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冬夜の巫  作者: 真鴨子規
第一章 星と羽翼
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星と羽翼 4

 兄が死んだらしい。

 そんな話を聞かされても、俺には意味が分からなかった。現実味がないというか、そもそも現実なはずがないと思ったからだ。

 野宮のみや 誠一せいいち。弟である俺とは三歳違いで、順当に行っていれば今頃大学一年だったはずの人だ。

 小さい頃、兄と二人で遊んだことを、俺はよく覚えている。

 年齢以上に大人びた人で、弟相手に威張り散らすこともない、優しく頼れる兄だった。

 俺は自分のことを、何も持っていない人間だと思ってきたが。その尺度で言えば、兄は何でも持っている人間だった。

 多くの才能に恵まれていた。勉強もスポーツも誰よりできた。俺のために描いてくれる漫画は市販のものよりずっと面白かったし、俺の誕生会でピアノを弾いてくれるのはいつも兄だった。料理の腕だって、本当は母さんよりも上手かった。

 俺が弓道に興味を持ったのも、先に習い始めた兄の姿に憧れたからだった。だからこそ、兄がやめてしまったとき、俺も一緒にやめたのだが。

 俺はただ、兄の背中を見続けていられたら満足だった。

 優秀な兄が、果たして将来どんな職に就き、どんな活躍をしているのか。ともすれば俺は、生みの親以上に楽しみにしていたかも知れない。

 もしも叶うならば、俺は兄を裏でサポートできる仕事をしたい。そんな風に思うくらい、俺は兄を敬愛していた。誰かを応援していたいという俺の願望の起源は、確かにそこにあった。

 そんな兄が、死んだというのだ。

 昨日、日曜日の夜だった。祝日が重なり、月曜日が振替休日だったから、ようやく掴まえた悠助と深夜近くまで遊んでいた、その帰りのことだった。

 父親から電話が掛かってくるのは珍しかった。遅くなることは言っていたし、穏やかな父から叱られることもないだろうと思っていた。だから必然、何かが起きたんだろうということは、すぐに察したのだが。

 電話の内容は覚えていない。ただ、兄の遺体が見つかったという話の趣旨と、微かに震えた父の声だけが、記憶にこびりついていた。

 今思い返しても変わらない。遊び疲れて、理解力が落ちていたとか、そういう期待もあったが。帰宅して、疲労に任せて泥のように眠って、目を覚ましても、やはり変わらない。

 俺には意味が分からなかった。

 現実味がなかった。

 そもそも現実なはずがなかった。

 だって。だって、兄は。野宮 誠一は。


 三年前、とっくに死んだはずだったのだから。

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