星と羽翼 2
「なにをぼけっとしてるんだい? 一格」
どんどん小さくなる修道服を、いつまでも見送っていたものだから。
後ろから突然話しかけられて、思わず飛び上がりそうになってしまった。
「悠助」
「やあ、お待ちどう」
振り向くと、声の主は気さくに挨拶などしてきた。
男――和知 悠助は、丸眼鏡の向こう側から、年齢以上に幼く屈託のない笑みを送ってきている。
小学校から見知った同級生は、背丈こそ追い抜かれてしまったが、それ以外の部分はまるで変わっていないように見える。
もっとも、お互いあまりに一緒にいすぎているから、緩やかな変化には逆に気づけないのかも知れない。正直俺には、悠助がいつ声変わりしたのかも分からない。きっとあっちも、似たようなものなのだろう。
「誰だい、今のシスター。コスプレイヤー?」
しっかり見られていたらしい。悠助は好奇心を露わに、身を乗り出して聞いてきた。
「いや、その」
思わず言い淀んでしまった。
別にやましいことがあるわけではないし、偶然目を付けられて布教されただけなのだから、そう言えば良かったのだが。
なんというか。男として、見てはならないものを見たような気になっていた。
「ははあ」
答えあぐねている俺を見て、悠助は訳知り顔で苦笑いを浮かべた。
「節操がないね、一格」
グサリと。槍が心臓に突き刺さったような衝撃が走った。
全身から血の気が引いて、両脚から今にも崩れ落ちそうだった。
「違う、誤解。そういうんじゃない」
「誤解? そうなの?」
「巨乳なら誰でもいいわけじゃないんだ!」
「…………」
ええ? と。
悠助は目を丸くして、直後に笑い出した。
ゲラゲラと。それはもう大笑いだった。
涙さえ浮かべてやがる。
「違う違う、それこそ誤解だ! 節操がないって、そういう意味で言ったんじゃないよ」
「なんだよ、紛らわしい。あと笑いすぎだろお前」
「君が唐突に性癖を暴露するからだろ! やめてやめて、腹筋が死ぬ!」
ついに腹をよじって笑い出す悠助を見て、顔が熱くなっているのを感じた。
またも周囲の視線を浴びながら。やめてくれお願いだからと、悠助の腕を引っ張って、その場を離れることにした。