットにされるこっちはいい迷惑だが。

「まったく、レティといいシルヴァンといいルシアンといい……少しは私の楽しみを理解してほしいものだ」

「理解できるわけねーだろ」

 マジで何言ってんだよコイツは。自分の年わかってんのか。


 その後も、マリウス殿下の件を少し話して、本日は終了。

 なんかもう、無駄に疲れた。


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