27 迷宮への入り口
結局、その日はずっと図書館でページをぺらぺらと捲っていた。ルナからなにやってんだこいつ的な目をされたが、シェリアは大満足だったみたいだ。
その後、大熊亭に帰るとなぜかローがライクたちと酒盛りしていて、目があったらガシッと捕まれ酒を飲まされたりした。
案の定ルナは俺を見捨てた。これでも師匠なのに。
そして翌日、俺たちはガンガンなる頭を薬草で誤魔化しながら組合本部に来ていた。今日はローも一緒である。
今回の目的は、依頼を受けてルナの冒険者ランクをあげることだ。
ルナを冒険者組合という場所で匿う為には、ほかの冒険者にもルナのことを認めさせ、特別待遇を認めさせなければいけない。それをするために手っ取り早かったのが、名付けて《ランク上げてアイツスゲェー》大作戦だ。え?ネーミングセンス?なにそれ美味しいの?
そして、この冒険者のランクをあげる方法だが、これが結構難しい。冒険者として依頼をこなしたり、素材を売ったりして活動すると、貢献度……つまりポイントがたまり、それが一定数越えるとランクアップできる。しかし、ポイントだけでランクアップできるのはEランクまでで、それ以上のランクに上がる為にはポイントに加え、組合で定期的に行われる昇級試験に合格しなければならないのだ。
ローによると、ルナくらいの歳ならDランクまで上げることが出来れば、一目置かれるのには十分らしい。なので、今の目標は《ルナをDランクに上げること》だ。
そんなわけで、まずはランク上げの為のポイント稼ぎに来たというわけなのだが、実はポイントだけが目的ではないのだ。俺はチラリと俺の腰の辺り……プリクリに来た頃よりだいぶ軽くなった財布をみた。
この街に来てからというもの、やれ酒を飲めだのもっと飲めだの倒れるまで飲めだのといわれ続け、まったく財布と肝臓に優しい生活をしていないのだ。なので、ここら辺で財布にお金をチャージしておきたい、小市民の心情である。ついでに二日酔いに効く薬草もストックしておきたい。
そんな思惑を胸に秘め、俺たちは組合の一角に向かう。そこには全長横8メートル程はありそうな巨大なボードがあり、多くの依頼の用紙が張り出されていた。
「なになに?」
俺はじっくりと依頼の用紙を一枚一枚見ていく。
『迷宮スライムの粘液の回収』
『迷宮オークの肉調達』
『治癒草の採集』
『迷宮灰熊の毛皮の採取』
やはりというべきか、迷宮関係の依頼が圧倒的に多い。それ以外の依頼は大半が薬草や木の実などの採集依頼、または街のなかでのアルバイト依頼くらいだった。
俺はそこで目に止まった依頼の用紙を手に取る。それは、『迷宮大熊の毛皮の採取』という依頼だった。
「なあ、迷宮灰熊ってなんだっけ?」
俺は2人に向かって疑問を投げ掛けた。その疑問にはローが答えてくれた。
「迷宮には魔物やモンスターが沸くのは知ってるだろう?その迷宮で生まれたモンスターたちのことを迷宮種といって、種族名の頭に迷宮をつけるんだ。」
「だから、迷宮灰熊というのは迷宮生まれの灰熊のこと。」
最後はルナが引き継いだ。ローがなんとも言えないような顔をしていたが、俺は気にせずなるほどなと思う。
迷宮では、地下に階層が続いており、現在確認されているだけでも12階層はあるらしい。そして、迷宮最大の異質な点として、壁からモンスターや魔物が産み出されることだ。なぜ、迷宮の壁から敵が出てくるかは、まだ解明されておらず、謎に包まれている。
灰熊……レイトンで戦った赤熊─正確にはレッドグリズリーだったか?と同系統の魔物だろうか。赤熊みたいにバカだと助かるんだがな。
「じゃあ、手始めにこれを受けるか?報酬も金貨二枚とそこそこだしな。」
「いいけど、この灰熊って迷宮のどこら辺に出てくるんだ?」
「おおよそ二階層くらいだぜ。」
俺が2人と相談していると、その声の主は不意に後ろから話しかけてきた。それが誰かは、ルナのしかめた顔を見れば分かるだろう。
「ライクか。」
そこにはルナが喧嘩を売った冒険者のライクとその仲間たちがいた。
「よお、ヘルト二日酔いの調子はどうだ?」
「ぼちぼちだよ。酒に強いお前らがうらやましい限りだ。」
こいつらは酒を飲み慣れているのか、俺ほど二日酔いは酷くはなく、しばらく休んだら普通に回復する。いや、羨ましいとは思わないけど。
「お前たちも今日は仕事か?」
「おお、ちゃんと休養もとったし、そろそろきちんと働かないとだしな。」
そこまで言うとライクは、なにか良いことを思い付いたかのような表情をした。
「そうだ、お前らも今から迷宮に潜るんだろ?なら、俺たちと一緒にいかねぇか?お前のことは気に入ってるし、そこのガキはまだ俺の実力を疑ってるみたいだしな。」
ライクはそういうとルナを意地悪そうな顔でニヤリとわらった。それにルナはあからさまに嫌そうな顔を返した。
さて、俺はチラリとローの方を見る。俺個人としては、ライクのことを信用したいが、レイトンでのことがあったため、冒険者をおいそれと信用するのは気が引ける。そのため、ローに判断をあおごうと思ったのだが、ローは俺の目線に好きにしろとでもいうかのように顎をしゃくった。ならばと、ルナを見ると……全力で顔を横に振っていた。そんなに嫌なのか……。そこで、俺はルナに二度も見捨てられたことを思い返した。
「ああ、よろしく頼む。俺たち迷宮は初心者だからな。いろいろ教えてくれ。」
任せろとライクが息巻くなか、視界の端でルナがガクッと肩のおろしたのが見えた。すこしだけスカッとしたのは内緒だ。
◆◇◆◇◆
「デカイな……。」
プリクリの街門から舗装された道を歩くこと十数分、そこには半径二十メートルはありような巨大な縦穴があった。その縁には人が二三人横に並んでも進めそうな階段が下に向かって続いている。
「ここが迷宮か……。」
「ほら、いくから準備しろ。」
ローが縦穴に圧倒されていた俺とルナに声をかける。それに我にかえった俺たちはすぐに荷物袋から装備を取り出し、装備していく。
「よし、準備はいいか?いくぞ!」
ライクの言葉に全員が頷き、縦穴の階段に足をかける。
俺は足を踏み外さないように注意しながら、下にはなにが待っていのだろうかという好奇心に身を焦がせ、少しずつ、階段を降りていった。




