18 人殺しの匂い
「師匠ーー!!」
ジュディが叫ぶ。ルナとヘルトが崖から落ちてしまった。猿は落とした彼らの方を見つめている。
「今だ!一時撤退する!」
「な!離せ!師匠とルナが!」
イーグがジュディを抱えて、走り出す。
猿はずっと、崖の下を眺めていた。
◇◆◇◆◇◆
「さみー。」
崖から落ちてしまった俺とルナは、川原で火にあたっていた。
なんと、あの崖の底は川になっていて、そこに落ちて、流されてしまったのだ。あれが、固い地面だったらと思うと背筋が凍る。まぁ、水面も10メートル以上あったらコンクリートと変わらないって聞くけどね。魔力で体を覆っていて助かったわ。
ちなみに、猿に抉られてしまった背中の傷は既にシェリアによって治療済みだ。買ったばかりのマントが…。
シェリアは一度解析したことを完全に記憶することが出きる。それは魔法だって同じだ。俺がシスターから習った魔法も使うことが出きる。しかし、俺はまだ魔法の訓練を始めて一週間だ。俺とシェリアが使える魔法はまだ少ない。
風の基本魔法と、闇の基本魔法、そこに初歩と中級の回復魔法を覚えている。
まあ、シェリアは自分の魔力がほとんど枯渇気味だから、俺の魔力をつかっているのだが。
シスターの話しでは、俺の魔力総量は人より少し多い程度らしい。なので、あまり無駄使いは出来ない。
あ、回復魔法はきちんと練習して、人並みには出きるようになった。さすがに実践で草生える程度の回復力では話しにならないからな。
それよりも、気になることがある。
「ねぇ、さっきの化け物…」
ルナも同じことを考えていたようだ。
先ほどの猿の化け物…おそらくは魔物だろう。しかし、イーグにあらかじめ聞いていた魔物の情報にあんなふうな魔物の情報はなかった。
つまり、十中八九あいつがこの森の異変に関わっているだろう。あいつは感覚的に、この間戦った赤熊よりも強いと感じた。あいつが他の魔物を森の奥から追いやったとしたら。辻褄は合う。
「取り敢えず、ジュディ達と合流して、組合にあいつのことを報告しなきゃな。準備はいいか?」
「うん。」
俺たちは焚き火のあとを消して、森を抜けるため、歩き始めた。
◇◆◇◆◇
俺たちは崖にけっこうな高さがあったので、おとなしく遠回りしていた。
川の流れにそって進んでいくが、なかなか崖の上につかない。そろそろ面倒になってきたな。そう思ったときだった。
「なにか聞こえないか?」
「?……。なにか聞こえる?」
『確かに、金属同士がぶつかっているような音が聞こえるね。』
「金属同士がぶつかり……まさか、戦闘か!?」
俺たちは音のする方へ向かってみる。これが冒険者ならいい。最悪、盗賊などでも、道くらいは知っているだろう。そう思い走る。が、事態はそんなに甘くなく、容赦なく俺たちに襲いかかる。
「「!?」」
あたりは地獄絵図だった。冒険者と思われる死体がどこかしこに横たわっている。そしてその中心には、人影があった。
「あれ~?こんなとこになんでいるの?」
そいつはまだ中学生並みの身長の少女だった。闇のような漆黒の髪を短く乱暴に切ってあり、体を黒色のマントで覆っている。これだけなら、只の不思議ちゃんで通るが、その両手には血に濡れた2本のナイフが握られていた。
女の子の視線はルナに注がれている。正確にはその髪に…
「紫いろは、ムキムキか、おサルが捕まえるっていってたのにな~。失敗した?」
「紫いろ?おサル?どういうことだ?」
俺が疑問を投げ掛ける。すると、女の子の視線が俺を貫く。すんすんと、女の子が鼻を鳴らす。すると、そいつはニヤーと笑った。
「いいね。お兄さん。わたしとおんなじ匂いがする。人殺しの匂い。」
そういうとそいつは、俺に向かって飛びかかってきた。
「うぉ!!」
俺は突然の攻撃を剣で受け止める。そのまま、つばぜり合いになる。
「突然なんだ!てかなんで、冒険者達を襲ったんだ!」
「それが命令なんだもん♪」
命令?誰かが指示してるのか?俺は、女の子を弾き飛ばした。しかし、女の子は空中で一回転して威力を殺され、地面に着地する。相変わらず、その目は血に飢えているようにみえた。
「戦わないといけなさそうだな。ルナは魔法で援護してくれ。あと周囲の警戒も。」
「分かった。」
俺は剣を構え、魔力を流し込む。流しすぎると、壊れてしまうので、慎重に。
「いいね、それじゃあいくよ。お兄さん!!」
漆黒の疾風が俺達を切り刻むために襲来する。




