俺だけ超天才錬金術師 ゆる~いアトリエ生活始めました 本編&書籍発売記念SS
【俺だけ超天才錬金術師・書籍1巻発売記念SS】諸事情により予約特典にしにくいマハ公子編 - 嗚呼、それでも男の娘SSが書きたかった!版 -
本日発売しました。二巻が無事に出せれば、書籍版にもマハ公子の出番がやってきます。
双葉社はコミカライズに積極的なので、小説の売り上げが好調なら、マンガ媒体でマハくん含む??ヒロイン?の姿を拝むこともできます。
もしも気に入ったら、書籍版も買って下さい。買って下さい。お買い上げありがとうございました。正拳突き真っ直ぐなダイレクトマーケティングでした。
書籍版は絵に文章、どちらも購入して損のないクオリティに仕上がりましたので、自薦となりますが、オススメです。
自己紹介します。僕の名前はマハ・アバロン。ここポロン公国の国主である、アバロン大公の嫡子です。
といっても僕は父上ほど立派な存在ではないことを、先にこうして伝えておきます。優秀な父の子に産まれた僕は、あまりに平凡で、男らしさとはほど遠い存在でした。
僕は子供みたいな女顔です。
それにいくら鍛えても筋肉がまるで付かなくて、身長だって全然ないチビ助です。
あまつさえ初対面の相手ともなると、僕を公女だと勘違いする人までいて……。
少しでも公子らしくあろうと、僕は僕なりにずっと悩んでいました。
◆
◇
◆
「痛……っ。ぅ、ぅぁっ……やっちゃった、う、うぅぅぅ……」
それはアカシャの家の貴族科に入学して、二年目に入ったある日のことでした。
さっきも言ったけれど僕には筋肉がない。まるで女の子みたいなこの身体のせいで、長剣もまともに握れませんでした。
「うっ、くっ……。なんで、なんで僕の身体はこんなに、弱いんだ……」
貴族科の先生がレイピアを僕に勧めてくれたけれど、僕は意地を張って長剣を選んだ。
でも僕にはやっぱり重すぎる。無理な振り方で手首を痛めてしまい、僕は教練場に長剣を落としていました。
自分の情けなさのあまりに涙が出てきました……。悔しい……。
僕は、父上のように精悍な男になりたいのに……。
情けなく、すぐにあふれる涙を拭っていると、ふいに教練場の廊下側から人の気配がしました。
「っ……!? だ、誰かいるの……?」
「え。ああ、うん、いないいない、誰もいないよ。だってこれ以上仕事したくないし?」
「仕事……? あっ、もしかして、お化けじゃなくて、先生ですか……?」
「そこはまあ好きな方でいいんじゃない。それより、ああもう、しょうがないな……」
それはなんだか軽い調子の剽軽な声でした。
でも嫌な感じが全くしません。
僕の耳にはなぜか温かくて、とてもやさしい響きの声に感じられました。
「あれ……その姿、冒険科の、先輩ですか……?」
「そっちも一応正解かな。それよりその腕だいじょうぶ?」
修練場に現れた先輩は、僕の想像よりずっと若々しい人でした。
魔導師のローブを着込み、気だるげに肩にかけた杖からは、何か奇妙な魔力を感じました。
でもとてもやさしそうな、それでいてカッコイイ先輩でした。
「ぅっ……そう言われて、凄く痛かったの、思い出してしまいました……。その、手首をやってしまったみたいで……」
「ふーん……。あ、一応俺さ、臨時講師ってやつでね。戸締まりに来たんだよね」
「痛っ……。ごめんなさい、先生でしたか。でしたらもう、寮に戻らないとですね……。ぁっ……」
急にその先生に手を取られて、僕は女の子みたいに甲高い声を上げてしまっていました。
先生が手首の患部をよく確認して、それから少し困ったようにそっぽを向いて、笑ったのを見たような気がします。
おかしい……心臓が変です……。
誰かに手を触られただけで、こんなふうになるなんて、絶対おかしい……。
これ、病気……? この人、僕の知らない種類の人……。
「ぁ……」
「しょうがないな。今は金欠なんだけどな、しょうがないしコレあげるよ」
先生の手が僕から離れてしまいました。
い、いや、そのことを惜しむなんておかしい。相手は今出会ったばかりの相手なのに。
それにこの人――もしかしなくとも、僕のこと公子だと気づいていない……?
そのやさしい先輩であり先生が、ポーチから緑色の液体が詰まった小瓶を取り出して、それを僕に差し出してくれました。
「これ、ポーションですか……?」
「俺にしちゃ世にも珍しい慈善事業だな。遠慮しないで飲んでよ」
とても綺麗な薬を受け取って、それから僕は惚けたように彼を見つめ返す。
貰った物を飲むという方向に、思考回路がすぐに働きませんでした。
やっぱり、カッコイイ……。
この人、たぶん冒険科の卒業生です……。
それが卒業して間もないのに教師までしている……。
なんて立派なんだろう。
僕もこの人みたいになれたら、どんなにいいことだろう……。
「毒なんて入ってないって。ま、多分……?」
「えっ、あのっ、なんでそこで多分が入るんですかっ!?」
「いや、実を言うと本業は錬金術師なんだ。でもまだ駆け出しでね、まあ……多分だいじょうぶだから飲んでよ」
「そうですか。ではあの――でしたら、一つだけ、質問してもいいですか……?」
疑う気はないけれど、僕はどうしてもこれを飲む前に知りたいことがありました。
「早く飲ませて戸締まりしたいんだけどなー……。で、何?」
「あの、先生は、僕のことを知っていますか……?」
「知らん。というのも素っ気ないか。そうだな……身体に合わない長剣握って、腕を痛めたマヌケ小僧?」
「ぁ……ふふふっ♪ そうですね、僕はとんだマヌケです。うふふっ……♪」
人は僕が公子だからやさしくする。嫌われまいと顔色をうかがう。
次期大公に気に入られて、覚えておいてもらおうとする。
僕はそれが嫌でたまらない。でもこの先生は全くそれとは違っていました。
「わー、変な子……。それよかいいから飲めって! 先生もう帰りたいのっ、残業大嫌いっ!」
無償の善意でポーションをくれた。
僕のことをマヌケと言い放ってくれた。
こんなこと言われたの産まれて初めてだ……。僕は感動していた……。
涙ぐみながら飲むポーションはどうしてか、ほんのり甘かった……。
「あの……僕はマハ。先生のお名前は……」
「ああ、俺はアレクサント。それより傷はどう? 直ったならさっさと――ん、んん……そうか」
アレクサント先生は僕を見つめて考え込みました。
たったそれだけで、僕の心臓がなぜか加速する。
もっともっとこの人に気に入られたいと思いました。
まだ寮に帰りたくない……。僕の心がそう言っていました。
「俺さ、残業も嫌いだけど、ボランティアも超嫌いでさ……」
「先生は正直なんですね。あ、凄い、手首がもう治ってしまいました……!」
「けど、治っちゃったのならしょうがないよなー。ちょっとだけ、剣の使い方教えようか?」
「ぇ……い、いいんですかっ!? ぜひ教えて下さい、先生っ!」
やっぱり、カッコイイカッコイイカッコイイッ! それになんてやさしい人なのだろう!
感激のあまりまた涙が浮かんできました。
こうして一緒に練習したら、僕もいつか先生みたいになれるだろうか。
「いいのいいの、君って貴族科の子でしょ。代わりにさ、いつかうちの店に、錬金術師のアトリエに仕事をちょうだいね」
「はいっ、もちろんです! ぇっ……はっはひ……っっ、先生っ!?」
先生が長剣ではなくレイピアを握って、僕を後ろから抱き込んでいました。
指と指が絡み合って、先生のやわらかい指が僕の手にレイピアを握らせてきました。
「小柄なら小柄のメリットを活かさないと。俺は汗くさいのやだし、魔法の方を選んだけどね」
「せ、先生……先生僕、僕……ぁ、ぁぁぁぁぁ……っ!?」
先生が僕の身体を使ってレイピアを振りました。
そうするとピッタリと身体と身体が密着して、僕の心臓が潰れそうになっていました。
ぅぅ……心臓が暴れ回っていることしか、何も認識できない……。
「こんな感じ。どう、わかった?」
「……ぁ。ごめんなさい、わかりません……も、もう一度、お願いします……」
「OK。ちゃっちゃっとやって、ちゃっちゃと帰ろう。ピューンビューンシュバーッ……こんな感じ。あ、ぶっちゃけさ、貴族って剣なんか使えなくても困らないよね」
「は、はい……。あの、もう一度、お願いします……。次は、もう少し、ゆっくり……」
ずっと密着していると、互いの肌と肌が汗ばんで張り付くのを感じました。
身体が熱い。ドキドキして胸が痛い。でもこの時間が終わるなんて、嫌だ。
それに先生に教われば、カッコイイ先生に近付ける……。
だから僕は先生に甘えて、その後もずっとずっと、レイピアの練習に付き合ってもらいました……。
◇
◆
◇
「先生……もう一回、もう一回だけお願いします……」
「それ何度目のもう一回だよ……」
こうして僕とアレクサント先生は出会いました。。
どうして先生を前にすると、胸がドキドキするのか、まだ僕にはよくわからないけれど……。
その日からずっと、僕は先生の後ろ姿を追ってもう一度がんばることにしました。
僕は次期大公としてあまりに未熟です。
でも遙か上の父上ではなく、憧れのアレクサント先生を目標にしたら、僕の人生は重責の灰色から、香り立つ薔薇色に変わっていました。
アレクサント先生、僕はあなたを尊敬しています。
ハァ、ハァ……先生……。
アレクサント先生♪ アレクサント先生♪
父上より、カッコイイ……。
憧れの先生と、もっともっと、恥ずかしいけど、もっとお近づきになりたい……。
女の子とのキャッキャウフフが見たい方には、書籍版の追加ストーリーがオススメです。お風呂回です。カラー口絵での挿し絵も入っています。
以上、ダイマでした。
何この記念SSホモ臭い……。