応援挽歌 32
「また別の部活か? 前のサッカー部、結構馴染んでたんじゃなかったのか?」
高校に入学して、初めての夏は忙しかった。運動部の大きな大会が連続している時期、俺たち応援団もスケジュールが許す限り現地入りして、声を張り続けた。
そんな中で、悠助の姿を最初に見たのは、バスケ部の大会だった。春は帰宅部だったはずの悠助がなぜ、しかも一年でスタメンにまでなっているのか。疑問ではあったが、実際に活躍する悠助を見て、正直俺は嬉しかった。
俺を超える恵まれた長躯。頭も回り、機転も利き、力も速さも兼ね備えている。そんな悠助が、ついに一つのスポーツを選んだのかと。なるほどバスケットボール、彼には最適な選択だろうなと。ある種の感動すら抱きながら、俺は全力で応援した。応援団にあるまじきことだが、いつにも増して、腹から声が出たと感じた。
次にサッカー部の大会で、スタメンとして参加してきた悠助を見て、思い違えていたんだと理解した。
「バイトだよ。頼まれたんだ、助っ人やってくれって。バスケ? 他の大会と被っちゃって。負けたんだってね、残念だよ」
そう言っていつも通り笑っていた悠助を、俺は複雑な気持ちで見つめるしかなかった。
殴りたかったし。
怒りたかったが。
そんな資格はそもそもないし。
悠助の思うところも、少しは察してしまったから。
テニス。陸上。卓球。水泳。バレー。それから野球。悠助はあらゆる大会に顔を出し、目覚ましい活躍を見せた。そして何の未練もなく、次々に別の部活を渡り歩いた。
意外にも、評判は悪くなかった。要領のいい奴だし、上手く立ち回ったんだろう。どんな部活でも、悠助は良好な関係を築き、絆を繋ぎ、そして惜しまれながら去っていった。
人に請われ、期待され、それに応えられるだけの実力がある。けれど、悠助はそれを特別なことだとは思っていなかったし、自慢するようなこともなかった。技術や知識は広く共有し、目上の顔を立てることも忘れなかった。誰にでも興味を持って接し、その力になることをためらわず、そしていつも一生懸命だった。
――なのに、あっさり捨てていく。
何の未練もなく。まるで、ただ道を通り過ぎていくだけのように。
「なんでそんなことを? なんでって……暇つぶし? お願いされたことが、僕にもできそうだったから。だからやった、でいいのかな?」
そんな理由をこじつけていた、悠助の胸中を思う。そこに砂漠のような乾きがあったことは、ずっと前から知っていた。知っているつもりで、理解できているとはとても言えないかもしれないが。それでも悠助が、文武両道の天才が、その手に持たない何かを求めていたことは確かだった。
だって。悠助の視線はいつだって、どこか遠くの何かを、見つめているようだったから――
悠助の存在は、俺にとって、兄さんに近いものだったのかもしれない。
その活躍を応援したい。その努力を称えたい。その勇姿を、その名を、より多くの人に伝えたい。
悠助が、その恵まれた能力をもってすら届かない、何かを手に入れようというのなら。それが何であれ、俺は全力で応援するんだと決意した。
あいつが頑張っていたから。誰もが羨む天才でさえ、頑張っていたんだから。
俺だって、頑張ろうと思えたんだ。
それが、俺の抱いたもの。和知 悠助という親友に対する、嘘偽りのない気持ちだった。




