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防御訓練

前話をまだ見ていない方は、目次からどうぞ。


 ローから課せられた課題。それは、ローからの攻撃を防御しろ、という内容だった。

 防御といっても、攻撃を受けて立っていれば合格、という感じなので、かなり甘めの内容に感じた。


 だが、対面してみて初めて理解出来た。ローのありえないくらいの強さ。

 後ろには鬼神のような幻覚すら見えるほどだった。


 しかし、俺に拳の軌道が辛うじて捉えることが出来た。ということは、ローはかなり手加減をしているようだ。でなければ、俺程度にローの拳が見切れるはずがないのである。


「それで、今これで何回目だっけ?」

「...そろそろ二十回目になりそうです。」


 と、物思いに耽っている間も、訓練は続いていた。

 一番最初以降は、なんとか気絶はせずに済んではいるが、後方に吹っ飛ばされ続けている。


「じゃ、俺は用事済ませてくるから、お前はここにいろよ。」

「え?じゃあ、訓練は...」

「自主練でもしとけ、じゃあな。」


 そう、一方的に言い放つと、ローはさっさと去っていってしまった。


「...はぁ、」


 俺は、草原に仰向けに寝転がり、大きくため息をついた。


「あんな打撃、どうやって受け止めればいいんだよ...。」


 ローの打撃を例えるならば、岩にヒビを入れることができるくらいだろうか。一見すると凄そうだが、この世界には魔力があるので、見た目ほど難しくはない。


 だが、それでも岩を割るほどの威力は本物だ。簡単な防御などでは太刀打ちできないだろう。


「なにか捻ったやり方じゃないとダメなのか...?」


 俺は自らの手を太陽にかざしてみる。そこには、陽の光と共に波打つような魔力が、俺の腕を駆け巡っていた。


「魔力を1箇所に集中してみるか...いや、ダメか。」


 俺はそう思いついた矢先に、自分の考えを却下する。

 たとえ、魔力を腕に集中させたとしても、俺の魔力制御の拙さでは、今の段階の拳をギリギリ防ぎきれるくらいだろう。

 だが、ローはきっと俺が防ぎきった後に、「よし、じゃあ威力上げるぞ。」とか言うだろう。

 間違いない。

 あの男はそういう奴だ。


 なにか、あいつをギャフンと言わせてやれるような方法は、ないだろうか...。


「うーむ」

 

 俺は手のひらに、小さな球体のシャウトを生成して、指と指のあいだを潜り抜けさせ始めた。

 これは、ルナが提案した魔力制御に効く訓練である。やればやるだけ精度が上がるらしいので、暇があればやるようにしている。


「...............。」


 俺はそれからしばらくの間、シャウトを体の周りに走り回らせながら、じっと考えていた。

 どうすればローの打撃を、衝撃を受け止められるのか...


「...あ」


 そして、ある方法を思いついた。


「魔法だ」


 魔法、それならローの打撃を受け止めたり、あるいは受け流したりすることが可能なのではないか。

 さっそくシェリアに聞いてみよう。


(シェリア、ちょっと聞きたいことがあるんだけど...)

『ん?なんだい?』


 俺は、今思いついた方法をシェリアに話し、可能かどうかを質問した。


『うーん、書物によると、そういう防御系の魔法もあると言えばあるようだけど、どれもこれも高難易度ばかり。直ぐに習得するのは難しそうだ。』


 そうか...。いい作戦だと思ったんだけどな。

 仕方がない。俺には魔法の才能はないし、使える魔法も風の初級魔法とシャウトくらいで...


「...ん?シャウト?」


 俺は、なにか引っ掛かりを覚えた。シャウト、魔法、打撃を受け止める、それらのキーワードが、俺を答えへと導いた。


「そうだ、シャウトだ!」


 闇の初級魔法シャウト、伸縮自在で物を覆い隠すだけの魔法と世間から見られている魔法。


(シェリア、シャウトの説明って具体的にどんなだったっけ。)

『?急にどうしたんだい?』


 シェリアはそう少し不審げな声を出したが、すぐに答えてくれた。


『シャウト、闇魔法の最初に覚える初級魔法。その効果は、伸縮自在で、包まれた物体は外界と切り分けられ孤立する。魔力を込めれば込めるだけ効果も強度も上がる。まあ、こんなものだね。』


 じゃあ、シャウトに包まれた物体はどうなるんだ?


『それは、外界と切除されるわけだから、顔に付けられたら、息も出来ないし、目を見えなくなるでしょ。』

(そう、そこだ。) 


 俺は、したり顔で言い放った。


(シャウトで包まれた物質は、外の世界と切り分けられ、完全に孤立する。音も、光も、物質すらも通さない。)

『だから、さっきからそういって...』

「なら、衝撃はどうなるんだ?」


 俺は、呆れかけたシェリアに対して、確信的な言葉を投げかけた。


『!?、それは...』


 シェリアが驚きに言葉を失う。今まで思いつかなかったことなのだろう。


(シャウトで覆われた物質に、果たして衝撃は突き通るのか、それとも、シャウトで包まれた物質に対しては衝撃すらも届かないのか。なかなか面白くないか?)


 俺は、挑発げに笑いながら、シェリアに言った。


『...ふふ、やはり君は面白いね。いいよ、私も手伝う、そのシャウトの防御方法とやらをね。』


◆◇◆◇◆


「ほう、で?その秘策ってのはなんなんだ?」


 俺はしばらくした後に帰ってきたローに対して、挑発的に「秘策がある」と言い放った。


 ローはそれに興味があるのか、軽く口角を上げてニヤケている。


「まあ、それは見てからのお楽しみってわけで、さっそく始めよう。」

「...ふっ、自信満々じゃねぇか。いいぜ、その鼻っ面へし折ってやる」


 俺たちは互いに向き合うと、ローは拳を腰だめに、俺は両手を前に突き出すように構えた。


「シャウト」


 俺は両手に、多くの魔力を込めたサッカーボール程の大きさのシャウトを生成する。


「...〖魔纏・闇〗」


 そして、そのシャウトを腕全体に纏わせる。

 すると、シャウトは漆黒の篭手のような形状に変化し、諸手を守る装備となる。


 これが、シェリアの協力により実現した、魔法を纏う技、〖魔纏・闇〗である。

 重ね重ねいうが、俺は魔力操作がドがつくほどに下手である。

 最近はだいぶマシにはなってきたが、まだまだ無駄遣いが多い。

 なので、俺1人で魔纏を発動させようとすると失敗、最悪の場合暴発しかねない。


 なので、この技術はシェリアの協力があって初めてオレが使える、ある意味必殺技のようなものなのだ。


「...ほう。」


 ローは軽く目を細めると、闘気を高め、拳に力を込めた。


 俺は、シャウトを纏わせた両腕を構え、攻撃に備える。


 練習では、魔纏はシェリアが放った魔法程度の衝撃をキャンセルすることには成功していた。


 だが、それがローの打撃にさえも通用するのかには、全くの未知数だった。


 唐突に、ローの姿がブレる。

 

 瞬間、俺は自分の勘を信じるまま、防御の構えをとった。


「…ぐっ!」


 ローの拳が、まっすぐ俺の腕に吸い込まれるように打ち込まれ、耳を劈くような振動が鼓膜を揺らす。


 恐る恐る自分の腕を見てみると、ローの拳が篭手に受け止められている光景が見えた。


「…止められた。」


 俺は作戦が成功した喜びに、つい頬が綻んでしまう。


「まあ、第一段階は合格といった感じだな。」


 ローの言葉は、少し不機嫌そうな声色をしていたが、俺にはそれが無性に嬉しかった。


(やった!あのローに一泡吹かせてやったぞ!)


 俺は内心で、子供のように、飛び跳ねるように喜んだ。


「よし、じゃあ次の課題いくぞ。」

「え!?」


 ローが早くも、次の訓練を始めようとしている。


 もう少し達成感に浸らせてくれてもいいのに…。


「今からお前を殴る、避けろ。」

「………………ファ?」


 俺は予想の斜め上の展開に、思わず変な声を出してしまう。


「いや、思い返してみれば、防御よりも回避の方が優先順位が高いじゃんってことに気づいてな。どうせなら、それも一緒にやっておくか、って。」

「へ…で、でも、今日すごい頑張ったし…」


 ローの無慈悲さに涙が出そうになってきた俺は、情けなさそうな声でそう言い始めた。


「あのさ、俺言ったよね、諦めるなって。お前も聞いた上で、俺の訓練受けたんだよな?」

「そりゃ、そうだけど…。」

「腕が折れても、足がちぎれても、諦めないって決めたよな?」

「そんなこと言ったがおぼえないのですが!?」


 俺は突然のローの言葉に絶叫する。


「こまけぇことは気にするな!」

「細かくないよ!?てか、あんた絶対面白がってるだろ!」

「おら!いくぞおぉぉぉ!」


 数刻後、草原に物言わぬ屍が転がっていたのであった。

 


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