応援挽歌 23
「順を追って説明しましょう」
鬼贄さんの言葉で、内側に沈みかけていた意識が引き戻された。
「おおよそ一年ほど前のこと。規定に基づき、この冬樫市周辺地域は『両儀』と判定され、機関より一人の能力者が派遣されました」
「両儀?」
聞きなじみのない単語を聞き返す。話の腰を折るのは気が引けるのだが、分かったつもりで聞き流してしまうのであれば、ここにいる意味がない。
「端的に言えば、『危険度』を表す段階です」
鬼贄さんは嫌そうな素振りひとつ見せず答えてくれる。もっとも、包帯の下で苦々しい顔をしていたとしても、俺には分からないが。
「両儀、四象、八卦。数字が増えるにつれ、強い擬獣が数多く出現するようになる。ひとまずそれだけ押さえておいてください」
「危険度……」
路地裏の怪異、そして先の人狼たちを思い出す。確かに、あんな連中が頻出するようになった市街地など、危険としか言い様がない。
「通常、機関から派遣された人員と、現地の協力者の二人体制で事に当たり――つまり擬獣を浄化して周り、危険は拭われます。ここ冬樫でも同じような対応がなされ、そして――」
鬼贄さんはそこでひと呼吸置いてから、
「そして、失敗に終わりました。段階は更に引き上げられ、常ではあり得ないほどの速度でもって、この冬樫市は八卦の判定を受けるに至りました。それが今年の夏の話」
失敗に終わった。今年の夏に。例の傷害時件が多発し始めたのも、確かその当たりだ。
「当時派遣されたのは、三鬼家の者で間違いないか」
一星の問いに「ええ」と鬼贄さんは答える。
「彼女と、そして最初の協力者は既に死にました。その二人と、そして八卦へと至った後に招集された三人、この計五人が本件の犠牲者となります。即ち、筆頭『八剣 一臣』、『三鬼 ひのえ』、『香具山 幸丞』、『金城 多恵』、そして『野宮 誠一』」
「――――」
吐き出しかけた悲鳴を、すんでの所で飲み込んだ。急速に脳裏を埋め始めた霧を、かぶりを振って払う。
ほとんど予想通りではあった。ここまでの話の流れから、兄さんの名前が挙がるのは予定調和ですらあっただろう。そんな兄の訃報――もはや三度目となるその知らせに、俺は危うく卒倒するところだった。
今この場で、俺が泣き喚いて取り乱さずにいられるのはすべて、今は亡き兄さんの心遣いのおかげだ。二重の緩衝材を挟んでなお、背中が爆発したかと思うほどのショックだったのだ。これが最初だったなら、俺は醜態を晒すばかりか、その場で舌を噛み切っていてもおかしくはなかった。
本当に、感謝しかない。
静かに深呼吸をし、一時の衝撃を受け流しきって、ようやく落ち着きを取り戻した。そこまできて初めて、場の空気がひりついていることに気が付いた。
目に見える変化があったわけではない。なんとなくそんな気がするというレベルでしかないのに、全身に走る電流を確かに感じていた。
最初に呼ばれていた名前を、なんとか思い出す。
一星の表情を、盗み見る。
「いい。続けろ」
一星は溜め息交じりにそう言って、先を促した。
その表情をなんと言い表せばいいか、俺には分からない。怒っているようにも見えたし、悲しんでいるようにも、単に疲れているだけのようにも見えた。はっきりしないのは、部屋が薄暗いせいというだけではないだろう。
「これほどの死者が出ることは、近代においては実に稀です。そのことと、急速な危険度の上昇は、同じ原因を抱えています。つまりそれが、我々の敵」
敵、と鬼贄さんは明言した。話の流れから、それが擬獣とはまた別の何かであることも明白だった。
「彼らは、自らをチーム『VAX』と呼称する、我々機関とは異なる能力者の集団です。つい今し方、あなた方が遭遇した者たちです」
チーム『VAX』。ヨアヒムと、恐らくは海老原先輩もその一員なのだろう。
「彼らこそが、この地の危険度を上げてきた張本人。彼らは能力者として、機関の意に沿わない擬獣退治を繰り返しています。再三の協力要請、および警告を無視した結果が、八卦という数字の理由です」
思わず首を傾げてしまった。要するに『VAX』は、人を襲う擬獣を倒しているのだろう。その行いがどうして、機関の意に沿っている必要があるのだろう。
一星の言葉を借りれば、擬獣とは『人類を害するために在る天敵。人にとっての悪そのもの』であるはずだ。それを倒してくれるのであれば、『VAX』は正しいことをやっているはずではないのか。
「擬獣は倒すべき敵ですが、無闇に倒してはいけない敵でもあるのです」
俺の疑問に対しては、撫子さんが返してくれた。
「擬獣とは、あらゆる死者が死に際に遺した、思念や無念の集合体なのです。倒したところで思念が霧散するだけで、いずれ再生してしまう。それも、より多くの思念を取り込んだ、より強い個体となって」
ぞっとしてしまった。いや、ぎくっと言った方が近いかもしれないが。そんな内心を余所に、撫子さんは続ける。
「多くの思念を取り込んだ強力な擬獣は、更に多くの思念を呼び込みます。その結果が危険度の上昇――擬獣の大量発生です」
「ちょ、ちょっと待って」
話を遮る形になってしまうのは気が引けたが、それでも言わざるを得なかった。
「それだと、さっきの人狼みたいな連中や、この間の化け物も……」
一星が倒している。それは、もしかしたら、機関とやらのルールに反する行いだったのではないだろうか。
「たわけ」
と、一星は口で一蹴すると同時に、実際に蹴ってきた。さほど力も入っていなかっただろうが、振り抜かれた爪先は的確に泣き所を襲った。
「い、痛いんだけど……」
「そんなもの、弁えていないわけがないだろうが」
一星に、今度は明確に怒り心頭という顔で、睨み付けられた。
「八握剣は神剣、最強の界装具だ。擬獣の思念を散らすことなく斬り捨てる程度、造作もない」
心外だ、と心の底からくだらなそうに一星は言い捨てた。
杞憂、つまり問題ないと聞いて、ホッと胸をなで下ろす。鬼贄さんが敵と明言している集団と、同じ轍を既に踏んでいたとなれば、悪い冗談としか言い様がない。最悪この場で、目の前の二人との争いに発展しかねなかっただろう。
「話を戻しますが」
俺たちのやり取りを冷ややかに見送りながら、鬼贄さんが仕切り直した。
「ともあれ、我々は彼らと敵対した訳ですが、当初はさほど問題視されていませんでした。というより、このような事例はもはや珍しくもないのです。そもそもそういった敵対勢力の掃討もまた、機関の仕事の一つなのですから」
それが、一つ目の過ちでした、と。鬼贄さんの言葉に呼応してか、撫子さんも瞼を伏せた。
「時間を与えすぎたのです。後手に回ったのは否めません。彼らは新興でありながら無視し得ない勢力を有し、途轍もない勢いで擬獣を狩り続けました」
鬼贄さんは言い訳じみたことは言わなかったが、聞く限り仕方のないことだったようにも思える。
お国柄というべきか、人と人との衝突をなるべく避けようという気質は、俺たちの国ではかなり根付いていると思う。よく言えば協調性があり、悪く言えば事なかれ主義。増えすぎた人口、多様性を極める個々がひしめく巷で、広く浅く心地よい友好関係を築くには有効な手法だ。
それに。頭ごなしに否定できることだったろうか。
例えば、大切な人が、守りたい人が、目の前で擬獣に襲われていたならば。
「彼ら『VAX』と、機関に属する我々が衝突するのは時間の問題でした。八卦への格上げ、そして敵対勢力の存在を慮り、機関は八卦陣――つまり都合八人の能力者を招集し、事に当たらせることを決定しました」
八卦、だから八人なのだろうが、その数字にどんな意味があるのだろうか。興味本位で聞いてみたが、撫子さんにあっさりと「ただの験担ぎですよ」と返されてしまった。
「おおよそ一ヶ月に渡った闘争の結果は、先ほど述べた通りです」
鬼贄さんが続ける。
「両陣営共に半数以上の人員を失い、一時休戦、戦力の補充を余儀なくされました。我々は現状四人のみですが、『VAX』は既に戦力を揃え終えた様子です」
「四人……」
ここにいる鬼贄さん、撫子さんと、光永会長、加えてもう一人で、四人。八卦陣が八人というのなら、今は四人の欠員が出ている状態、ということになるだろうか。
「今の敵の勢力はどれほどだ?」
「八人ですよ」
一星が尋ねると、鬼贄さんは淀みなく答えた。
「八人? 確かか?」
「はい、ちょうど八人です。それが、彼らが始めたゲームの設定ですから」
再度の質問に対する返答で、俺と一星は同時に首をひねった。
「ゲームです。それが、この件における異質さの基盤と言えるでしょう」
鬼贄さんが合図をすると、撫子さんが一枚の紙をテーブルに広げて見せた。大判のそれは、冬樫市とその周辺の地図のようだった。
「概算でこの地図がすっぽり覆われるほどの範囲に、ある結界が張られています」
「結界? 敵の手によるものか?」
「はい。その結界の中で行われるバトルロワイヤル――つまり、殺し合い。それが『前期のゲーム』でした」
結界といえば馴染みこそあるものの、こうして現実の出来事として話に出てくると違和感しかない。それこそ、クローズドサークルを題材としたテーブルゲームじゃあるまいし。
いや、ゲームなのだ。確かにこれはゲームなのだ。ただ実際に、人の命をも害する性質を持っているというだけで。
「結界は出入り自由、中にいても危害を加えられることはない。ただ、結界内の能力者は制限を受けます。即ち、術者によって設定された二陣営、それぞれに属する計十六人。それ以外の能力者は、一切の能力使用を禁じられる、というものです」
なんだと、と。そう漏らす一星は、驚きを隠せないという様子だった。
「これほどの広範囲を覆う結界、そして限定的とは言え能力を封じるという強力な効果。相当な手練れの仕業だと言わざるを得ません」
「何者だ? そんな芸当、機関の主要家ですらそう真似できることではないぞ」
「術者の素性は不明です。GM、ゲルトと呼ばれていることは確認できましたが、本人が前線に現れたことは一度もありません」
また新しい名前が出てきた。ヨアヒム、ディターに続けてゲルト。名前だけではなんとも言えないが。確かに、どこかのゲームで聞いたことのあるような並びだと思った。
「ともあれその戦いに、我々は敗北しました」
「――――」
思わず唾を飲み込む。その音が、異様に大きく感じられた。
「しばらく小競り合いが続いたあと、敵の本拠地を特定した我々は、最後の戦いに挑みました。即ち、八名中七名を投じた囮部隊と、敵本拠地へ攻め入るたった一人の突入隊に分かれ、戦いました。結果は、先ほど申し上げたとおりです。当時の誰もが予想し得なかったこと――つまり、八剣 一臣の敗北です」
俺に戦術や軍略の知識なんてものはない。敵本拠地へたった一人で攻め入ることの是非や、七名に分かれた側の正しい戦い方も分からない。何がいけなかったのか、敗因はなんだったのか、そもそも無謀ではなかったのか。ここまでの話では、なんとも判断は付けられない。
ただ、結果だけ見れば、それはまったくの誤りで。敗北という最悪の結果を招いたという話である。
「…………」
一星は、黙っている。表情はない。というより、仮面でも被っているかのようにさえ見えた。
硬く、冷たい。激しい喜怒哀楽を見せることの少ない一星だが、そうだとしてもその表情は重く、見ているだけで息が詰まりそうになる。
「前期のゲーム、という話でしたよね」
溜め息を吐く代わりに、俺から問いを投げた。
八人中五人が帰らぬ人となり、敵の本拠地も落とせなかった。それは確かに、敗北したと言って間違いないだろう。
ただ、負けたとは言え、現に鬼贄さんたちは再起を図っている。『前期のゲーム』という言葉からすれば、彼女たちは『今期のゲーム』に挑もうとしているはずだ。
「つまり、まだ詰んではいない。仲間が何人倒れようと、諦めるつもりはないと」
「そうですね」
鬼贄さんは頷くこともなく肯定した。
「やり直しが利く。その状況が不思議だと、仰るわけですね、一格さん」
名前を呼ばれて、一瞬たじろぐ。初対面の女性に下の名前で呼ばれる機会はあまりない。恐らくは、兄の知り合いだからという理由なのだろうが。
「だから異質なのです。命を賭した殺し合いであり、ゲームでもある。この街での戦いにおいて、死や敗北は終わりを意味しません。八人と八人が争い合い、決着が付いたら、もう一度戦いが始まるのです。恐らく、どちらかの戦力が潰えるか、戦意が失われるまで」
少しだけ、不愉快に思う自分を感じる。
ゲームという響きが、状況にそぐわないからだろう。なんとなく不謹慎で、いい加減で、命を軽く扱っている印象を抱いてしまっている。ゲームで負けて死んだのだ、なんて。悪い冗談としか思えないのだ。
「そのゲームとやらに、何の意味がある? 仮に我々が敵を殲滅したとして、再び別の八人を相手取る必要がある、そう言っているのか」
茶番だろう、と一星は吐き捨てた。馬鹿げていると、俺もほとんど同意見だった。そんなことになぜ、双方命を賭けているのか。
「彼らの目的は不明ですが」
鬼贄さんはなおも続ける。
「今期のゲームに関しては、前期とは状況が異なります。前期のゲームにて敗北した我々の側は、ゲームのプレイヤーとしての権利を一つ失っています。つまり、私たちは八人で戦うことができず、七人で戦うことになります」
ペナルティだと、鬼贄さんはそう付け加えた。
そういうことか、と僅かだが得心がいった。この戦いは、双方が望む限り続行されるが、プレイヤー人数という上限が存在するということか。
ゲーム風に言えば残機だろうか。負ければ負けるほど不利になり、いずれはプレイヤーの数が潰え、最後にはゲームを続行することが物理的に不可能になる。
「最終的にはどうなる?」
一星も同様に理解したのだろう。今の俺と同じ疑問を提示した。
「我々が完全に敗北した場合、このゲームの根幹、舞台装置となっている結界が恒久化する、と聞いています。それだけでなく、この結界は徐々にその範囲を広めつつあります」
鬼贄さんの説明だとやや意味を掴み損ねたが、
「能力の独占か」
「はい。そのような結果に繋がるでしょう」
一星の質問で理解した。その意味も、深刻さも。
ゲームの参加者しか能力を行使できない結界が恒久化し、その上で次のゲームも行われないとなれば、『自分たちしか能力を使えない』という独壇場ができあがる。敗北したこちら側は、二度と手出しができなくなってしまう。
「愚かだな。自身らの力を過信する『VAX』とやらも、それに敗北したお前たちも」
一星の言葉には同意をしながらも、発言には賛同しかねた。
「一星、それは」
「機関の、組織としての驕りか。支配しているのは、優れているのは己であると決めつけ、慢心に気付かず戦い、当然のごとく破れた訳か」
止まらない一星に視線を投げ、そして圧倒された。
一星はまさしく怒りの形相で、両目を見開き鬼贄さんを睨み付けていた。歯が砕けそうなほどに食いしばり、小さな両手を震えるほど握りしめていた。
例えば海老原先輩のような怒り方とはまた違う。上手く言語化できないが、そう、決して許せない蛮行を目にしたかのような。
「否定はしません」
貴方の言うとおりです、と。鬼贄さんはそう言い、撫子さんも重く瞼を落とした。
「それが――」
怒りのあまり、一星は言葉を詰まらせた。
止まれないようだった。一星は今にも、両手で頭を掻き毟りでもしそうな剣幕で、瞳を冷たく輝かせている。
「言い訳の弁があるなら聞くが」
「いいえ。前期のゲームに関しては、言い訳の余地もなく、我々が敗北したのです」
潔く過失を認める鬼贄さんの姿を見てなお、一星の怒りは収まらない。
「何が前期、何が今期か。後があると思うから、そのような体たらくを容易に晒すのだ」
上手く言葉を掛けるタイミングが掴めない。燃えさかる炎をいかに鎮火させようかと、水場に向かうことすら忘れてあたふたしている。そんな自分の姿ばかりが脳裏をよぎっていた。
「長きに渡り機関が、この国の能力者を牽引してきた歴史は、何者よりも強く、あらゆる敵を正面から粉砕してきた、隔絶した実力あってこそだ。何より、筆頭たる八剣家と、八剣の振るう神剣『八握剣』こそ、無敵にして最強の象徴だった。お前たちに分かるか? それがどれほど偉大で、誇り高く、犯しがたい御旗であったか。我々が成すべき絶対正義には敗北など、世界が終わろうともあってはならない。ならなかったのだ」
なのに、負けた。
お前たちは、決して負けてはならない勝負に負けたのだと。
「いかに世界に平和が訪れようと、生命ある限り擬獣は生まれ続ける。見る影もなく衰退した今の機関と言えど、擬獣を討つという役割がなくなることは決してない。我々の存続が危ぶまれるとは即ち、世界の均衡が危ぶまれるも同然なのだ」
一星の怒りは理解できる。義憤、責任、使命感、きっとそのようなものなのだろう。
強者として、守られるのではなく守る側としてあらねばならない。そういった理想をずっと叶えてきたのが、一星の家系なのだ。それを当代で、よりにもよって自分の兄が、最悪の形で崩してしまった。
そしてその片棒を担いだ生き残りが、目の前の二人であると。一星の目には、きっとそんな風に映っているのだろう。
「理解できるか。分かっているのか。お前たちと、そして八剣 一臣の犯した罪、その重さが。八人が八人雁首揃えて、一生掛けてなお償いきれないほどの大罪を、死んで贖うことすらできないだと? どれほどの厚顔無恥であるならば、そのような無様を晒すことができるのか」
苛烈まくし立てる一星の言は、恐らく正しいのだろう。ゲームはなおも続くとは言え、その被害は決して軽いものではない。失われた人の命も、これから失われる人の命も、すべて尊ばれるべきものだ。守るための力を持ち、守るだけの使命を帯びて、なお敗北してしまった事実は、組織として見逃す訳にもいかないのだろう。
だが、それは果たして、一星や俺が言っていいことであっただろうか。
仮に、自覚が足りていかなったとして、それでも彼ら彼女らが命懸けで戦ったことに変わりはない。必死で戦い、懸命に抗い、及ばず敗退した。その責を、後から来た俺たちが追求していいものだろうか。
口を挟むべきか俺が迷っている最中であっても、鬼贄さんと撫子さんが一星に言い返すことはなかった。紛れもなくそれは、負けた自身らに対する不甲斐なさ、憤りに満たされている証拠ではないのか。
こうではない。そうではないのだ。他者と繋がり、手を取り合うというのと、一星がやっているのは違うのだ。
「情報共有には感謝しよう。委細承知した。だがここまででいい。今後我々が、お前たちと協調することはない。『VAX』を名乗る輩八人そのすべて、この手で必ず処断してくれよう」
言い切るやいなや、一星はきびすを返し、もと来た扉へと進んでいった。
一星が告げたのは、決別。
敵が仕掛けているゲーム、七人の仲間、それがどうした、と。ただ己の力のみで、敵勢力を払い退けよう。一星はそう言っている。
確かに、先ほどの言葉に釣り合う啖呵としては、これ以上なく相応しいのかも知れない。そう思いながら俺は、足早に出て行く一星の後を追い始める。
一星の、同い年とは思えないほど小さな背中を、追い掛ける。




