32 タマゴの正体
遅れて申し訳ございません。続きを投稿します。
俺は念のため目を一度こする。そして、もう一度対象を見るが、それは変わらず、大きな卵だった。
全体は、大きめのダチョウの卵くらいはあり、俺も片手では持ちきれないかもしれない。色は普通だな、白だ。
いや、それ以前に死闘を繰り広げた後にあるのが卵とは、場違いが過ぎないだろうか。
俺はチラリとルナをみる。すると、ルナもチラリと俺を見ているのがわかった。
その目が言っているようだった。お前が確めろ、と。
「いや~、こんな立派なたまごははじめてみるな~。ここは、大魔導師であるルナさんに持たれたほうが卵も嬉しいでしょうね~。」
「いやいや、私は見ていただけだからね、ここは命をとして戦ったヘルトさんが持つべきだよ。」
両者とも顔はニコニコだが、その目はお前が持て、と言わんばかりにギラついている。
その火花が散る戦いは……
「ハァ……分かったよ。俺が確かめればいいんだろ?」
俺が折れる形で終わりを迎えた。
「うん。いいこころがけ。」
なぜだか、ルナは自慢気にふんぞり返っている。なんだか、どんどんルナに師匠属性を奪われていってる気がする。
……まあ、いいか。師匠属性なんてあってないようなものだし。
第一、こんな怪しいものをルナになすり付けるつもりは最初からなかったし。
「……ごくり。」
俺は緊張による唾を飲み込みながら、慎重にタマゴを持ち上げる。
途中、何かの弾みでトラップが発動しないか不安になったが、特になにも起きなかった。
しかし、持ち上げてみると、そのタマゴの異常性に気がついた。
「…軽い?」
通常、タマゴというのは中に生物の元が入っているはずなので、なかなかに重い。そして、その重さはタマゴの大きさと比例して重くなるはずなので、このタマゴもかなり重くなくてはつじつまが合わない。
だが、俺の両手に収まるタマゴは、羽のようとまではいかないが、まるで中に何も入っていないかのように軽い。
俺がタマゴの異常性に首を傾げていると……
……ピシッ。
「……ん?」
突然、不振な音が聞こえた俺はその音の発生源……手にもつタマゴの表面へ目を走らせる。
すると、タマゴの一部からヒビが広がっていることに気づいた。
「あ!?なんかヤバイかも!」
「え!?なんかってなに!?」
ヒビ割れた所から、神々しい光が溢れ出す。あれ?これ爆弾とかで見る演出じゃね?
「爆発するぞぉ!」
「えぇ!!」
俺の叫びに呼応したかのように、タマゴのヒビは広がり、そして、
弾けた。
「くっ!」
とっさにルナとタマゴの間に入り、爆発の衝撃を少しでも弱めようとする。
だが、俺が予想していた衝撃も、爆音もしなかった。したのは、なにか軽いものが砕けて落ちる音。
「……ん?」
とっさに閉じた瞳をゆっくり開き、現状を確認する。そして気づいた。
俺の手の中にあったタマゴが、一回り小さくなっているのだ。
そして、その回りにはタマゴの殻が散乱していた。周りには割れた後があるのに、俺の手の中には傷ひとつないタマゴがある。おかしくないか?
俺はもう一度、よく目を凝らしてタマゴを見る。すると、数分まえよりも変わっているところがいくつかあることに気づいた。
まず、色だ。先程まではスーパーで叩き売られているような、くすんだ白だった。しかし、今のタマゴは、まるでタマゴ自らが発光しているかのように輝いているような純白。全体的に銀っぽい感じもする。
そして、重さ。先程までなにも入っていないかのように軽かったのが、今は中に何かがぎっしりと詰まっているかのような重量感を感じる。
明らかに先程までと違うタマゴの様子。それに俺もルナも困惑していると、
……ピシッ。
「あ……」
また同じような音だ。また、タマゴに目を向けると、その表面には先程と同じようにヒビが入っていた。
しかし、さっきはヒビの間から光が漏れだしていたのが、今回はない。その代わり、ヒビの入りかたが少しおかしい。
まるで、中から何かが出てこようとしているかのような……。
「シャー!」
そう思った途端、タマゴの一部が弾け、中から何かが飛び出してきた。
「「!?」」
俺もルナも驚き、ついのけぞってしまう。その何かは、全身を雪のように真っ白な鱗で多い、縄のような細長い体をクネクネとしならせている。そして、その瞳は宝石のように煌びやかな紅。
それは蛇だった。そのルビーのように透き通った目と俺の瞳が交差する。
「シュア~!」
蛇は俺と目が合うと、嬉しそうに鳴き声をあげた。
◆◇◆◇◆
一度状況を整理してみよう。
俺たちは依頼を達成する為、迷宮へと足を踏み入れた。
目標は達成したが、ひょんなことで迷宮の落とし穴から下へ落ちてしまい、その先で謎の鎧と交戦、なんとか生き残る。
そして、その先で謎のタマゴに遭遇、そしてそのタマゴから白い蛇が生まれた。
こんなところか。
なんとか、状況を確認して落ち着いた俺を横目に、白蛇は腕を伝い、こちらにウネウネと向かってきた。
「シュウ~!」
まるで甘えるような声で鳴く白蛇だが、そもそも蛇などの爬虫類には発声器官、人間でいうところの喉や声帯というものがない。なので、鳴き声を出すことができず、よく聞く「シャアー」や「シュー」は、声帯ではなく、体全体を使って出している……らしい。又聞きだから詳しいことはあまり分からないが。
だが、こいつの出す音は躍動があり、なんとなく感情が伝わってくる。
『……へぇ、これは面白そうなものがいたものだね。』
シェリアが興味深そうに呟く。確かに、前の世界では、白い蛇は幸運の象徴とされていて、夢で見るといいことが起きるとか聞いたことがある。
白蛇は、まだ生まれたばかりだからか、長さが十数センチしかない。しかし、そんな未成熟さを感じさせない動きで俺の腕を這いまわっている。
「なにこれ……。」
俺は思わず苦笑いしてしまう。別に、蛇が嫌いな訳ではない。むしろ、好きなほうだ。といっても、食料としてだが。アオダイショウなんかは、素焼きにしても旨いぞ。
「……こいつ喰えるかな?」
「……え?」
俺に甘える蛇のようすを見て、少し愛らしさを感じていたらしいルナは、俺の言葉に❬なにいってんだコイツ❭的な目をした。どうやら、ルナの中ではこの蛇は既にペット枠なようだ。
俺?それは状況によるね。食料があれば別にどうもしないが……あとはご想像におまかせしよう。
俺の腕の周りをグルグル回っていた白蛇は、急なにかを思い出したかのようにハッとし、俺の腕から降りていった。
「なんだ?」
俺はすこし興味をもち、白蛇の後を追いかける。
白蛇はタマゴが置いてあった台の裏に行くと、キョロキョロと辺りを見渡し始めた。
なにをしているのか疑問に思っていると、なにかを見つけたらしい白蛇はその対象に向かい、その口先で触れた。
そこには、驚くほどに蒼く丸い石が埋め込んであった。それに白蛇が触れた途端、部屋事態が大きく揺れた。
「!? なにが!」
「下見て!」
ルナの言葉に俺は反射的に下を見る。すると、そのそこには、先程の石と同じような色をした光が床を走り回っていた。
「魔力!」
『それもかなり高純度!衝撃に気を付けるんだ!』
シェリアの忠告が終わるか終わらないかのタイミングで、事態は一気に動き出す。
床を這い回った蒼い魔力はいつしか大きな紋様を作り上げていた。
床の紋様から今まで見たこともないような高純度の光が俺たちの体を包み込んでいく。
一瞬の浮遊感の後、俺の意識は光の渦に飲み込まれた。




