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冬夜の巫  作者: 真鴨子規
第一章 星と羽翼
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星と羽翼 プロローグ

 頑張れ。

 頑張れ。

 頑張れ。


 流れ出る血の量に比例して、急激に冷えていく体温を感じながら。俺の頭にあったのはただ、目の前で死闘を続ける少女への応援だけだった。

 勝って欲しい。

 報われて欲しい。

 生き続けて欲しい――頼むから。

 彼女は、頑張ってきたのだ。

 誰より苛烈に、誰より痛烈に。努力を重ね、才能を磨き、強く、強く、強くなろうと、その小さな身体で、ひたむきに駆け抜けてきたのだ。

 出会ったのはつい最近だ。俺は彼女のことを、何も知らないと言ってもいい。

 でも、それでも分かることはある。

 いや、きっと俺が思う以上に、彼女は必死で生きてきたのだ。

 この世界で。こんなにも辛くて、苦しくて、生きていくだけでも大変な日々を。歯を食いしばり、時に涙しながら、これまで生きてきたのだ、きっと、きっと、きっと。

 だから負けないで。

 苦しまないで。

 死なないで――お願いだから。

 恐ろしい怪物が。どんな図鑑にも載っていない化け物が。裁断機のような爪を上げ、断頭台のような牙を剥き、彼女を引き裂こうと迫っている。

 息が切れつつある。

 流血が止まらない。

 手にしている刀は錆び付いて、鞘から抜くことさえできない。


 もう後がない。


 もう時間がない。


 もうすぐ、彼女が死んでしまう。


 殺されてしまう。


 そのときが、思い描ける最悪の最期が、今にも訪れようとする中で。

 俺の意識もまた、泥に沈むように途切れ始めた。

 視線を落とす。

 えぐり取られた腹部の痛みすら、今はほとんど感じない。

 震えそうなほど寒いのに、身体は少しも動いてくれない。


 唐突に。

 今日の朝、目覚めたときのことを思い出す。

 何でもない日常が、いつも通りに始まったはずだった。早くも薄れ始めていた夢の記憶を思い起こしながら、ベッドの上で伸びをした。

 あれから、今まで。

 俺は何か、間違えてしまったのだろうか。

 何かをしなければならなかったのか。

 一体全体どうしたら、ここまで酷い結末を、迎えずに終わることができたのか。


 八つ当たりのように思い出す。

 最後の力で思い返す。


 息絶え絶えで、とっくの昔に死に体で、――それでも。

 右手はずっと、兄さんの形見の御守りを、握り締めていたらしい。

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