表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/63

27 ヒロイン手作りの・・・


 新学期が始まり、しばらくたった頃。

 不穏な動きを見せ続けるヒロイン事バロー嬢に、警戒心MAXになってます、愛娘。ちょっとでも気になることがあるとすぐ俺に報告してくれるのは有難いんだが、あのレティにここまで警戒させるなんてマジ凄い。何やらかしたんだと思ってたら、ディオンが情報を持ってきてくれたよ。

「はあ……では、バロー嬢が手作りのお菓子を持ってレティの友人たちに突撃していると」

「友人たちというか、クラスメイト全員ですね。今まで男子生徒に媚びを売ることはあっても女生徒には見向きもしなかったので、それだけでも気味悪がってる感じです。みんな相手にはしていません」

 どうやらヒロイン、シルヴァンに接触できないからレティを攻略して何とかシルヴァンへの道筋を繋ぎたいのに周囲のガードが固くて近づけないから、その周りを篭絡しようとしているらしい。ただまあ、レティの周囲もヒロインに対しては警戒心の塊みたいになっているようなので、うまく行かないってことか。当たり前だよね、散々レティに冤罪着せようとしてたの、みんな間近で見てたんだし。今更、仲良くしたいとか言われたって、何を企んでるんだってなるだろうさ。

「それにですね、レティがお菓子は食べない方がいいと言ってて。もちろん、僕も他のクラスメイトも食べる気はないんですけど、一応その理由を聞いたんです。そうしたらレティ、良くないものを感じるって言うんです。レティが浄化の力が強いのはクラスメイトは知ってますから、みんな怨念でも込められてるんじゃないかって気味悪がってました」


 なんかもう、墓穴掘りまくってんなバロー嬢。


 そりゃなあ、今までが今までだったんだから、いきなり歩み寄るような態度取られても警戒するだろうよ、普通は。レティだけじゃなくディオンからも色々聞いてるからさ、不自然さしか感じないわ。

 ただまあ、あそこまでレティが警戒している理由はわかった。そりゃ、明らかにアヤシイと思われれるモノを自分の周囲に配ってりゃ、いくらあの子でも警戒するだろうさ。

「で、これがそのお菓子なんですが」

 そう言って、ディオンは鞄から可愛らしくラッピングされた包みを取り出した。

 リボンをほどいて中身を確認、ひとつ手に取ってみる。

「……普通にクッキーだな」

「見た目はそうですね」

 一見、なんの変哲もないクッキー。色も形も普通だし、ふわっと甘い香りもクッキーらしい感じ。

 俺は特に何も感じないが、レティが良くないものを感じると言うからには何かあるんだろう。

「それ、騎士科にいるバロー嬢の信者たちが頻繁に貰っているものと同じだそうです」

「それは聞き捨てならないね」

「クラスメイトで騎士科に兄弟がいる生徒がいて、その伝手で聞いてくれました。ちなみにその兄弟はクラスメイトから色々と聞いていたので、かなり早い時期から信者たちとは距離を置いていたそうです」

「賢明だな」


 良かった騎士科、おバカさんだけじゃなかった!


 バロー嬢信者の大半が騎士科だって聞いてるからマジで大丈夫かと心配だったんだよ。あいつの信者って普通科は皆無だし、アレが在籍している魔法科でさえ数人程度なんだよね。なんで騎士科の同学年に集中しているのか不思議ではある。単純……いや、純粋? 純情? なの多いんだろうな、きっと。そう言う事にしておこう。じゃないと将来的におバカ集団が騎士団に入ることになるじゃないか、怖すぎるわ。……いまからでも根性叩きなおした方がいいかな? 俺、乱入しようか?

「叔父上」

「うん?」

「これ、一度きちんと鑑定したほうがいいような気がします」

 クッキーを指さしつつ甥っ子が言う。

 まあ、それは俺も思うよ。

「根拠は?」

 答える前に一応、ディオンの考えを聞いておこうじゃないか。

 頭のいい子だからね、なにもないで鑑定しろだなんて言葉は出てこないと思うんだ。

「まず、彼女の取り巻きは全員が彼女から頻繁に差し入れを貰っています」

「ほう」

 頻繁に、ねぇ。

「聞き取った限りでは、摂取量が多い者の方がより強く傾倒しているように思えるんです」

「それはディオンの個人的な意見?」

「そうですが、自分以外にも十人程度ですが、騎士科に友人がいる者に雑談を持ち掛ける形でさりげなく聞いてみました。みんな同じような感想を持ってる気がします」

「なるほどね。続けて」

「はい。騎士科に信者が多いのは、訓練後にアレが差し入れを持っていくことが多いからではないかと」

「……ああ、そう言う事か」

「騎士科の訓練は厳しいと聞いています。直後の空腹時に差し出されれば、口にする者は多いと思います」

 納得。成長期で激しい運動の後だ、さぞかし腹が減ってるだろうさ。そんなところに餌をぶら下げたらそりゃ食いつくわな。入れ食いだったんじゃねーの?


 ……いや、騎士科の脳筋ども。もうちょっと警戒しろよマジで。お前らに未来の国防を託すのは不安しかないわ。


 若干の頭痛を感じるが、まあ取り敢えずは異様に信者が増えつつあった原因らしきものは分かった。ならば、それをどう防ぐかだけど。

「それと、これは不確定ではありますが」


 うん? まだ何かあるのかい?


「なんだ?」

「僕も言われて気付いたんですが……どうも一定期間、摂取していないと正気に戻るっぽいんです」

「は?」


 何それどういう事?


 一定期間、食べなければ? それって要は中毒性はないって事か? いや、ただ単に中毒性だけならヒロインに対してもうちょっとこう、違うアクションがあってもいいはずだ。あんな、ただ盲目的にヒロインに尽くす的な状態は違うだろう。つーか、そもそも正気に戻るってどういう事よ?

「わかりやすいのが、ジェレミーだと思います」

 言われて思い出す。確かにジェレミーは一時期、明らかにおかしかった。俺も騎士科にはたまに顔を出していたから実際にこの目で見ていたけど、やたらと攻撃的になっていた時期もあった気がするんだよな。ただまあ、元々シルヴァンに対してはかなりアレな所はあったので、その延長かとも思っていたんだが。

「あいつも貰っていたのか」

「そうみたいです。でも、少し前に婚約者が出来てアレと距離を置くようになったんです。ここ二週間くらいで元のジェレミーに戻りました」

 元に戻ったというのが俺にはよくわからんのだが、ディオンはジェレミーと同じで第二王子の側近候補だった。まあ、ディオンはいまは候補から外れた事にはなってるけど、俺よりはジェレミーの事を良く知っているはず。

 ていうかディオン、さっきからヒロインの事をアレって言ってるね。名前を口にするのも嫌か。気持ちはわかるけど。

「僕もあいつの変わりようが気になってたいので、時々様子を見に行ってたんです。だから変化がよくわかりました」

 ディオンが様子を見に行っていたのは知らなかったが、まあ一応は幼馴染だし側近候補としてそれなりに付き合いもあったんだろう。この子もなんだかんだ言って優しいしからね、心配していたんだと思う。

「それで、この前ジェレミー聞いたんです。明らかにおかしくなってたけど、どうなってたんだって」


 うん、ずいぶんとストレートな聞き方したんだね、君。嫌いじゃないけどさ。


「ジェレミー曰く、よくわからないと言ってました」

「よくわからない?」

「はい。勿論、意識はちゃんとあったし、記憶が飛んでるとかもないそうです。でも、どうして自分がアレに依存していたのか、どうしてアレの言う事が正だと思い込んでいたのかが、わからないと」

「何の根拠もなく、ただ相手の言う事を鵜呑みにしていたという事か?」

「そうらしいです。疑うとか、そういった考えが完全に欠落していたように思えると言っていました」

「欠落……」


 どういうことだろう。


 相手……この場合はヒロインか。バロー嬢に対しての疑念の類が欠落していた? 故に、彼女の言う事はすべて正しいのだと思い込んでいたと、そういう事なのか? でも、どうやって?

 考えて、ふとある事を思いだした。


 ああそうか。ヒロインはあくまでゲームの通りに進めているわけだ。


「叔父上、眉間の皺が凄いです」

 若干、怯えた声のディオンに突っ込まれた。


 わかってるよ、それはっ。


 わかってんだよ、ここで怒りを爆発させたって意味ないってのは。かと言ってすぐに治せるほどには俺の機嫌はよろしくない。だってこれ、ヒロインが意図的に闇属性の魔法を使っている可能性があるって事だから。

 ゲームではヒロインの適性は聖属性だけど、なぜか闇属性であるはずの魅了系の魔法を使えることになってる。まあ、初歩的なモノで効力はそれほどないって事にはなってたんだが、攻略対象者の好感度を上げるためには必要なものだと、妹が言っていた気がするんだよな。そして、ヒロインのチート的な設定のひとつに、魔法の効果を食べ物に込めることが出来るってのがあるんだ。まあ、一時的なモノでそれ程効力が大きいわけじゃないし、自分で作った物に限るんだが、ゲームでは回復系の魔法を込めて攻略対象達の体調管理に使ったりする感じだった。


 しかし、応用は出来るはず。


 そして、現実のヒロインは聖属性の適性は皆無であり、一番適性が高いのは闇属性だ。

 つまり、やろうと思えば、魅了系の魔法を込めることも可能だという事になる。


 なりふり構わなくなってきたのは最近になってからだが、思えば初期の頃から差し入れと称して色々と渡そうとしていた。幸いにもウチの子が受け取ることはなかったけど、あれももしかしたら。

「……団長にも話を通しておかないとだな」

 このまま放置すると、ちょいとシャレにならん事態になりかねない。少なくともヒロインの手作りは排除しなければならん代物と考えて間違いないだろう。

「僕も父上に話をしておきます」

「ああ、頼む。……助かったよ、ディオン。色々と有益な情報をありがとう」

 俺がそう言うと、ディオンは顔をほころばせて頷いた。



 **********



 さて、可愛い甥っ子が色々と情報をもたらしてくれたので、要注意な厄介ごとが判明した。これらに関しても少し証拠固めをしておかないといかんだろう。


 というわけで、この手の事には一番詳しそうなヤツを呼び出してみた。


「ふーん……これが、ねぇ」

 例のクッキーを手に取りつつ、角度を変えて観察しているのはエルヴィラ。

 この手の魔法関係では、俺はコイツ以上の適任者はいないと思ってる。事実、現代には伝わっていない数々の魔法をも使いこなす奴だから、何かしら知っているんじゃないかと思ったんだ。

「で、どうなんだ?」

「結論から言えば、可能だよ」

 エルはあっさりと肯定した。

 俺が聞いたのは、食べ物に付与魔法は掛けられるのかという事。現状では出来ない事にはなっているし、実際に研究している人間はいるらしいが、成功したという話は聞いたことが無い。基本的に魔道具って、魔石を核とするか稀に存在する魔力を帯びた金属や布じゃないと定着しないんだ。まあ、布や金属に限っては、特殊な加工することで魔道具化できるんだけどね。

「簡単ではないけど、不可能ではないよ。ただ、ねぇ……これは、違うね」

 手にしていたクッキーを見つつ、エルが呟く。

「違う?」

「うん、違うね。これね、恐らく闇属性の魔石を砕いて練り込んである」

「は?」


 魔石を砕いて入れた? 食い物に?

 

「魔力の帯び方が魔道具と同じなんだよ。かなり微弱だからわかりにくいかもしれないけど」

 そう言って、俺の掌にクッキーを置く。見てみろって事か。

「魔道具を鑑定するのと同じ要領。ただし、かなり微弱だからいつもの要領でやるとわからないと思うよ」

「了解」

 言われた通りに、普段よりも慎重に探る。

 結果、エルの言う通りだった。

「マジか……」

 まさか、魔石を食べ物に混ぜ込むとは思わなかった。これあれか、ゲームで特殊な材料としてあった粉、魔石を砕いたものだったってわけか。細かくパウダー化して混ぜてしまえば、確かに気づかれることはないだろうけど。


 ああ、気味が悪い。本当に碌でもねーゲームだな。


「幸いというか、魔石には毒性はないし体内に吸収されることもないから、基本的には排出された時点で付与効果はなくなるはず。ただ、繰り返し摂取することによる相乗効果的なモノはあるだろうから、多少の残留はあるかもしれない。摂取期間が長くなればなるほど、完全に効果が抜けるにはそこそこ時間がかかると思うよ」

「魔石自体は体に害はないんだな?」

「絶対にとは言えないけど、まずないだろうね。我が国の薬学の研究所では、魔石を利用した薬の開発は昔から盛んなんだよ。まあ、他の国ではそう言った研究はされていないようだから、我が国独自とも言えるけど。開発された薬はすでに一般化している物も多いし、使用方法を守らなかった以外での薬害に関しての報告は聞いたことが無いねぇ」


 あれ、グラフィアスでは魔石を薬に利用してるのか!


 ならば、魔石が混入していることに関してはそう警戒する必要はないのかな。

 そうなると、問題は。

「ただまあ、本来は口にするべきモノではないってのは事実。加えて付与されているモノは決して良いものではない。私なら即座に排除一択だね」

 何を排除する気なのかは敢えて聞かない。物騒な事しか言わないのわかってるしな。

 ただ、俺もそうしたいってのが本心。やるかやらないかは別として。エルも仕えている相手が王族だから、不安分子はできる限り排除しておきたいってのは理解できる。俺だって出来る事なら速攻でやりたいわ。

「しかし、これがゲームの知識ってやつなのかね。砕いた魔石を利用するとか、普通は考えないでしょ」

「ああ……確かゲームだと、特別な材料って感じで存在してた気がする。魔石を砕いたものだとは思わなかったが」

「一般的に、魔石は砕かれたら何の意味もないとされているしねぇ」

 そう言いつつも何やら考え込んでいるエル。

 なんか、そろそろ潰しておくかとか物騒なことを呟いた気がするんだが、キノセイだよな? 何か心当たりでもあるのか、コイツ。下手に突っ込むと余計なことに巻き込まれかねないから、言わないけど。

「ルシアン」

「うん?」

「これ、もらって行っていい?」

 クッキーが入ってる袋を指さしつつ、エルが聞いてくる。


 いや、どうせ捨てるだけだから構わんけど。


「いいけど、どうする気だ?」

「お師匠と薬学研究所に見せたい」


 あ、そう言う事ね。


 納得。

 クッキーを見た時のエルの反応からして、食べ物に付与されているのは初めて見たんだろうし、だったら詳しく解析したいと思うのは当然だろう。

「見た感じ、誰にでもできるってわけじゃなさそうだけど……恐らく、これも付与魔法の領分だとは思うんだよね。可能性があるなら対策は必須でしょ」


 おっしゃる通りです。


 そして、それは俺じゃできないというか、この国ではまず無理。魔法関係の最先端ともいえるグラフィアスがそれを引き受けてくれるなら、こちらとしては願ったりだ。解析後にその技術をあちらが有効利用するかもしれないけど、それはもう好きにすればいいんじゃないかな。少なくともグラフィアスだったら悪用するような事はしないだろうし。


 その後も少し話して、エルは帰宅した。解析結果については報告してくれるそうなんで、それを待ってからこちらも対策に乗り出す予定。現状、ただのクッキーにしか見えないし、善意(?)の差し入れを止めろと言えるだけの材料はないのだから、仕方がない。


 しっかしまあ、本当に面倒だな。ヒロインって存在は。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ