19 森林の死闘
少女が疾風となり、襲いかかる。
もし怖じ気付いて後ろに下がってしまえば、一瞬で懐に入られ急所を切り裂かれて、死に至るだろう。
なのでここは、あえて一歩踏み込み、上段からの斬撃を繰り出す。
しかし、少女はそれを予期していたように…否、驚くほどの戦闘勘で攻撃を察し、ナイフを交差して受け止める。
そして少女はナイフ巧みに使い、俺の斬擊を受け流してしまう。すると、俺はバランスを崩し、横腹に隙が出来てしまった。
そこに少女のナイフが吸い込まれ、致命傷を負ってしまうだろう。
これが一対一の戦いであればの話だが。
「ファイア!」
ルナがあらかじめ詠唱しておいた魔法を行使し、俺は間一髪の危機を回避する。魔法は少女に当たりはしなかったが、注意をそらすことには成功した。その間に体制を整える。
「助かった!」
「大丈夫?」
「ああ、なんとか。」
少女は殺し合いの最中なのにのんきに話しかけてくる。
「お兄さんつよ~い!紫いろも意外につよいね。」
「おあいにくさま、ガキの頃からスパルタジジイに鍛えられてんだよ。」
「こっちも。小さい頃から魔法の訓練してるから。」
「へー。でも、半端な攻撃は効かないよ?」
少女は目を細めて呟く。やっぱバレてるか。
『牽制の魔法はほとんど効いてないね。』
シェリアが報告してくる。俺が近接戦をするなか、シェリアには魔法による牽制を頼んでいた。しかし、少女にはほとんど効果がないようだ。
『おそらくは魔法が当たる直前に、全身から魔力を放出して、効果を打ち消しているのだろう。この様子なら牽制は意味がないだろうね。』
シェリアはそう分析する。意味がないのならば、魔力は温存しておくべきか。そう考えていた。
「あ、もう時間切れか。」
「は?」
少女は残念そうに呟く。その意味はすぐに分かった。
「ギィャァァァァ!!」
「!? またお前か!」
森から先程の猿が現れる。やはり、その視線はルナに注がれている。いったいなんなんだ?もしかしてルナが狙われているのか?
『…………………。』
「それじゃあ、あとよろしく~。お兄さん、生きてたらまた会おうね~。」
「あ、まて!」
少女が森の奥深くへと消えていく。
『ヘルト!今はあいつに集中してくれ!』
「…ちくしょう!」
出来ればいろいろな情報を得ておきたかったが、しょうがない。まずはこいつの相手をするとしよう。
「ルナ!俺があいつに隙を作るから、そこに最大火力をぶちこんでくれ!」
「分かった。」
俺は猿と向かいあう。奴の最大の長所は長い腕と爪のリーチだろう。中距離なら一方的になぶられてしまう。ならば、どうするか。あいてが簡単に攻撃しにくいところに入ればいいのだ。つまり、懐である。
だが、言うは易し行うは難しということばがあるように、懐に入るのは簡単ではない。相手の動きを読んで隙をつかなければいけないからだ。
俺は集中して猿の動きに注意して距離を詰める。猿は俺が腕の届く距離に入った途端、その長い手を振り回して攻撃してきた。方向にして右斜め上からだ。俺は魔力を込めた剣を下段から切り上げる。
猿の爪と俺の剣が交差し、爪が弾かれた。体幹が崩れ猿に大きな隙が出きる、そこを見逃さず俺は剣を猿の首筋に突き刺した。
「ギュオォォォォ!」
どす黒い血が飛び出す。怒り狂った猿は俺を引き剥がそうと腕を伸ばす。しかし、その長い腕と爪が邪魔をし、うまく捕まえることが出来ない。
俺は剣を逆手で引き抜き、後ろに回るついでに、股下を削いだ。
「今だ!!」
「ギュギィ!?」
猿が顔をあげる。するとその眼前には、既に魔法を詠唱したルナの姿があった。
「バスキー・ファイア!!」
「ギャギャァーー!!」
炎の魔法が猿を包み、命を焼き尽くす。ドゥ、と猿は倒れた。俺はルナと合流する。
「油断しなきゃ、こんなもんか。」
「うん、早くみんなと合流しなきゃ…」
『ヘルト!まだ終わってない!』
ルナがそこで言葉を切り、シェリアが叫ぶ。。なんだ?そう思った時。俺の後ろから影がさした。
「!?まだ息が。」
「グギャァァァァァ!!」
猿が最後の命を振り絞って俺に攻撃を仕掛けてくる。避けられない。
「とぉぉぉぉ!」
崖の上から何か大きな人影がた。その人影は大きな斧で猿の頭をかち割ってしまった。
「ようし、大丈夫か~。お前ら。」
その人物は見覚えがあった。確か…
「バルトさん。」
ルナがそう呟く。そうそう、森に入る前に見た、調査隊のリーダーだ。
「ありがとうございます。助かりました。」
「ははは、礼はあいつらに言うといい。」
そう言うとバルトさんはある方向を指差す。
「師匠!!」
すると、そこからジュディ達が現れた。
詳しく話を聞くと、猿から撤退したジュディ達は一度組合に報告に戻るため、街に向かっていると、バルトさんが率いる班と遭遇したそうだ。
事情を説明して、捜索の協力をお願いしていると、突然バルトさんが走り出して、その先に俺たちがいたと。
「サンキュー、お前ら。今日はうまい飯を用意してやるよ。」
「マジ!やったぁ!」
「やったぁ!!」
「喜ぶのはそこまでにして、その猿の死体を組合にもって帰ろう。」
イーグがそう締めくくり、俺たちは猿を解体し始めた。こうして、俺とルナは森から脱出することが出来たのであった。
しかし、事態はまだ、終わっていなかった。




