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閑話 勇者たちの日々

 遅れて申し訳ありません!

 お詫びに、少し多めにしました。


──誰かの泣いている声が聞こえた。


 私の目の前には、座り込んで泣いている〘彼〙の姿があった。

 普段は飄々として笑っているのに、その見た目に似合わず、強い力を持っている彼。

 しかし、彼は元から強く逞しかった訳ではない。

 その逆、弱かった。子供の頃の彼はとても弱く、泣き虫だった。


 彼は、そんな自分が嫌いだった。

 だから、彼が私たちに泣いている姿を見せることはなかった。


 そんな、彼の姿に珍しく思い、慰めてあげようと近づく。


 しかし、彼の姿は、私の手を目の前にして掻き消えた。


 驚いた私は辺りを見渡す。すると、遥か遠くに、その姿を見つけた。


 彼はそのまま、後ろを向いて歩き始める。




 血に濡れた深紅の刀を持って──




「だめ!」


 私は、声に出して叫んだ。

 しかし、それは誰もいない自室の空気を揺らしただけだった。


「…………。」


 私はゆっくり自分の思考を落ち着かせ、そして今の自分の体が汗でびっしょりと濡れている事に気づいた。


 着替えないといけない。そんな事を頭の冷静な部分が考え、ベッドから状態を起こし、大きく伸びをする。

 しかし、私の心には大きなしこりのような物が残っていた。


「変な夢…。」


 誰に言うまでもなく、そう呟く。



「兄さん、大丈夫かな…。」


 私は、遠いどこかでまた、苦しみを堪えているだろう兄のことを考え、私は嘆息をついた。



◆◇◆◇◆


 私たちが異世界に召喚されてから、はや1ヶ月の月日が流れた。


 その間、王城では、様々な体験をした。

 城で、魔法使いのなかでは1番偉い、宮廷魔法使いという人に、魔法の適性を診断してもらったり、大きな訓練所で、戦うための訓練をしたりした。


 私は、王様に与えられた自室で身支度を整え、部屋を出る。


「や、やあ、ミヅキちゃん。いい朝だね。」


 もはや、聞き慣れてしまった声に、私は少しだけ呆れてしまう。


 声を掛けてきたその男は、染めているのであろう金髪とキザったい笑顔で、私の部屋の前で待機していた。


「…ハナヤマさん、部屋の前で待っておかないでと何度いったら分かってくれるんですか?」


 私は、呆れたような声色で言った。


「うぇ!?そ、そんなわけないじゃないか。僕はたまたまここを通りかかっただけだよ?」

「たしかそれ、昨日もいってませんでした?」

「そ、そうだったかな…?」


 この人は、ハナヤマ・カオルさん。私たち以外の6人いる勇者の内の一人だ。


 いろいろと気にかけてくれる、悪い人ではないのだが、少々周りの空気が読めない、可哀想な人である。


「…今日は、迷宮に行くんでしたね。」

「そうだね。危険がないといいけど…あ!ミヅキちゃんは俺が守るから問題ないよ!」

「はいはい、頼りにしてますよ。」


 そういって私は軽く流すが、私の心境は、不安が八割を占めていた。


 迷宮、そこにいくことになったのは、王様からの提案がきっかけだった。


『そろそろ、戦闘にも慣れてきた頃だろう。どうだ?迷宮で実践といかんか?』


 王様の言葉は、言い方こそ質問しているようだったが、私たちが断るなど考えてもいないようだった。

 実際、私たちが何か言う前に、部下の人達と勝手に予定を決めてしまう始末だった。


 なので、半ば強制的に戦いに向かわなければならないことに、私は少し不満を持っていた。

 そもそも、私たちはこの世界に来たばかりで、迷宮なんかも全然知らないのに、そんな簡単に決めるなんてないと思う。

 後から聞いた話によると、迷宮とは、壁や地面から、怪物が無尽蔵に出てくる危険な場所らしい。


 今回いくのは探索され尽くされた場所だからだいじょぶ、と魔法使いの人がいってたが、やはり不安だ。


「あ、よぉミヅキ。おはよ。」


 聞きなれた声で気づいた私は、いつの間にか、自分が食堂へついていることに気づいた。

 そして、そこには5人の勇者たちが朝食を取りに集まっていた。

 長机でみんなと一緒に座っていたリント君が、私に気づいて声をかけてくれた。


「おはようリント君。みんなもおはよう。」

「ああ。」

「おはよう。」

「うん、おはよう。」

「…おはよう。」

「おおはぁよう。」 

「…姉さん、人前でそんな大きな欠伸したらだめだよ…。」

「しょうがないじゃない、眠いんだから。」


 姉さんが、人の目があるのに、大きな欠伸をしてしまう。

 この姉は昔からなのだが、自分の見た目にあまり頓着しないのだ。仕事などはバリバリできるのだが、家事や料理はからっきし。私や母さんがいないと、朝も起きられないレベルである。

 幸い、ここではメイドさんが世話をしてくれているらしいので、心配はないが、もしあっちの世界で独り立ちすることになったなら、どうするつもりだったのだろう…。


「じゃあ、私も朝食を持ってくるね。」


 私とハナヤマ君は、一緒に食堂の中央にある配膳場所に向かう。

 私たちが朝食を取っている食堂は、普段騎士の人たちが朝食を取っている場所を使わせて頂いている。


 最初は、一々個別の部屋に運んで貰うという法式だったのだが、なんだか申し訳なくなって遠慮した。

 他の勇者の人達は、毎日運んで貰っているらしいが。


 今日の朝食は、ソーセージが数本と野菜のスープ、そして柔らかいパンだ。


「わあ、美味しそう。」


 私はつい、頬を綻ばせてしまう。

 ここでの食事は、前の世界と比べても、そう変わらないものが多い。それに、この世界特有の料理なども出てくるので、ついついご飯が楽しみになってしまうのだ。


 私は、みんなが集まっている場所へと戻る。


「あれ?ハナヤマ君、また居なくなってる…」


 ふと周りを見ると、少し前まで一緒にいたハナヤマ君がどこかにいっている。

 彼はいつも、私がご飯を取りに行くところまでは一緒にいるのに、ふと気づくといなくなっているのだ。

 せっかくなら、一緒に食べればいいのに…


「どうした?」


 リントくんが心配して聞いてきてくれた。


「ううん。大丈夫。」


 私は少し気になりつつも、空腹には勝てず、食事を始めた。


◆◇◆◇◆


「ふう、美味しかった。」


 私は満腹になったお腹に満足して、フォークとスプーンを置いた。

 そうやって、ゆったりしている私を見て、マサユキくんがなにか呆れたような表情をしている。


「どうしたの?」

「いや…お前ってやっぱ結構な量食うよな。」


 そう言われて、私は自分の食べた皿の量を確認する。

 3回程おかわりしたが、そこまで量は食べていない気がする。なんなら、まだ食べようと思えば食べられるくらいだ。


「そんなに食べてないよ?」

「いや…お前がそれでいいならいいや。」


 なぜか呆れられた気がする。


「ていうかミヅキちゃん、よくそんな食えるね。今日は迷宮って場所に行くんでしょ?僕は不安であんまり食事も喉を通らないよ…。」


 ショータくんがそんなことを言ってきた。確かに、心の中では不安があるのに、あんまり気にしていない気がする。

 というより、なにか別の感情が不安を押し潰しているような、奇妙な感覚があった。


「あ、私、わかったよ。」

 

 突然、姉さんが何かに思い当たったような表情を作った。


「ミヅキ、あんた楽しみなんでしょ?迷宮って場所がさ。」


 他のみんなが納得したような顔をする。        

 そして、同時に私も理解した。この心に蔓延る熱い感情の正体を。


 これはきっと──未知への好奇心だ。


 やはり、姉には分かったのだろう。私たち2人…いや、3人は、同類なのだから。


「…えへへ。」


 私は少し照れくさくなって、はにかんで笑った。


◇◆◇◆◇


 私たちは、朝食を食べた後、準備を整え、馬車に乗せられて、迷宮へと出発した。


 そこまで距離はないらしいが、やはり1時間程度はかかるらしいので、私たちは馬車の中で各々のことをしていた。


 馬車内のメンバーは6人、他の6人と護衛の人達は、別の馬車に乗っている。


 私たちの馬車には、私とショウタくんとヤシナさん。

 そして、ハナヤマ君と、あと2人の勇者だ。


「ヤシナちゃん、今日も可愛いね。ねえねえ、この迷宮の探索終わったらさ、一緒にお茶しない?」


 ...いま、ヤシナちゃんを口説いているのが、アカギ・シンバくん。赤みがかった黒髪と、つり目が特徴の男の子だ。

 性格は...見ての通りチャラい。城のメイドや女騎士さんにも手を出しているらしい...噂だが。

 それに対してヤシナちゃんは、完全無視している。

 馬車の外の景色を見ているようだが、その顔は、長い間付き合ってきた私たちでようやくわかる程度に、歪められている。ウザがっているようだ。


「そうだ、ミヅキちゃんも一緒にどう?」


 この人、ヤシナちゃんがビクともしないから、私もターゲットにしてきた。私を先に落として、それからヤシナちゃんを...とか考えているのだろう。


「あ、ミヅキちゃんがいくなら僕も...」

「お断りします。」


 ハナヤマ君が、なにか言いかけていたけど、私は構わずキッパリと言い切った。なんなら、ニッコリとした笑顔付きである。


「あ、そう?」


 アカギさんは、私の気迫に圧されたのか、あっさりと引き下がった。

 私は少しスッキリした気分になった。視界の端でハナヤマ君が少しだけガッカリしたような表情をしていたが、私は気に止めなかった。


「あはは、シンくん振られてるー。」

「振られてねぇよ!」


 そういって、アカギさんをいじっているのは、コジマ・コウキ。少し控えめな身長に、細目、八重歯が特徴的な少年だ。髪の色ほ薄い茶髪だ。


「てかさ、シンくんこのところ振られ続きだよね?お城のメイドさんにも軽くあしらわれててさ、ほんとに面白かったよw」

「あ!お前、それ言うなっていってただろう!」


 コジマさんの一言で馬車の空気が弛緩する。コジマさんは、こういう、場の雰囲気を作ったりすることや、知らない人と仲良くなるのが得意なようだ。


 そうしていると、突然大きな振動のあと、揺れが止まった。


「勇者様方、到着した様です。」


 御者をしていた騎士が、そう報告してくる。

 私たちは顔を見合わせ、気を引き締めて馬車から降りた。


 迷宮は、王都の外の人気のない森の中の中に、ひっそりと佇んでいた。


 それは、大きな洞窟のようで、踏み入れた者を1人残らず飲み込んでしまいそうな、独特の雰囲気を醸し出していた。

 入り口には、兵士の人達が警備しているが、そんなことは気にさせないほど、私たちは迷宮に圧倒されていた。


「皆さん、準備は出来ましたか?」


 騎士たちのまとめ役である、アルテさんが聞いてくる。わたしは事前に準備を整えておいたので問題はないが、その言葉にハッとしたアカギさんとハナマルさんは、セッセと準備を始めた。


「よし、それでは行きますか。」


 アルテさんは、私たち全員の準備が完了したのを見届けると、そういって先導し始めた。

 わたしは、不安と期待、そして好奇心がごちゃ混ぜになった感情を抑えて、迷宮へと足を踏み入れた。

 

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