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33 無事?の帰還

side ロー


「くそっ、あいつらどこにいやがんだ。」


 俺は、事態が思う通りにいかないことに苛立ち、悪態をついた。

 事態はつい数十分前のことだ。

 俺たちは迷宮での依頼を達成するためにモンスターたちと戦っていた。運良く、一階層で灰熊と遭遇でき、依頼の品を手にすることが出来たが、そこでヘルトとルナがはぐれてしまったのだ。

 一応、あいつらに対して注意を払っていたのだが、まさか壁の中に吸い込まれるとは思わなかった。あいつらが吸い込まれたらしい壁を調べてみたが、特に他の壁と遜色はなかった。強いて言えば、なにか円形の紋様のようなものが彫ってあったくらいか。

 

「ローさん。」


 ライクたちが声をかけてくる。コイツらだが、俺と酒飲み勝負をして負けたときから、なぜか俺のことをさん付けで呼ぶようになった。いつもなら、獰猛な笑みを浮かべているライクだが、今はそのような影もなく、難しい顔をしている。そのようすから、あいつらが見つからなかったことが安易に想像できる。


「…………。」


 あいつらを探しながら、迷宮をさ迷ううちに、入り口まで戻ってきてしまった。


 迷宮とは既知よりも、未知のほうが格段に多い。その数少ない既知の中に、その情報はある。


❬迷宮ではぐれて一時たちて戻らぬは死せるあり❭


 迷宮で、一時間以上仲間とはぐれてしまったら、生き残っている可能性は限りなく低くなるという意味の言葉だ。

 迷宮では、ほぼ無尽蔵ともいえるほどの魔物が次々と現れる。多少、休憩する時間があったもしても、一人ならば、体の前にまず精神が参ってしまう。

 ヘルトとルナは、二人一緒ではあるが、どちらも迷宮初心者だ。

 ヘルトのほうは、若いのにどこか場馴れしているかのような雰囲気を漂わせているが、あれで結構ぬけているところがある。

 ルナも同様だ。物静かな雰囲気をしているが、まだ子供だ。何事にも冷静に物事を見ているが、その反面、体格的にまだまだ幼い。長期間の戦闘に耐えられるだろうか。

 彼らが、一時間もの間、迷宮で生存していられるだろうか……。



 また俺は同じような過ちを繰り返してしまうのだろうか……。



「……くそっ、またか!」


 らしくない考えをしていた俺は、突然の気配を感じ、壁の方へと目をやる。そこからは、ボコボコとなにかが飛び出ようとしている様があった。

 迷宮からモンスターが出てくる兆候だ。あのようにして、迷宮からモンスターや、時に魔物が出現する。


「……スー……フー……。」


 精神を研ぎ澄まし、呼吸を整える。

 敵を素早く打ち倒し、いち早くヘルトとルナを見つけなくてはいけない。

 もし、もうすでに彼らが息絶えてしまっていたとしても……



ボゴッ。


 壁から飛び出してきたのは、何かの一部のようなものだった。細長く、先には5本の指がある。

 人間の腕だった。


「…………。」


 俺たちは絶句した。迷宮の記録に、ヒト形のモンスターが出現したという記録があった。そして、それの討伐には、実に数十人もの冒険者の命が失われたということも。


 俺は己の武器を握りしめる。もし、そのモンスターと同種だった場合、俺が命をかけて時間を稼がなければならない。

 せめて、こいつらくらいは、生かしてみせる。


 俺が覚悟を決めた途端、それは━━否、それらは迷宮から吐き出されるように、壁から飛び出してきた。


「…………なん……だと?」


 俺たちは、また違う意味で絶句した。

 2人のヒト型は息をしていた。一人は、茶色がかかった黒髪をし、紺色の外套をしている少年。そしてもう一人は、フード付きのマントのなかに、紫色の髪を携えた少女だった。


 俺たちの探し人は、思いもよらぬ形で見つかった。


◆◇◆◇◆

 


 暗い、暗い場所だ。そこに俺は一人で立っている。

 いや、それは正確ではない。俺は自分の足元を見る。

 そこに転がっていた死体の一つと目があった。その眼窩には、果てしない無念と絶望、そして憎悪があった。

 そんな無数の死体達の上に、俺は立っている。

 俺は、自らの両手を見る。それは、どす黒い血で濡れていた。その血は、まるで彼らの負の思いが詰り、暗色として現れているようだ。


 もう一度、死体と目が合う。その死んだ瞳の奥には……




血に溺れた死神が移っていた。



◆◇◆◇◆


「…………。」


 目を覚ますと知らない天井が広がっていた。体の下からベッドの確かな弾力を感じる。

 人生で何番目かにいっておきたかったセリフを消化しつつ、起き抜けの頭を働かせる。

 とりあえず、なにがどうなってこうなったのか、理解しないといけないな。


 えっと、思い出せ、俺は何してたんだっけ?

 あ、そうだ。そういえば、迷宮に潜ってて、それで、ああ、ローたちとはぐれてルナと2人で探索してたんだった。

 そしたら謎の鎧とタマゴと出会って、そこから白蛇がでてきたんだったな。

 ─それから、なにか夢を見たような……。


「……ッ!」


 突然、頭痛が襲い、強制的に思考が打ち切られる。俺も、まあいいかとそれ以上考えることはなかった。


 あ、そういえばルナは?

 俺は、寝たまま部屋を見回す。どうやらそこは個室のようで、窓からは夕日が差しており、かなりの時間が経過してしまっているようだ。


「シュ~。」


 空気が抜けるような音の中になぜか心配しているかのような感情を感じる声が、俺の鼓膜を揺らした。

 

「……ああ、お前も無事だったのか。」


 俺の視界に、白蛇の顔が映る。どうやら、枕の横から顔を覗き込んでいるようだ。

 なんとなく、白蛇の頭を指で撫でてみる。すると、蛇は目を細めて、爬虫類らしからぬ表情の変化をみせた。どうやら甘えているようだ。


「……フッ。」


 こうして見るとなかなか可愛く見えてくるな。なんでか分からないが、俺にも懐いているようだしな。

 俺は上体を起こす。そうすると、白蛇は腕を伝って、俺の首のところに頭を擦り付けてきた。


「おお、起きたか?」


 そうしていると、部屋の扉が開き、誰かが入ってくる。そいつは、ボサボサの髪に無精髭という盗賊のような格好だが、脇には果実が入ったかごを手にしていた。


「ローか。」

「よお、調子はどうだ?わざわざナシを買ってきてやったぞ。ライクがな。」


 おい待て、ライクをパシるなよ。

 ローはこちらにむかって真っ赤なナシを放り投げてくる。

 俺はそれを掴みとると、自分が空腹なことに気がついた。そういえば、昼飯も食べてなかったな、と思い出し、未だ色に慣れないナシにかぶりついた。


「そういえば、俺はなんでここにいるんだ?ルナはどうしたんだ?」


 俺がナシを咀嚼しながら聞く。それにローは、あきれたような表情をした。


「質問したいのはこっちだっつうの。ルナはさっき起きたからグラマスが聞き込みしてる。で、なんでお前らがここにいるかだが……。」


 そこで、ローの目が細く鋭くなる。

 瞬間、空気が180度変わった。

 ローから汗がふきでる程の威圧感が溢れ出す。

 さらに、それを増長させているものが、ローの腰にはある。

 それは、ボロ布で巻かれた何かだった。しかし、俺は知っている。あれが、ローの得物なのだ。

 迷宮ではモンスターを次々と肉片へと変えて行ったその武器に、当初は心強さを感じていたが、今は全くの逆、恐怖を感じている。


「おいおい、何の冗談だよ。」


 俺は震えそうになる声を必死に抑えて、その行動の意図を問う。


「ギルドからお前ら2人に、モンスターの容疑がかけられている。」


 ローは変わらず、鋭い口調で言い放った。



 今回は、主要人物2人の身体的特徴を出してみました。近いうちに人物紹介なども出そうと思います。

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