「朝飯」
窓の外から聞こえる小鳥の囀り、ゴミの散乱した1LDKの部屋。カーテンの隙間から差し込む朝日が、烏丸ソラの寝顔を照らす。
瞬間、ソラはバチリと目を開いた。
「おっはー!!」
奇声の様な朝の挨拶の様な、兎にも角にもソラはベッドから飛び上がった。
「おはようです、クロウ」
籠の中に入った鳥。それは九官鳥でも鳩でも無く、世間一般から迫害を受ける鳥類、カラスだった。
「オハヨウ」
クロウは片言の挨拶を返す。
「外は?」
「キョウモイイテンキ」
「そうか、それは良かった」
ソラがそう言うのと同時に、ソラの腹はキュルルと鳴った。
「腹が減ったな」
「ヘッタ」
「よし、アサメシ食いに行くか!」
「ヨシキタ」
ソラは籠の中からクロウを出すと、クロウを自分の頭の上に置き窓の縁に立った。
「GO!」
ソラは窓を開けっ放しにしたまま外へと飛び出た。
「あーあ、今日も憂鬱」
華の女子高生、鳥肌サキは天に向けて大きく両手を伸ばした。
「昨日もほとんど寝れなかった……最悪」
重い瞼はサキの意思に反して閉じようとし、うつろな目でサキはフラフラと歩道を歩く。
「あ、何だアレ」
サキは視界の先に何かを捉えた。ゴミステーションに居座り、ゴソゴソと何かしている男。
(ぐえっ、ヤバイ系の人だ。近づかないどこ)
しかしサキはその横を通り過ぎる時、何となく目を向けて驚愕した。それは、ゴミ袋を破りその中身を貪るソラの姿だった。
「ぎゃーっ!!」
サキは絶叫した。
「あっ、あんた、何してんのよ!!」
サキは鞄を胸元に抱え、震えた右手でソラを指差す。
「何って、アサメシ中です」
サキの方を振り向いたソラはそれでも手と口を止める事無く、バクバクと生ゴミを口へ運び続ける。
「あ、朝飯ってあんたそれ……ゴミじゃない……!」
「価値観の違いです」
「カチカンノソウイ」
「!? カラスが喋った!?」
サキはここでもう一度驚愕した。
「こらクロウ。人前で喋るなと言ったでしょう。目立つ」
ソラがクロウの口元へ生ゴミを差し出すと、クロウはそれを嬉々として食べた。
(生ゴミ食ってるお前に言われたくねえよ、ド変人……!!)
サキは心の中でソラを罵倒した。
「心中お察しします」
「!? ……あんた、私の考えが分かるの!?」
「いえ、そんな気がしただけです。大概、この状況で第三者Aが私に対して感じる事はワンパターンです」
(そりゃそうだ……)
サキは呆然としながらソラの奇行を眺めていた。
「……もう無くなっちゃいました」
カラになったゴミステーションを見て、ソラとクロウは残念そうに頭を下げる。
(どんだけ食ってんだよ、ド奇人。こいつ、本格的にやばい奴だ)
そう思い、サキは無言でその場を立ち去ろうとした。
「!?」
その瞬間、ソラはもの凄い勢いで首から上だけをサキの方へと向けた。
「ぎゃーっ!! な、何よ!?」
その姿形があまりにも気色悪くて、サキは悲鳴を上げる。
「あ、あなた……」
ソラはサキに顔を近付け、体中の匂いを嗅ぎ回す。
「ぎゃあ! 何やってんのよ!!」
「……アサメシの匂い……!!」
ソラは確信めいた目でそう言った。
「あなたの体から、アサメシの臭いがします!! あなた、ココに住んでるんですか!!?」
そう言って、ソラはゴミステーションを指差した。つまり、アサメシとは生ゴミの事だ。
「はっ……はあ!!?」
(やばっ、体臭スプレー掛け忘れた!? ……いや、朝家出るとき使って来たはず……)
サキは朝の出来事を思い返していた。
「コイツ、ハナイイ」
クロウはまた口を開く。
(ぐっ…………!)
サキは腕時計に目をやった。
(……まあ、学校は別に良いか……)
サキはどこか諦めた様に髪をグシャグシャとかいた。
「おい、あんた、アサメシ食いたいのか?」
「食べさせてくれるんですか!!?」
ソラは嬉しそうに顔を上げた。
「……ついてきな」
「ヒャッホー!!」
「ヒャホー」
ソラとクロウは歓声を上げて飛び上がった。
「……こ、これは……!!」
ソラは呆然とした。
「さ、好きなだけ食えよ」
サキがソラを招待した場所、それはサキの部屋だった。ズボラで面倒臭がり屋でダメ人間で家事の出来ないサキの部屋には、生ゴミとその臭いが充満していた。
「うおーっ!!」
ソラは飛び上がり、片っ端から生ゴミの袋にがぶりついた。
「おい、食い散らかすんじゃねーぞ。あと、他の部屋やリビングにもまだまだあっからな」
ゴミ袋をビリビリと破りながら、ソラはサキの方へ顔を向ける。
「凄いです! あなた、天才ですか!?」
「……何の天才だよ、何の」
「天才アサメシ製造機です!」
そう言って、ソラは生ゴミの中へ飛び込んだ。
「ドあほ……」
人語を話すカラスを連れた、生ゴミを貪るド変態。初対面のそいつは今自分の部屋にいて、溜まった生ゴミをアサメシと称して食っている。
それがどうにもバカバカしくて可笑しくて、気がつけばサキはソラの奇行を眺めながら笑みを浮かべていた。