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第20話 社会だよ

 ◇◇◇



「ミス・ジャベミイ、貴女は……」

「ここの卒業生だよ、君たちの先輩」


 柳介の問いに、あっさりと彼女は答えた。


 いつの間にか暮れそうな、赤い夕陽がこの場にいる全員に長い影を作っている。


 気を失っている紅葉を介抱しているのは、彼女とよく一緒にいる双子の女の子達だ。

 そして同じく気を失い、満足そうな顔で眠る麗香は、柳介が両手で抱えている。


 結局、ミス・ジャベミイが提供した思い出のおかげで修復率は100%に届き、オーバーフローの危機は去った。


 現実世界へ全員を再変換した直後、やり切ったと言わんばかりに麗香は倒れ、慌てて支えれば彼女はそのまま眠りに落ちた。

 細い割に柔らかいその感触にうろたえてしまったのは、二十を超えて初心が過ぎるだろうか。


「なあ、神鳥谷柳介」


 うつむき加減で自身の影を見つめながら、ミス・ジャベミイはどこかすっきりとした顔をしていた。


「君たちが本当に戦わなければならない相手が誰なのか、わかってる?」

「戦わなければならない相手……? 貴女達、ではなく?」

「そう、アタシでなく、学校の試験でもなく、卒業研究発表会で目の前に座る先生方でもない」


 なんだろう、誰だろうか、首を傾げていると彼女はあっさりと答えを口にした。


「社会だよ」

「……それは、また」


 ずいぶんな事を言う。

 が、それは確かにその通りなのだろう。


「世間から隔離されたユートピア、なんて言われるこの学校だけどさ、いつまでも護ってくれるわけじゃないんだ。いつかはここを出て、あんたらの言葉になんか気持ちになんか、心になんか何の興味もない人間たちを、相手取らなきゃいけない時がくる」


 彼女の声音は、はすっぱな口調とは裏腹にひどく柔らかい。これが、もしかしたら素なのかも知れない。

「そんな時、一番頼りになるのは力なんだ。アタシはそれに、卒業してから気がついた」

「……だから、貴女は」

「後輩にはさ、同じような思いをして欲しくなくてね」

「なんだかあれですね、神鳥谷先輩と似てません?」


 延島が言った通り、柳介も自分と似たようなやり口だなんて思った。

 手先とは別の所で不器用だとよく言われる柳介だが、どうやら目の前の女性も同じ性質らしい。


「へえ、そうなの?」


「神鳥谷先輩もですね、SNSに中山高専が最弱だって煽るような書き込みをしたり、学生を無差別襲撃して意識を引き締めさせたりと、そんな事をしていたんですよ」

「……SNS? 書き込み? 延島、それは俺じゃないぞ。知らん」

「え? ツイッターに書き込みしたの、神鳥谷先輩でしょう? 最弱高専決定戦! 最有力候補は中山高専でござるの巻……って」

「知らん知らん、なんだそれは」


 完全に身に覚えがない、柳介がしたのは学生の襲撃だけだ。ちなみに一応無差別ではなく、相手とタイミングは選んでいた。


「あ、それアタシ」

「……何してるんだ貴女」


 意外過ぎる……否、そうでもないかもしれない犯人――ミス・ジャベミイはいたずらに舌を出した顔で笑う。


「いやあ、ああ書いておけばアタシが審査に来るまでに少しはマシになってくれるかなってさ」

「貴女は本当に変わってませんね、いつも回りくどいやり方で」

「……う、言わないで下さいよ、扶桑センセ」


 扶桑准教授の言葉に、彼女は舌を引っ込めてバツの悪そうな表情。


「扶桑准教授、お知り合いなんですか……というか、もしかして」

「教え子よ、うちの研究室」

「ねえ扶桑センセ、アタシが卒業した時と、もっと言うならアタシが入学した時とまったく姿が変わってないんですけど、まだあの薬、自分で実験してるんですか?」


 ミス・ジャベミイのそんな問いには、扶桑准教授は明確な答えを口にしなかった。代わりに、ただ若々しい、しかし異様に深みのある笑顔を見せただけ。


「それでミス・ジャベミイ、今回の審査はどうなるんですか? 色々ありましたが、学校側としては結果をお聞きしておきたいんですが」

「……学生的には、このまま帰ってくれると助かります」


 扶桑准教授が変えた話に柳介も乗る。

 帰ってくれるのではないかという希望的観測を持ってはいるが、きちんと確認しておきたい。


「審査、審査ねえ……このままアタシが帰って、本当にいいの?」

「……どういう?」


 答えの代わりと言わんばかり、ミス・ジャベミイはパチンと音高く指を鳴らして。

 降ったのは、光だった。

 天から白い輝きが一つ、柳介の身に降りてくる。


「これは……単位? 落としたはずの、俺の単位か? 確か、ミス・ジャベミイ、貴女に単位殺しで刺された時の……」


 白い輝きが降ったのは柳介にだけではない。グラウンドの学生達の上にも、校舎の方にも、いくつもいくつも降りてくる。


「アンタらが勝手に捨てた単位の事は知らないよ。あと扶桑センセの爆撃でぶっ飛ばされたあのお嬢ちゃんの単位一つも。まあ、でも、それ以外は返してあげられる」

「……ミス・ジャベミイ?」

「単位は大切にね。高専生なら、言われなくてもわかってるだろうけどさ」


 照れくさそうに言ったミス・ジャベミイは、柳介達に背中を向けて、グラウンドの中央に歩き出した。


 空の向こうから黒い塊が飛んでくる。バタバタと風切音も聞こえてきた。彼女が乗ってきたヘリだ。


「ミス・ジャベミイ、どうして!? いいんですか!?」


 柳介の言葉に足を止めて顔だけ振り返った彼女の表情は、冷徹な裁きの使者ではなく、優しい先輩のものだった。


「社会に出た時、アタシには力が足りなかった。それは確かだ。だけどさ、楽しかった思い出や、技術を楽しむ心が余分だったわけでもないんだ。力のために、そんなこんなを犠牲にしていいわけじゃない。アンタ達の思い出に触れて、それがわかったよ」


 彼女の顔が少し赤いのは果たして夕日のせいなのか、判然としない。


「審査の方法も基準も、考え直す必要がある。だから、今回の審査は全部無効とします。……じゃーね、後輩! 君とやり合うの、楽しかったよ!」


 顔をヘリの方へと向き直し、今度こそ止まらずに歩いて行く――。




「……そうか、そうだな。ごめんごめん、あと一つ話があったよ~!」




 かと思えばまたしても足を止め、今度は身体ごと振り返り、スタスタと柳介の近くに戻ってきた。

更新するのずっと忘れてた……すみませぬ……。てっきり最後までもう投稿してたものと……。

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