34 モンスターの容疑
遅くなって本当に申し訳ない!!
続きを投稿します。
「ギルドからお前とルナに、モンスターの容疑がかけられている。」
突然の物言いに、俺は目を見開た。
最初に、ローの性の悪い冗談を疑ったが、ローの目は今も鋭く、真剣に俺を貫いている。
もし、俺が変な行動をすれば、すぐさま対処してくるだろうということが、容易に理解出来た。
「も、モンスターの容疑ってなんだよ。というか、俺はまだこの辺の法律には疎くてなんか違反してても分かんないぜ?」
「…数時間前、俺たちは迷宮でヘルトとルナを探していた。」
俺が軽口で注意を逸らそうとしても、ローはそんなことは気にも止めない。
しかも、なにか言葉の使い方に違和感を感じる。
まるで、俺ではなく、別の誰かの事を言っているような…
『他の事を考えている場合ではないよ。』
俺の逸れかけた思考が、体の中にいるもうひとつの意思により、正常に直される。
『魔法はいつでも使えるが…武器は別のどこかに隠されているようだ。』
シェリアの分析を聞きながら、俺はローの話に耳を傾けた。
「迷宮ではぐれて一時間見つからなければ死んでいる可能性が高い、迷宮に入る前に教えたはずだぞ?」
「え?」
俺は迷宮に入る前の事を思い出す。
あれ?そんなこと言われたっけ?思い返してみればなんかそんなこと聞いた覚えが.........いやないわ。全然聞いたことないわ。
そんな俺の様子に、ローは一瞬…ほんの一瞬だけ眉を動かした。
「?」
しかし、俺が疑問に思う前に、ローは話始めた。
「迷宮で初心者2人がはぐれて、一時間。とっくに死んでても可笑しくないような状況だ。それでも俺たちは探したさ、あいつらは良い奴らだったし、死体くらいは見つけてやりたかった。」
やはり、おかしい。俺は目の前にいる。なのに、俺ではなく別の……そう、別の«ヘルト»に向かって話しかけているような、そんな歪な印象がローの言動から滲み出ていた。
「そんな時だ。もう見つからないと諦めていたとき、何かの気配に気づいてそっちを振り返った。そしたら…」
ローが、一旦言葉を切る。俺はその先の話が気になり、息を呑んだ。
「壁の中からお前らが吐き出せれていた。それこそ、迷宮のモンスターのようにな。」
……は?
疑問と同時に、俺の中にあった疑問の点が、一気に線で繋がったような感覚があった。
モンスターの容疑。迷宮のモンスター。壁。警戒。
それら複数のキーワードが、最後の言葉によって氷解する。
あれ?俺、もしかして、モンスターだと思われてない?
◇◆◇◆◇
『…ああ、なるほどね。』
シェリアがなにか納得したような声をだしたとき、俺は内心絶叫していた。
いや、モンスターの容疑って、モンスターの疑いがあるってことかよ!分かりにくいわ!
「…一応言っておくけど、俺モンスターとかじゃないよ?」
「……どうだかな。」
完全に疑っていらっしゃる!
ローは俺の言い分に露骨に怪しそうに目を細めた。
やっぱり、焦って必死に喋ると怪しまれるのか?かといって消極的になっても、疑いの目は晴れなさそうなんだよな…。
「…ひとつだけ質問する。 」
俺がどうにか誤解を解こうと頭をフル回転させている中、ローはそんな事を言い出した。
「お前は、ヘルトか?」
その疑問に、俺はとっさに返すことが出来なかった。
俺には、前の名前の記憶がない。
ここに来る前、俺の家族が一生懸命考えてつけてくれた、ある意味形見とも呼べる名前を、俺は忘れてしまっている。
俺は誰なんだ。何者なんだ。
時々夜中1人になると考える時がある。
「俺は……」
とっさに答えが出せない。だから、俺はローの言葉をしっかり咀嚼し、ゆっくりと飲み込んだ。
「俺はヘルトだ。」
そうすると自然に答えが出てきた。俺に、本当の名前があったとしても、今の俺には、シェリアがつけてくれたこの〖ヘルト〗という名前がある。
だから、俺はヘルトだ。何者でもない。ただのヘルトだ。
その答えに何かを感じ取ったのか、ローは「そうか」とだけ呟いた。その途端、殺気とも呼べそうな程の威圧感は霧散し、跡形もなく消え去った。
そして、ローは部屋の扉に目を向けると、
「おい、もう入っていいぞ。」
と、声をかけた。
……ん?
すると、扉を開けて、ある人物が部屋に入って来た。
その特徴的な耳と低い身長が、その人物の身分証明証と化している。
「スベニア…さん?」
「やあ、ヘルト。起きたようで何よりじゃな。」
冒険者組合のグランドマスターであるスベニアは、そういってにこやかに笑った。
◆◇◆◇◆
「で、どうだった?」
ローは、スベニアが入って来た途端、そんなことを口にした。
状況についていけていない俺は、そんな2人の間に交互に視線を走らせていた。軽く放心状態である。
「聞いてた感じ、やはり嘘をついているような反応はなかったのう。鼓動の音も通常じゃ。」
スベニアは、ローの質問にこう答えた。
ん?嘘?鼓動?もう、なにがなんだか分からなくなってきたぞ?
「ええと、結局これっていまどういう状況なの?」
俺は耐えきれなくなって、つい2人に聞いてしまった。
「おお、そうじゃな。説明せんといかんな。」
スベニアは、そういって、俺に事の顛末を教えてくれた。
ぶっちゃけて言うと、俺はローたちに試されていたようだ。
どうやら、俺とルナが迷宮の壁から出てきたのは真実らしく、俺たちが本当にモンスターではなく、人間かどうかを試すために、取り調べのようなことを行っていたのだとか。
どおりで、聞いたことがないようなことがあったわけだ。もし、あそこで俺が、逆に嘘をついて、知ってるふりをしてたら、速攻モンスターだと思われていたのだろう。そう思うと、我ながらファインプレーだったと褒めてやりたい。
そして、ふと気づいた。そういえばさっき、シェリアがなんか納得したような声を出していたが、それはもしかして扉の外にいたスベニアに気づいたからじゃないのか?
『うん。そうだよ?』
え!?なんで教えてくれなかったんだよ!
『だって、言ったら反応してただろう?君あんまりボーカーフェイス得意じゃないし。』
…ぐうの音も出ない。
俺は昔から色んな人に、わかりやすいやつだね、と言われたことがある。
なぜか分からないが、どうしても隠し事があると、口の端っこが歪んでしまうのだ。自分では自覚がないのだが…。
それに、と俺はスベニアがいっていたことを思い出す。
「ワシの特技なのだがな、ワシは耳がいいんじゃよ。薄壁1枚越しくらいから、心音を聞き分ける程度のことは造作もない。」
…それは耳がいいの範疇を超えてるのでは?と思ったが、口には出さないで置いた。
俺は、シェリアが自分にスベニアのことを教えてくれなかったことに対するちょっとした怒りや、言ったらいったで隠しきれた自信がないことなど、たくさんの感情がごちゃ混ぜになっていた。
「はぁ〜。」
だから、俺はそれら全てを、大きなため息として吐き出したのだった。
◆◇◆◇◆
「なるほど、やはりルナの証言と一致しておるなぁ。よもや、迷宮の一階層にそんな場所があったとは…」
俺は、スベニアとローに、迷宮であった出来事について事情聴取を受けていた。
既に、目を覚ましていたルナの証言と、俺の今した証言をすり合わせて、俺たちの証言が真実に近いことがわかったらしい。
「やはり、1度大規模な調査隊を編成した方がいいか…。ああ、長く引き止めて悪かったのう、もう帰っても大丈夫じゃぞ。」
スベニアから、そう言われたので、俺とルナは、大熊亭に帰ることにした。ローはまだ、スベニアと話すことがあるらしい。
結局、宿に戻る頃には、日が沈んでから数時間はたった頃だった。
「ふぅー。」
俺は、汚れた体を濡れた布でしっかり洗ったあと、ジャージに着替えて、ベットに転がっていた。すでに夕飯も済ませてある。
すでに寝るだけになったのだが、俺には気になることがあった。
俺は、ベッドに寝そべったまま自分の腕を見る、現代日本の男子高校生にしては、そこそこガッシリした肉体だが、心做しか日本にいた時より筋肉が衰えている気がする。
最近は、剣に慣れるための素振りこそしているが、走り込みや鍛錬の数々は、余りしていない。
俺は、今日の自分の醜態を思い出した。敵の前で無様に目を瞑り始めたところだ。
今更ながら、あの時の自分に怒りが湧いてくる。もし、あの鎧が斬りかかってきたら、どうするつもりだったんだ、ルナが1人になってしまっていたらどうするつもりだったんだ、そう罵りたい気持ちでいっぱいだった。
ここは現実だ。アニメやゲームの世界ではない。ここで死んでしまえば、本当に死んでしまう。あまり前のことだが、今の俺の心には、深く染み込んだ。
「…鍛え直すか。」
俺は誰に言うまでもなく、そう呟いた。強くなろうと。大切なものを失わないために、この世界で生き抜くために。
まずは走り込みからだな。そう明日のスケジュールを考えながら、俺の意識は少しづつ、眠りの海へと沈んでいった。
次回は少し、妹たちの話を書こうと思っています。楽しみにしてくれると嬉しいです。




