星と羽翼 プロローグ
頑張れ。
頑張れ。
頑張れ。
流れ出る血の量に比例して、急激に冷えていく体温を感じながら。俺の頭にあったのはただ、目の前で死闘を続ける少女への応援だけだった。
勝って欲しい。
報われて欲しい。
生き続けて欲しい――頼むから。
彼女は、頑張ってきたのだ。
誰より苛烈に、誰より痛烈に。努力を重ね、才能を磨き、強く、強く、強くなろうと、その小さな身体で、ひたむきに駆け抜けてきたのだ。
出会ったのはつい最近だ。俺は彼女のことを、何も知らないと言ってもいい。
でも、それでも分かることはある。
いや、きっと俺が思う以上に、彼女は必死で生きてきたのだ。
この世界で。こんなにも辛くて、苦しくて、生きていくだけでも大変な日々を。歯を食いしばり、時に涙しながら、これまで生きてきたのだ、きっと、きっと、きっと。
だから負けないで。
苦しまないで。
死なないで――お願いだから。
恐ろしい怪物が。どんな図鑑にも載っていない化け物が。裁断機のような爪を上げ、断頭台のような牙を剥き、彼女を引き裂こうと迫っている。
息が切れつつある。
流血が止まらない。
手にしている刀は錆び付いて、鞘から抜くことさえできない。
もう後がない。
もう時間がない。
もうすぐ、彼女が死んでしまう。
殺されてしまう。
そのときが、思い描ける最悪の最期が、今にも訪れようとする中で。
俺の意識もまた、泥に沈むように途切れ始めた。
視線を落とす。
抉り取られた腹部の痛みすら、今はほとんど感じない。
震えそうなほど寒いのに、身体は少しも動いてくれない。
唐突に。
今日の朝、目覚めたときのことを思い出す。
何でもない日常が、いつも通りに始まったはずだった。早くも薄れ始めていた夢の記憶を思い起こしながら、ベッドの上で伸びをした。
あれから、今まで。
俺は何か、間違えてしまったのだろうか。
何かをしなければならなかったのか。
一体全体どうしたら、ここまで酷い結末を、迎えずに終わることができたのか。
八つ当たりのように思い出す。
最後の力で思い返す。
息絶え絶えで、とっくの昔に死に体で、――それでも。
右手はずっと、兄さんの形見の御守りを、握り締めていたらしい。