バーチカルキューピッド
迷走中...
レストランに入ると、沢山の人がいた。
「空いてるかな...」
「空いてなければ別のところに行くだけよ」
そんな話をしていると店員さんが駆け寄ってきた。
「お客様、何名様でしょうか?」
「2名です」
「了解しました。あちらのお席をどうぞ」
そう言って店員さんが案内してくれたのは窓際の席だった。確かにそこだけ穴が空いたように席が空いている。
「いいじゃない、ちょうど窓際が空いてたのね」
スタスタ歩いて席に着く。
窓の外に見えるのは真横にある広場に駐車場、そして...
「こうして見るとでっかいな...明野高校。」
我らが明野高校の校舎と空戦科の格納庫だ。
残骸回収車も沢山見える。
「さ、注文は何にしようかしら?
あなたから選んで?」
「え、俺?」
「どうせ私が払うって言っても断るでしょう?
ならあなたより高い物なんて頼めないわよ」
「いいのに...わかった。俺は決まったよ。」
「どれどれ?ああ、それね。了解。
じゃあ私はこれね。」
「決まったな?」
ということで店員さんを呼んで注文を済ませる。
ドリンクバーは要らないとのことだったので頼まなかった。
「水持ってくるよ。」
「私が行ってくるわ。やってもらいっぱなしも悪いしね。」
琴音はそう言って水を取りに行った。
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同時刻の同店内。
「ここまでは別に普通のデートね。」
「これから大事なとこなんですよ」
ヴァレンタインとその女友達が喋っている。
何やら秘密があるらしい。
「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」
「ああ、私は...」
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「はい、どうぞ」
「ん、ありがとう。」
しばしの沈黙。
何か会話のネタを探そうと鷲が頑張っていると、不意に琴音が口を開いた。
「あなたが乗ったYakね、私がああしてって言ったの。」
最初は何を言っているのかわからなかったが、少し間が空いて理解できた。
「ああして、っていうのは武装のことかな?
Yak-9UTの正規武装の23mmじゃなくて37mm機関砲に変わってた奴」
「そうよ。...何か思い出した?」
そう言って琴音は心配そうな顔で見つめてくる。
どこかで俺はこの目を見ている。
そんな気がした。
「...何かって...?」
「...そう。あの機体はあなたに関係がある機体なのだけれど...」
決勝で俺に勝った機体、ということを言いたいんだろう。
たしかにスポ空は人気があり、テレビでの中継や空域の近くの人たちが見物に来たりする。
県大会以上ともなれば大々的に放送され、新聞にも載るほど...なのだが、普段の言動からして琴音がそんな事を知っているとは思えないが...
「もしかして知ってるのか...?あの大会の時の事を」
「...そうね。」
意味ありげに俯いて呟く琴音。
「意外だな...?」
そこで注文していた食事が来た。
ここの店長...印象を一言で言うなら少し怖い感じの人で、サングラスをかけている...が直々に運びに来てくれている。
どうしてわかるかって?
ネームプレートに「店長」と、そう書いてあったからだ。
「お待たせいたしましたー。マカロニグラタンとカフェオレ、ハンバーグのイタリア風ソースとブラックコーヒーですねー」
と言うとグラタンが琴音の所に、ハンバーグが俺のところに運ばれてきた。
そう言って店長はにっこり笑う。
こう見るとこの店長さんは優しそうにも見えるなぁ...。
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食事中、なんとなく視線を感じたりもしたが、少し会話したりして普通に過ごせた。
ーここまでは順調、かー
会計の時、代金を支払おうとしたら店長さんがこう言ってきた。
「いいんですよ!いつも見ていてファンなんです!サービスですよサービス!」
「うぇ⁉︎いえいえとんでもない!
すごくおいしかったので払わせてください!」
申し訳ないので(半ば押し付けるように)会計を支払い、店から出ようとすると店長さんが色紙とサインペンを持ってきてこう言った。
「あ、ちょっと待って!サイン、サインちょうだい2人とも!」
「「え?」」
「ダメかな?あ、いや、強制はしないよ!
あと2人のお墨付きの味って書いてもいい?」
俺たちって、そんなに影響力あるんだろうか。
隣を見ると目を輝かせた琴音がいた。
「全然いいですよ!大歓迎です!やったね鷲くん、私たち有名人だよ!」
「有名人になってた、な。
...サインとかないんですけど、写真とかでもいいですかね?記念写真みたいな」
「おお、いいんですか?やったー‼︎‼︎」
パシャリ。
記念写真はどうやら店内の会計の所に貼るらしい。
店を出ると「また来てねー!」と言う声が後ろから聞こえてきた。本当に...優しそうな店長さんだ。
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「暗くなってきちゃったわね...」
空がもう赤い。太陽はもう沈みかかっているような時間だ。
こういう時、ついつい空を見上げてしまう。
昔からのくせだ。
しかし、今日の空はいつもとは違った。
「なあ、なんかレシプロ機の音がしないか?」
「なんか飛んでるわよ?」
「おかーさん、アレ何?」
「綺麗な編隊飛行じゃのぉ」
周りもざわついている。
なんだろう。
目を凝らしてみると...ウチの学校の機体がスモークを焚きながら編隊飛行をしていた。
「何やってんだ?」
「さあ?」
まるで練習でもしていたかのように綺麗に散開していく。
二機が曲線を描いていく。最後に線が交差し、できた形はハートだった。
そこで俺は何をするか分かった。
琴音も横で見ている。
...だけだと思っていたら違った。
手を握るならまだわかる。
よっかかってくるのもわかる。
しかし腕を組んでくるのは反則だと思う。
琴音の胸はそこまで大きくないが、心臓の音が伝わってくる。少し鼓動が早い気がする。緊張しているのだろう。
周りの人のザワつきも静かになってきた気がする。
空を見ると、ちょうどハートを描き終わるのを待っていた三番目の機体がハートの真ん中に線を描いている所だった。
少し途切れさせて、またスモークを焚く。
撃ち抜かれたハート。
「キューピッド」と呼ばれるアクロバット飛行。
...今日何をしてたかバレてたのか?
隣の琴音は、更に腕をきつく組んでこう言ってきた。
「ありがと、付き合ってくれて。」
耳元で、囁くように。
その時の琴音は、まるで天使のような笑みだった。
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「んーっ!ただいまー」
「ただいまー...」
「「おかえりー」」
家に帰ると聞き覚えのある声が二つ。
この声は...海月?とヴァレンタインかな?
リビングに入るとやはりその2人がいて、「お邪魔してまーす」と軽く挨拶してきた。
「どうでした?楽しめました?」
「どこまでいったんですか?詳しく話を」
「しません。明日は空戦の練習を申し込まれたんで休む。起きてるならどーぞー。あったかい飲み物とかお茶菓子はそこの棚にあるから」
「寝ちゃうの?」
「ん」
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「あの部屋は?」
「寝室ね。ベッドは一つだけど」
「え⁉︎じゃあベッドひとつに2人で寝てるの⁉︎」
「声が大きいわよ。静かに...別にそんなことしてないわ。鷲は布団で寝てるの。ベッドは女の子が使え、って。」
そう、彼はいつも布団で寝る。ベッドの中に入ってきてもたまになら許してあげようとか思っていても入ってきてくれない。
「そっか。明日は練習ですか?また機体変わるって聞いたんですが?鷲さん達。」
「らしいわね...でもこれまでに乗ってたから機種転換も楽じゃないかーだって。」
「またですかー?」
呆れたようにヴァレンタインが言う。
「いいんじゃない?あの機体なら確かにF8Fにも対抗できるかもだし」
(´∀`*)アヒャ




