最終話 もしかして、先生があの
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「以上が、拡張顕現の基本的なところだ。ま、入学試験をくぐり抜けてきたんだから、そこらへんはちゃんと知ってたかな?」
そう問いかけられた新入生達は、ぎこちなくうなずくという実に初々しい態度。
これがあと何日保つかなと、問うた白衣の男は教壇の上、心の中で苦笑を零した。
「あの!」
「ん、なに?」
教室の真ん中辺り、男子学生が勢いよく手を挙げた。
なんだか少しばかり目が輝いている気がして、ちょっと嫌な予感……なんてデジャブが奔る。
「もしかして、先生があの【爆撃】の京一郎さんですか!?」
「……それを、どこで?」
「入学式の後、校門の近くで二つ名授与委員会って人達が二つ名付き学生一覧と、かつて二つ名付きだった先生一覧っていうのをを配ってて。【爆撃】の京一郎は十年前、すごく怖かった頃のジャベミイと真っ向からやり合った英雄の一人だって!」
「……あんのやろうども無垢な新入生に。何が英雄だ、中二病め」
眉間を抑えて、中山高等専門学校化学巧学科教員・城東京一郎はいつかと同じく、低く呻いた。
二つ名授与委員会。かつて学生だった頃、所属していた執行部の権限ではしょっぴけなかった憎い組織だ。
そして教員となった今も、相変わらず別に校則違反を犯しているわけではないのでどうする事も出来ない。
「あの中二病の塊みたいな連中の話に付き合ってはいけない。先生からのアドバイスだ、いいな」
「え、は、はい……」
「はい! 先生先生! はいはーい!」
残念そうにうなずく男子学生の隣、元気そうな女子学生が好奇心旺盛な瞳を輝かせて手を挙げる。
やはり嫌な予感しかしないが、一応指すと彼女は大声で問うてきた。
「先生! 先生って【颶風】の奥さんに在学中から尻に敷かれてたって本当ですか!?」
「おい、なんだその情報はどこから来た!」
「校長先生が教えてくれたんです、あのすっごく若い」
「……ああもう!」
性質の悪い上司も居たものである。薬の秘密をばらしてやろうかと思ったが、後が怖いのでやめておこう。
「先生! 先生って学生時代、留年したって本当ですか!?」
「本当だようるせえな! お前らの単位も容赦なく落としてやるからな覚えておけ!」
失礼な質問をかましてきた学生に吠えると、ブーイングが返ってくる。
いつまで保つかと思った初々しさは、ほんの数分でどうやら消え去ったようだ。
あれから、約十年が経つ。
ほんの少しだけ実戦的になって、それでもやはり、やりたい事に突き動かされる馬鹿ばかりというのは変わらない。
中山高等専門学校は今日も、技術に魅入られ取り憑かれ、この道に来るしか生きていく方法のなかったような人間たちの、特別な居場所であり続けている。
これにて完結でございます。この作品を書いたのはもう何年も前のことなので、自分で読み返していて懐かしかったです。
お読み頂き、ありがとうございました。




