閑話 勇者召還
登場人物の名前を一部変更しました。
「兄さん!!」
私たちが、警察を振り切ってようやく倉庫にたどり着いたとき、兄さんはすでに奴らを皆殺しにしていた。その惨状を見て吐き気が込み上げてくる。私は兄さんと違って、おじいちゃんの厳しい修行を受けていない。だから、人が死ぬことに慣れていない。他の皆も少なからず顔をしかめている。中には本当に吐いてしまった人もいた。兄さんはそんな私たちを見て悲しそうな顔をしたと思ったら、クルリと身を翻して去ろうとした。
「待って兄さ「近寄るな」ッ。」
私の言葉を兄さんが遮る。その言葉はあまり大きくなかったが重みのある声だった。兄さんはそれから、血に濡れた刀を私たちに見せるように掲げ、
「それ以上俺に近付くな、近付いたら…俺はお前らでも容赦なく切るぞ。そして、俺にこれ以上関わるな…。」
兄さんはそう言い残し、去ろうとする。私には分かる。きっと今、このまま兄さんをいかせてしまったら、もう二度と会えなくなる。そんな気がした。
「兄さん!待…」
私が呼び止めようとする。だが、その声が兄さんに届くより早く、光が私たちを包む。
「おお、成功です。召還に成功しました!!」
そんな声で、目が覚める。どうやら、意識を失ってしまっていたらしい。周りを見ると、豪華な絨毯が敷かれた広場のような場所だった。
「ううん、ここは?」
「え、どこ、ここ…」
皆も起きて、状況に戸惑っている。そういう私も頭は冷静なようで、体は放心状態だ。
「おお、勇者殿達よ。召還そうそうで悪いのだが。頼みたいことがあるのだ。」
中心の豪華な椅子に座っているおじさんが私達の様子なんてお構いなしに話し始める。
「勇者殿たちには、我が国を魔族の恐怖から救って貰いたいのだ。」
この人…国王の話しによると、この国、アルト王国は、魔族と言う極悪非道の種族と戦争をしているらしい。だけど、魔族の圧倒的な力により徐々に追い詰められているらしい。このままでは、魔族によりこの国は滅んでしまうと恐れた。なので、異世界から勇者と呼ばれる強い人を呼んで助けて貰おう。と考えて、私たちを呼んだらしい。元の世界に帰る方法は自分達は知らないが、あらゆる魔法や魔術に長けた魔族ならば、知っているだろう。といった話だった。
はっきり言ってしまえば、とても胡散臭い。特に帰る方法のところが、テンプレートすぎる。この王様が言っていることは十中八九嘘っぱちだろう。
だけど、突然こんな世界に喚ばれて、この世界のことを何も知らない今の状況はとても危険だと思う。ここは、あまり早く決断をしない方がいい。
「国王様、私たちも突然のことで戸惑っています。少しだけでいいのでお時間をいただけないでしょうか。」
私はできるだけ失礼にならないように慎重に言葉を選びながら言う。
「おお、これはすまない。勇者殿達は召還されたばかりで混乱しているのだな。少しと言わず今日の所はゆっくり休むといい。答えは明日、聞かせて貰おう。よい返事を期待しておるぞ。」
そうして、国王との初めての謁見は終わった。
◆◇◆◇◆
「はぁ、いったいどうなってるんだか。訳がわからないぜ。」
日本では珍しい、炎のような真っ赤な髪を持つ少年が呟く。
ここは国王との謁見の後、休むように言われ、与えられた部屋の一室だ。とりあえず皆で集まろうという話しになり、他の勇者の人達とは別れた。
ちなみに勇者は全員で12人いて、うち6人が私たち友達同士で、他の人たちとは初対面だった。
さっきの赤毛の彼はリントくん。昔は少し尖っていた時期もあったけど、今は丸くなっている。ちなみに赤毛は地毛だそうだ。
「まったくだ。異世界召還などフィクションとばかりおもっていたんだが、こんな景色を見せられたら信じるしかないな…。」
そう呟くのは、メガネをかけてクールな雰囲気を纏っている、マサユキくんだ。学校のテストではいつも一番で、生徒会副会長も勤めている。ちなみに、運動音痴らしい。
そんなマサユキくんが、眺めているのは窓から見える景色だ。その空には色がそれぞれ違う7つの月が見えていた。
確かに私達が知っている地球には、あんなに月はない。ならば、ここが異世界という話にも説得力がでてくるだろう。
「でもさ、なんだかこういう展開すごくワクワクしない。異世界だよ!異世界!魔法とかもあるかな~。」
そう言って楽しそうな顔をしているのはショウタくん。気が弱くて、臆病だけど、それ以上の優しさを持っている。学校では生徒会の庶務をしていた。ちなみにいうと、オタクだ。
まあ、私もオタクだから偉そうなことはいえないけど。
「………………」
長くて黒い髪で椅子に座って静かに話を聞いているのは、ヤシナさん。普段はとても無口でけだるそうにしているけど、緊急事態にはすぐに対応したりと行動力がある人だ。生徒会の書記を担当していた。ちなみに、今までの3人の中に好きな人がいるらしい…。
「まぁ、ショウタくんが言うことも分かるけど、まずはもとの世界へ帰る方法でしょ?皆の親も心配してるだろうし。」
そう言うのは、ヒバリ。私の姉だ。普段は真面目で優秀なのだが、予想外のことが起きるとよくパニックを起こす。学校では生徒会長を務めていた。ちなみに、虫が大の苦手だ。
「あ、そういえばミヅキちゃんさっきのやつすごかったね!あの王様にいったやつ。いったいどこでおぼえたの?」
ショウタくんが私に…ミヅキに聞いてくる。
「たいしたことないよ。兄さんと一緒に見てたアニメに似たようなセリフがあったから真似しただけ。不敬だとか言われなくてよかったよ。」
「そっか…」
部屋が沈黙に包まれる。おそらく考えているのは皆同じだろう。兄さんのことだ。ここにいる人は皆、多かれ少なかれ兄さんには恩があるのだ。だから、みんな兄さんを心配している。
「おれ思うんだけどさ。」
リント君が言う。
「俺たちが召還された時、あいつもあの場にいただろ。だからよ。もしかしたら、あいつも…」
この世界に来ているかもしれない。その可能性が少なからずあるのだ。
「だったら今はこの王国に従うほうがいいわね。あのバカのことを探すんだったら闇雲じゃなくて、しっかりとした情報網がないとだろうし、帰る方法を探すにも後ろ楯はあったほうがいいわ。」
「方針はきまりだな。」
「…うん」
「なんかワクワクしてくるね。」
こうして方針は決まった。あとは情報を集めつつ、兄さんを探す…。難しいだろうけどやってみせる。
ここにいる皆、兄さんに助けられてきたんだから。今度は私たちが助ける番なのだから。




