25 酒は飲んでも(以下略)
『───なんで!なんで!』
誰かの悲痛な叫びが聞こえる。それは自らを攻め、罰しようとしているような、悲しい声だった。
『──しなければ、──の─は壊れていた。』
そこに、慈しみをもった誰かの優しい声が慰めの言葉を紡ぐ。
『俺は!俺は!…』
しかし、彼には届かない。安らぎの言葉は逆に彼の心を固く、強く閉ざしていく。そして、彼は一つの言葉を放った。
『俺は死ぬべきだった。』
◇◆◇◆◇
窓から太陽の日差しが入り込み俺の瞳を照らす。寝ぼけ眼で辺りを見回すと、そこは食堂の端だった。邪魔で、誰かがここまで運んだようだ。
「……夢か。」
体と共に頭も睡眠から目覚めてくる。さっきみた夢。なにかどこかで聞き覚えが有るような…。しかし、俺にそれ以上考える余裕はなかった。
「…気持ち悪い。」
俺は口元を押さえてえずきながらトイレへと走った。
◆◇◆◇◆
「…頭痛い。」
「自業自得。」
俺たちは今、組合本部にいくため、町を歩いていた。
俺は始めての二日酔いの影響で頭痛と気持ち悪さがヤバかったので、そこら辺の露店に売っていた、二日酔いに効くという薬草をモサモサと食べていた。
心なしか、少しづつ痛みが引いている気がしなくもないが、まだまだ痛いし気持ち悪い。
こんなことになるならお酒なんて飲まなければよかった。
『私は何度も止めたんだよ?でも君は聞く耳を持たなかったんだ。彼女の言う通り、自業自得さ。しばらくは反省するんだね。』
確かに何度かシェリアになにか言われた気がするが、まったく気にしてなかったな。
「決めた。もうお酒は懲り懲りだ。ほどほどにする。」
「うん。それがいい。」
もう俺は酒に飲まれることはない。絶対に!
……あれ?なんかこれフラグぽくないか?大丈夫だろうか…。
プリクリの冒険者組合は本部とついているだけはあるようで、レイトンの組合よりも大きなものだった。みた感じ、日本の国会議事堂と同じくらいはあるようだ。いや、国会議事堂はみたことないが。
早速入ろうと思い、扉を開く。すると、そこはまるで混雑した駅のようだった。
多くの冒険者たちが生活の為、または夢の為にモンスターとの戦いにいくための場所。それが、冒険者組合だ。最初はとんだ名前詐欺かと思ったが、それもここに来て変わった。ここにいるほとんどの冒険者たちが、モンスターから民を守るために戦っているのだ。そして、それを最大限サポートする冒険者組合の本部は、それ相応に俺の心を奮い立たせた。
「受付、あっちかな?」
少しばかり放心状態になっていた俺はルナの言葉を聞き、我に戻った。こんなとこにいつまでもいると他の人の迷惑になるので、さっさと目的を済ませてしまおう。
俺たちが、ここにきた目的。それは、冒険者組合本部のギルドマスター、つまり、社長に顔見せに来たのだ。
本来は元ギルドマスターであるローに顔継ぎを頼みたかったのだが、本人が「話つけとくから勝手にいってこい」といったので、直接組合にきたのだ。
アポイントもなしで大丈夫だろうかと思っていたが、受付で名前とギルドマスターに会いに来たと告げると、職員の人たちが大慌てで動き始めた。あの人なにしたんだよ。
「お待たせしました。こちらです。」
しばらく待っていると、受付の女性に案内された。受付の横にあった階段を登り、廊下を進むと、突き当たりに他の扉とは明らかに豪華さが違う扉があった。受付の女性はその扉の前までくると、どうぞと手で示し、端に控えてしまった。
ちらりとルナを見て、覚悟を決めた俺はゆっくり、優しくノックをする。
「どうぞ。」
すると中から、女性の声が聞こえてきた。ギルドマスターは女の人なのだろうか。そう思いながら、扉を開く。
「よくきたな。歓迎するぞ。」
そこにいたのは、女性─というより、少女のような風貌の人物だった。
身長は160センチもないだろう。髪は雪のような白で、その髪を腰の部分まで垂らしている。しかし、一段と目を引くのはその尖った耳だった。
『へえ、エルフか。これは珍しい。』
シェリアが興味深そうに呟く。
エルフ、ファンタジーには欠かせないともいえる超有名種族だ。それは大体森の奥でひっそりと暮らしいているのがおおかったのだが、ここではどうなのだろうか。
「エルフを見るのは初めてかの?」
「あ、はい。俺のいたところでは見ないので。」
俺の視線に気づいたのか、彼女はそういってくる。初対面なので、俺も敬語だ。
「私はスベニア。この冒険者組合本部のマスター、グランドマスターをしている者じゃ。」
彼女は…スベニアは俺たちにそう告げた。グランドマスターってかっこいい呼び名だな。だれが考えたのだろう。
「初めまして、俺の名前はヘルトです。最近冒険者になりました。」
「る、ルナです。初めまして…。」
俺は普通に挨拶したが、ルナは少し緊張しているようだ。
「緊張しなくてもいい。なにもとって食ったりはせんよ。」
そんなルナのようすを感じ取ったのか、スベニアはジョークで緊張をほぐそうとしてくれる。物言いもそうだが、どこか老人のような雰囲気を纏っている彼女には、心なしか俺も和んでしまう。
「さあ、じゃあ本題に入ろうかの。ローから大体の話しは聞いておる。どうやら、なかなかに大変な事態になっているようじゃな。」
「はい。なんでかは、わからないんですが。」
彼女の言葉から、レイトンであった事件については知っているのだろう。それに関わっている奴らのことも。
「確かに、冒険者組合は今や人族領の守り手となっておる。そんな組織に手を出すことはそうそうできないじゃろう。」
冒険者組合には、モンスターや魔物との戦闘に長けた人が多くいる。そんな組織と好き好んで敵対しようと思う奴らもそんなにいないだろう。
「だが、絶対にいないとも限らない。じゃから、お主たちも冒険者組合のなかで力を示し、地位を確立しなければならない。そうすれば、組合もお主たちを大事な戦力ということで守ることができる。」
スベニアの話を要約するとこんな感じだった。まず、俺たちを冒険者組合で囲って守ることは可能だ。しかし、ぽっとでの新入りが優遇されていたら、冒険者たちの不満が出てしまう。なので、実力をみせて優遇できるくらいの地位を手に入れろ、と。
「じゃあ、しばらくは冒険者のランクを上げることに頑張ればいいですか?」
「ああ、依頼を達成したり組合に貢献したら点数が加算されて、ランクが上がる仕組みじゃ、頑張るといいぞ。」
◇◆◇◆◇
スベニアの執務室をあとにした俺たちは休憩と昼食のため、組合の食堂にきていた。
「しばらくはランクを上げるために依頼をこなすか。」
「うん。今日はどうする?」
「ひとまず図「いいぞ!のめのめ!」……。ひとまず図書館に「あはははは!!のめのめぇ!」ああもう!誰だよ!こんな昼真っから飲んでるのは!」
俺はうるささのあまり、怒鳴りながら酔っぱらいたちを見た。そこには見覚えのある顔があった。ボサボサの黒髪に無精髭、その顔はアルコールにより赤く染まっている。
ローだった。そして、その瞳がギラリと光った気がした。
瞬間、俺は組合の出口に全力ダッシュしていた。
「おいおい、そんな逃げることないだろう?こっちで一緒に飲もうぜ。」
しかし、追い付かれた。酒臭い。この人なんなの?見た瞬間、走り出したのに一瞬で追い付かれたんだけど。
「待てロー。俺は昨日酒で痛い目を見たときからもう酒はこりごりなんだ。だから、俺は……。」
「じゃあ、ほどほどに飲めばいいじゃないか」
「待てまて、お前のさっきの飲みっぷりを見たがとてもじゃないが、ほどほどには見えなかったぞ。だから、俺は降りる……。」
俺はローの腕から抜けようとする。しかし、ガッチリと俺の首にはまったローの腕はまるで南京錠のように離れない。
「HA・NA・SE!!」
「連れないこと言うなよ。ほら皆もまってるぞ。」
「待って、マジで待って、今日も痛い目見たんだよ!もうあんなのは嫌なんだ!ハッ、ルナ!助けてルナ!え、なんで手を振ってるの。助けてくれるよな?な?…。嫌だ!待て、話し会えば分かる!話し合えば……ゴボゴバゴバババ」
数分後、組合で騒ぐ酔っぱらいたちの集団に一人の青年が加わったのはいうまでもない。
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