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24 酒は飲んでも飲まれるな

 大熊亭の宿室は思っていたよりもきれいなところだった。

 木製のシングルベッドに机と椅子。少し小さいがクローゼットのようなもある。机に指を走らせてみるが、ほこりのようなものもつかない。きちんと掃除が行き届いているようだ。シーツも定期的に代えているようで虫なども湧いていない。評判通りのいい宿屋のようだ。

 俺は荷物の整理をするため、取り敢えずベッドに腰掛けた。そして、俺の荷物が入っている袋の口を開け、中身を取り出し、ベッドの上に並べる。

 今、俺の荷物袋のなかに入っているものは複数ある。

 まずは財布。中身は、猿を倒したときに組合から出たボーナスが金貨40枚。そして、色々旅支度をしたあと残った金が金貨3枚と銀貨7枚、そして銅貨が少々だ。なので、合計日本円にしておよそ43万円の大金を所持していることになる。正直俺は5万円より上のお金を持ち歩いたことはないので、旅中ビクビクしながら歩いていた。

 

 もちろんスリの対策はしてある。まず、雑貨屋で買ったサブの財布に金貨と銀貨を少々いれておき、普段はその財布を使う。そしてそこに、精霊であるフーリンを忍ばせておく。これなら、もしスリに会ってしまってもフーリンとの道を辿って犯人を見つけることが出きるという戦法だ。まあ、スリに会わないのが一番なのだが。

 

 他にも、装備品の類いと、旅のための便利道具が少々といったところだ。

 現在の俺の装備品は、頑丈なロングソードに皮鎧、そして新調した紺色のマントだ。

 このマントだが、猿との戦いの際、背中を守って破れてしまったのだが、倒した猿の毛皮の一部をコリアンさんに頼んで、加工してマントにしてもらったのだ。もちろん、素材が素材なので組合から譲ってもらえた毛皮の量は少なかったので、足りない部分は似たような質感の皮で補強してある。ちなみに、紺色の染色材には雨をある程度弾く性質があるらしく、とっさの時は雨具にも使えるとのこと。


 荷物の整理を終えた俺は、片付けた荷袋をベッドの下に置くと、寝転んで天井を見た。そこには、俺の記憶から再現した漫画を読んでいるシェリアがふわふわと浮いていた。その近くにはフーリンの姿もある。


「たしかその姿は魔力を食うんじゃなかったのか?」

「?ああ、確かに魔力を消費するにはするが、それも微々たるものだ。それに、最近は大きな戦闘もないし、魔力をもて余しているんだ。だがら、すこしくらい使っても問題はないよ。」


 俺の質問にシェリアは本から少しだけ目を反らして答えた。シェリアは人の目があるところでは俺の体に隠れているが、こうやって一人のとき等は姿を見せていることが多い。それに、最近は激しい戦闘や訓練もしていないから魔力も余っているので、すこしくらい無駄遣いしても大丈夫らしい。

 俺は窓から外の様子を覗いてみる。空は既に橙色に染まっており、日が落ちかけていた。


「図書館に行くのは明日だな。」

「!?」

 

 その言葉に、シェリアは本から顔を上げてガクッと残念そうに肩を落とした。

 まったく、本当に感情が豊かな精霊だ。


◆◇◆◇◆


 コンコンというノックの音に気づいたとき、既に外は夜闇に包まれていた。どうやら寝入っていたようだ。

 扉を開けると、頭からフードを被ったルナが待っていた。


「お腹すいた。」

「ああ、もうそんな時間か。すぐ行く。」


 俺は部屋から財布を取り、食堂に向かった。

 


 数時間ぶりに訪れた食堂は、昼とはまた違った賑わいを見せていた。

 宿泊客たちは酒を飲み、歌い、食べて、騒いでいた。空いていた席に座り、なにか頼もうと思ったところ、となりに誰かが座った。


「よお、一杯おごってくれるんだろ?」


 それは昼間の男だった。そういえばそういった約束をしていたと思いだし、答える。


「ああ、でもあんまり高いのは勘弁してくれよ?」

「わかってるよ。ここの飯は安いのにうまいんだ。おい!エールと腸詰めのセットを二つくれ!」


 注文した品がくるまで、男といろいろな話をした。   

 どうやら男はランクE冒険者のライクと言うらしい。このまちの冒険者としてはまだまだ新参ものらしいが、こどものころから住んでいるので、大抵のことはわかるらしい。せっかくなので、図書館や冒険者組合の場所を聞いておいた。

 他にもいろいろ話を聞こうと思っていたら、頼んでいた料理が運ばれてきた。

 麦の色をそのまま搾り取ったような黄金色のエールに、ふっくらとしたソーセージを基本とした定食。思わずよだれが出てしまいそうだ。俺はソーセージにフォークを突き刺し、口に運ぶ。


「うま!」

「おいしい!」


 俺とルナは口を揃えてそういった。噛んだ瞬間、中からたくさんの肉汁が溢れだして来て、空腹感をそこから満たしていく。さらに、定食についているパンもいい。ソーセージの肉汁で脂ぎった口内を、優しく洗い流す。これはライクが絶賛するだけはあるだろう。

 しかし、俺には気になっているものがあった。そう、エールだ。俺は生まれてこのかた17年、一度も酒類を口にしたことはなかった。大人たちが楽しそうに飲むなか、自分も飲んでみたいと思ったことは数えきれないほどある。しかしそう思うたびに、それは犯罪それは犯罪と自分に言い聞かせて我慢してきた。

 しかし!この国では15歳を過ぎれば成人だ。つまり、お酒を飲むことが出きるのだ。

 そう、これは犯罪じゃない犯罪じゃないと言い聞かせて、俺はエールに手を伸ばし、一気に飲み干す。一度やってみたかったことだ。

 黄金色のエールが喉を通ると同時に頭の奥がカッと熱くなり、ふわふわとした感じになる。エールを全て飲み干す頃には俺の顔は高揚して赤くなっていた。そこにライクやライクの仲間たちも一気飲みをしだす。


「お!いい飲みっぷりじゃねぇか!俺たちも混ぜろよ!」


 そして、さらにその周りで飲んでいた男たちも加わり、いつしか大きな宴会のようになっていた。


「はあ、寝よ。」


 ルナがため息を吐きながら部屋に帰っていくのが見えたが、俺の意識には残らなかった。


「よっしゃ!今日は朝まで飲むぞ!!」

「「「おう!」」」


 男たちの宴は、町が寝静まるまで続いた。



健康を害する危険があるため、一気飲みや未成年飲酒はやめましょう。

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