表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/43

修行の鬼

 久々に遅れずに投稿できた気がする...。



 誰かの泣き声が聞こえる。

 うずくまって、啜り泣くそいつは、生まれた時から、俺の中から離れず、ずっと居座り、強大になっていく。

 その感情を外に解き放つ時を、今か今かと待ちわびながら。

 

 俺は、そいつの全てにイラつき、そいつを押し倒し、馬乗りになる。

 

 鬱陶しい、憎い、殺したい、そんな感情が後からどんどんこみあがってくる。


 俺の眼に、そいつの無防備な首筋が映った。


 俺は、その手に持つ血塗れの刀で、狙いを定めた。


 そして、そのまま力を込め、刀を突き出した。


 刀は、空気を切り裂きながら、そいつの首筋に向かっていく。


 その瞬間、俺とそいつの目が合った。




 その瞳の中からは、血に溺れた死神がこちらをじっと睨んでいた────




「............」


 俺はゆっくりと目を開けた。

 そこには草原が広がっていた。

 風が心地よく体を撫で、自然の香りが心を癒してくれる。


 ああ、俺、ここで寝てたんだったな。

 

 いや、寝てたってのは語弊があるな──


「おいおい、誰が休んでいいっていったんだ?」


 ──気絶してたんだった。


 上から俺を見下ろすボサボサ髪の鬼の視線に俺は、もう少し休みたかったなぁ、と諦め気味に思った。



○●○●○



 事の発端は、1週間前に遡る。


「鍛え直すっていっても、どうするかな...。」


 俺は、朝食の席でそう呟いた。前日、鍛え直すと決めたはいいものの、具体的なプランなどは、ほとんど何も決めていなかったのだ。

 前に日本でやっていたトレーニングをそのままやってみても良いが、それでは前の強さに戻るだけだろう。

 それだけでは、この世界で生き抜いてきた猛者たちには、遠く及ばないだろう。


 何か、大きく成長できるような訓練はないだろうか...。


 俺が、そう思って思案していた時だった。


「ん?なんの話だ?」


 ローが、そう俺に問いかけてきた。


「いや、この所満足に訓練できてなかったから、体が少し訛ってしまっているんだよ。だから、効率的な訓練法とかはないかな?って…」


 俺は、自らの心境を話した。


 正直に言って、今の俺は弱い。


 確かに、そこら辺をほっつき歩いているようなチンピラや、酔っ払いなどには余裕で勝てるだろう。誇るほどのものでもないが。


 だが、レイトンの森で会ったあの黒い少女。あれと一対一で戦って、勝利を収めるのは、今の自分では難しい気がした。


 そして、この先ルナを守っていくのならば、黒い少女レベルの強敵との接敵は避けられない。


 ならば必然、俺がルナを守りきれるくらい、強くならなければならない。



 ...もう、自分が弱いせいで、後悔はしたくないし...



「ほう、そういうことか。なら、俺が鍛えてやろうか?」


 物思いに耽っていた俺の耳に、ローが提案を投げかけてきた。


「え?マジ?」

「ああ、俺、前に後輩の冒険者鍛えてたこともあるぞ。」


 それは良い!ロー程の実力者に教えを乞うことができるというのは、願ってもない事だ。


「是非頼む!」

「分かった。だが、俺から条件がある。...安心しろ、一つだけだ。」


 条件と聞いて、少し身を固くした俺に対して、ローは1度咳払いをして言った。


「絶対に諦めるな、なにがあっても、だ。」


 ローが出した条件。

 それは、人が生きていくなかで、絶対に必要なことの1つだった。



◇◆◇◆◇



 朝食を終えてすぐ、俺たちは組合の訓練場に来ていた。

 組合の裏手にあるここでは、日夜強くなることを望む冒険者たちが体を鍛えている。


「さて、まず最初の訓練だが...」


 俺がストレッチを終えた頃、ローはそう言い出した。

 異世界の訓練法、つまりは未知!俺はワクワクした。いったいどんなものをするのだろうか、重力二倍訓練とかするんだろうか。

 そんな俺の純粋な期待は、


「とりあえず走れ、ここ。」


 その一言で粉砕された。

 俺は周りを見渡す。訓練場は、広いとはいえ街中なので、例えるなら、高校のグラウンドぐらいだろうか。


「ちなみに、何周?」


 俺は軽い気持ちでそう尋ねた。


 それに対しローは、びっくりするくらい意地悪な顔でこう答えた。


「あ?もちろん、俺がいいと言うまでだ。まさかだと思うが、百や二百で終わるとか思ってないよな?」


 その瞬間、俺は悟った。


 あ、これ絶対、ヤバい人に弟子入りしちゃったやつだ。



 案の定、俺は地獄を見た。



 五周目 


「ここら辺は流石に余裕だな。」


 十周目


「まだまだ行ける。」


 二十周目


「ちょっときつくなってきたな。」


 五十周目


「ハァハァ」


 百周目


「ちょっ...休憩は...ないの...?」


 二百周目


「......死ぬぅ!」



 俺は叫んだ。襲ってくる酸素欠乏と脇腹の痛みに耐えながら、精一杯叫んだ。


 が、


「は?もしかして、このぐらいでへばってんの?マジで?笑えるんですけどー。」


 ...残念ながら、この無精髭生やした鬼には届かなかったようだ。



「...ああぁぁぁぁぁぁ!!」



 俺は、悲痛の叫び声上げた。


 その日から、連日その奇声を聞くことになることを、街の人々はまだ知らない。


◆◇◆◇◆


side ルナ


 ヘルトが、修行を始めると言うので、ついて来てみたら...


「あああああああぁぁぁぁ!!!足がぁ!足がちぎれるぅぅぅ!」

「喋れるなら大丈夫だ。ほら、もっと早く、もっと早く。」

「この鬼ぃぃ!!」


 ...どうやら、ここは地獄だったようだ。


 修行を始めてから三日が経っているが、ヘルトはローにいっそういじめ...もとい修行をされている。


 その修行法は、傍から見ているわたしからしても、かなり狂気的に見えてくるようなものだ。


 だというのに、始めてからそれなりに時間が経ったからなのか、自分が早くもこの光景に慣れ始めて、本を読めたり、軽い食事が出来ていることが、いっそう怖いところだ。


 そのうち、隣で拷問されてても普通にいられるようになりそうでゾッとする。


「おお、いけいけ!」

「がんばるねぇあんちゃん!」


 だが、そう思っているのはわたしだけのようだ。ほかの冒険者たちは、訓練の様子を酒の肴にして楽しんでいる。

 他に娯楽がないからか、よく訓練場まで来て騒いでいる。

 

 その様子に、わたしはあそこで走っているのが、自分でないことに、深く安堵した。



「シュルルゥゥー」


 わたしの腕を、白蛇が登ってくる。

 それに気づいたわたしは、白蛇の頭を、指で優しく撫でる。


 すると、白蛇は器用に目を細めて、クルクルと鳴き始めた。どうやら、これが甘えている時に出す声らしい。


「...ふふ。」


 白蛇は、私とヘルトによく懐いている。恐らく、生まれた瞬間に一緒にいたからだろう。もしかすると、親だと思っているのかもしれない。

 そう思うと、なんだか可愛く思えてくる。


 そういえば、名前をまだ決めていなかった。

 どうしようか。どんな名前がいいだろうか。


「おーい、ルナ。水持ってきてやってくれ。」

「はーい」


 ローに呼ばれたわたしは、名前は今度ヘルトと一緒に決めようと考え、思考を切り上げた。

 


◆◇◆◇◆


六日目


「はあ、はあ、はあ。」


 俺は、二百周以上を走りながら、なにか大事なことに気付きつつあった。


 体力がつくにつれて、走りながらも冷静に思考することが出来るようになった為か、自分の疲弊した体のなかで、なにかがドクン、ドクンと波打っているのが分かった。


 走りながら集中し、その正体を探る。

 それは、俺のヘソの下の辺り...丹田から始まり、血管のように広がり身体中に巡っていく。

 だが、それは俺のごく一部分に偏って集中しており、他の部分には、ほとんど回っていなかった。


 俺はそれを、意識して体全体に満遍なく広げていく。


 すると、それが身体中に広がっていくたびに、自分の疲労がほんの少し和らいでいくのを感じた。

 しかし、集中を途切れさせてしまうと、直ぐに偏って固まってしまう。


 もっと、流れるように、流すように、巡らせていく。


 もっと、もっとスムーズに、もっと滑らかに、もっと素早く流せば───


「終わりだっつてんだろ。」


 俺は、横からの突然の衝撃につんのめり、顔から訓練場の地面に打ち付けられた。


「ぐぅおぅぉぉ!痛ってぇな!顔がすり下ろされるかと思ったわ!」

「お前が言っても止まらねぇからだろうが。それよりほら、自分を見てみろよ。」


 俺の顔を大根おろしにしようとしたローの言葉に首を傾げながら、俺は自分の体を見た。


「!?なんだ...これ。」


 俺の体は波のようにさざめいた魔力に覆われていた。


 さっきの感覚の正体は魔力だったのか。


「マノってのは言い換えちまえば生命エネルギーみたいなもんだ。へその下辺りから生まれて、体全体に枝分かれして流れていく。だが、それだけじゃあ必ず体のどこかで詰まっちまったり、体の端まで届かなかったりして本来の力を発揮できない。だから、魔力制御が下手なお前には、まず走らせながら魔力の使い方を体に覚えさせたわけだ。」


 なるほど、ここ数日の訓練の意味がやっと理解できた。

 俺は、ルナやローに言われる通り、魔力の使い方が下手だ。

 それはもう、使った魔力の内の八割を無駄にする程に。

 初級魔法なんかを使う時にはあまり支障はないが、魔力で身体を強化する時には、この魔力制御の練度がものを言うらしい。

 俺はどちらかというと、魔法よりも身体強化を使うので、魔力制御が下手というのは致命的なわけだ。

 まあ、これで魔力制御の下手さは克服し「まあ、まだまだ下手だけどな。」...え?


「言っちまえば及第点ギリギリって言ったところだな。」

「...それって、なんの?」


 俺は口端をヒクヒクさせながら聞いた。すると、ローはまた驚くほど残忍な顔をすると、答えた。


「なにって、これからの訓練を受けさせられるかどうかに決まってんだろう?ほら、今日はまだまだこれからだぜ?」

「.........。」


 ...俺はもう一度、心の底から発狂したくなったが、寸前で我慢し、いち早くこの地獄を終わらせる為に立ち上がった。


◆◇◆◇◆


七日目


「なんで、今日はここなんだ?」


 俺たちは、組合の訓練場ではなく、街の郊外にある草原に来ていた。


「あそこじゃ酔っ払い共がうるさいからな。今日の訓練は、少し頭を使うぞ。」


 ローはそういうと、俺の方へ拳を向けてこう言い放った。


「今からお前を殴る、防げ。」


 .........は?


「安心しろ、手加減してやるから。」

「おい待てちょっと待て!?問題はそこじゃないよな。てか、なんで急に殴るって発想になるの!?おかしいよね?」


 俺はそうまくし立てた。俺の勘が告げていた、このままだと死にかねないと。


「いや、ルナを守るんなら、刺客からルナを守らないと行けないだろ?だったらこうやって殴って鍛えた方が楽だろ?」

「その場合、楽になるのはおまえだけだよね?俺は殴られる分つらくなるよ!?」

「細かいことは気にするな。さあ!いくぞぉぉぅ!」


 そう叫ぶと、ローは拳を腰だめに構え始めた。


 ヤバい!時間がない!よし、こういう時は...


 オッケーシェリア!解決策教えて!


『運命を受け入れたら?』


 役立たずぅ!!


 その時、ローの姿がブレた。


 瞬間、辛うじて見えたローの拳が、俺の胴体を撃ち抜いていた。


「ぐぉ...。」


 カエルが潰されるような声を出し、俺の意識は一瞬で暗転し、闇の中に葬られた。



『私の...セリフが...一言だけ...だと!?』


 ごめんなさい。来週は出来るだけ増やせるように頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ