17 異形の魔物
この街に入ってから一週間がたった。この一週間はとても充実していた。
シスターさんやルナに魔法を教えてもらったり、ジュディと稽古をしてみたり、シュナに狩りを教えてもらったりとたくさんの準備をした。なんの準備かって?
今日から始まる森の調査の準備だ。
「よし。お前ら集まったか!これから森に出発する。最終確認をしておけ!」
俺たちは街の入り口の門に集まっていた。ざっと数えると50人くらいだろうか。ほとんどが屈強な男達で、女性はかなり少ない。イーグの情報によると、ランクFが20人、ランクEが10人、ランクDが10人、ランクCが8人、そしてランクBが1人といった感じらしい。
本当ならここにランクAの冒険者が加わったはずらしいのだが、今は依頼で首都にいるらしい。
ちなみにジュディ達三人も俺の隣にいる。修行のついでに依頼を受けていたらいつの間にかランクが上がっていたらしい。
「よし、準備は出来たな。出発だ!」
この集団唯一のランクB冒険者。バルトさんがいった。この街にはランクB冒険者が2人いるらしいのだが、1人は調査隊を率いて、もう1人は冒険者が少ない時に街を守るために残るらしい。
バルトさんはローとはまた違った雰囲気をしていて、ローが狡猾な狼としたら、こっちは勇猛な獅子のような人だ。大きな戦斧を抱えて先頭を率いている。
俺はイーグに言われた、森で特に注意することについて思い出す。
「いいか、森では木々が生い茂っていて視界が悪い。どこからケモノが襲ってくるか分からないんだ。だから油断するなよ。」
今回の作戦はこうだ。まず50人の冒険者を5組に分けて、森に入り、異変を探す。ちょっと大雑把過ぎると思うが、荒くれ者の集まりである冒険者たちには高度な作戦など出来ないという判断らしい。
俺たちは5番目の班に入れられた。そこにはイーグのチームとこの間俺がボコボコにした酔っぱらい達がいた。
「な!お前……。」
酔っぱらいが俺を見て睨み付けてくる。酔っぱらいの取り巻きは3人であと2人は別の班らしい。
「お、今日は飲んだくれずにちゃんと依頼を受けたんだな。」
「なんだと、てめぇ!」
「はいはいそこまで。これから森に入るんだからいらないトラブルを起こさないように。」
俺がちょっと煽っただけで、酔っぱらいは顔を真っ赤にして武器を取ろうとして、イーグに怒られていた。イーグはランクD冒険者なので、酔っぱらいより立場が上なのだ。その様子を見てルナがニヤニヤと笑っている。いい性格してるよ本当。
イーグのチームメイトは弓使いが1人、魔法使いが1人という構成だった。イーグ自身は剣士のようなので、バランスがいいといえるだろう。酔っぱらいは…まぁいいか。ぶっちゃけ興味ない。
「さあ、早速森の調査に行こうか。」
イーグの号令で俺たちは森の深部に向かって足を踏み入れた。
この時俺は気づかなかった。酔っぱらいの視線が俺ではなく、ルナに向けられていたことを…。
◆◇◆◇◆
森は相変わらず鬱蒼としていた。前までの俺なら、汗がだらだらと出ていて服のなかがすごいことになっていただろう。
しかし!今の俺には魔法がある。コリアンさんの店で買った紺色のマントの下に、風の魔法で冷たい空気を送り込む。魔法とは便利なもので、魔力を使えば風の温度もある程度操作できるようだ。
涼しい風が俺の体を包み込む。はぁ、涼しい。そんな感じで俺が涼んでいるとルナが暑そうにこっちをにらんでくる。ルナの格好は黒を基調にしており、ぶっちゃけ暑そうだ。仕方ないので、ルナにも風を送る。すると、猫のように目を細めて涼んでいる。
俺たちがこんな感じで油断しているのには理由がある。シュナの存在だ。
シュナには生まれつき、『気』というものを感じ取れるらしく、魔物や敵が近付いてきたらすぐに察知することが出きるらしい。範囲は半径30メートルほどらしいのだが、まさしく狩人にふさわしい能力だろう。
「?みんな止まれ。」
イーグが腕をあげて制止する。その眼前には、木々がなぎ倒され、複数の冒険者が倒れていた。
「おい!大丈夫か?」
冒険者を抱き起こして見るが、既に息絶えていた。遺体にはみんな、大きな爪のようなもので切り裂かれたようなあとがのこっている。これはなんだ?賊にでもやられたのか?
その疑問の答えは驚くほど早く、自分からむかってきた。
「師匠、なにか来てる!!」
シュナが叫ぶ。遅れて、木々がなぎ倒される音が聞こえてくる。そちらを見ると、そいつは既に俺たちに姿を表していた。
「ギィャァァァァ!!」
そいつは、全身に毛がなく、腕が異様に長い、五メートルほどの猿のような生物だった。腕の先には刃渡り30センチはありそうな爪がついている。こいつがこの惨劇の犯人か!!
「散開!!」
一番始めに動いたのはイーグだった。イーグの指示で俺たちはは猿を中心にして三角形の陣形を組んだ。これは、森に入る前にあらかじめ決めておいた陣形だ。この形ならば、敵が混乱している隙に全員で相手を叩くことが出きるからだ。しかし、猿は意外な方法でこれを突破した。
猿が腕にちからを込めた。前の俺ならば少し力をいれた程度にしか見えなかっただろう。しかし、魔力の制御を覚えた俺には見えた。猿の全身を覆っていた魔力が腕に集中したことを。そしてそれが、魔法の輝きを放っていたことを。
「全員伏せろ!!」
俺の忠告は少し遅かった。猿がその異様に長い腕を振り回す。その腕には風の魔法が込められていたようで、俺たちは吹き飛ばされてしまった。
俺も後ろにいたルナにぶつかり、そのまま転がっていってしまう。
立ち上がるとその横は崖だった。あと少し近かったら落ちていただろう。ルナも立ち上がる。怪我はなさそうだ。
この時の俺は見事に油断していた。だから、気づいていなかった。気配が俺たちのすぐ後ろにあることに。
「不味い!!」
俺はルナを抱き抱え、崖に飛ぶ、猿の爪が俺の背中を抉る。そのまま、俺たちは崖のそこに落下していった。
「師匠ーー!!」




