甘(え)過ぎです
猫の日にちなみ何か、と思って出来た話。
「茜とアースは、かなり仲が良いよな」
翌日が休みという放課後。
我が家まで一緒に帰ってきて、定位置となっているソファでくつろいでいた統也君がテーブルに肩肘を付き、手の平に顎を乗せる形でこちらを見ながらボソッと呟いた。
床に直に座って――アースが引っ掻かなくなったのでラグは敷いてある――アースと遊んでいた私は統也君と見上げ首を傾げる。
「そう、かな?」
「ああ。本当に、お互いが『かけがえのない存在』というくらいに」
淡々と言葉を紡ぐ統也君。
その言葉を脳内でかみ砕いて――私は嬉しくなった。猫を飼っている先輩の統也君がそう言うって事は、本当に仲良くなっているって事だよね!?
「あ、甘やかし過ぎてない?」
「少し甘いかな、と思う部分はあるが、全体的に見れば許容範囲内だろ」
あ、やっぱり、甘いと思う部分はあるんだ……。でも、許せる範囲ではある、と。
――えへへ。ちょっと照れる。
アースを拾ってからこれまで、慣れないながらも頑張ってきた甲斐があった。
でもそれは、私だけの手柄じゃなく、アースと。
「統也君の、お蔭だよ」
「え?」
「戸惑ったり、困ったりしていると、統也君が助けてくれる。ありがとう」
「茜……」
「あんまり、甘え過ぎは良くないって分かっているんだけど、なんかもう、統也君には無意識に甘えてる部分があると言うかなんというか……」
「……」
「ご、ごめんね。迷惑かけて。なるべく早めに自立するよう頑張る!」
真顔になった統也君に早口で捲し立てる。
う……自分で言っていて何だけど、照れくさいやら反省しなきゃやらで統也君の顔が見ていられない。
熱が上がってきた顔を見られない様に慌ててアースに向き直り、「なぁお」と鳴く顎の下を撫でる。ごろごろと擦り寄ってくるアースが可愛過ぎるっ!!
アースの可愛さに撫でる手が止まらなくなっていると、統也君が私の横に来て膝をついた。
うん? と思っていると、ほぼ真横からがっつりホールドっ!? 背中とお腹に触れる腕と脇腹の所で組まれた手がちょっとくすぐったい。
「自立なんて要らない。というか、甘えて良い。いや、甘えろ」
「え? え? え?」
何? 何が起きてるの?
混乱する私に気付いているのかいないのか。統也君はハ~と息を零し、回された手に力がこもる。
「アースを甘やかすのも、アースに甘えられるのも茜の特権なら、茜を甘やかすのも、茜に甘えられるのも俺の特権と言う事で決まり。異論は認めない」
「えっ!? いや、でもっ!!?」
何かおかしな理論じゃないですかっ!!?
硬直する私の手に、アースが擦り寄ってくる。
また、それに負けじと統也君も私に擦り寄ってくる。
――あれ?
瞬きを何度か繰り返し、横に居る統也君を見上げると、統也君はクスッと笑い。
「茜が甘えてくるから――こうして茜に甘えるのも、俺の特権」
ちゅっと、ついばむ様なキスが唇に落とされた。
「~~~~~~~っ!?!?!?」
ぼふん。
そんな音が聞こえそうなくらい、私の顔が一気に熱を持ったのが分かる。
統也君はそんな私を「まだ慣れないのか」とか言いながら嬉しそうに眺め。
「うにゃっ!」
猫パンチや猫キックを繰り出すアースを片手で持ち上げ、固まる私に抱っこさせる。
「と、統也君?」
ごろごろと、私の腕の中でご満悦なアース。
そんなアースを指先で構う統也君。
忙しなく、統也君とアースを交互に見ていると、何度目かになって統也君と目が合い、フッと微笑まれた。
「っ」
見惚れて息を飲むと、アースを構っていた手が私の頬を優しく撫でる。
「特権行使」
「え――」
疑問は、吸い込まれて消え。
「茜なら、いくら甘えてきても良いから」
合間に、そんな事を囁かれ。
~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!
涙目になって抗議して。
統也君が嬉しそうに、楽しそうに――幸せそうに笑うから、それ以上、何も言えなくなった。
猫、関係ない……(´;ω;`)