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7 契約の儀

  とある真夜中の巨大倉庫

  そこは血の海だった。もはや、身元も特定出来ないほど切り刻まれた死体、上半身と下半身を分断された死体、首を切りとばされた死体等数えるのも億劫な数だ。そして、その死体たちの中心に"黒い男”はいた。男は全身が返り血でどす黒くなった服に身を包み、血に濡れた刀を持ち、死体の海でたたずんでいる。


「な、なんで、なんで…」


  生き残った…いや、生かされた男が呟く。男の返り血で汚れた格好はもとは高価そうな装飾品で飾りつけられており、そこから男がかなりの地位の人間だと言うことが分かる。

  その呟きに気づいたのか、黒い男が男の元に近づいていく。黒い男の足音。それが死神の足音だと男にはわかった。だが、男は逃げない。否、逃げられない。男は一番初めにすでに足を切断されていたのだ。だから、逃げられない。逃げることは許されない。男に黒い男が刀を振り上げる。


「ま、待っ「グシャリ」」


  振り下ろす。振り上げて。振り下ろす。何度も何度も、黒い男は刀を振り上げては男に刀を振り下ろす。それはまるで、男が今まで苦しめ、殺してきた人々の苦しみを体現しているようで…


「兄さん!!」


  刀を持つ手を止め、黒い男は…俺は声のした方を見る。そこには、妹と俺の友人達がこちらを入り口から見ていた。


 ◆◇◆◇◆


「君には、私と契約し、そして私の宿主になってもらいたいんだ。」


  女はそういってニヤリと笑った。その様子に少しむかつくが、まずは聞くべきことがあるな。


「…その頼みを聞いた場合俺になんの得があるんだ?」


  俺が聞くと女は少し悩んだあと、


「うーん。私の魔力を回復させるために魔力を供給してもらわないといけない事と、君を宿主にするから私の本体が君になって一心同体になるってな感じかな。あぁ、ちゃんとメリットもあるよ。私が君の魔力をもらう代わりに、君も私の権能が使えるようになるのさ」


  と、言った。俺の体と魔力を使わせてやる代わりに、俺はこいつの能力を自由に使わせてもらえる。たということだろうか。そこだけ聞くと悪くないと思う、だが、俺には違和感があった。


「ひとつ聞いていいか?」

「もちろん。何でも聞いてくれ。」


 女が即答する。なら遠慮なく聞かせてもらおう。


「お前、なんのために外に出たいんだ?」

「……………」


  女が呆けた様な表情を見せる。質問の答えは簡単だろう。飽きた。これだけでいい。確かに、女は何百年もこの祠にいたのだから、もうここの景色には飽きているだろう。だが、俺には確信があった。こいつが外に出たい理由はそれだけじゃない。もちろん根拠はない。たが、勘がそう囁いていたのだ。

  女は懐かしいものを見るような目で笑った。


「わたしは大昔に記憶を封印されてほとんどをことを忘れてしまった。だが、覚えていることもある。」


 女は胸に手を当て、語りだした。


「わたしは未知を知りたいんだ。」



「未知とは不思議だ。何もわからないのは恐怖だ。何も知らないのは弱さだ。何も知ろうとしないのは、愚かさだ。だが、未知は幸福であり、不幸であり、希望であり、絶望でもある。そして、そんなものがこの世界にはゴロゴロと転がっている。」


  女は、全てを知りたがっていた。幸福も不幸も、希望も絶望も、勇気も恐怖も、全てをだ。


「私はそれが知りたい。君はどうだ?」


  女が聞いてくる。答えは言うまでもない。俺は…


「なんだよ、それ、とんでもなく面白そうじゃねぇか!」


  お前と同類なのだから。


「さぁ、まずは契約をしよう。準備はいいかい?」


  俺はうなずく。まだ、知らないものを知るための旅。最高に面白そうだ。女はそんな俺の様子にご満悦のようで、ウキウキと契約を始める。


「手を出してくれるかい。」

「こうか?」


  俺は言われたとおりに手を女の方に出す。すると女は俺の手を握り、意識を集中し始めた。繋いだ手から光が溢れる。


 《万物を司る精霊が願う。我と彼のものの道をつなぎ、共に歩む力を与えよ…》


  女が詠唱のようなものを言い終わると、光は収縮し、俺と女は確かに何かで繋がった。


「よし、契約は完了だ。あとは、憑依だが…」

「何か、あるのか?」


  女が困ったような声を出すので、質問する。


「いや、たいしたことではない。今、私と君の間には契約のための道があって、本来はこれをたどって憑依しようと思っていたのだが…。なにぶん、憑依するには細すぎてこのままでは無理そうなのだ。」


  なるほど、と俺は思う。俺の体に憑依するためには、道のようなものを辿らないといけないが、このままでは細くて無理と。ならばと俺は考える。


「その道って太く出来たりしないのか?」

「!なるほど。言い考えだ。繋がりを強くすれば、自然と道も強く太くなる。ならばそうだな…あ!」


 女は少し考えたあと、閃いたような顔で俺を見た。


「お互いに名前をつければ合えばいいのか!!」


 この世界では、名前とは特別なものらしく、魂に刻まれた真名を変えることは、ほぼ不可能らしい。

  それだけ大事なものだから、名前をつけた者とつけられたものには強い絆…道が出来るらしい。それを利用して、道を太くしようと言う考えだ。


「不幸中の幸いだが、私達はどちらも本当の名前を覚えていない。この状態ならば、効果は2倍になり、強く太い道ができるだろう。さぁ、まずは私にふさわしい名前をかんがえてくれ。」


  そういって、俺に挑発的な笑みを向けてくる。ここで適当な名前をつければ、「君センスないね(笑)」とバカにされる恐れがある。仕方ない、真面目に考えるか。こいつの特徴と言えば銀色の長い髪だろう。銀色か…あ。


「シェリア、なんてどうだ?」


  ロシア語で銀色と言う意味のシェリアベンリーからとった名前だ。我ながらナイスネーミングである。


「驚いた…。てっきり、シロとかギンイロとか適当な名前を言うと思ってたんだけど…」


  やべっ、読まれてた。やっぱちゃんとした名前にしててよかったわ。


「シェリア…シェリアか、うん、いい名前だ。私は今日からシェリアを名乗るとしよう。」


  どうやらお気に召したようだ。


「次は私が君に名前をつける番か。うーん。君がちゃんとした名前を考えてくれたのだから、私も頑張ってみるか…うーん」


  女は…いや、シェリアはウンウンと唸りながら、俺の名前を考えている。これだけ考えて変なのが出たら、さすがに怒ってもいいよな?パチッとシェリアの目が開く、なにかを閃いたようだ。


「ヘルト、と言う名前はどうだろうか。地獄の黒と言う意味から来ている。ふふふ、我ながらなかなかな名前だな。」


  なかなかだな。じゃないわ。なんだよ、地獄の黒って、完全に悪者の名前じゃん。イラついたので、軽く頭をひっぱたいておく。


「いたぁ!急になにするんだ!そんなに名前が気に入らなかったのか…」


  シェリアが涙目になる。ヤバい、俺は子供と女の涙には弱いのだ…


「はいはい、わかったよ。それで言い。俺は今日からヘルトだ。」


  そういったとたん、契約したときと同じような、いや、それ以上の光が俺たちを包んだ。

  そして、光が静まった後には、俺達が太く堅い道で繋がっているのが、魂で理解できた。


「ふう、終わったか。さて、これからよろしく頼むよ。ヘルト。」


  そういってシェリアが手を差し出してくる。


「あぁ、そうだな、よろしくな。シェリア。」


  そして俺はそんなシェリアの手を堅く握り返した。

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