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30 試練の決闘

 すこし遅れてしまい申し訳ございません。続きを投稿します。

 鎧の瞳に、青い魔力が宿った。それと同時に、鎧の腕や足が、ギィギィと音を立てながら動き出した。


「なんだ…あれ?」


 俺は目の前で起きている不可解な出来事に唖然としながらも、博識な弟子と残念な精霊に答えを求めた。


「…わかんない。」

『すまないが、このようなものにあった記憶はない。』


 しかし、返ってきた言葉に、この謎の状況を説明することは不可能だった。


「じゃあどうする?逃げるか?」

「無理。後ろに道はなかった。あるのはこっちだけ。」


 確かに、俺たちが来た通路の反対側はなく、行き止まりだった。なら、脱出するためにはここを通るしかないだろう。


 しかし、俺たちが話している間にも鎧は態勢を整え、そしてその手に持つ武骨な直剣を俺に向けて突きつけた。


「…………?」


 最初、俺は鎧がなにをしているのかわからなかった。しかし、その仕草は洗礼されており、ヘルム越しに見える瞳の光は真っ直ぐ俺へと注がれていた。


「……決闘、か?」


 前の世界のアニメや漫画で同じような場面を見たことがあった。

 譲れないことがあるときに、正々堂々、剣術は一対一で戦うことだったはずだ。


「どうなってんだよ…。」


 俺は困惑しつつ、そう呟いた。それが鎧に届いていたかは不明だが、鎧は変わらず俺に剣を突きつけている。


「ぶっちゃけいきたくないんだけど……」

「嘘。」

「え?」


 俺の呟きに、ルナは俺の顔を見ながら即答した。


「だって笑ってるよ、顔。」


 俺はその言葉を聞き、自分の顔を軽くさわる。俺の口角はつり上がっており、笑みの形をとっていた。


 そうか、俺、楽しみなのか。あいつと戦うのが。あんな古そうな鎧と戦うのが。


 あんな古くてロマンがつまってそうなやつと戦うのが。


「……俺は戦闘狂じゃないんだけどな。」

「安心して。骨は拾ってあげる。」

「その場合お前もここを通れなくて仲良くあの世いきだよ。」


 軽口を叩きながらも、俺は部屋に一歩、足を踏入れる。


『奴の解析のためにはまだしばらくかかる。その間、奴の戦闘力は未知数だ。』


 ああ、わかってる。


『もしかしたら、私たちの想像を絶するほどの力を秘めてるかもしれないよ。』


 ああ、もちろんわかってる。


『……怖くないのかい?』


 ……ああ、怖くないね。だってさ。あるんだぜ?目の前に……



 未知ってやつがさぁ!!


 俺は不敵に嗤い、剣を構えた。


◆◇◆◇◆


 俺の構えを見た鎧は、武骨な直剣を額の上で上段に構えた。

 対して俺は剣を真っ直ぐ鎧の瞳に向け、《正眼》の構えを取る。

 この構えは、他の様々な構えに繋ぐことができ、攻守ともに基点となる構えだ。


 俺の学んでいた剣術は、既存の剣道とは違うところも多いが、それでも共通している点は多い。というのも、元々俺の剣術は剣道から派生した流派のひとつだからだ。

 もともと、剣道と剣術は違いは少ない。剣道とは、剣という方法を使って心身を鍛える修行のようなものだが、剣術は人を《殺すこと》を理念としている。


 現代では剣道は、全てがルールに定められているが、剣術は今も密かに息づいていたりする。といっても、俺の剣術は人を殺すのが目的ではない。人を守るための剣術だ。


 だが、俺はその剣術で、人を…


 それかけた思考を頭を軽く降ることで四散させる。そして、改めて鎧と目を合わせた。

 改めて鎧の全貌を見ると、鎧の端々にはヒビが入り、錆びているのか動きがぎこちない。

 だが、その身から放たれる威圧感は並みではなく、剣を握る手から汗が吹き出すのがありありとわかった。


 なぜこのような鎧から並々ならぬ威圧感が滲み出ているのか、そもそもなぜこの鎧はこの場所にいるのか、疑問は尽きない。

 だが、俺はそれを頭の端へと放り投げ、敵との戦いに意識を集中し、頭のなかで軽くシュミレーションする。


 まず、鎧が動こうとした瞬間、足に溜めておいた力を一気に解放して、距離を詰めてから、急所を叩く。

 戦闘中の隙は、大きく二つある。動く直前と直後である。例え、鎧が隙をカバーしようしたとしても、必ず他のどこかの隙が大きくなる。そこを狙う。


 俺は鎧が動く瞬間に跳べるように足に力を込め、剣に魔力を纏わせた。


 鎧が、足を大きく一歩、踏み込んだ。


 瞬間、俺の目の前に、自分の何倍もの大きさの剣を幻視した。


 俺は溜めた足の力の全てを使い、とっさに横に跳んだ。数瞬後、その判断が間違っていなかったことを、俺はまざまざと見せつけられた。


 ドーーン!


 雷でも落ちたのかと錯覚するほどの大きな破壊音と砂飛沫が俺を襲った。俺がさっきまでいた場所には大きな砂煙が立ちこもっている。


 それが晴れた時、そこには鎧が石畳に向かって剣を振り下ろしていた。叩きつけられた石畳はひどく破壊されている。



「マジかよ…!」


 その光景に言葉を失う。警戒するのはその剣戟の速さ…ではない。俺の目には、奴の剣の軌跡がハッキリと映っていた。

 だが、反応できなかった。なぜか。それは、奴の放った《威圧感》 とも呼べるもが、俺の体を握り締めたからだ。

 そして、それに捕まってしまった原因は、おそらく俺の心の有り様にあったのだろう。


 はっきり言おう。俺はビビってしまったのだ。あの強大な力に気圧されてしまった。


 情けない。このままでは終われない。そう考え、目蓋を閉じ、意識を集中させた。


『!?ヘルト!なにをしているんだ!』


 端から見るとそれは無防備なだけだろう。実際、俺の体はどこから見ても隙だらけだ。鎧がその気になれば、何処からでも俺の命を奪えるだろう。


 だが、俺にはなぜか確信があった。鎧はきっと待ってくれる。後から考えてみればなんとバカな発想だろうと思った。しかし、この時だけはなぜか、心の底からそう思えた。あるいは、それは俺の願望だったのかもしれない。


 瞳を閉じた俺の体に、剣が打ち込まれることはなかった。



 思い出すのは、きつく血がにじむような修行の日々。何度もたたかれ、何度も投げ飛ばされ、襲われ、放り出された。気絶した回数は数えきれない。何故、祖父はこんなにも自分に厳しくするのか、俺がなにか悪いことをしてしまったのか、そう考えて眠れなくなったこともあった。

 だが、俺がどれだけ情けなくても、じいちゃんは俺を見捨てなかった。何度だって俺を殴って立ち直らせた。俺がつらかったように、じいちゃんもつらかったのだろう。

 そうまでして育ててくれたじいちゃんに今のこの姿が見せられるか?否、断じて否だ。俺が情けないということは、育ててくれたじいちゃんや両親の顔に泥を塗ることと同じだ。


 びびるな。怯えるな。どれだけやつが大きくても、届かない高さじゃない。


 俺は目を開き、今一度鎧を睨み付けた。その視線を鎧は正面から受け止めた。


 両者が構えを取る。先程と同じ構図だ。だが、目には見えないところに変化があった。

 それが勝負の分かれ目となった。


「……ヤアァァー!!」


 俺は腹の奥から気勢を挙げ、溜めた力を真っ直ぐ正面に向ける。

 それに対して鎧は、先程と同じように上段からの一撃を繰り出す。


「!…びびんなぁ!!」

 

 俺は声を挙げながら、振り下ろされた直剣に向けて、側面から自らの剣を振り上げる。正面から力で勝負してしまえば、俺の体は先程の石畳のように、粉々に粉砕されてしまうだろう。

 ならば、どうするか。

 答えは簡単だ。普通に受け止めるのではなく、衝撃を受け流してしまえばいいのだ。

 俺は、剣の側面から力を込める。剣は縦の力には強いが、横からの力にはよわい。そこを突かなければ俺に勝ちはない。俺の剣と鎧の直剣が交差する。


 数瞬後、再び辺りに雷鳴のような音がした。鎧の直剣は、俺の数センチ隣に粉々のヒビを作っていた。


 受け流した。それを理解するのと同時に、俺は既に攻撃に移っていた。


「ラアァァァ!!」


 俺の突き出した剣は鎧の中心部へと深々と突き刺さった。


 ビクッん、と鎧が痙攣した。俺は素早く剣を抜き、一気に交代する。突きは強力な技であるが、そのぶんリスクも隙も大きいからだ。


 だが、そんな俺の考えは杞憂だった。


 鎧は直剣を取り落とし、膝をついた。

 そして、片手で傷ついた胸を抱き、もう片方の手で天を仰いだ。

 それはまるで、決して届かない、焦がれるものへと懸命に手を伸ばしているようで……


 鎧は、伸ばした手の先から、灰へとその姿を変えた。


 その場には、呆然とした俺だけが残った。

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