パワー・イズ・ジャスティス モア・イズ・ベター
あけましておめでとうございます
間が空いてしまってすみません...
筆が乗らなくなってしまって...
主戦場の高度が下がっていくのを、スポーツ空戦部部長は見届けていた。
状況としてはたった今琴音達の乗るP-51の小隊が鷲の援護に向かった所だ。
「優しいねぇ...あんなの助かりっこないのに」
そう。この部長、他の空域では勝っているのを他より高い高度から見下ろしているため知っているのだ。
だから今は援護に向かう必要はないと判断して、高みの見物を決め込んでいる。
しかし、あることが起きて状況が変わった。
「あれは...!」
黒いスペードが機首に描かれたF8F。
アレが鷲の言っていた全国一位のエースだろう。
「状況が変わった。援護に向かうぞ」
「え?何がーー」
「今鷲に向かったアイツを放っておけば戦場は完全に向こうが有利になる。向こうの部長の機体が来れば鷲達に任せよう...このままじゃ負けるぞ?」
「...ラジャー、ボス」
「やめろよその呼び方...」
部長達が乗っているのは、
スピットファイアMK.XXIIだ。
世界大戦中に生産された中では最後のスピットファイアで、当時世界最強クラスだった戦闘機だ。
それだけあって恐らくF8Fともなんとか張り合えるであろう性能を有している。
「さあ、サーカスの開演だ...皆、心してかかれよ!」
「了解!」
その掛け声と同時にスピットファイアは機体を反転させ、急降下していった。
「右に2、左に2に分かれたか...
シュバルムを崩せ!ロッテで行く!」
そう部長が合図を送ると二機ずつに綺麗に分かれた。
「悪いんだけど鷲にはあの状況を自分で切り抜いてもらわなきゃな...!」
そう言いながら背後につくスピットファイア。F8Fはそれを回避する。
そうしてこの二機は否応なく格闘戦に引き摺り込まれていった。
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F4Uがまた接近してくる。
まだ操縦には問題ない程度の損傷だが、
これ以上弾丸を受ければ機動に何かしらの障害が出るだろう。
「クッ...‼︎‼︎」
一気に操縦桿を引き急上昇する。
...ここからがソ連機の本領だ。 (と勝手に思っている)
時速300kmを切る低速域での格闘戦に持ち込んでいく。
いくらF4Uが艦載機で低速域の操縦性がいいと言っても、5t以上あるその重量は相殺できない。
今も下でYak-9Uの機動についてこようともがいているが、これは自分で首を絞めに来ている。
アリジゴクの巣のように、神経毒のように、ゆっくりとだが着実にその身を蝕んでいく。
機動すればするほど速度が落ちていく。
速度が落ちればこちらが有利になる。
しかもこちらは軽量で、馬力に対する重量の負荷も小さい。そのため速度が落ちづらく、
格闘戦に入ればソ連機は日本機以外そこまで怖くないのだ。
そして万が一逃げようとしても...
「高度2000m...ここからの加速なら負けないさ...」
急降下して、逃げるF4Uを追いかける。
後ろからもさっきまで海月と格闘戦していたF4Uが追いかけてきていたが、どんどん離されていく。
そして追いかけているF4Uに対してはどんどん追いついていく。その設計思想に起因する性能のため低高度での加速、最高速度、機動性に関しては折り紙付きだ。
向こうも回避を開始したためフラップ(高揚力化装置)を着陸角度まで下ろし、限界まで揚力を高めて操縦桿を引き続ける。
人間には血流という避けられない壁があるためずっと負荷をかけていられるわけではない。
かけ過ぎればブラックアウト、つまるところ視界が真っ黒になり、気絶する恐れまである。
一瞬でケリをつける必要があるのだ。
が、この場合はそんな心配はいらないだろう。
目の前にはF4U。
空気の流れを掴もうと必死にもがいているが、
アイツにとっての死神はもう真後ろにいる。
「オーケー、そのままそのまま...」
その死神はずっと照準器を覗き込み、機会を待っていた。
発砲。恐らく十数メートルのところからであろう機銃の雨霰によって、頑丈なアメリカ機といえど数発で胴体が折れ、コックピットからも操縦席が射出された。
「撃墜、撃墜!」
「こちら海月、只今鷲の後方のF4Uを攻撃中。
射線回避をお願いします!」
「了解...吊り上げるぞ!」
後方のF4Uにもまたさっきの戦法の繰り返しだ。
今回は向こうのほうが速度が乗っているため、
スロットルを絞って急上昇する。
射線回避。相手の機首の前に出ないようにロールして機体の軸をずらしていく。
被弾音がした。
左翼から音がしたため見てみると、やはり被弾痕が見られた。
かなりやられている。
「フゥ、フゥ...!」
しかし高荷重に耐えながら操縦桿を引き続ける。
するとあまりの速度差に減速しきれず相手のF4Uは前に飛び出してきた。
しかも前に出されまいと減速したのかゆっくりと。
「これで...終わりだ!」
操縦桿のスイッチを押し込む。
F4Uは機首から尾翼まで機銃で薙ぎ払われ、
水平尾翼が吹っ飛び制御不能に陥った。
「撃墜確実...ハア、ハア...次は?」
流石に連戦はキツい。
元々人間の体では耐えられない負荷を対Gスーツで軽減しながら戦っているのだ。
連戦をしていれば体力の限界もくる。
...操縦桿も軽くはないため手が痺れてきた。
「隊長、帰還しましょう!
ボクは残弾的にも体力的にも限界です...
隊長の機体だってボロボロじゃないですか!」
確かにそうだ。
主翼は両翼ともボロボロ、尾翼も若干被弾したようで反応が遅い。
胴体の被害状況は見えないがきっと穴だらけになっているだろう。
一旦基地に帰投して修理しなければ...
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「...修理に時間がかかる?」
「はい、少なくとも十分以上はかかっちゃいます...予備のYak-9Uでしたら動けるんですが...」
基地に帰投した後は機体の修理と弾薬の補充だ。
基本的に「基地に帰れている状態」、
「地上目標が残っている状態」でなら再出撃は可能なのだ...ちなみに今も機体回収用の特殊な車両が機体の残骸を回収している...チラッと格納庫に目を送る。
そこにあったのは確かにYak-9Uだった。
...しかし一機のみ。
「一機だけ、か...」
「鷲さん、行ってきてください!」
この間の男女別の時に組んだ分隊員が強く首肯してそう言ってきた。
「はい、ボクたちが行ったところで対抗できませんし...何より、空戦が楽しそうでしたから...」
海月も何故か切なそうな表情をしてそう言ってきた。
そういえば、こんなことを前にも言われたな...
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「あなた、楽しそうに空戦をするのね!」
その子はとても可愛かった。
自分の機体を「この子」と呼ぶくらいには自分の機体を大事にしていて、とても素直で、でも俺から見れば強いとは言えない子だった。
それでも、県大会に出場するくらいの実力はある子だった。
「君はどうしていつも機体を換えてるの?」
少女は目をまっすぐ見て質問してくる。
この目で見つめられると何も言えなくなってしまうのだ。
「勝ててるんだからいいだろ?
...何に乗りたいのかがわからないんだ。」
「...そっか。
じゃあ私に大会で負けたら私と同じ機体に乗ること!」
その少女の愛機はYak-9U。
中学2年のこの日俺はこの少女に負け、この少女は県大会を制した。工場の人達が言っていた 、「Yak-9Uが思い入れのある機体」というのが偶然にも合致しているのだ。
あいにく俺はその機体には乗らなかったし、
少女の顔はもう思い出せない。
でもこれだけは覚えている。
この少女が初恋の相手だったと。
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「...さん?鷲さん?」
海月達が心配そうに顔を覗き込んできていた。
海月の顔は美少女に入る部類。
それを間近で見てしまったためドキッとした。
「ああ、悪い...ちょっと思い出したことがあったんでな...」
「さっさと行かないと戦局が...」
「わかってる...燃料は?」
「満タンです!あ、武装が違うのでそこだけ説明を。その機体はYak-9UTの試作型で...」
「短く!」
「37mm機関砲一門と20mm機関砲2門を装備した機体です!」
「了解した!離陸する!」
飛行場から離陸した時に気づいた。
ーあれ、37mmって...まともに当たるの?ー
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2対2、4対4という連携が主な戦場で、
序盤から取っ組み合いになっている機影が二つあった。
スピットファイアとF8Fが互いを射線に捉えようともがいている。
状況で言えばスピットファイアの方が不利だ。
馬力に対する機体重量の比率の関係で、スピットファイアのこの比率は悪くない。むしろいい方に入るのだが...いかんせんF8Fが化け物すぎる。機体重量に対して馬力が大きいことから速度が落ちづらく、格闘戦後半にてF8Fがだんだん有利になっていくのだ。
まあずっと曲がっていられるわけでもないから直進したりするのだが、そこの加速も段違い。
増援が来てくれれば...
「アレは...」
その時見えたのは攻撃機狩りをしているYak-9Uだった。
自分が助けた鷲のYak。
...実はYak-9UTの試作なのだが、部長は知っているはずがない。
「援護が欲しい。来れるか?」
「場所によります」
「真正面だ!」
「うぇ?」
その時正面を向いた時の鷲はこう思った。
ーあ、死んだー
F8Fの機首がこっちに向いていた。
それはすなわち相手の武装がこちらに向いている、ということである。
ソ連機の対弾性能は軽量化のために極限まで減らされている。はっきり言って紙だ。
F8Fの武装、12.7mm機銃4丁をまともに受ければ炎上大破するのは目に見えている。
が、発砲はされなかった。
目の前で火を吹いて落ちていったからだ。
「大丈夫か⁉︎前くらい見てろよ‼︎」
1機のスピットファイアが機体のすぐ横を通り過ぎる。
というか一機しかいなかった。
パッと見た状況では圧倒的性能差によって半端な腕前のパイロットは軒並み堕とされ、部長のみが残ったという感じだろうか。
F8Fの二機が射撃を躊躇っていることから、
相手の弾数が少なくなってきているものだと推測される。
「はい!」
後方に機体を回頭させると部長の機体とF8F 2機が格闘戦を演じていた。
部長はなんとか回避しているが、撃墜されるのは時間の問題と言ったところか。
攻撃機は琴音達のP-51Dやヨッシー達のP-63、先輩方のFw190D-9が殲滅してくれると信じて援護に向かう。
F8Fの1機がこちらに向かってきた。
本当は部長についていっている1機を撃墜したかったのだが...
まあ1機でも釣れたなら上出来だ。
一対一の状況に持ち込めたということは、2対1から比較して負担を軽減できたと前向きに考えられるしな。
「戦闘、開始...!」
時間の関係で出撃できなかった海月達の分まで頑張らなければ合わせる顔がない。
一機も撃墜できずに堕とされるなんて言語道断だ。
正面から機銃を乱射しながらF8Fが迫る。
敵機との距離がある程度縮まったら操縦桿を横に倒し右に機体を傾け、そのあと操縦桿を引き切る。
グッと血が押し下げられていく感覚。
今はGカウンターなんて見ている暇はない。
旋回が完了しようかという時F8Fが見えてきた。
F8Fはこちらが右旋回を開始した時にこちら側に左旋回してきていたらしい。
交差角が極めて大きいが射撃チャンスは射撃チャンスだ。
ーここで仕留めるー
37mm機関砲一門と20mm機関砲二門による強烈な反動で暴れる機首を抑え込みながら射撃する。
射弾の数発が右の翼端をかすったようで姿勢を崩していた。
見てみれば右翼がガタガタになっている。
アレはもう放置でいいだろう。
「一機撃墜!部長、今からそっちに向かいます!」
「助かる...!」
見れば向こうはこっちと違い、格闘戦が長引いているようだ。
単純旋回では不利なためロールを挟み、射線をずらしながらチャンスを待っているように見えた。
部長を追いかけているF8Fが通り過ぎ様にこちらに向かって発砲してくる。
数発に1発仕込まれた曳光弾が、光を纏いながら操縦席の真横を飛んでいく。
しかし奴も追いかけられている身だ。
正確に当てられるように照準するような時間はなく、操縦席の真横を通り過ぎるのみで終わった。
「被弾なし、追撃を続行します」
機銃の雨霰が目の前で展開されている。
それでも多少の被弾で済んでいるあたり、流石部長だ。
「ふぅ〜〜...」
照準器を覗き込み射撃準備をする。
一対一の時はそんな暇はなかったが、今は部長が引きつけてくれている。(というか勝手にさせている)
が、ここでもそんな暇はなかった。
照準器を覗き込んでいる間に視界から機体が消えているのだ。
「チッ...」
「照準器は軽く見るくらいでいい!
覗き込んでいたらチャンスを逃すぞ!」
「わかってますよ!」
強がりだ。
機体を上下反転させた時、真下からF8Fが突き上げてきているのが見えた。
機体を真横に向け、被弾面積を小さくする。
万が一コックピットに命中してきてもコックピットのガラスは75mm機関砲の砲弾すら通さないため安心できる。
F8Fは俺の機体を通り過ぎ、なおも上昇を続けている。
俺は愛機の機種を急激に上げ、F8Fの動きを追う。
凄まじいGがかかり機体が上を向く。
またF8Fは反転してきた。
機体を上に向けてスロットルを落とし、機体が飛行できるギリギリかそれより低い速度で操縦桿を引く。
失速反転と呼ばれるその機動は速度が大幅に落ち、スピットファイアに撃たれやすくなるのでこの状況では基本的に悪手となる...はず。
しかしこの状況では違う。
F8Fの圧倒的な機動性と加速力のせいで逃げ切られてしまう。
戦闘開始から高度は2000mほどに留まっている...低高度も低高度なこの高度なら...いや3000mでも4000mでもだが、ソ連機の本領を発揮できる。
F8Fも低空特化だが、根本的な違いがある。
重量、エンジン出力、設計思想、
それに...この状況に限れば味方がいる。
「今スピットで追いかけてるが、追いつけそうにない...鷲、行けるか?」
「了解...!」
スロットルを開くだけならバカでもできる。
限界速度に気を付けながら増速していく途中でだんだん相手の機影が大きくなってくるところを見ると、加速はこちらが有利らしい。
そのまま迫ろうと思ったが限界速度が近づいてきていたためスロットルを落としていく。
最高速度はF8Fの方が有利だ。
「任せろ」
部長の機体が上を通り過ぎていく。
そのままF8Fの方へと降下していった。
気付いたF8Fは致命的なミスを犯す。
反転する、という最悪の手を。
まず俺と正面からヘッドオン(正面から機銃を撃ちまくる)になり、F8Fは武装で不利なため回避する。
ー何故だ?機首には黒いスペードが描かれているからアイツで間違いはないはずだ。何故あそこで反転した?あいつがあの状況で理由もなく反転するはずがない。理由があるはずだ。探せ。なんだ?...まさかー
ちなみにアイツとはさっきの全国一位のことである。
後ろを向けば...いた。
真後ろにガタガタにになった右翼を引きずってF8Fが追いかけてきていた。
さすがはアメリカ機、と言った頑丈さだ。
...じゃない。感心している場合ではない。回避しなければ。
「部長!後ろです!」
少し遅かった。部長の機体には多数の被弾痕が見られ、胴体も穴だらけだった。
なお、その後は部長が追撃し撃墜したが、部長の機体は燃料漏れを起こしたらしく基地へ帰投することとなった。
戦場には俺が残り、全国一位との一騎打ちだ。
すれ違ったまま飛行場の方へとまっすぐ飛び続けているため遠距離からの狙撃を試みる。
小気味のいい発射音が砲弾を送り出していく。
「うわっ...すげえ音...」
ガウンッ!ガウンッ!と言った感じだろうか。
そんな感じの大音響が辺りに響く。20mm機関砲の音も十分凄まじいのだが、37mm機関砲の音が特に強烈だ。マズルフラッシュ (発砲炎)も大きい。
こちらからは小さく見えていたF8Fに対して、三門の機関砲から放たれた砲弾がまっすぐ進んでいく。
そのまま胴体後部へ直撃し、砲弾が機体を真っ二つにへし折った。当然コックピットは放出される。
完全なラッキーショットだった。
攻撃機達は狩り尽くされ、戦闘の勝利は目前となり...補給しに基地に向かっている間に告げられた。
「戦闘終了。我々の勝利だ。」と。
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攻撃機を狩っている間に撃たれた機銃痕を見て、琴音は思う。
ーあとどれだけ耐えられるのかしらー
P-51は機体の構造自体は頑丈だ。
しかし弱点がある。
長大な航続距離を求めて設置された翼内の燃料タンクだ。
そこに被弾すればたちまち火だるまになって撃墜されてしまうだろう。
最後に目についた機体に攻撃を仕掛けようとした時、無線からこんな言葉が流れてきた。
「君たちの勝利だ。負けたよ」
と。
今回のはちょっと失敗したなと思いました。
なんていうんでしょうか...見栄えがない?
あまりかっこいいと思えないなーと個人的に。
こうしたらいいよとか機体のリクエスト、誤字の指摘などいつでもウェルカムです!
何かあればよろしくです




