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第2話 単位は大事に

 火薬・爆薬の一種、黒色火薬。

 古くから、世界中で弾丸の発射や鉱山の発破などに利用されてきた歴史ある一品だ。


 京一郎が言葉と共に指を鳴らすと、それは衝撃を与えられた時のように反応を起こし、熱と圧力をまき散らした。


「だっ!?」「ばぁ!?」


 至近距離で起こった爆発に、短く悲鳴を上げる機械科生と建築科生の二人。


 機械科生の方は骨組みや木板に囲われてはいたが、それらは胸元程度の高さしかない。対し、爆発が起こったのは彼の頭上近くだ。

 ダメージはほとんど軽減されていないだろう。


 機械科生も建築科生も、ビクリと身体を震わせて、そのまま地面に倒れた。

 衝撃と強い光、大きな音を突然喰らったのだ、気絶するのは無理もない。


「よし、と」


 正直、黒色火薬の威力は、他の爆薬と比べて高くない。

 だからこそ、京一郎はこうして鎮圧用として重宝していた。


 術者である建築科生が気絶した事で、骨組みと木板、そして空中に留まっていた生コンクリートがパッと姿を消す。


「……京一郎、あの状況になる事がわかってて、だから待ってたんですか?」

「そ。なるべくダメージを抑えて、一発で気絶させてやんなきゃな」


 機械科生は型枠に囲まれて動揺しており、建築科生は勝利を確信して気が緩んでいた。

 不意の衝撃で気絶させるにはベストな条件だ。


「そんな事、京一郎が気を配る必要は……」

「そうかもしれんけどさ。……さて、帰るぞ。あとはほうっておけば学務課の人たちが回収に、」

「……のやろおおおおおおおおおお!!」


 地面に倒れ込んでいる建築科生の方へ歩きだす京一郎。

 そこへ怒声を浴びせたのは、建築科生と同じく気を失っていたはずの機械科生だった。


「っうわマジ!? もう気が付いたのか!?」

「寝起きにゃ自信があんだよおおおお!!」


 あのままいけば負けていたろうに、それでも勝負を邪魔されて憤りを感じているのだろう。機械科生は、怒気満ち満ちる眼をしている。


「喰らええええええ!」

「しまっ」


 機械科生は右手をかざし、京一郎の頭上へボール盤のドリルによる掘削を顕現せんとして。


「……させませんっ!」

「ごぁっ!?」


 彼はその身体を、空へ舞わせた。

 異常な速度で距離を詰めた紅葉の、重たいボディーブローに吹き飛ばされて。


「っぐえ、が、……あ」

 

 地面を何度か転がった彼は、結局、また意識を失ったようだ。今度こそ、深そうな気絶である。


「……お~、いつみても強烈だ、お前の界転磁壊マグネティック・サンボは」

「っ今まで何度も言ってきましたが!」


 拍手なんてしてみた京一郎に、紅葉は振り返り、強い口調で返してきた。


「京一郎は甘いんです! 詰めも! 性格も!」

「いや、悪い悪い、おっしゃるとおりで……」

「京一郎ならあんな弱い爆発で気絶狙いなんてしなくてもいいはずでしょう! 本気を出せば簡単に、間違ってもしばらく起き上がってこないくらい確実にっ、」

「それじゃ、こいつらの成績転換防護がもたない。単位までいくつか吹っ飛ばしちまう」


 京一郎の言葉に、紅葉は眉根に皺を寄せた。


「覚悟の上でしょう、そんなの! 学内で決闘なんて始めたんだから! 人の単位を慮って自分を危険にさらすなんて馬鹿です!」

「紅葉、単位は大事にしろ。それが人のであっても、自分のであってもだ。あれは尊いものなんだ。高専生おれたちにとっては、生命に近い」

「だから! 京一郎に自分を大事にしろって言っているんです、私は今! 手心加えて危ない目に遭ってたら、いつか京一郎の単位が危ないって話をしてるんです!」


 その言葉に、京一郎は苦笑した。甘いのははたしてどっちだろう。

 口調も表情も険しいけれど、紅葉はいつも、自分をこんな風に心配してくれる――昔から、ずっと。


 暁紅葉は京一郎にとって、学校の後輩にして、幼なじみの女の子なのだ。


「ありがとう、紅葉。助けてくれて」

「……っそ、れが、…………私の、仕事ですから」


 顔を背けた紅葉の耳には、自身の名前を示すかのように、朱色が乗っていた。


「おーい、終わりましたか」


 中庭に面した渡り廊下から一人の男子学生が中庭に出てきた。彼は長い前髪で瞳を隠し、学生なのに上下をスーツで決めている。


 ちなみに、中山高専は原則建物内も土足のため、靴を履き替える必要はない。


「おう、延島。終わった終わった、紅葉の大活躍で」

「私じゃありません、京一郎の手柄です。報告はきちんとしてください」

「相変わらず素敵な仲ですねぇ」


 愉快そうに笑ったスーツ男は、情報科の三年生・延島だ。


 毎日服を変えるのが面倒くさいという理由でスーツにしていると言い張る彼だが、誰に対しても敬語な口調と合わせて、恐らくは何かしらのアニメキャラの真似をしていると思われる。


 その痛々しさも許容する自由さが、この学校にはある。


「延島、悪いんだけど、これ直しといてくれるか?」

「悪いも何も、それが僕の仕事ですから」


 延島は、直し屋と呼ばれる学生である。


 京一郎達と同じく学生会執行部に所属し、学内で揉め事が起こった際の後始末、荒らされた校内設備の修復を一手に引き受けている。


「では始めます」


 そう言って、屈む延島。

 彼は、脇に抱えたノートPCを開いて、側面に繋げたUSBケーブルを中庭の地面に突き刺した。


「ええっと……うわ、破損率38.7%。ひどいですね」


 画面を見て、延島はため息をつく。


「悪い悪い」

「京一郎さんならこんなに荒らされる前にもっと早く止められたでしょうに。……いや、でもそうすると」

「おう、そこら中のものぶっ飛ばす事になるけど、それでもいいか?」

「よくないですねえ」


 笑いながら、延島は恐ろしいスピードでキーを叩く。


 やがて勢いよく押されるエンターキー。

 すると、草やタイルは穴だらけ、あげくに爆発跡まで出来上がっていた地面が、淡く輝いて。


 数秒後、そこにあったのはなんの破損も存在しない、綺麗な光景。いつも通りの、整備された中庭だ。


「うーん、毎度のことながら見事だな」

「元データがありますから、大して難しくありませんよ」

「ついでに成績の傷も直せない? 次のテスト危ないから、それが出来たら安心だ」

「人生、なかなかそうは上手くいかないんですよ、京一郎さん」


 悩ましい限りだ。京一郎は頭を振った。


「次のテストが危ないってわかっているなら! ちゃんと授業に出て、そして真面目に話を聞くんです!」


 紅葉にぱすんと軽く蹴り上げられた尻が、正論を言われた耳と一緒に少し痛んだ。

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