追放聖女の真実
大陸一の大きさを誇る、トラビア王国。
トラビア王立学園のパーティー会場で、美しき少女セリーヌは、婚約者であり王太子のディランに睨みつけられ、思いきり指を差された。
「セリーヌ、貴様は聖女に相応しくない!! よって、聖女の資格をはく奪!! 王都より追放する!!」
「そ、そんな……で、殿下!! そのようなこと」
「黙れ!! 貴様がエレインにしたこと、忘れたとは言わせんぞ!!」
「うっ……」
「エレインこそ真の聖女!! 貴様のようなニセ聖女は、この国には必要ない!!」
「あ、あああっ……」
聖女セリーヌ。いや、偽聖女セリーヌは追放された。
そして、セリーヌの妹エレインが、真の聖女として崇められることになる。
セリーヌとディランの婚約は破棄され、エレインが新しい婚約者へ。
セリーヌは学園を退学。王都を追放されることとなる。
「エレイン、今まで済まなかった。これからは聖女として……いや、ぼくの婚約者として、傍にいてくれ」
「はい。ディラン……」
二人は見つめ合い、抱き合う。
パーティー会場では拍手喝采。セリーヌをあざけるような視線やヤジが飛んだ。
セリーヌは真っ青になり、顔を隠し……その場から逃げ去った。
この、一連の騒動は国中を揺るがした。
悪女セリーヌ、聖女エレイン。
ディランとエレインは、幸せな学園生活を送っていた。
ディランとエレインの学園生活も、もう少しで終わる頃。ディランは思い出したようにエレインに聞いた。
「そういえば、セリーヌはどうしている? お情けで、追放まで一ヵ月の期間を与えたが、もう国を出たのか?」
「さぁ? お部屋に籠って泣いているのはわかりましたけど。ああ、そういえば家を出るみたいです」
「そうか。ようやくか……ふふ、いいことを思いついた」
「?」
「セリーヌの乗る馬車に、投影魔法装置を仕掛けておく。卒業式に、セリーヌが追放される様を流してやろうじゃないか」
「まぁ、悪趣味」
「だが、面白いだろう? あの悪女がどのような顔で家を出るのか」
「そうですね。もう二度と会うこともありませんし」
「なら、やろう」
こうして、セリーヌの乗る馬車に投影装置が取り付けられた。
そして、卒業式の当日。
ディランたちは学園を卒業。卒業式の挨拶を終え、その時が来た。
『皆の者。私は、悪女セリーヌの元婚約者である。あの悪女がついに、トラビア王国を出る……その最後を、皆で見届けようではないか』
壇上に上がったディラン。
背後には、大きな投影装置があり、馬車の中が写された。
しばらく待つと、そこに写ったのは……晴れ晴れとした顔をした、セリーヌだった。
『あー、ようやくトラビア王国とおさらばできるわ!!』
ニコニコしていた。
馬車に乗ったのは、セリーヌ。そしてお付きのメイドだ。
メイドは、どこか苦笑していた。
『でも、本当によろしかったんですか? 聖女なんて呼ばれていたのに』
『いいのよ。だって、ディランってバカなんですもの。頭でっかちで、私の言うことなんて聞きやしない。知ってる? あいつ、人と話す時、必ず胸を凝視するのよ? 気持ち悪いったらありゃしない』
『それは確かに……』
『だから、あることないこと噂流して、婚約が破談するように仕向けたのよ。ってかあり得なくない? 聖女になったら一日二食で、お肉はなし、一日八時間の祈りとか、バッカみたい。そんなアホみたいな聖女の役目、頭お花畑のエレインに押し付けてやったわ』
『なかなか、大変そうな役目ですね……』
『まぁね。でも、おかげでトラビア王国から出て、隣のリンドバーグ王国に行けるわ。と……来たわね』
『あら、早いですね。今、ドアを開けます』
馬車のドアが開くと、黒髪長身のイケメンが入ってきた。
『失礼。我が姫君』
『遅いわよ、アルフレッド。リンドバーグ王国を案内してくれるんでしょ?』
『ああ。我が国、未来の王妃。飽きるまで案内してやるさ』
『ふふ、あなたの留学も終わったし、これからはたっぷり愛してもらうんだから』
『やれやれ。実に怖い姫君だ。婚約破棄からここまで、全てがあなたの計画通りなんだからな』
『でも……あなたが求婚してくれたことは、私の計画にはないわよ? 本当は、リンドバーグ王国で商売でもしようと思ってたんだから』
『ははは。もちろん、きみが商売をしたいなら手を貸すぞ?』
『じゃあ───……』
と、ここで映像が切れた。
会場内は、静寂に包まれていた。
ディランも、エレインも真っ青になっていた。
全てが、セリーヌの手のひらの上だったのだ。
「…………これにて、失礼する」
ディランは途中退席、エレインは体調不良を訴え倒れてしまったそうだ。
◇◇◇◇◇◇
その後、ディランとエレインは結婚。だが、その結婚生活は上手くいってないらしい。
セリーヌは、隣国の王子と結婚。様々な商売をしてリンドバーグ王国を豊かにし、三人の子供にも恵まれ、幸せな生活を送っているそうだ。




